姫神-3
「紗也ー、疲れたー。」
確かに、重たい荷物を引きずって歩くのは疲れる。
泊まる場所が決まっていないから、こんな住宅地で休む訳にもいかない。
「もうちょっと、頑張って。」
このあたりには見覚えがある。
「紗也、そこを右に曲がって、そしたら神社があるからそこで休憩しよう。」
「うん、わかった。」
右に曲がって少しすると神社がある。
ふう、と一息つく。
紗也、ちょっと待っててねーと和美が神社の裏の民家を訪ねている。
しばらくして、「紗也ー、こっちこっちー。」と和美が手招きしてる。
部屋が見つかるまで、部屋を貸してくれることになった。
どうやら、和美の友達の家?らしい。
封印を解かれてすぐ、友達がいるのか甚だ疑問ではあるが、
神社の裏にすんでる人が超長寿なのかもしれない・・・。
そういうことなのだろう。
逢いに来た友人とは違うらしいが、会いたかった友達らしくうれしそうだ。
友達に逢いに来た友人は、神社のそばの樹に結界で封印されていると教えてもらった。
「紗也、お願いあの樹の結界を解いて。」
和美から必死さが伝わってくる。
「でも、結界とか壊したらまた問題にならないの?」
「それは・・・、大丈夫だよ」
「結界を張った人も管理している人もいない忘れられたモノだから。」
「わかった。
けれど、どうすれば良いの?」
和美から説明を受ける。
一か八からしいが、たぶん成功すると思う。
樹に手を当てて、意識を集中し樹の中を探る。
うっすらとした、誰かの手を見つけた。
空虚でいて柔らかい手がある。
そっと手を握って、意識を同調する。
そうすると、上から下に水が流れ落ちるように、意識が流れ込んでくる。
流れが加速して、結界の中から封じられていたモノが体内に流れ込んでくる。
手を引っ張って、結界から引き出すと全部体内に移動した。
紗也の意識と体の限界に近い。
食べ過ぎた時のように、ふらふらする。
体の中で、引き出した意識や魂が正しい存在へと形を変えいく。
「和美、これで良いの?」
和美は一瞬呆気にとられていた。
「・・・紗也、凄いよ。
意識まで取り出せるなんて、存在と魂だけでよかったのに。」
「え?、それってどういうこと?」
「意識まで取り出したら、大抵は取り出した人の容量超えちゃうから。
最悪の場合、ボンと・・・死んじゃう。」
あはは~、冷や汗を流しながら笑っている。
今気がついたのか?
笑って誤魔化しているつもりなのだろうか。
「笑い事じゃないよね?」
「とりあえず、次はこのお酒飲んで。」
スルーされた。
お酒は、取り出しやすくするために必要らしい。
「わかった。」
日本酒らしい酒を飲む。
「部屋に戻ろうか。」
部屋に戻り、十分程度たった。
頭がガンガンする。
体の中で再形成が終わったようだ。
体から外に出す方法を聞く。
和美が紗也の胸に手を当てて、中の何かと話している。
「準備オッケーだって。
もちろん、胸を突き破って出てくる訳じゃないから安心してね。」
呼吸を整えて、お姫様抱っこするような感じで手のひらを上に向けて手を伸ばす。
後は、意識の枷を外す。
体が溶けるような感じがする。
それと同時に、何かが体の外に出て行く。
それも、ものすごい勢いで伸ばした腕にだんだんと主さが加わっていく。
空虚感が体中を満たしていく。
中身が全部なくなるような寂しい感じだ。
何とか両手で抱える。
いつの間にか部屋に和美の決壊が張られていた。
そして、抱っこしていた娘は側に立っていた。
意識が飛んだ?
「紗也、大丈夫?」
「だいじょうぶか?」
二人の声が聞こえる、どうやら成功したようだ。
意識が保てない。
ポテっと安っぽい音で倒れる。
意識が戻ってきた。
暖かい。
和美が膝枕をしてくれているらしい。
「和美、いいなー。紗也みたいな人を見つけられて。」
「私も、自然結界の中で動けなかったから探して見つけたわけじゃないのだけれど。」
「それにしても、紗也の容量って凄いね。
本当に、人間なの?」
和美は嬉しそうに。
「うん、そうね。年相応の弱さも持った人間だね。」
「・・・。」
「回復してもらうまで、結界の中にいてもらわないといけないけど。」
「私も、紗也に名前をつけてもらおうかな。」
「それも、良いかもしれないね。」
紗也は、「うーん」と、のびをして目を覚ます。
膝枕されていることを確認して、「あ、ありがとう。」と、膝枕の礼を言う。
「いえいえ、気持ちよかったでしょう?」
「うん」
「紗也、紹介するね。此方、旧友の陽子」
一見すると、、和服美人ぽい。
けれどこれが本当の姿なのかよくわからない。
うまく認識できない。
「紗也です。よろしく。」
「助けてくれてありがとう、紗也」
「いえいえ」
「紗也、突然で驚くかもしれないけど、新しく名前つけてくれない?」
そう切り出す、陽子
「え!?」
「付けてあげれば良いじゃん。」
と、和美が軽いノリで言う。
「解った。」
軽いノリだったし、フィーリングで良いんだよね。
「・・・優花、優しい花で優花」
「うーん、まあまあだな。
優花・・・優花。」
かみしめるように言う優花。
「うん気に入った。」
まあまあなのに気に入るのか、ちょっと面白い。
「これは、新しく名前を付けてくれた礼だ。」
そう言うと、胸に手を当てて何かをつぶやく。
何か暖かいモノが胸の奥に宿った気がする。
「ありがとう」
「よかったね、紗也」
「今分けたのは、昔私が人と暮らしていたときに、子供たちの傷を癒やすために使っていたモノだ。
自分自身は癒やすことができないからそのつもりでな。必要に応じて使うが言い。
暖かい心があればその力は枯渇することは無いから。」
なんか凄い力をもらってしまった。
癒やすなんて、ゲームのヒーラーぽいな・・・。
体内で、変化が起こり始める。
あれれ、優花も同じようだ。ちょっと驚いている。
和美は知っていたのだろうか、ニコニコと眺めている。
「優花も紗也も繋がったね。」
二人の声がハモる。
「「え?」」
「繋がるって何が?」
「絆」
「何だ絆か、久しぶりだからびっくりした。」
優花が言う。
「絆って?」
置いてきぼりな紗也が説明を二人に求める。
「まあ、紗也にも解るように凄く簡単に言うなら親友の証みたいな感じかな。」
親友に証なんていらないだろうに・・・。
「効果の一つは、虫の知らせのような感じでお互いに何かあったら解る。しかも、結界とか世界とか関係なく解る優れモノ」
ふむふむ
「優花と和美は、いつ知り合ったの?」
和美が口を開く。
「うーんとね、数百年前、すれ違ったときに急に絆が出来ちゃてた。あれは吃驚したなぁ。」
「そうだった、あの時は全然話もしなかったのに、いきなり絆が出来てて変化しても誰か解らなくて困った。」
「二人そろってオロオロしていて、お互い目が合って少し話したけど。二人とも用事があったからすぐにその場は分かれたな。
私たちの場合はなぜか絆が先だった。」
「しばらくして、優花が敵に捕まった時に最初に助けに来てくれたのが和美だったね。
あの時も人間と一緒だったっけ。
彼どうしたの?」
「あー、彼は紗也のご先祖の誰かだとは思うけど、自然結界に置き去りにしてどっか行っちゃった。」
「なにそれ、あんなに仲良かったのに…。」
「どうも、一族内で争いが起こったらしくて、その制圧と仲裁でもしてたんじゃないかな?
それか、その争いの中で死んじゃったかもしれない。」
「え?、わからないの?」
「うん、だって絆ができなかったからしょうがないでしょ。」
「その後、しばらくして優花が封印されちゃったんだっけ。」
「そうそう、自然結界では近づけなくて。困ったから人間に近寄ってみたら運悪く素行の悪い奴だったらしくてあの通りね。」
「そっか。」
「でも、今は紗也がいるから幸せだよー。」
と、和美が嬉しそうに言う。
「和美、あんたって人間好きだねぇ」
「紗也が特別なんだよ?」
なに言っているのと言わんばかりの表情をする。
回復までの数時間、こんな感じで3人で語り合ったりした。
紗也陣営と言うか、ようやく姫神がそろった・・・。