第二章04.道しるべ
「まったく…君という主は…我の存在に気づかなかったのか?」
振り返り、元の夜叉の姿になった彼が私に言う。
「うるさいですね!!ちょっと、わからなかっただけです!!」
わからないどころか、私には知らない使い魔との何かがあるようだ…
「ふむ…一度、君の術の知識を知る必要があるようだな…」
呆れた風に、私を見て・・・はっ、心、読んでいますか!?
私がそう考えると、にやりと笑う夜叉…
やはり、心を読んでましたか、この野郎な感じです…
「そんなことよりも、夜叉、こんな所で変化なんかして、他の人に大丈夫なのですか!?」
私は周りの反応を、確認しながら、辺りを見るが…
「ジャンヌ…君は、本当に、周りが見えていない様だな…」
私以外は、皆…眠りについていた…
「あのような姿を、他のものに見られるといささか面倒でな・・・」
「確かに、そうですね~あんな女装をした姿を解けるのを、見られるのは恥ずかしいものね」
何か少し腹が立った私は、夜叉の態度から、皮肉を言う事にした。
「そういう事ではない!!ジャンヌ…此処でも魔女と呼ばれ、逃げ出したかったのか…」
うっ…そうでした・・・
「それにしても、私は貴方が魔術を使ったのは、初めて見ましたよ、魔力の減りも感じませんでしたし…」
誤魔化すことにしよう
「ふむ?この程度は、術とは言わないぞ?」
ちょっとした沈黙・・・
「えっ?だって、変化に、眠りの術に…」
「ジャンヌ…君は、我の存在を、どういったものか理解できているのか?」
「使い魔でしょう?」母と契約し、私と仮契約した…
「そうだ、我は、今は使い魔だ、使われる魔である、つまり、人の姿をしていても、
人ではない、魔なのだよ」
一息ついて、夜叉が再び話し出す、
「使い魔とは、魔術師と契約を交わした物の存在の事を言う、つまり、魔の使いと考えるものなのだよ、それは、鳥や猫などに多く見られる」
あれ?この説明だと、私の求める答えとは、違う
「しかし、我のような使い魔は、これとは少し違うのだ、我は、使い魔以前に魔神、悪魔なのだ、つまり、契約に縛られた異世界の物と考えるべきだろう、此処まで理解できたか?」
「・・・・」
どう答えれば良いのか、わからなかった・・・
「わかってないようだな…つまりだ、我ら魔は、別の次元の存在で人の姿をしているが、
力はまったくの別次元と考えて欲しい」
「つまり、さっきの変化も、眠りの術も・・・私たち人が、物を投げたり、飛んだり出来るのと、同じレベルの動作ってことなのですか?」
「そういうことだ、我は説明が苦手だから、上手く伝わるか悩みものだったが、何とかなったようだ。」
安心している夜叉をよそに、どうして、母が夜叉と契約出来たのか疑問に思った・・・
別次元の存在と…
「それより、何であの時、我が裏切ったなどと言うデマを信じるんだ…君は…」
あきらかに、信じられんという気持ちで、私を見ている…
「だって…いくら簡単な力でも…無防備でくらってしまったら…ほら、貴方だって…
青い顔していたし…」自分を庇ってくれた時に、確かに青い顔をしていたから…
「あのときは、君を裏切ったなんて、君のお母さんに思われたら…どんな罰を受けるか…
恐怖していたのだ…」
お母さん…夜叉に何をしていたの…
「それは、聞かないでくれ…我の名誉に関わる・・・」
また心を読まれた・・・
「あれ?確か夜叉が、化けていた人…あの家の娘って…」
「ジャンヌ、あの時、君の言葉に信憑性を持たせる為に、我が手を上げたのだ。
それにあの家の娘なら、既に我が送り届けた」
「そうなのですか…で、夜叉…一つ聞きたいのですが…」
私は、笑顔で夜叉に尋ねる…
「なんだ、さっきから、何度も質問しているのに、急に改まって・・・」
私の笑顔に、なぜか怯えるように後ろに行く夜叉…
「いつから、いたのです?」
笑顔で前進
「えっ…と…いつからだったかな…」
怯えながら後退
「私が目覚めた時には既にいたでしょう?」
前進
「いや、その、なんだ・・・」
後退
「女の人がたくさんいて、さぞかし、出たくなかったのかしら?」
前進
「なっ、きっ君は、なっ何か勘違いをしている!!我がそんな事をすると…」
壁に追い詰められる…
「じゃあ…なんで?」
壁へ追い詰める
「こいつらを捕まえれば、軍にはいる事が出来るかもしれないと思って、様子を見ていた」
夜叉の言葉に、私は、ぽんと手を叩く
「確かに、軍の名を借りた人攫いを軍に差し出せば、行けるわね」
「そうだろう、そうだろう、まったく、我を疑うのは、よしてく…」
「ええ、そうね~悪かったわ、それで聞くけど、怯えた可愛い子の顔どうだった?」
「それは、可愛かっ・・・今の無しだ!!」
「え~そう…やっぱり、それがね~」
私は拳を振り上げ、夜叉の頭へ振り下ろした!!
「で…これからどうするの?」
私は拳についた血を拭きながら夜叉に尋ねた。
人攫いを軍に渡しての作戦は良いと思ったけど、あの折れ曲がった鉄格子と、死体を前に、どうやって助けたのかと聞かれると考えた私は、答える自身が無かった。
魔術で助けたなんて言ったら、即魔女裁判にでも送られるかもしれない…
だから、鉄格子を壊した夜叉を殴りながら逃げる事にしたのだ…
途中、夜叉が理不尽だとか、言っていたけど、はっきり言って、そんなの関係ない!!
だから、私は、今も夜叉に質問しているのだ。
「ふむ…我が…調べた情報で…シャルルと言う王太子がいる」
「それが…どうしたのよ?」その王太子が居たから、何だというのでしょうね
「ジャンヌ…話の途中で口を出すのは、止めたほうがいいぞ」
もう見慣れた呆れ顔を見ながら、私はそっぽをむく。
「このシャルルと言う人物は、本来フランスの王となる人間だったが、
イングランドのヘンリー6世に相続されたが、まだヘンリーは幼い為に、フランスのランスでフランス王としての正式な戴冠式を行なえずにいる」
「つまり、王太子に力を貸して、王位につければいいのね?」
「そういう事だ、どの為の案としては、ボードクルという者を説得しなければならない…」
「あ…確か…私がこの国に来た時に、仕官しようとして、追い返した男ね…」
私に実力がないと言い、追い返した男の事を思い出した…
確かに、こんなにあっさり捕まる程度の実力じゃ…どうしようもないのは、わかるけど…
「力が無いのは仕方が無い事だ、だが、ジャンヌ…君には力がある」
「なら…なんで…私は…駄目なの…」慰めのつもりで言う、夜叉に私は言う…
「力と経験は別物だ、君には力は、あれど…経験が無い…だから、君には実力が無いのだ」
「じゃあ、どうしたらいいのよ…」
「経験は、無ければ積めば良い、どの道、君には、力を鍛える必要があるのだからな」
そんな当たり前のことを、夜叉は言う
「…そうよね…無かったら、経験していけば良いだけよね」
少し自信を取り戻した…
「そうだ、君は強くなる…我が鍛える故に、安心したまえ」
夜叉の力強い言葉に、私は頷いた…
まだ、私の旅は、始まったばかりだ…
次回
異端ジャンヌ・ダルク第3章
「オルレアンの聖女」
魔女は……母の為に聖女へとなる