飴と鞭
「はい、お待たせー。」
「ありがとう。あれ?カナのそれは?なんか、俺のとは色が違う気がする。」
「ん?あぁ、私の分はチャイにしたの!最近ちょっとはまってて。」
「へぇ?結構、飲み物には凝るタイプなんだな」
「うん。なんていうか、興味が出たら一気に凝り始めるタイプかも。」
「…つまり、服とか髪型には、今まで一切興味がなかったと。」
「……あー…うん、そういうことになるかな。」
気まずそうに、視線を逸らす奏都。
それを見て、晴夏は紅茶を吹き冷ましながら、言葉を続ける。
追い打ちである。
「あと、インテリアも。あんまり興味ない?」
「えー…あー…うん…。その…キッチンはこだわったけど、部屋は寝られればいいっていうか…?ご飯食べるためのテーブルがあればそれで…。」
「偏りすぎだろ。」
「だって、可愛い小物とか全然興味ないし…。」
自分に不利な流れになったと感じたのか、奏都は居心地悪そうにふいと視線を逸らす。
そして、三角座りの角度を鋭利に…つまりぎゅっと身を縮こまらせて、膝頭に顔を埋めてみせる。
「…ごめん。」
「なんで?別に謝ることじゃないだろ。確かに物はまぁ少ないけど、部屋はちゃんと綺麗にしてる。えらいんじゃないか?」
「本当?」
どうやら叱られるわけではないらしい。
そっと顔をあげ、晴夏の表情をじっと伺う。
「あぁ。それに、一度興味持つと一気にこだわるんだろ?なら、将来有望だ。」
なんと叱られるどころか、なんとなく褒められているに近いニュアンスすら感じ取れる。
奏都の気持ちは、急上昇した。
「え、そう?そう思う!?」
「うん。そう思う。それに…ほら、今日の買い物をきっかけに、ちょっとは服とかにも興味が出てくるかもだしな。」
これが飴と鞭というものなのだろうか。
すっかり奏都はご機嫌。さっそく服やインテリアに関わることに対して前向きな気持ちを抱き始めている。
「そっか。…うん、そうだね!少しずつ興味持ってみるよ!」
溌剌とした笑顔で、元気よく返事を返した奏都。
素直な奏都に癒されたのか、ただ単につられたのか、晴夏も自然な微笑みをふんわりと浮かべてみせた。
そして、おもむろに紅茶を一口すすると…。
「…ん。ん?」
形の良い眉がピクリと動く。
「あら、美味しい…本当だったのね。紅茶淹れるのが上手って。正直ちょっと疑ってたわ。」
「美味しい?良かったぁーハルの口に合って…って、ええ!?も、戻った!?ハル!?も、ももも戻った!!!」




