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丘の向こうの魔女  作者: ひぐらしあや
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丘の上の魔女


「嘘……!」


 目の前の、車椅子に乗ったサーキーと目が合う。

 お婆さんになったサーキーは、若かりしきサーキーと同じ怯えた顔をしている。

 ただ、その怯えた顔の瞳には光は無く、深いものがあるような気がした。


「お婆ちゃん? どうかしたの?」


 クウとノーランは車椅子の両端で中腰になって、心配そうにサーキーの顔を覗いている。

 私は呆然と、サーキーの瞳の深さに溺れていく。


「今日はもう、帰りましょう」


「え? まだ懺悔して無いのに」


 ノーランは不思議そうに言った。そういえば、ルノが懺悔室もあると言っていたのを思い出す。

 サーキーは過去に犯した罪を今でも懺悔しているのだろうか?

 そうなら、きっと私とランクも懺悔をしなくてはいけないだろう。私は、鉄の塊でありながら魂を抱いてしまった事を。ランクは私を造ってしまった事を。

 あともうひとつ、新しく流れ込んだ〈記憶〉がある。〈レギーネ〉とランクの愛娘の事だ。私はルノに名前を聞かれ、レギーネという名前から逃げたいがために、咄嗟にリオンと名乗ってしまった。

 リオン。それは、幼くして死んでしまった、愛娘の名前。私は、リオンさえも知らず知らずのうちに (けが)してしまった。

 サーキーがノーランに押され、踵を返した時、背後で扉が閉まる音がした。


「お待たせしましたーって、あれれ、皆さん来はったんですね。びっくりしましたよ、こんなに人が来たのは先々月以来で!」


 振り向くとルノが上機嫌に、可愛らしいバスケットを持っている。


「シスター・

ルノ、どこかに行かれるんですか?」


「こんにちは、ノーラン。クウもサーキーさんもこんにちは。実は今からそちらのリオンと丘までピクニックに行くんですよ」


「リオン? この人はレギーネさんだよ」


 クウが小首を傾げながら訂正すると、ルノが目を見開き、私とサーキーを交互に見る。

 すると、ルノはバスケットを放り出し、私の肩を泣き出しそうな顔をしながら揺さぶり始めた。ただ名前を偽っただけにしては過剰なリアクションだ。


「リオン、本当ですか? 貴女はレギーネと言うんですか!?」


 プチプチと、何本かの銅線が外れる音が聞こえた。

 サーキーは私を見ながら、目を眇めた。ルノは、サーキーから色々聞いているのだろう。

 もう、これ以上は逃げられない。私は〈レギーネ〉からは逃げられないのだ。私は諦観(ていかん)し、首に縦に降る。

 ルノが息を吸い込むのを感じた。ちらりと、クウとノーランを見ると、ふたりは訳も分からずに小首を傾げるばかりだった。

 愕然とするルノと、私を眇めるサーキー、そして私だけが、事の大きさを理解していた。


「ウチはシスターじゃありません。しかし、仮にも教会に住まう者。……リオンは、レギーネの死を冒涜した。魔女はレギーネではなく、きっと、今のリオンです」


 ルノはボロボロと、大粒の涙を流しながらも、その瞳は私を捕えて離さない。


「魔女に死を!」


 突然、サーキーが怒鳴る。サーキーに似つかわしくない、悪魔のような形相だ。

 クウとノーランは、そんなサーキーの変貌に怯えている。


「ま、待ってよ。何の話をしてるのか、私には分からないよ!」


 ノーランが心からの叫びを上げる。小刻みに震え、異様な空気に耐えきれなかったようだ。

 クウがノーランをそっと抱きしめる。クウだって訳も分からずに心細いだろう。


「これ以上の話は、クウとノーランを除いてしよう」


 ふたりに同情しての発言だった。ふたりには関係の無い事だ。

 しかし、クウによって発言は撤回する事になった。


「ここまで聞いといて、いきなり部外者扱いは酷いんじゃないの? ちゃんと説明して」



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