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丘の向こうの魔女  作者: ひぐらしあや
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丘の向こうの世界


 教会からお食事処〈エスポワール〉に戻ると、ランクはクウと喋っていた。私に気がつくと「遅かったじゃないか」と、微笑み「杖を見に行こうか」と続けた。

 何処に行っていたのか、聞かれなかったのが少しだけ、寂しかった。


 店を出ようとした時、クウにこっそりと「貴女との写真を眺めていたので茶化したら、すっごく照れてましたよ」と耳打ちされた。

 私はランクと写真なんて撮ったことがない。故に、それは私ではなく〈レギーネ〉との写真だろう。私と彼女の外見は、瓜二つ。クウが写真の彼女を、私だと思うのは当たり前だ。

不可解な霧に飲み込まれたような錯覚がした。


 店を出たら、杖を売っている雑貨屋に向かった。上質な杖はない。そもそも、上質な杖を買う金も持っていない。

 彼曰く「それくらいのものちょうどいい」らしい。雑貨屋とはいえ、杖の種類は豊富で優柔不断な所がある彼は、かなり迷っている。


「これとかどうかな?」


 痺れを切らした私は、手元にあったものをそう勧めた。彼は唸る。それも、口角を下げて。


「じゃあ、こっちは?」


 めげずに違うものを勧めてみる。落ち着いた色合いで、彼にとても似合いそうな杖。 反応は、いまいち優れない。このまま、興味のない買い物に付き合うのは、苦痛なのでもうひと押ししてみよう。


「落ち着いた色だし、ランクに似合うと思うよ」


「う~ん、そうかな?」


「試しに持ってみなよ」


 差し出した杖を、素直に受け取ると、私の周りをぐるぐると歩く。それほど大きな買い物でもないのに、吟味する所も彼の良さだろう。


「確かに使いやすそうだ」


「うん、とても良く似合ってるよ」


「それじゃ、これにしようかな。折角レギーネに選んで貰ったから、包装も頼んじゃおうかな」


 ふふっ、と笑いながら楽しそうに言う彼。くすぐったい台詞に、さっきまで感じていた退屈も、寂しさも、忘れてしまう。

 ほんの少しだけ、私が〈レギーネ〉になったような錯覚。幻でも、夢でもいい。この錯覚に、溺れたいと願う。


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