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枝葉  作者: 狐孫
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姫神-1

苦い思いをした。


病院を後にして、静かな場所を探す。

神社の境内で心を落ち着けてから、次郎と祖母に電話をした。


次郎は最初は怪しんでいたが、美菜恵がもうすぐ死ぬ事を説明するとゆっくりだが教えてくれた。

どうやら、小太刀の封印を解く方法を知らないらしい。

もし、方法が解っても家の掟で出来ないそうだ。

祖母の方は、封印を見れば解くことは出来るかも知れないが他の瞳の縄張りでさらに眼の縄張りが被さっている場所だから来られないそうだ。

私が首を突っ込んだ案件なので、来られる状態でも来てくれない可能性の方が高いだろうが…。


人の生き死になんて、そんなに関係無い事なのだろうか助けられるのなら助けたいと思うのが普通だと思う。


散歩をしながら考えよう、その方が良い案が浮かぶかも知れない。

神社の境内を出て、祖母か次郎を説得する方法を考えながらフラフラと当てもなく歩く。



進むべき道と進んでは行けない道、どちらも歩いている途中は同じように見えて些細な違いを見分ける心構えが居る。


避けられない過程に避けなければ行けない結果。

そうして僕らは、結果を思い描いて過程を進む。


進んできた道が正しい道かどうかなんて、目的地に着いてみなければ解らないだろう。


目的地が決まっていない場合は、どのように判断するべきか。

行き着いた場所が判断する場所であるのは確かで、それが正しいかどうかを判断するすべを今の僕は持ち合わせていない。


行き詰まった僕は、訳の分からない事を呟いた。


さて、ここは何処だろう?

考え事をしている間に、迷子になってしまったらしい。

来た道を引き返そうにも、見覚えが無い道が拡がっている。

これでは帰れない。


ええい!

たどり着いた場所がたどり着きたかった場所だ。

半ばやけくそで歩き始める。


すると、なんだか古ぼけた神社に着いた。

水姫神社と言うらしい。

近くの説明の看板によると、結構昔から有るらしいが分御霊も合祀も頑なに禁じてしていないらしい。

かなりそれは珍しいが、それ故寄付が集まらないらしい。

不思議なモノだ。

ご神体は、本殿の後ろの池の中らしい。


ちょっと、神社で休憩させて貰うか。

神社や宮などは、自然結界の上に立っている事がある。

そうで無い場合も、清めるために何かしらの結界の様なモノが張ってある。

鳥居は、この結界の門の様なモノで、ここを通らないと中に入れないのだ。


神社の境内に入ると、木々がざわめく。

何か違う違和感がある。

何かに導かれるように、本殿の裏の池の畔に来た。


緑色のいけの上に、青い地に赤い蝶が印象的な着物姿の女の人が立っている。

何処か遠くを眺めているようではかなく見える。

女性を見つめていると、此方に向き直った。


しばし見つめ合う。


「やっと来たか。

 そなたを待って居たのだ。」


「え?」

この女性なんかやばい気がする。

池の上に立っている時点で人間じゃない…。


「そなたは、瞳と眼の持ち主であろう?」


「・・・なんで知ってるの?」


「そなたの祖先と、約束した。

 あの人も、瞳と眼を持っていたよ。」


「あなたは誰?」


「はあ、何も聞いて居らぬのか?

 あの時は大変だったから仕方有るまい。

 妾の名前は瑞姫と言う。」


「その、瑞姫がどうしてこんな所に?」


「そんなことより、そなたは先祖の約束を果たすために来たのか?」


「先祖の約束って?」


「違うのか…、まあよい。そなたが、妾に名前を付けるとしたらなんと付ける?」

話が見えないと言うかかみ合わない。


「そうだな、理由は分からないけど。僕なら…。」


「和美」


「そう付けるかな、すごく綺麗な人だから。着物着てるし。

 瑞姫もすてきだと思うけど…。」


「和美、和美か気に入った。」


「先祖との約束は新しい名前でこの地から連れ出すことだ。

 まあ、そなたの付けてくれた名前も気に入ったし、無理に連れ出せとは言わんが…。」


先祖との約束を信じて待ち続けた瑞姫って何歳なんだろう。


「なんだ、浮かない顔をして…。

 なにか、悩みでもあるのか?」


「あ、そうだった。」

この和美なら、何とかする方法を知っているかもしれない。

美菜恵が瞳の力を誰かに付加されて、眼の封印で死にかけていることを簡潔に伝える。


「この時代でも有るのか…。

 くだらない事を考える奴も居るのだな…。」

すごく、悲しそうだ。


「なにか良い手立てはありませんか?」


「自然結界の中に居る間に蓄えた力で、何とでもなる。」


「お願いだから、助けてもらえないだろうか?」


「妾も、ここから連れ出して欲しい。」


「じゃあ、ここから連れ出すから助けてくれる?」


「もちろん。だけど…」

モジモジして此方を見ている。


「連れ出すってどうすれば良いの?」


「そなたの体、妾の依り代になってもらう。

 ここを出る間では我慢して貰わないといけない。

 それは裸で抱き合うようなモノだから。

 あなたのあり方が全部みえる。

 そして妾のあり方も…夫婦みたいなものになる。」


 和美が超真っ赤になっている。

そう言われても、依り代にならないと和美は出られないのだろうし。

夫婦と依り代じゃあちょっと違う気もする。


これだけ古い神社と言うことは、自然結界も相当、格が高いだろう。

別の何かで、代替出来るわけが無いか…。


「依り代にならないと連れ出せないの?」

疑問に思う。


「他の方法はある。

 ただ、それは自然結界に穴を開けて中と外を通れるようにすればいい。」


 それは、まるで風船に穴を開けるようなモノだ。

 下手をすれば吹き飛ばされるし、中に残れば空間毎つぶされるほど厄介だ。


「このレベルの自然結界に穴を開けるほど力を使えばそなたは確実に植物人間になるだろうな」

ぼそっと、和美が怖い事を呟く。


「解った。ここから連れ出す。先祖の約束だし。そのかわり、美菜恵を助けてくれ。」

決意をしてそう告げる。


和美の手が、僕の胸の心臓の上あたりにそっと置かれる。


「私は、和美。」

そう言うと瞳を閉じて深く息を吐いたようにみえた。


つられて瞳を閉じる。

大きく息をする。


胸の奥から、暖かく切ない鼓動が聞こえてくる。


「姫神の和美…

 ここに先祖との盟約に従い…

 ・・・

 空を駆け地を潤し…

 瞳と眼の力で道を照らし…

 標となる紗也と共に歩もう。」


和美は、ちょっと長い願いのような祈りのような言葉を紡いだ。

その瞬間に、強い衝撃が走る。


びっくりして眼を開くと和美が居ない。

取り憑いたというか中に入った?


その場で、一回転したかのように目が回る。

フラフラとしながらよろめいた。


『紗也、大丈夫か?』

胸の奥から和美の声が聞こえる。


「ああ、大丈夫だ。」


和美は内心ほっとしていた。


紗也の器が小さすぎれば、紗也が爆発四散していただろう。

ギリギリなら紗也を押しつぶして消していただろう。


一種の賭だったのかも知れない、それほど退屈していたのだ。

紗也は想像以上にそして必要以上に十分に大きい器だった。


「これでここから出れば良いんだね。」

『うん。』


長かった。やっとこの自然結界から出られる。

あの人が、ここなら安全だから待っていてと言って帰ってこなかったこの場所。

あの人も、私が出られないとは思っていなかったのだろう。


あの人の居ないあの場所は私を閉じ込める牢屋のようだった。


紗也となら出ることが出来る。

とても嬉しかった。


『病院に急いで』

眼の封印なら、早く行かないと約束を守れなくなる。


「わかった。」

そう言うと、紗也が境内を走り出ていった。



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