丘の向こうの世界 5
それは〈女ハンターを攻撃したのは誰か〉という事だ。何度か、夜中にあの場所に行ってみた事がある。あそこには本当に数本の木が生えているだけの場所だ。
見晴らしは良い方だと思う。あの時は、テントの淡い光もあった。誰かが近くに居れば気がついただろう。
しかし、奴も〈レギーネ〉も気がつかなかった。お互いがお互いしか見えていなかったのだ。テントの光も淡いものだったから、仮に誰かが居ても木の陰に隠れてしまえば分からないのかもしれない。
だとすると、凶器は?
〈レギーネ〉は奴の背中を良く見ていない。薄く奴が横たわっている所を見ただけだ。矢の様に目立つものなら、気づけたのだろう。それらしいものが思い出せないなら、銃?
この町は田舎だから、銃なんて高価なものを持っているのはほんの少数だ。
しかも、奴は〈レギーネ〉の敵だと言える。そんな奴を狙って殺したのから、彼女の味方だろう。生前の彼女と親しく金銭面で余裕のある者は――。
「レギーネ? 眠いのか?」
「あ、えっと、そろそろ暖炉が消えそうだなぁってさ」
「そうだね、消える前に薪を足そうか」
「ぼくがやるよ。ランクは先に寝てて」
「それじゃ、頼むよ。レギーネがこんなに素直だなんて、明日は雨かもしれないね」
「はいはい、はやく寝間着に着替えて寝なさい」
クスクスとランクが笑い、クローゼットから寝間着を取り出す。
私はソファからドアへと移動し、開けた。
「レギーネもはやく寝ろよ」
「わかってる。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
ランクの声を阻むようにドアを閉めた。そして、走って外に出る。
暖炉の薪は、確かに家の脇にあった。それを数本が抱え、そろりと玄関、寝室のドアを開け、暖炉に投げ込む。薪が燃える音を聞きながら、止めていた思考を再開した。
生前、〈レギーネ〉と親しかった者は彼とサーキー。奴を殺したのはふたりのどちらかである確率が高い。
ベッドで心地よく寝息をたてている彼の手は血で濡れているのかもしれない。
「まさか……。気分転換が必要だ」
夜はまだ長い。彼が起きるのもまだまだ先だ。それまで、気分転換に散歩でもしよう。
コートは着ずに、ランプだけを持って夜の丘に繰り出した。