表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の向こうの魔女  作者: ひぐらしあや
18/29

丘の向こうの教会 4

**  *   *


 レギーネと女達人が倒れてから数時間が経ち、朝日がキラキラと固まったふたりの血液に反射する。

 そこに人影がひとつ、歩み寄ってくる。


「ああぁ……そんな……」


 人影はぽつりぽつりと「違う、レギーネじゃない、そんな、嘘だ」と言いながらゆっくり近付いてくる。――ランクだ。

 頬に川を作りながら、奴と、レギーネの亡き骸まで歩んできた。

 滲む視界の中、ぴくりともしないレギーネを抱きしめる。酷く冷たい。その冷たさで、どこか幻想的な状況が、現実のものになっていく。

 彼は胸にレギーネを抱きながら、嘆くような事はしなかった。清流の様に流れる涙を拭おうともせず、ただ最愛の人の死を受け入れなかった。


 この時期、彼は少数の研究者と共に義足や、人口心臓の研究を始めていた。そして彼は他の研究者と違い、野望があった。


――この世から死を無くす。


 死は、新たな死を呼ぶ。その連鎖が続き、ある一族が滅んだと聞いた時、彼は産まれた意味を知ったのだ。

 元々、機械にも強い彼は、止まってしまった心臓を人口的な心臓と入れ替える事で、死は防げるのではないかと思いついた矢先の事だった。


 生きる理由を失った彼に残されたのは、レギーネの蘇生だけだった。

 家を捨て、研究所に篭もり、様々な実験や、数々の失敗を繰り返し、何とか理論上、心臓の入れ替えが出来るようになった。

 しかし、時間がかかり過ぎた。防腐液に付けていたが、この時の技術で腐敗は免れず、レギーネの遺体は腐敗が進んでしまっていた。

 研究所の空気が重力を思い出したように、重々しく沈みこむ。そしてひとりの研究者が、人の体が腐敗のない鉄の体だったら、と、呟いた。それは彼を、人の道から外す最後の一押しには充分過ぎた。

 彼は研究者の中から信頼できる者を片手ほど残し、ほとんどを追放した。彼に問いかける者、罵声を浴びせる者、嘆き喚く者を感情の無い声で追放し、死を冒涜する彼に貼られたのは、悪魔のレッテル。

 それから彼は、類稀なる才能を開花させ、人体のような鉄の塊の生み出してしまった。基礎となるのは、鉄と無数の銅線、それからレギーネの遺骨だった。

 電流を流すと、バチバチと体から火花が散り、低音の爆発音に似た音が響く。全員がまた失敗を覚悟した時、鉄の塊に魂が宿ってしまった。

 幾度のメンテナンスを重ね、ただの鉄の塊はレギーネになり、また、もうひとつの魂を生み出してしまったのを誰も気づかなかった……。


* * *

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ