攻防戦
18時を過ぎてしまってすみません。遅刻しましたが、投稿させていただきます。どうか楽しんでいただけますように。
二人は、買い物からの帰路にいた。
女性物の服が数着入った紙袋は、晴夏の手に握られ、揺れている。
そして、肝心の奏都の手には……なぜか財布と現金が握られていた。
「いやいや、本当だめだってハル!私、ちゃんとお金持って来てるから!」
「そういうのじゃなくてさ…。うーん、普通に、俺からのプレゼントだって思えない?」
「プレゼントにしたって、別に私の誕生日でもないんだし…貰えるわけないでしょ?」
「でももう払っちゃったから。ていうか、財布と金早くしまって。…なんていうか…すごい絵面が悪い。」
高身長の男が、必死そうな美少女に、お金を渡されている光景は、なかなか人目を惹く。
道行く人が、何かの揉め事だと勘違いし、通報する可能性も否定しきれない。
こんなことで警察を呼ばれてたまるかと思った晴夏の心からのお願いだったのだが、それを聞いた奏都は、真っ赤になって声をあげる。
「だからー!早く!これ!受け取ってって!言ってるじゃんか!」
自分だって、財布片手に口論なんてしたくないのに、といった様子だ。
「やだ。受け取りたくない、受け取る気がない。…だからさ、そろそろ諦めてよ。」
しかし、晴夏も意見を曲げる様子はない。
「もー!ハルってば今日は変だよ!?なんでそんな頑固になっちゃったの!?喋り方変わったから!?」
「俺は前からこうだけど?喋り方が違うだけだって。」
確かにそうだった。
なんといっても、初対面の相手に対して、身だしなみのダメ出しをするような人間である。
押しが強く、流されないタイプなのは、友達付き合いを始めた当初からわかりきっていたことだ。
そして、奏都は、晴夏のそういう性格を理解した上で大切な友人として接してきたのだ。
「俺が押し強いタイプなのは前から知ってたろ?それとも何…?カナは、喋り方変わっただけで、俺のこと嫌いになっちゃった?」
「そ、んなわけないけど…」
「けど?」
そんな言い方はズルいと、奏都は思った。一瞬、自分が間違った主張をしているのかとさえ思った。
しかし、すぐに我に返ることに成功する。
そして、誤魔化されそうになったことを誤魔化すような早口で、再度反論を開始した。
「って、それと服のお金を出してもらうのとは関係ないよ!」
「あれ?カナのくせによく気付いたな…。」
失礼な物言いも、怒らせて気を逸らせようという魂胆に違いない。
そう感じた奏都は、『カナのくせに』には目を瞑って、言葉を続けることにした。
「普通に気付くよ!誤魔化そうったってそうは…」
「あ、着いた。」
「へ?」
しかし、晴夏の一言によってすぐに中断させられた。
晴夏を説得しようと必死だった奏都は気づかなかったが、いつのまにか、奏都の住むアパートまで帰ってきていたようだ。
「ここだろ?カナの家」
「え、あ…うん…そう、だね。」
完全にペースを乱された奏都は、先ほどまでの勢いを忘れて、素直に返事をする。
「部屋の中に入るまで気抜かずに帰ってな。あと、はい、これが服。」
「ありがと…。」
「じゃあ、また明日。」
そう言うと、奏都がエントランスを抜けるのを見送ろうというのか、軽く手を振って帰宅を促す晴夏。
「ちょっ…ハル、ここで?もう帰るの…?」
「ん?うん。帰るつもりだけど。」
「そんな急いで帰らなくてもいいんじゃない?かな?」
「…それ、カナの家に寄っていけって言ってる?」
「いけって、そんな命令みたいなあれじゃないけど…」
奏都は、もじもじとしながら、遠慮がちに引き止める。
なぜか、まだ晴夏に帰ってほしくないと思ったのだ。そう、もう少しでいいから傍にいて欲しいと。
いつからか、晴夏と話す時に感じるようになったモヤモヤが、また自分の気持ちを覆っていくのを感じていた。