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無自覚

拙作をお読みくださり、誠にありがとうございます。今回は謝罪がありまして、前書きを置かせていただいております。

実は、この「無自覚」、本来第五話として用意したものでして、第四話の「お説教」の次に読んでいただかないと意味の通らないものでした。私の操作ミスで「お説教」が削除されており、お読みくださった皆様にご迷惑をおかけいたしましたことをお詫び申し上げます。

先ほど最新の二話を再投稿いたしました。大変お手数をおかけいたしますが、読み直しをお願いいたします。

毎日投稿から奇数日投稿に変更はいたしましたが、必ず完結まで持って行きたいと思っておりますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

「でもさー、やっぱりさー。今すぐ、ハルみたいなセンスを身に着けろ…っていうのは無理だよ。」

「あんたはまぁたそんなこと言って…。あたしだって大したことないわよ?」

「嘘だー。みんな言ってたよ。ハルのことおしゃれでかっこいいーって。」

「………。」

「なっちゃんに、さーやでしょ?かおりんも言ってたし…あとはね、のんちゃんと…」


次々と挙げられていく名前だが、正直、晴夏が知らない名前もいくつかあった。

おそらく、奏都の友人だと思われる名前。それがいつまでもつらつらと並べられて…。

なんとも言えないむず痒い気持ちになった晴夏は、無理やり奏都の話を中断させることにした。


「あー……わかった!…わかったわ。そんな風に言って貰えるなんて、ありがたいことだわ本当。」

「…ん?…あれ?ハルってば、照れてる?」

「馬鹿言ってんじゃないわよ。」

「あははー、やっぱり照れてるー。」

「あーもー、うるさいわねぇー…余計なこというのはぁー…この口かしらぁー!?」

「ぐむっ!?やめへっはら」


先ほどまで、自分が優位に立って、懇々と説教していたはずなのに…。

それなのに、なぜ…説教を受けていた奏都に、説教をしていた自分がからかわれる事態になっているのか。

晴夏は解せなかった。解せなかったので、頬を片手で挟んで、喋りにくくしてやる。

ささやかな…所謂八つ当たりというやつである。


慌てて抵抗する奏都の顔は、少々赤い…ような気もする。

なぜなら、オネエ口調で話す晴夏だが、外見は正統派のイケメンなわけで…。

つまり、奏都の頬を掴む手も、当然男性のそれなわけで…。

程よく骨ばった手。自分よりも間接と間接の幅が広く大きな…男の人の手。


入学式で知り合ってから今までで、晴夏がスキンシップの多い性質であることは十分理解していたはずだった。

それなのに、なぜか妙に気恥ずかしさを覚える自分を不思議に思う奏都。

素手でファンデーションを顔に馴染ませてもらったこともあったし、頭を撫でられることなんかは日常茶飯事だ。

にもかかわらず、だ。以前はなんとも思わなかったさり気ない触れ合いに、妙にむずむずする気持ちが付きものになりつつあることを、奏都は感じていた。


「ていうかまぁ…そうね。うちは、ちょっと特殊だから。」


しかし、そんな奏都の原因不明のモヤモヤなど、晴夏には知り得ないことである。

当然のように会話は続いた。


「ん?とくひゅ?」


そして、奏都は…いとも簡単に答えの見つからないモヤモヤを忘れた。

単純で素直な性格は、奏都の長所なのである。そして、同時に短所でもあるところが曲者だと言える。


「ま、家庭環境よ。親の職業的な意味で、ちょっとずるいかもしれないわねー。」

「ん?」

「んーん、いいのよ。別に知らなくて。大したことじゃないわ。」


晴夏はそう言うと、この話はもう終わりだというように微笑んだ。

そして、「意地悪したわね。ごめんなさい?」という言葉と共に、奏都の頬を挟んでいた手もそっと外される。


色んな意味で、モヤモヤが復活した奏都は、この釈然としない気持ちを伝えてみようと口を開く。


「あの、」

「で、あんたは自分に似合う服を理解してなさすぎるわ。」

「…え?あ……はい。」


そして、遮られた。思いがけず、お説教タイムアゲイン、である。


「あんたは自覚があるんだかないんだかわかんないけど!清楚系の可愛い顔してんのよ。わかる?そんな子がこんなぺらんぺらんの安っぽい布巻き付けただけの恰好してみなさいな。勿体ないのよ、勿 体 な い!」

「は、はぁ…。」


褒められているのか叱られているのかよくわからない状況に、奏都はどう反応していいやらわからない。

しかし、奏都の心情など知ったことかと言わんばかりに、晴夏は止まらない。主に、口が止まらない。


「自分の質を自分で落としてたら世話ないでしょう。持ってる武器を正しく使いなさい。」

「え、と…あ…ぶ、武器…ですか。」


もはや、奏都からかろうじてこぼれ出る言葉は、入学式の日以来の敬語である。


「あんたにミッションを課すわ。服を買うのよ。もちろんジャージ以外のね!!」


がしっと力強く、肩を鷲掴まれる。

正直、尋常ではない晴夏の剣幕が恐ろしくてならない奏都だったが、肩を揺さぶって返事を催促されれば答える他ない。

…もちろん「是」と。


「そうね…無難にワンピースにしなさい。レトロ系の花柄がいいわ。若干ぶってるかな?くらいの方があんたには合うから。」

「ええっ、花柄!?ですか!?え、それは…可愛すぎませんかね!?」

「そういう顔してんのよあんた。」

「花柄顔…?…ですか?」

「ざっくり言うと童顔ね。」

「えー…。」


モテる女を目指すことにした奏都は、大人の女に憧れている。

こんなにも真正面から童顔と評されるのは、いささか不本意だと言えた。


「白いワンピースに、日傘とか持たされたくないなら…言う事聞きなさい?」

「わかりました。花柄ワンピース買ってみます。」


しかし、力関係は揺るぎようがなかった。


「レースは、少しくらい付いててもいいけど、ぶりぶりはやめておきなさいね。あくまで路線は清楚系よ。」


せめてもの抵抗と思ったのか、敬語はやめて元の話し方に戻る奏都。

もちろん、そのことを晴夏が咎めるわけもなく、そのまま会話は続行される。


「…ちなみに、ぶりぶりと清楚系って何が違うの…?」

「あー………そうね、あんたにそこの見分けは難しいわよね。ごめんなさいね。」

「…ねぇ、ハル。今、ちょっと馬鹿にしたでしょ?」

「…気のせいよ。」


じとっと晴夏を見つめる奏都と、涼しげな顔で小首を傾げる晴夏。しばらく見つめ合う二人。

…予感がした。また変なモヤモヤがやってくる前に、と奏都は再び口を開く。


「…ハル。」

「なあに?」

「付いてきて。今日、大学終わったら買いに行きたいの。」


何を力んでいるのやら、握りこぶしを握っての、力強いお誘いである。


「…ええ。いいけど…。でも、その前に着替えなさいね。ていうか…ああ、いいわ。今からあんたの家行って、着替えてから買い物行くわよ。どうせ、今からじゃ完全に遅刻だしね。」

「え、ハルってば、講義サボる気!?」

「どっちみちあんたはその恰好じゃ受けられないでしょうが。」

「あ、そっか…。いや、でもハルまで付き合わせるのは悪いし…。」


後ろめたいのか、声が小さくなる奏都を、呆れたように見つめる晴夏。

晴夏のシャツを羽織っているとはいえ、奏都は胸元も足元も肩も背中も露出し放題の恰好のままなのである。

晴夏は、今の奏都を、このまま一人で帰らせる気にはなれなかった。


「いいから。…あたしが付いてればちょっとは虫よけになるでしょうし。」

「え?」

「いいから。さっさと行くわよ。あと、ほら…シャツ、ちゃんと前留めなさい。」

「待って!…ハル、いままで講義サボったことなんかないのに…私のせいで、ごめんね…。」

「はぁ…、く ど い !」

「う…」


自分の浅慮な行動で、大切な友人である晴夏を怒らせてしまったばかりか、講義までサボらせてしまったということが、奏都には申し訳なくて仕方がない。

けれど、晴夏自身は謝罪など求めておらず、早く奏都を着替えさせたいだけの様子である。

これ以上、謝るのは自己満足でしかないのかもしれないと、奏都はそっと口を噤んだ。


「…はぁ。私の出席の心配するより、買い物に行くための服の心配しなさいよ。まさか、ジャージで行く気じゃないわよね?」

「え、あ!そっか…そうだよね…?ジャージはダメ…えーっと…き、着るものあるかな…。」

「そんなことだと思った。…ふっ、最悪高校時代の制服出してきなさいよ。あんたならコスプレに見えないから。」

「……入学式の時に着たスーツにするよ…。」


ふてくされたようにしてそう返す奏都に、晴夏は横顔で微笑んでみせる。

その顔を見た途端、奏都は、また自分の顔が熱を持ったように感じた。

でも、なんとなく…それを晴夏に悟られてはいけないような。知られてしまうのが怖いような…。

そんな気がしたので、晴夏の視線を逃れるようにして、慌てて下を向く。


「ん?なあに?今になって、その恰好が恥ずかしくなったのかしら?おててでも繋ぐ?」

「繋がない…。」

「あら、本当にいいの?多分、虫よけ効果がアップするわよ?」

「…この恰好より、手を繋ぐ方が恥ずかしいから…いい。」

「ふーん…そう?」


下を向きっぱなしで答えた奏都だったが、耳に落とされる晴夏の声が、いつになく甘さを含んでいるような気がした。

そう思っただけで、なぜだか余計に、顔を挙げられなくなったのだった―……。

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