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丘の向こうの魔女  作者: ひぐらしあや
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丘の向こうの教会 3

 私は、ルノの発言を元に思考してみる。


 私という人格が形成されたのは、ランクの彼女への想いが関わっているのだとしたら?

 私を造っている間、ランクが彼女の事だけを考え、 丹精込めて(・・・・・)造っていたなら?

 肉体で無くとも、私という魂が、命が宿っても不思議ではない?

 そして、私が持っている〈記憶〉と〈感情〉は彼女の遺骨からのもので間違いないだろう。

 だとすると、私は彼女とはまったく別の存在という事になる。容姿の違いは、ほぼない。性格の違いもよく分からない。

 それでも、私と彼女は別の存在なのだ。


「それは……とても、暖かい」


「ええ? そうかなぁ。そんな事言われたの初めてですよ」


 ルノは恥ずかしそうに、暖かく微笑んだ。

 私は心が軽くなるとは、こういう気持ちの事を言うのだと初めて知った。安らぎを教えてくれたのは、間違いなくルノだ。

 私はリオン。レギーネではない。ここは私が私でいられる唯一の暖かい場所になった。



 それから世間話を少しして、私は家に戻った。

 感覚なんて分からないはずなのに、協会の外は寒かった。眠っているランクは寝息をたてている。

 すっかり冷えてしまった暖炉の世話をしながら、単調ではない朝を迎えた。


「レギーネ、また昼下がりにサンドウィッチを頼むよ。あぁそれから、家を出る時はちゃんと知らせる事」


「分かった。じゃ、今から材料調達しに行くね」


「気をつけてな」


 ランクは微笑むと、地下に行ってしまう。一日の大半を地下で過ごし、難しい言葉ばかりの書面や様々な鉄に囲まれている。

 私の改良に精を出しているのだ。地下から出てくる事は滅多に無い。


 髪を整え、カゴにお金を入れて家を出る。いつもなら隣町に行くが、今日は昨日と同じく町に向かう。


 町の店に着き、商品を物色していると、隣の人が何やら落し物をした。それを拾うと声をかける。


「あの、ハンカチ落としましたよ」


 落とし主が振り返ると互いにハッとする。


「深夜ぶりやね」


 その人はルノだった。ハンカチを受け取り「ありがとう」とはにかむ。


「ルノもお昼を?」


「ランチというか……、モーニングやね」


「モーニング? 今は昼だよ」


「え? いや違う違う。さっき起きたって事。だからランチというよりはモーニングなんよ」


 やはり、ルノは夜型の生活らしい。昼間の方が教会に訪れる人は多いのでは無いだろうか。と、少し疑問に思うものの、訪れる人数も大して居ないのだろう。

 その時ルノがポンっと手を打った。


「そうや! ピクニック行かへん?」


 まるで名案だと言わんばかりの笑顔だ。

 ランクのサンドウィッチを作らなくてはいけないから、せいぜい小一時間だろうか。友人に誘われるのは初めての経験だ。


「小一時間くらいなら」


「それやったら急がんと! ちょっと待ってて。お茶いれてくる!」


「いらな――。……困ったな」


 『いらない』と、いう前にルノは駆けて行ってしまった。

 せっかく持って来てもらっても、私は飲めない。何かしら理由をつけて断るしかないだろう。


――申し訳ない事をしたな。


 ぼんやりと空を見上げる。と、視界の端に天へと伸びる十字架を見つけた。

 教会もそれほど遠くはないらしい。そういえば、エスポワールに行く時はひとブロック前で右折するのだった。

 やはり、断りに行こう。飲み食いが出来ない私とピクニックに行っても退屈しのぎにすらならないだろう。

 足を教会へ向けた時、角を曲がるノーランを見かけた。一瞬だけ横顔を見たくらいだったが、とても、サーキーに似ている。

 ノーランはサーキーの雰囲気をキリッと締めた感じだ。孫なのだから、似ていて当然なのかもしれない。生きていたら80歳を超えているに違いない。ランクもきっとそれくらいだろう。

 自然の摂理に背き、科学に取り憑かれたランクは、いったいいつ死ぬのだろうか。

 いつになったら、サーキーに会えるのだろう。会いたい。私も〈レギーネ〉みたいにサーキーと友達になりたい。

 そんな叶わぬ夢を微かに無い心に宿した。


――なれるよ、リオンなら。ぼくがなれたんだから!


 無いはずの心の底から、そう〈レギーネ〉がいったような気がした。



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