赤い目-1
先輩が一度訪ねてきてから、しばらくたった。
入学式と大学の前期の講義が開講された。
あれ以来、先輩には会っていない。
たぶん、瞳の能力が無く瞳を後付け出来そうに無いため興味の対象から外れたのだろう。
僕は、心底ほっとする。
久子の様子を見ても想像が出来るが、
瞳の能力があることがばれるとあの人相当厄介だろうな。
久子はどうやら従姉妹らしい。
その従姉妹は使いっ走り状態だ。
あの先輩に、瞳の使い方や能力を教えて貰っているのでギブアンドテイクとも言えなくは無いが…。
そう言えば、入学式の時に変なやつに出会った。
人の顔を見るなりいきなり引っ張られた。
「兄さん!こんな所に居たの!」
「誰だよ!」
怒気をを込めて言う。
「え、あ、ごめん人違いだった。
目の色が違う以外はそっくりなんだけど。」
そんなこと言われても解らない。
「僕には兄なんて居ないぞ、
それにおまえは誰なんだ?」
兄は居ない、かなり昔に無くなった腹違いの兄は居たらしいが…。
「この大学の新入生」
同じ学年ねんかよ!
「で、なんでお前の兄と間違ったんだ?」
疑問なので聞いてみる。
「慕っていた兄が、ずいぶん前から行方不明でたまたま、そっくりな人に出会ったからつい。」
「あっそ」
興味が無くなった。
「まあ、兄捜し頑張れや。」
と、ほったらかしてその場を後にした。
が、同じ選考で同じ講義を受けるため。
クラスメイトになってしまった。
運が悪いというか何というか。
一応、クラスの中に瞳の能力者が居ないか一人一人注意深く確認する。
今のところは居ないようだ。
気になるのは、入学式の時に話しかけてきたやつの目が、父と同じモノだった。
何だろう。
注意しておかねばならないかも知れない。
あと、学校の先生に瞳の能力者が居るようだが、従姉妹の久子に聞いてもそんな人居ないと言ってくる。
祖母が言っていた瞳の亜種かも知れない。
ある日、あの兄を探してる変なやつが声をかけてきた。
「こないだは、すまんな。俺、秋月次郎、よろしく。」
「いえいえ、僕は紗也、よろしく。」
父親と目の色が似ている、朱っぽい。
「気になる娘とか居たか?」
「僕は今のところ、そういうのはちょっといいかな…。」
などと、適当な話をするぐらいの仲にはになった。
ある日、同じ講義を受けている女の子一人の目の色が変わった。
瞳の能力者と同じ藍色になっている。
小柄で地味な服装だが、少し丸くて小動物のような可愛い感じがする。
髪は方ぐらいまでで、一つに纏めているそんな感じの女の子だった。
名前は、美菜恵と言うらしい。
他の人に、それとなく聞いてみたがカラーコンタクトをしている人は居ないらしい。
気になるので、祖母に電話して聞いてみると。
後天的に瞳になる人も居るとのことだ。
急に、瞳になったと話したら、おそらく瞳の亜種の仕業だろうとのこと。
それと、父親と名時朱色の目をした人が居て、そいつと友達になったと報告したら。
そいつとは、縁を切れと言われた。
さすがに、説明なしでそれはしたくないので嫌だといった。
なら、絶対にそいつの前では家の話をするな、あと瞳の能力は絶対に使うなと念押しされてしまった。
祖母の言ったことで間違いだったことは一度も無い。
だから、たぶん今回の忠告も正しいのだろう。
今回逆らった文、他の言いつけは絶対に護らないと…。
色々音もあるし、祖母大好きだし。訓練と称して地獄を見る事になるだろうし。
祖母が危惧した、家のことを聞かれることは無かった。
美菜恵がどんな能力を使い始めるか解らないのでとても不安な日々を送っている。
瞳の亜種と言うことは、あの先生と何か関係があるのかも知れない。
まあ、関係ないことだし。
この地一体を管轄して居いる瞳の家と言うわけでも無いから、放置するけど。
自分に火の粉が掛からない程度には様子見する事にした。
数日後、次郎の様子がおかしい。
どうもそわそわして落ち着かないというか。
どうしたのかと聞いてもちゃんとした答えは返ってこない。
やつの挙動不審はいつものことだが、今日はいつもと違った感じがする。
次郎の視線を追ってみると美菜恵が居た。
まあ、あの祖母が警戒しろと言っただけはあるかな。
瞳の能力者で無いとしたら、どんな能力だろう。
ここら辺で多いと言われている眼かなあ。
昼休みに、次郎が何処かへ行こうとしたので、「何処行くの?」
と聞いてみる。
「女子トイレ」
「ぶっ、犯罪だぞそれ!
そう言う趣味があるのか?」
いつもの軽い感じでからかってみる。
「断じて違う!」
次郎は必死に弁解している。
「じゃあ、何処行くんだよ?」
「ああ、美菜恵が気になってな…。」
「それで女子トイレまで追いかけると…。」
痛い生き物を見る目で次郎を見る。
「違う、美菜恵と決闘することにした。」
「はあ、決闘てなんの?」
「どうでもいいだろう!」
簡単には言えないか。
もう殆ど喋っているようなモノだが…。
「まーいいや、ご武運をねー。のぞき魔」
「だから、違うって。時間なくなるから行ってくる。」
そう言うと出かけて行った。
こっそり様子を見に行こうかな。
ベタに単純な次郎の事だから、場所は人気の無い体育館裏かな…。
居るとは限らないけど、行ってみる。
「覚悟しろ!」
二人とも居たよ。
大声で追いかけ回すって隠す気あるのか。
次郎が時代劇の様なかけ声を発しながら美菜恵を追いかけている。
その手には、小太刀が握られている。
・・・洒落にならん。
「次郎、そんな物騒なモノもって何やってるんだ!」
思わず大声を出してしまった。
そのため、二人に気づかれた。
美菜恵が此方に向けて走ってくる。
そして、後ろに隠れる。
やべえ、巻き込まれた。
「お願い、おいらを助けて。」
助けてと言われてもなあ。
説得を試みようか?
「次郎、話せば解る。」
「紗也退け!」
「次郎、取りあえず落ち着け、話し合おう。」
「騙されるな、そいつは敵だ!」
「敵って…。」
「敵なの?」
後ろに隠れてる美菜恵に聞いてみる。
「心当たり有りません。
だろうなぁ…。
どうしようかと考えていると、次郎が殴ってくる。
顔を殴られるのも嫌だから、腕でガードする。
すると、いつの間にか回り込まれて頭に強烈な一撃が加えられれる。
脳が揺さぶられたのか、力が抜けてその場にへたり込む。
あー、油断したと言うことにしとこう。
考えてみれば、美菜恵を瞳にした奴も解らないし。
見張ってる可能性すらある。
偶然巻き込まれた風を装うことにした。
「しばらく、おとなしくしてろ!」
そう言って、次郎は美菜恵の方を向く。
「彼は、貴女の一番の友達でしょう。
一般人の彼を傷つけるの?
もうやめて…」
鳴き始めた。
次郎は動揺していないふりをしているらしい。
隙だらけだ。
「悪く想うなよ。」
そう言って、小太刀が朱色に変化する。
変化した小太刀を、鳴いている美菜恵の胸に突き立てた。
「力を封ずる」
美菜恵から小太刀を抜く。
不思議と血が出ないと言うか傷も付いていないし服も破れていない。
マジックか?いや、眼の能力か?
次郎の手から小太刀が消える。
「な、何を…。」
「君の力は封印させて貰った。もう二度と能力は使えないだろう。」
「何てことを…」
美菜恵は最後まで言わずに気絶した。
「紗也、大丈夫か?」
体を揺すられるが、力が入らない。
「動けん…。」
「そうか。」
再度、頭に衝撃が走る。
口封じか?
目が覚めると、救護室に居た。
美菜恵も一緒に居る。
頭が痛くて、思い出せない。
この感じは、忘却の強制か…。
いくつかの手順を踏み解除を試みる。
解除が成功したが、意識が保てない。
人が居ないし今は大丈夫だろう…。
もうろうとする意識の中、周りを確認してから意識を落とす。
忘却の強制をかけてきたのは次郎だろう。
と言うことは、瞳で言うところのダブルキャリア以上の能力があるのだろう。
次に目を覚ましたとき、何故か美菜恵が此方の別途に転がり込んでいた。
貞操の危機か? 確認するが特に問題は無い。
美菜恵の服装も特に問題は無いだろう。
寂しくなったのか、怖くなったのかそんなところだろう…。
「おはよう」
一応、声をかけて揺すってみる。
「・・・、あり得ない・・・。」
「何が、あり得ないの?」
「貴方とベッドに居ること。」
「そうだね。でも何もしてないから。」
「それも、あり得ない。」
「手を出した方が良かったのか?」
「違う。手を出されるかも知れないけど。怖くてどうしようも無かったから…。」
泣き出してしまった。
あらら、どうしたモノか。
こんな所他人に見られたら不味いよな…。と言うか、そこでニヤニヤと見てる養護教諭よさっさと止めに入れや!
「あら、女の子を泣かせるなんて罪な男ね。」
え、あ、この教諭は頭は大丈夫か?
一部始終見てただろうに…。
「結局、どうしてここに運ばれているんですか?
頭が痛いのと、記憶が無くて…。」
「頭が痛いのと、記憶が無いの?」
「はい。」
「ガス漏れ事故で二人とも倒れてたのよ?
それも記憶無い?」
「有りません。倒れたときに頭を打ったとか?」
「可能性有るわね。」
一応、車で救急病院に運んであげるね。
脳がおかしくなってたら大変だから。
「そうですか、お願いします。」
「美菜恵さんも記憶無いの?」
「はい、有りません。」
「そう、じゃあ二人とも病院ね。」
そう言われて病院まで連れて行かれる。
色々検査があり、CTとかも取られた。
今回の病院代は、学校の保険からお金が出るらしい。
結果何も問題なし。
記憶は戻るか解らないらしい。
病院の診察が終わり、学校に戻される。
美菜恵と二人で取りあえず話してみることにする。
人気の無い図書館などがよさそうだった。
「ああ、力がなくなっちゃった。」
「力?」
「うん、最近何故か変な力が付いちゃって。」
自虐的に笑う。
「あんな怖い思いするなら、力なんて要らない。」
「何があったの?」
「今日、小太刀で刺されたの。
でも血も出てないし。服も破れてないから余計、意味解らない。」
「なるほど。」
「で、貴方はその現場に巻き込まれたわけ。」
「そうなんだ。でも教諭はガス漏れ事故って言ってたけど。」
「次郎が、そう偽装したんでしょうね。
悪いこと言わないから次郎とは縁を切った方が良いわ。
友達の貴方ですら平気で殴って追い打ちをかけるような男よ。」
「そうか。次郎か…。」
「うん。
嘘だと想うなら明日聞いてみれば良いじゃ無い。」
「いや、良いよ。
記憶無いし面倒だし。」
「それよりも、力の方が興味あるかな?
どんな力だったの?」
「んー、よく分からない。
最近、力が使えることが解って。
色々試している途中だったから。」
「ああ、そうなんだ。」
「そう言えば、力が使えるようになってから、変わったことがあった。
特別目が綺麗人がいるの。二人ほど。」
「そうなんだ。僕の目はどう?」
「貴方は普通の黒い目だけど?
あの人達は綺麗な藍色だった。」
「そうなんだ。」
たぶん、久子と先輩だろうな。
瞳の亜種の可能性もあるか…。
「力が使える前に変わった事って有った?」
「んー、教室で寝てて教諭に起こされたことぐらいかな。
普段なら、おいらは、あんな場所で寝ないのに…。」
「そっか」
「でも、紗也て変わった人ね。
普通、こんな話したらどん引きだよ?」
「そうなんだ、夢見がちなのかとは想ったけど。
引きはしないかな。」
じーっと見てくる。
「巻き込んでごめんね。」
「別に、記憶が無いから謝らなくても良いよ。」
「ありがとう。」
泣きながら呟いてくれた言葉が妙に心に残る。
その日の話はそれで終わり、日が暮れないうちにお互いに帰路についた。