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お弁当1

しばらくお休みいただいてしまい、申し訳ありませんでした。新生活始まり、ややバタバタしております。更新滞る際は、活動報告でご連絡しておりますのでよろしければご確認くださいませ。

「うーん…料理出来るって、本当だったのねぇ…。」


色とりどりの具材が詰められたお弁当を前に、晴夏はそう呟いた。


大学の昼休み。

晴夏と奏都は、二人横並びになってベンチに座っていた。


周りに人がいないのは、晴夏がそういう場所を選んでいるからだ。

所謂穴場スポットというやつで、基本的に人気はない。

かといって薄暗いわけでも、汚いわけでもなく、ただ落ち着いた静かな空間である。


最近分かったことだが、晴夏が男口調になると、奏都は怯えたり、変に気を遣いだす。

出会いが出会いだっただけに、本来あるべき姿、つまりは晴夏の正式な性別という意味だが…それを見失っているのかもしれない。

複雑な思いもあるし、早いところ誤解を解いてしまいたいような思いももちろんある。

しかし、急激に男の一面を押し出し過ぎて、今の距離感が崩れてしまうことは避けたい。晴夏は、慎重になっていた。

とにかく、奏都に居心地の悪い思いをさせるくらいなら、常に周囲に気を配り口調を使い分ける方が良いと、判断したのだった。


そして、晴夏のそんな心中など知らぬ奏都は、恨めしそうに晴夏を見やる。


「ふうん…やっぱり疑ってたんだ…。」

「え?あら、いやだ。ほほほ。」

「そんなマダムみたいな笑い方しても誤魔化されないんだからね!」


先日、奏都が、料理を趣味としているという衝撃的事実が判明した。

女子力など胎内に残してきたわと言わんばかりの奏都の趣味が、料理。

イメージ、レッテル。恐ろしいものである。

普段が普段なのだ。晴夏がほんのりと疑惑の念を残していても責められないだろう。


しかしながら、疑われることは決して気分の良いものではないわけで。

当然のことながら、信じてもらえていないらしいことに不満を持った奏都が、「じゃあお弁当作ってくるからハル食べてよ!」と言い放ったのが、今日の逢瀬の理由である。

そして今、晴夏の目の前には、奏都のお手製であるというお弁当がある。


定番の玉子焼き、家庭的な一面が垣間見えるいんげんの和え物に、肉じゃが。

不器用な彼女にしては、可愛らしく飾り切りされたカニさん型のウインナー。

そして、三色のそぼろご飯。


けちのつけようもなく、美味しそうだった。



「どう?どう?これでもまだ疑うのかなー?ハルさんはー?」

「…や、やぁねぇ。そんな顔しないでよ。怒っちゃやーよ。」

「怒ってないし!私はただ…拗ねてるんだよ!ハルが私の言う事疑うから!……紅茶、美味しいって言ってくれたのに。」

「あら、疑ってたわけじゃないわよ。人聞き悪いわねぇ。ただ、信じきれなかっただけよ。」

「なぁーんだ!そっかぁ!ならいい…ってそれ結局疑ってるから!!」


ノリツッコミではない。

単純に一瞬口車に乗せられかけただけである。


「あーもう、はいはい。そんな大きな声出さなくても聞こえてるわよ。大丈夫。今、この瞬間に信じました。」

「……なら、いいけど…。ど、どうせなら食べて驚いてから信じるといいよ。」

「それもそうね。じゃ、遠慮なくいただくわ。」


女性的な口調には見合わない大きな男らしい手を合わせ、「いただきます」と言う晴夏。

「召し上がれ」と奏都が返したのを聞くと、美しい箸使いで肉じゃがを挟むと口に放り込んだ。


もぐもぐと咀嚼する音。

決して大きな音を立てているわけでもないのに、周りに人気がないせいか、晴夏が食事をする音が確かに聞こえる。


料理は得意だ。味見もした。

心配する必要などないはずなのに、自分の心臓がいつもよりも騒がしい。


心臓音と咀嚼音。

前者の方が、早いペースで鳴っていることからも、緊張していることがわかる。


(晴夏に褒めてもらいたい)


そう思っている自分の気持ちは、決してやましいものではないはずだ。

それなのに、そう思っていることがたまらなく恥ずかしい。

自分の料理は、晴夏に受け入れられたのか…。

結果を知りたいような、知りたくないような。


奏都は、恐る恐る口を開く。


「あのー…お味は…いかがでしょ…?」

「………。」


勇気を出して、感想を尋ねたのに、奏都の反応はない。


「あ、えと…その…。」

「…………。」


目は確かに合っているし、聞こえているはずなのに、なんにも言ってくれないその意味とは。

自分では上手く出来たつもりでいた料理だが、晴夏の口には合わなかったのだろうか。

一瞬のうちに、奏都の胸は、不安で膨れ上がり、その不安を打ち消すように饒舌になる。


「に……に、肉じゃが!!」


思いがけず大きく声が響く。


「その肉じゃがね!えーと、あれだよ!ちょっと甘くしすぎたかも!?普段はもっと上手に作れるんだよ!?今日はたまたま!本当たまたま失敗しちゃって、」


口からこぼれ落ちるのは言い訳。

精一杯の保険がけだ。


人から否定されることは辛いし、悔しい。それは当然のことだ。

しかし、今のこの気持ちはなんだろうか。

「人」から否定されることと、「ハル」から否定されること、奏都にとっては大きな違いがあるように思えた。

何が違うのかは、まだわからないけれど…。


「また今度!美味しく作れた時に持ってくるからさ!今回のはノーカウントってことで一つ…!ね!?」


否定されたくない。

褒めてほしい。

笑いかけてほしい。

他の誰でもない、晴夏に。


「だから…その…」

「美味しいじゃない。」


臆病な心が、奏都を多弁にする。

そして、それにブレーキをかけるのは、晴夏の一言だ。


「ですよね!料理好きと料理上手は違いますよね!すみません!…って、え?」

「…テンパりすぎ。普通に美味しいわよ。」

「え…ええ!?じゃあなんでずっと黙っ…美味しくなかったからじゃ…。」

「なに早とちりしてくれちゃってんのよ。口の中に料理入ってる状態で喋りたくなかっただけ。見苦しいでしょ?」

「へ…?」


しれっと、褒め言葉を口にする晴夏に、奏都の脳内は大混乱だった。

気分が上がっては落ちて、また上がって。さながら、ジェットコースターである。


「それなのにあんた…見るからに焦っちゃって。お馬鹿ねぇ。これが失敗ですって?冗談でしょ?めちゃくちゃ美味しいわよ。」


惜しみない褒め言葉は、さらに続く。


「ほ、本当?」

「嘘ついてどうすんのよ。本当に決まってるでしょ?……疑っててごめんなさいね。ハル、あんたすごいわ。」



次回更新は19日(金)18:00です。既に予約投稿が完了しておりますので、こちらは確定事項です。

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