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お弁当2


不安で膨れ上がっていた奏都の胸の内が、隙間なく喜びで満たされていく。

晴夏に認められたことが、こんなにも嬉しいなんて。

美味しい、すごい、疑ってごめんなさい。

欲しかった言葉が次々に与えられて、もうどうしていいやらである。


「へ、へへ…」


漏れ出る笑みは、どこか間抜けだ。


「なぁに?しまりのない顔して。」

「へへ、えへへ…どうしよ…すごい嬉しい…」


しかし、幸せそうだ。


「んー?」

「なんか…なんかね、ハルに褒めてもらえると、すごい嬉しいんだよ。なんていうんだろ…ドキドキする!他の誰に褒められるより、ずっと!」


理由などわからない。けれど、奏都にとって、晴夏は特別。

それだけは、奏都自身の中で決定事項となった。


「なんだか親に褒められた小学生みたいね?」


自分に褒められて、全身で嬉しさを表現してくる奏都は、たまらなく可愛い。

もとから美少女なのに、笑顔は凶器だ。

照れているなんてばれたくないと、皮肉めいた言い回しでからかい、ごまかす。


「へへ!ママー!」


からかいさえも、構ってもらえた喜びに変えて、二人の間には甘酸っぱい雰囲気が流れている。

ただし、当人らは無自覚であるし、周囲に人がいない以上、誰も気づいてはいないのだが。


「誰がママよ!性別無視しないでよね!パパもお断りだけど!」

「あー、ハルがママだと、夜の蝶って感じになるね?」

「…あんた、それ意味わからずに言ってるでしょ…。」

「ばれた?」

「やっぱり…。まったくもう。感覚だけで物言うのやめなさいよねぇ。」

「はーい。へへ。」

「…続き、食べてもいい?」

「どーぞ!召し上がれ!」


晴夏が、黙って、けれど微笑みながら、自分の料理を食べ進めていく様子を見守る奏都。

いい頃合いで、水筒に入れてきたお茶を注いで、晴夏に渡す。


「ありがと。」

「どういたしまして!あのねぇ、このそぼろご飯の味付けはお母さん直伝なんだよ。すごい自信作なんだー!」


どうやら、奏都の料理好きは母の影響であるらしい。

誇らしげにそう告げる奏都は、大好きなお母さんを自慢する小学生のようだ。

この素直な幼さが、彼女の魅力の一つと言える。

晴夏もそう思ったのか、さりげない手つきで優しく奏都の髪の毛を梳くようにして頭をを撫でてみせた。


「そうなのね。本当、すごく美味しい。お母様もお料理上手なのねー。」

「うん!私の師匠だよ。お母さんは私と違って女子力高いからね。家事万能だし、おしゃれさんだし。」

「ふうん?じゃあ、カナは、お父様に似たの?」

「うーん、隔世遺伝だって良く言われる。おばあちゃんに似てるんだって私。おばあちゃんが私みたいな感じだったから、お母さんは反面教師ちっくに女子力高めたとかって聞いたよ。」


反面教師とはひどい言い草だが、言いたいことは…まぁわかる。


「なるほどねぇ…。それで、娘にも女子力を…って思ってはみたものの、引き継いでくれたのは料理上手のみで、おしゃれ方面には無関心だったってわけか。」

「うん、お母さんかなり悔しがってる。一緒にショッピングとか夢だったんだって。」

「お察しするわ…。折角、こんなに可愛く産んだのに宝の持ち腐れされたらそりゃ悔しいわよね…。」


いつかと同じ台詞を呟く晴夏。

手は、妖しげに奏都の頬を滑る。


「ハ、ハル…?」


甘酸っぱかった空気には気づかなかった奏都だが、この空気の変化には気づいたらしい。

そろりと晴夏へと呼びかける。


「あら、ごめんなさい?」


晴夏自身も無意識だったらしく、名を呼ばれると少し驚いたような顔をしてから、何事もなかったかのように食事を再開させた。


「ていうか…カナ、あんたもご飯食べなさいな。あたしの世話焼いてくれるのもいいけど、ここ講堂から離れてるから食べる時間なくなるわよ?」


そして、晴夏が食べているのを傍で見ているだけだった奏都を、軽く急かす。

奏都も、晴夏が食べているお弁当より一回り小さなお弁当箱を広げていたのだが、晴夏にばかり気が向いて、全然食べ進めていなかったのだ。


「あ!そうだった…!」


時間のシビアさを指摘されて、露骨に焦り出した奏都を見て、嫌な予感がする晴夏。


「…言われなくてもわかってるとは思うけど、詰まらせないようにね。」


そして、案の定…


「…っ!!?」


こうなった。


「ああもう…。言わんこっちゃないんだから…。こんな漫画みたいなお約束展開してんじゃないわよ。ほら、お茶飲んで。」

「ご、ごめん。ありがと…。」


気まずげな奏都を見つめる晴香の目は呆れを大いに含んでいる。

しかし、それ以上に甘いものが含まれていて、どこまでも優しい。


「…本当、目が離せないんだから。あたしがいないとダメダメね?」

「ママ―!」

「だからママはやめなさいって言ってるでしょうが!」


柔らかな雰囲気は霧散して、いつもの騒がしさが戻ってくる。

それでも、二人の距離がいつもより近くなったような…もとからこの距離だったような。





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