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丘の向こうの魔女  作者: ひぐらしあや
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丘の向こうの世界 4


「今日も美味しそうなスープだ。あれ……パンはどこだっけ?」


 パンが入ったバスケットを持ちながら、深刻そうな声色で聞いてくる。


「もう、今持ってるじゃんか」


 私は彼が持っているバスケットの蓋を、少し開けてやる。隙間から見えるパンは昨日、隣町で買ったものだ。


「あ、本当だ……」


「天然さん、スープが出来たよ」


「もう、ちょっと見当たらなかっただけじゃないか」


「はいはい。拗ねるなって」


 出来たてのスープを、むすっと口を尖らせる彼に渡す。抜けている所も、こうして拗ねる所も、たまにうっとおしく感じるが、基本は愛らしいのだ。

 もうすぐ、夕刻になる。本当に長い間、町に居たのだと実感する。

 熱い熱い、と、スープを頬張る彼を尻目に、私は家の掃除を始めた。

 普段は入ってはいけない地下から始めよう。もちろん、中には入らない。扉と、地下に続く階段だけを掃除するのだ。

 それが終わると、次は寝室。ダブルベッドのベッドメイキングをして、写真立ての埃を払う。

 寝室の掃除が終わる頃には、本日二度目の食事を終えた彼が、食器を洗っている。

 キッチンは後回しにして、先にリビングの掃除をする。寝室の倍はある写真立ての埃を払い、ほうきで砂をかき出し、雑巾で汚れを拭う。


「ほら、もう掃除はいいからこっちにおいで」


 食器洗いも終えた彼が、寝室から手招きをしている。


「キッチンの掃除が終わってな――」


「そんなの明日でもいいだろう?」


 と、私が言い終わる前に彼が即答する。ため息をひとつつくと、誘われるまま寝室に入る。


「こっちに座って」


 暖炉の前で、本を広げて座っている彼が、隣に座るよう急かす。

 気恥しい気持ちで、ふたり掛けのソファに腰を沈めた。その途端、彼が音読を始める。

 今日もまた、あの絵本だ。気が滅入りそうになる。何度も何度も、繰り返されるお話。嫌気が差し、お話の夜を思い出す。今、私が思い出しても不思議な事があるからだ。


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