灰色の色彩
目の前に、灰色の街が拡がっていく。
ため息をついて、呟いた。
「前に住んだ町は、青かったったのに。」
僕の名前は、姫塚 紗也、18歳の大学一年生になる。
手違いで、田舎の大学から都会の大学に行くことになってしまった。
大学のランクは同じで、名前も似てて学部や学科の構成殆ど同じ。
合格通知が郵送されてきたとき、間違えてえ手続きをしてしまった。
入学金まで振り込んでしまっている。
普段は間違えない様なことは、間違えるときはとことん間違えるようだ。
そんなこんなで、大学が違うことに気がついて大騒ぎ。
色々手を尽くして、通学が出来る下宿先を探したところ、親戚の家に住むことになった。
一人暮らしはさせてもらえないらしい。
親戚が下宿させてくれなければ、家に住み込みの誰かが一緒に来る事になったかも知れない。
それはそれで、その人に迷惑が掛かるから遠慮したい。
親戚は姫塚家と疎遠になっていた。
何でもおじさんが出て行った感じらしい。
一族の集まりには最低限の出席で、おじさんが一人で来るがどんなに遅い時間でも泊まらずに帰る。
長くあの地に居たくないらしい。
今日から、その親戚の家に下宿する。
地元の駅からおじさんの近くの駅まで家まで5時間以上道のり、乗り継ぎのたびに電車が来ない。
車で行っても同じぐらいらしい。
故郷は、とんだ秘境だったようだ。
駅前で下宿先のおじさんと待ち合わせ。
予定より、30分程度早く着いたようだ。
壁により掛かって、おじさんが来るのを待つ。
さすがに都会だけ有って人が多い。
故郷の駅では、駅員さえ居ないと言うのに…。
早く時間過ぎないかな。
なんだか視線を感じる。
さすがに、野暮ったくて目立つのかなあと周りを見渡す。
殆ど誰も此方など見ては居ない。
自意識過剰かな、みんな忙しそうだし。
それにしても、都会は空気が不味い。
焦げた匂いや、何か分からない匂いで鼻が編になりそうだ。
故郷の田舎では、牛舎の匂いとか、湿った苔の香りや山から下りてくる樹の香り。
朝の冷気などどれも落ちついていて生きた香りで一杯なのに…。
またも、視線を感じた。
今度は集中していたので、方向が分かる。
急いで視線を辿ると、自販機の隣に立っている娘の視線だと解った。
目が合った。
「綺麗な目だなぁ。」
ため息を漏らす。
ここ数年の傾向だが、綺麗な目を持つ人が確実に減少してる。
この国の人々の目を見て回って統計を取ったわけでは無いが、
テレビや旅行先、地元などでぼーっと一日中眺めて見たけどやはり減っていると思う。
見とれていると、綺麗な目の娘が此方に向かって歩いてきた。
あ、やばい気に障るようなことしたかな?
それとも、田舎者狩りかか?
合図に、悪い仲間が一斉に襲いかかってくるとか?
ちょっとパニックになる。
まあ、僕としてはどれでも構わないのだ。
素直に謝っても何かしてくるなら。
反撃しても正当防衛ぐらいにはなるだろう。
「こんにちは」
綺麗な目で見据えて挨拶される。
「こんにちは」
僕は興味なさそうに答える。
「あなたが紗也君?」
そう言われて、ドキッとした。
何で知ってるんだ?、こんな人と知り合いだったかなと考える。
「そうだけど、だれ?」
わからないときは聞く、それに限る。
「私は、久子。貴女の下宿する家の娘とでも言えば良いのかしら。」
ああ、なるほど。運が良いのか悪いのか解らない。
「なるほど、これから下宿することになる紗也です。
よろしくお願いします。」
頭を下げる。
「解らないことがあったら聞いてね。あと同い年だからため口で良いよ。」
同じ年なのか、あまり興味が無かった。
「・・・」
何故かジーと見つめてくる。
これは何か、気があるのか?とか想ってしまう。
「紗也君手、目普通だね。」
いきなり、何を言われるのかと想えばまた目の綺麗さの話か、母方の家系である証拠でもあるのだが。
実は、母方の家系は大抵が目が綺麗無い人が殆どで、目の綺麗さで優劣が決まる変なしきたりのある家系なのだ。
血が繋がっていて綺麗な目をしていない人は殆ど居ない。
僕の目を綺麗な目だと感じ綺麗だと言ってくれるのは家族だけだった。
「そうだね、君の瞳は綺麗だね。」
まあ、こう言っておけば無難らしい。
実際に綺麗なんだが、喜んでいる。
目の綺麗さだけで優劣が決まるのも考え物だと想う。
「元本家のお坊ちゃんがこれじゃあ、本家と分家が入れ替わるのもしょうが無いね」
またか、この人はどうして僕にどうにも出来ないことを言ってくるのだろう。
説明すると、僕の祖母までは本家として権利をすべて握っていたのだ。
まあ、祖母の目がすごく綺麗だったからだけど。
祖母が普通の目の人と結婚して、母がこれまた普通の目の父と結婚したために、
切れない目を持つ分家に本家の権利が移動したと言うのが、分家の認識だ。
祖母と母で本家の条件を満たせなくしたのが本当の理由だが…。
「・・・」
なんだろう、僕が悪いわけじゃ無いのだが、本家としての権利がそんなにほしいのだろうか。
「僕は、普通の目でも良いと想っている。
目が綺麗かどうかで優劣が決まるなんて変だ!」
挑発してみる。
「あなたに話しても無駄かも知れないけど、私たちの家系は目の綺麗さで能力の強さが決まる家なのよ。その能力の事を瞳と呼んでいるわ。」
それぐらい僕でも知っていると言うか、本家の坊ちゃんたる僕が知らないわけ無いだろう。
どうやら舐められてるらしい。
母や祖母からの手解き、あれは地獄と言っても過言では無い。
手解きの時以外は、瞳の能力は使う事を許されていない。
不意に能力を使ってしまわないようにするための封印の腕輪までさせられている。
瞳じゃ無いものが瞳の力を使うのは分家から見ると脅威らしい。
だから、家族以外は僕が瞳の能力を使えることを知らない。
「瞳の能力って何?」
どの能力を言っているのか気になった。
瞳の能力は守る為の力で、守るために必要なら想像と自身の瞳の力しだいで何でも出来るのだ。
「そうね、たとえば結界を張ったりとか。」
そういうと、久子は二人分ぐらいの小さな結界を張った。
能力を使うときに目の色が変わるのは、瞳の特徴らしい。
「久子、こんなところで何してるんだ!」
おじさんの声が聞こえた。
久子は急いで結界を解いた。
振り向くと、人の良さそうなおじさんが居た。
「こんにちは、君が紗也君だね」
綺麗な瞳で、此方を見つめてくる。
「え!?あ・・・、おじさん。こんちは、今日からよろしくお願いします。」
驚いて、挨拶が出てきてしまった。
「こちらこそ、よろしく」
「よろしくね。」
なんか、久子さんのしゃべり方が違う気がする。
それになんかおしとやかな雰囲気に…。
都会の娘は恐ろしいなぁと思う。
「久子、外で能力を使うなと言っているのに、眼の一族に見つかったらどうするんだ。」
とても心配している。
「お父さん、ごめんなさい。」
素直に謝っている。
「今回は見つからなかったようだから良いが、この辺りは眼の一族が多い土地柄なんだぞ。」
それにしても、先ほどから出てきている眼の一族とは何だろう。僕の知っている眼の話と違う。
「はい」
小さく返事をしてシュンとしている。
「あの、眼の一族って何ですか?」
おじさんに疑問をぶつけてみる。
「あれ、君は眼の一族を知らないのかい?」
「はい、実家では一度も出てきませんでした。」
「そうか、なら教えよう。
私たちや、君の様に瞳の能力を持っている者が居る。
瞳の一族とでも言おうか、瞳の一族と敵対関係にあるのが、眼の能力を持った奴らの事で眼の一族と言っている。
奴らは、瞳や眼の能力を封じたり出来るし、瞳を濁らせたりつぶしたりする集団だ。
元々は、悪霊や邪翼など破邪を生業とする者だったハズだが。
数年前に、この辺りで瞳の能力を持った娘が襲われて、瞳を怪我されたあげくに、裸で放置された事件があった。
その娘は、ショックからかそれまでの記憶と瞳の能力を失って、瞳の一族の本家に引き取られて療養している。
記憶は、戻るかも知れないが瞳の能力はもう戻らないだろう。」
空気が少し重たくなった。
一応家も本家なんだが、数年前って事は住み込みのお姉ちゃんか?
病気でしばらく離れで療養していた記憶がある。
初めて会ったとき有ったとき酷く怯えられたっけ。
そして、さんざん僕を殴ったり蹴ったりした後すぐに泣きながら謝ってきた。
何で僕、あのとき殴られたんだろう?解らない。
そのときの怪我は母に直して貰った。
今では、怯えられることも殴られることも無い。
兄弟の様に超仲良しだ…たぶん。
「犯人は、本家の当主が捕まえて警察に付きだしたそうだ。
当時の当主は、真正の瞳だから普通の眼が相手なら負けないだろう。
今のところは、瞳の一族の方が優勢らしい。」
ああ、ばあちゃんと母さんがウキウキしてたときのか。
リアルハントが出来ると入念に準備してたな、あの二人の訓練にもつきあわされた。
山の中で、年老いたばーちゃんが出刃包丁を振り回しながら追いかけてくるのはトラウマモノだった。
母さんとの訓練は、思い出せない。
前後数日の記憶が飛ぶから、記憶を飛ばして自己を護ったのでは無いかと思う。
何故だろう、足が震える。
深呼吸をして落ち着ける。大丈夫、大丈夫…。
ふう落ち着いた。
その様子をみた、久子が
「そんなに眼に怯えなくても良いのに。可愛いね。」
と、見当違いのことを言っている。
「お父さん、真正ってなに?」
「なんだ、久子もまだ知らなかったのか。
真性とは生まれつき、瞳の能力がとても強く天才的に能力を使えるモノの事らしい、正確には違うらしいが。
普通の瞳と真性の瞳を比べると能力的に月とすっぽんぐらい違い、真性の瞳は瞳の色が濃く超綺麗で宝石の様に見える。」
「ふーん。先輩はダブルキャリアっていってたから。どちらが強いのかしら?」
「何を馬鹿なことを・・・。
真正に決まっているだろう。
ダブルキャリアは、両親が瞳だったら普通に生まれるからな。」おじさんがあきれている。
分かるその気持ち。
どうやら、この娘は瞳の力を知って使えるようになったのは最近らしいな。
そんなことを話している間に、おじさんの家に到着した。
「紗也君は、普通の目なんだね。うらやましい。」
本当にうらやましそうだ。
「普通の目、ていうだけで、見下げられるからあまり良くないですよ。」
「この一族に居れば層だけど、外に出てしまえば眼の一族に襲われることもないし」
そうなのかなぁ。
「もう、お父さんたら!
私が聞くまで、瞳の事を内緒にするつもりだったんでしょう?」
やっぱり、最近知ったらしい。
「出来れば、、教えたくなかったのになぁ。
能力さえ使わなければ、眼の一族に狙われることもないし。
普通の人と同じように生活できるから。」
おじさんは、あまり瞳が好きでは内容だ。
確かに、特異な能力は眠らせたままの方が安全だ。
親の心子知らずと言ったところか。
でも、ならどうやって瞳の事を知ったのだろう。
気になったことを聞いてみる。
「久子さんのお母さんは瞳なの?」
「いや、一般人だが…。」
「そっか。」
おかしい、久子が瞳の能力を発現するはずが無い。
久子さんの母親が瞳の能力者で発現しなければ可能性はあるか、
もしくは、瞳の亜種が近くに居る可能性がある。
厄介だ。帰りたくなってきた。
おじさんも、正しく情報を持っていない気がする。
「久子さんて、どうして瞳の事を知ったの?」
疑問は聞いてみるのが一番だ。
「先輩に教えて貰ったの。
本家の人で、ダブルキャリアなんだって。」
意外と近くに本家があるのか?
普通の目の僕には関係ないのだが…。
「そうなんだ。」
僕は、瞳の力は使えるけど正確には瞳じゃ無いらしい。
じゃあ、何なのさと聞いてみたけど答えてくれなかった。
そんなに複雑なのだろうか。
祖母と母についてだが、祖母は真性のダブルキャリアだが母はシングルキャリアであるがその能力は祖母に迫るらしい。
祖父が瞳では無いらしい。そうなると母は、瞳としてはシングルキャリアになる。
真性でダブルキャリアの祖母に迫るシングルキャリアの母って何者だろう。
あと、余談だが僕の父も瞳では無い。
姫塚家の一族の本家はダブルキャリアの瞳、もしくは真性の瞳で有ることが求められる。
しかしながら、祖母が居なくなれば家はどちらも条件を満たさなくなってしまう。
我が家は、本家じゃ無くなることが決定している。
大学を卒業する頃に、本家が変わる事になっている。
既に分家や次期本家では過去の人扱い。元本家と呼ばれる。
祖母が弁護士と分家を交えて、本家になりたいモノに資産の配分や権利などを問題無いように配分している。
ここでも、どろどろした戦いが分家同士であったようだ。
超田舎の故郷の家と、その山だけは貰える事になっている。
その他の資産は、分家や次の本家が根こそぎ持って行ってしまった。
どうしても本家を続けたければ、僕がダブルキャリアの嫁さんを貰えば良いのだけど。
そのつもりはないし、祖母も母も許しはしまい…。
今回の家が本家じゃ無くなるのは、祖母の前の代からの狙いだったみたいだし。
「そろそろ、先輩が来る時間だ!」
嫌な予感がする。
出来れば直ぐに逃げた方が良いだろう。
「ふーん、じゃあ、僕は外でも散歩してこようかな。」
「駄目!」
久子がそう言うと同時に、頭の中に久子の声で動くなと流れ込んでくる。
仕方が無いなと想う。
瞳の能力者は、自分の意思で相手に行動を強いることが出来るらしい。
僕は使ったことが無い。
訓練で祖母や母から受けた時は結構キツかった。
普通は格上の相手には逆らえないらしいけど。
僕は逆らえる。真性の祖母に対しても同じだった。
祖母と母には理由は分かっていたみたいだけど教えてくれなかった。
あと、瞳の能力者が行動を強制してきたら逆らわずに従ってあげなさいと言ってた。
それも限度はあるだろうけど…。
理由は何となく分かる。
上手く生きるためには必要だろうし、一族が長く続くと何処かによどみが出てきてもおかしくない。
そんな淀みには悪いモノが溜まってるかも知れない。
その場で、動けなくなったふりをする。
久子は何故か嬉しそうだ。
おじさんが此方をちらりとみて、おかしいなって顔をしている。
おじさんにはばれているかも知れない。
先輩の時には完璧にしておこう。
本当のことが解ると厄介だ。
ピンポーンとチャイムがなった。
久子が迎えに行く。
おじさんが話しかけてきた。
「本当は動けるんじゃ無いの?」
やばい。微動だにせずしらんふりを決め込む。
「久子はまだ瞳を使い始めて日が浅いから、紗也君の動きを完全に止めるのに時間が掛かっただけか。」
「・・・」
「真性やダブルキャリアならともかく、普通の目で逆らう事なんて出来ないよね。」
そう言い残しておじさんは部屋を出て行った。
「おまたせー。もう動いて良いよ。」
と久子が言うが強制が解除されたわけじゃ無い。
未だに、動くなという言葉が働き続けている。
「あれ、動いて良いよ~」
まだ、解けない。
「久子ったら、ちゃんと解いてあげないと可哀想だよ。」
と先輩と想われる人が言う。
「どうしよう、上手くいかない。」
仕方ないわねえと。
「動いていいよ」と先輩が言うと。
体に掛かっていた動くなと言う言葉が消える。
動くと同時に転ける。
大抵の場合、次の行動を取ろうとした反動で違う筋肉が動いて転けてしまうのだ。
「大丈夫、さあ、先輩に自己紹介して。」
「どうも、紗也です。よろしく。」
「で、あんた何しに来たの?」
「大学がこっちだから、下宿することになった。」
まあ、嘘をつく必要もないので言っておく。
「なんだ、そうなんだ。元本家の坊ちゃんだから
すごいのが来るのかと想ってたのに、拍子抜けだね。」
なんだか、笑われてる。
「そんな普通の目で、瞳の力も無いなんて本当に役立たずだこと。」
まあ、分家にはよく言われる。
別におまえらの役に立つための瞳では無い。
じーっと、目をのぞき込まれる。
「駄目ね、瞳にも出来そうに無いわね。
瞳に出来れば、駒として使えたかも知れないのに。あなたに興味はないわ。」
そう言って帰って行った。
先輩が部屋を出る際に僕に、今日の事は忘れろと強制をかけて帰って行った。
ラッキー、あのタイプの人間は嫌いなんだ。
下手に興味を持たれても迷惑だ。
一週間しないうちに、こっちの堪忍袋の緒が切れる。
久子が残念そうなモノを見る目で此方を見ていた。
取りあえず、自分の部屋へ案内して貰う。
母や祖母に言われたことは護ったし。
先輩も興味を無くしてくれたようだし。
久子が居なくなってから強制を解く。
「ダブルキャリアか…」
「痛い。」
一応強制を強制解除する。
頭痛とともに何かを焼き切る様な感覚が襲う。
母や、祖母の強制に比べたら全然頼りないし雑だった。
この二人の強制は解除に2~3日かかる。その間頭痛が酷い…。
祖母や母より大分、格下だな-。
今の本家の娘があれか、頼りない。
たぶん、他人に課掛かった強制も上手くすれば解けるだろう。
問題が起こりそうだからしないけど。
そんなこんなで、おじさんの家での下宿生活が始まった。
量産型黒歴史…。