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お誘い

一方の晴夏も、いつになく女らしい素振りで自分を誘ってくる奏都にモヤモヤにしていた。

そのせいで、問いかける口調が少し厳しくなる。


「あれじゃないけど…何?」


晴夏の口から出た言葉が思いのほか冷たく響く。

しまったと思う晴夏だったが、奏都は晴夏を引き止めるのに必死なのか気にした様子はない。


「…えーと…そう!お茶!」

「は?」

「お茶飲んで行かない!?」

「お茶…」


下手な言い訳を使ってまで、必死に引き止めてくる奏都に、なにかあるのかとさえ思う。

しかし、何かを隠している様子でもなく、ただもう少し一緒にいたいという感情しか感じ取れない。

その感情には、親愛だけではなく、ほんのりと甘い何かが含まれているように…思えた。

そんなものは気のせいに違いないと思いながらも、心のどこかで期待をしてしまう自分が情けない。

そして、そんな気持ちにさせる奏都が憎らしかった。


「どう…かな?」


何とも、無防備なことである。今日も大学で無防備さを叱りつけたところだというのに、まだわかっていないのかと。

晴夏は、呆れたように告げる。


「それ、送ってくれた男に誰彼かまわず言うなよ?」

「なにそれ。男の子に送ってもらうことなんてないよ?」

「…これからの話だよ。」

「えー…、これからもないと思うけど…。」

「へぇ?恋人作るって張り切ってたくせに?」

「あ…。」


晴夏に言われて、初めて気づいたというように、声を漏らした奏都。

それを見て、晴夏は呆れ顔を、さらに深くする。


「本当…危なっかしい…。」

「ご、めん…。」

「…俺にだけだったらいいけど。」

「え?」

「……なんでもない。…俺はカナにとって無害なオカマ立ち位置なんだもんな。」


自嘲気味な笑みを浮かべる晴夏に、奏都はどう声をかけていいのかわからなくなった。

しかし、一つだけ浮かんだ言葉があったので、それを素直に口に出す。


「…今日はなんか、普通の男の人みたいだけどね。」

「馬鹿。普通の男の人であってるんだよ。」


奏都の頭頂部に軽いチョップを食らわせ、笑みの種類を苦笑へと変えて、晴夏はそう言った。




「……で!どうする!?お茶、飲んでいかない?」


様子のおかしい晴夏に、奏都の中のまだ帰ってほしくないという気持ちは高まった。



「…………。」


なかなか返事を返さない晴夏に、奏都は不安になる。

自分と長時間一緒にいるのは嫌なのだろうか…とか。

この変な空気も、だめだめな自分に嫌気が差してのことかもしれない…とか。

今日の買い物も嫌々付き合ってくれたのだろうか…とか。


本当に嫌ならば、洋服代を出すわけもないのだが…そこには気づかないのが奏都である。


「はぁ…。わかった。…じゃあ、ちょっとだけ寄らせてもらう。」


やっと返された答えは、誘いを受けるというものだった。

しかし、しぶしぶ受けてくれたということがよくわかる、そういう口調だったので、奏都は苦しくなる。


「…無理してる?」

「……してる。」

「っ…。」

「…嘘。無理なんて、してない。意地悪言って、ごめん。」



晴夏は、優しく奏都の頬を撫でる。


「ごめんな。」


もう一度、囁くように告げられた謝罪の言葉。


「ううん。」

「カナ、早く部屋入ろ。俺、紅茶派だけど、カナの家に紅茶なんてあるかな?」


気まずくなってしまった空気を吹き飛ばすための、晴夏のからかうような口調。

奏都もそれに乗って、おどけたように返す。


「ふふん、カナさん特製紅茶を飲んだら他で紅茶飲めなくなるよ?」

「それはまた大きく出たな。期待していい?」

「存分に期待しなさい?…行こ!」

「おう」

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