扇の的を自分的に書いてみた
これ書くのすっごい楽しいです。やばい与一のキャラが超いい。
「与一、命令だ。あの扇を射れ」
__義経様の力強く、はっきりした命令が僕の心臓に突き刺さる。
・・・僕があの扇を?
そんなの、できるはずがない。
あんな遠くにある扇を誰が討ち取れるっていうんだ。
わからない。
******
__時は平安。
源氏と平家の戦い真っ最中の時代。
今日も今日とて僕たちは平家と戦う。
...だが、今日は僕にとって一味も二味も違う戦いだった。
僕たち源氏は平家との屋島での戦いに出ていた。
__その日の戦いは最悪だった。
相手が海の上からという条件からか、かなり平家に押され、少人数で戦っていた源氏はかなり身が危うくなっていたのだ。
平家もこちらの人数の少なさに気づき、岸に船を寄せて矢戦を仕掛けてまできた。
おかげで義経様をかばった郎党の佐藤継信が討ち死んでしまった。
・・・そんなこんなでとんでもなく危ない屋島の戦いも、夕方になれば一時休戦がはいった。
ふぅ...とため息をつく。
僕、那須与一は義経様の家来に当たる身分そこそこ・・・いや、そこそこより下ぐらいか、そんなやつ。
基本的に目立つことはない。特にすごい技を持っているわけでもない。
__けれど、ひとつだけ得意とするものはあった。
それは、弓だ。
兄の那須十郎に勝ることはないかもしれないが、それなりには得意な弓。
・・・基本的に目立つところでそれを使うことはない。
そう、今さっきまで、思っていたんだ。
******
ふと海に目を移すと、平氏軍から美女が乗った船がいそいそとでてきて、竿の先に扇がついているものを船に立てた。
何をしているかまったく分からず、僕はただポカンと口をあける。
相変わらず平家は何を考えているか分からない。というよりか貴族寄りの人間はわけがわからん。
そんなことを思っていると、義経様がつぶやいた。
「ほう、あれを射ろということか」
そう、海をみながら。
僕は驚いてさっき下げたばかりの目線をもう一度海に投げると、そこには扇をさしてこちらを挑発する平家。
義経様をみると、ニヤリ...と口元を不気味に笑わせていた。
あ、ある意味義経様もなにを考えているのが正直わけわからん。
まぁそんなことはおいておこう。
義経様は周りを見回してから、一人の名を上げた。
「重孝よ、あの扇の射れ」
いつも先陣を切って軍を引っ張る、畠山重孝を指名した。
重孝は義経様に命令されたものの、
「そんな自分は!!そんなことできませぬ...。そうです、代わりと言えば失礼だが、那須十郎を私は推薦いたします」
そういって僕の兄、十郎を推薦した。
十郎は困ったように眉をハの字にし、
「すみませぬ...ご指名いただけたのは嬉しいのですが、今だこの傷が癒えず...動くことさながら、射ると傷が疼いてしまうのです...。どうが、今回ばかりはご辞退させていただきまする」
そう、十郎は言い切った。
そしてその後、とんでもないことを言い始めた。
「その代わりといえば失礼だが、我が弟の那須与一を使ってはいただけないだろうか」
__僕は固まった。
そして、兄姿を目を見開いて捉えた。
・・・嘘だろ?
え、僕?
今この人、僕を指名したの?
うそやん。
そんなことを頭の中で駆け巡らせていると、義経様が僕の前まで来て、
「与一、命令だ。あの扇を射れ」
力強くはっきりとした命令が僕の心臓に突き刺さる。
そして義経様はゆっくり、扇の的を指さした。
__どうして、こうなってしまったんだ。
いや全部十郎のせいだけど。全部あいつが悪いんだけど。
でも、こうなってしまった以上、断る理由と勇気、ついでに身分もない僕は渋々。
「・・・わかりました」
__僕にあれが打てるだろうか?
いや、討てるとかじゃないか。・・・討つんだ。
僕は馬に乗り海に入り、神に祈りをかける。
あぁ神様。どうか僕にあの的を討たせてください。
源氏の名を汚さぬよう、討たせてくださいませ。
討てなければ、弓をすべており腹をかき切って自害いたします。
僕を・・・那須与一を里へ返していただけるのなら、どうか討たせてください。
つぶっていた目を開けると、少しばかり風もやんだように思える。
船のゆれも弱くなった。
__いける。大丈夫だ。
「...いきます」
僕は静かに弓を引いた。
狙いを定めて、その手をパッと離す。
ひゃうっと清々しい音を鳴らして矢は的めがけて飛んでいく。
そして、かこんっと軽い音がしんっ...と静まり返った源氏と平家の間に響く。
矢は海へぽちゃんっと落ち、扇は空に舞い、春風にもまれてから海にさっと落ちた。
美しい夕日を背に、赤い日輪の扇は浮いたり沈んだりして漂う。
一瞬の沈黙。
そして直後、平氏は船の端をたたいて感嘆し、源氏は箙をたたいてどよめいた。
「与一!!すごいじゃぁないかぁ!!」
「さすがだ与一!やってくれると思っていたよ」
そんな声が僕の周りで飛び交う。
少し顔がほころぶ。
やった・・・僕はやったんだ。
あの的を討ったんだ!!!
喜びのあまり飛び跳ねたくなったがさすがに落ち着けておいた。
平家の方に目をやると、平氏の中から50歳ほどの黒革のおどしの鎧をきた男が、扇の立ててあった棒の元で舞を始めた。
僕は呆然とその光景を見つめる。
・・・や、やっぱ貴族寄りってなに考えてるかまったくわからん。
な、なんていうのかな。なんか、ほら、不気味だろ、あれ。
義経様はそんな光景おも少し目を細めて笑いながら眺めていた。
やっぱり義経様は心が広いなぁ。
__そう思わせてもらえたのもつかの間。
義経様はまた僕に歩み寄った。そして、
「あれも討て、与一」
そう、告げた。
...僕は唖然とした。
あ、あの人も討つの?え、まじで?
嘘だ、え、今すごい笑ってみてたよね?ね?
・・・・まじでか。
けれど、逆らうこともできず、
「わかりました」
僕は返事した。
そして、その男に狙いを定め、もう一度矢を放った。
ひょうっと音がして、そのまま男の額に矢が刺さる。
男はそのままさかさに倒れていった。
あぁ・・・。
また、源氏側がどよめく。
それをよそに平家はしん...と静まり返る。
そして、後ろでは、
「あぁ、よくやった!!よく射ることができたな!!」
そう喜ぶ人もあれば、
「心無いことを・・・命令であれと、それは・・・」
そう、僕をにらむ人もいた。
__あぁ、射たり。