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男装の令嬢  作者: kokusou.
舞踏会編
20/27

令嬢、ダンスを踊る

ルディがなかなかに動いてくださいません。

君にときめきはないのか。





 じっとまだ熱っぽく見つめてくるハバーニールと、彼の背の向こうにいる存在にちらちらと視線を向ける。どちらの視線も無視できないほど強い。

 背筋を滑り落ちる汗。

 




 なぜ自分がそんな目で見られているのか。

 




 王は周りに集まった令嬢を捌き切ったらしいが、次は挨拶回りの貴族たちに捕まっている。

 兄は令嬢を捌き切れず悪戦苦闘中の模様。



 

 

 

 ―――不幸中の幸い。とにかくこれを打破しなければ。

 ごくりと唾を飲み込んで、ルナディアは無理やりに笑顔をつくった。

 



 

「ええ、私に答えられることなら・・・ですが少々お時間を戴いても?」

 



 

 途端期待に目を輝かせたハバーニールが、思わずといった具合にぐっと腕を握る手に力を込めた。

 ずぶりっ!と効果音がしたかのように錯覚するほど、彼の後ろから鋭い視線が突きささるのを感じた。

 


 

「っ・・・!!」


 

 体をずらしたハバーニールによってその視線は遮られたものの、まだ嫌な汗が止まらない。


 

 

 父に救いを求めようと視線をやったが、帰ってきたのは苦笑のみ。

 父ですら匙を投げるってどういうこと――?!



 

 

 視線をハバーニールに戻した時だった。

 





 

 

 ―――――腕が引かれる。


 

 え?


 

 と思った時にはもう、自分の手はしっかりと組まされていた。







 

 

 

 レーナルト王の腕と。





 

 

 

 

「っぃ!!」

 



 

 

 ここで悲鳴を上げなかった自分をほめてほしい!

 



 

「ああ、ルナディア嬢。この度は招待に応じてくれて感謝している」

 



 王がにこりと笑う。

 唖然としているのはルディだけではないらしく、傍にいたハバーニールもその目を見開き、固まっていた。

 王にぎろりと睨みつけられ、ハバーニールははっとしたように一礼してその場を譲った。

 ―勿論その瞳が燃えるように輝いていたのを、レーナルトは見落とさなかったが。



 

 

「折角はじめての舞踏会だというのに、お待たせして申し訳ない」

 



 再び笑いかけられて、にこりと愛想笑いを返したが、どうも効果音に濁点が付いた気がしてならない。

 



「お詫びといってはなんだが、私と踊っていただけるかな?」

 



  

 周りで一斉に悲鳴が上がった。

 勿論令嬢たちの。

 ちなみにルディの心の悲鳴も。


 

 王から指名されるとはこの上もない名誉。何より王妃への直通便。

 我こそは!と思う令嬢ならば必ず狙うポジション。


 

 

「君を初めて社交界に連れ出したのだから、これは王としてでなく、主催者としての義務だと皆分かってくれているよ」



 

 まるでルディの心情を見透かしたような言葉だ。

 ルディは愛想笑いを浮かべる。


 

 「いえ、そんなお気遣いなど・・・」

 「ばらすよ?」


 

 その言葉に愛想笑いも剥がれおちた。

 視線も言葉も剣呑になっていくのを止められない。一度でも刃を交えた相手に、どうして他の令嬢と同じ反応ができようか。

 そしてこの台詞。

 喧嘩を売られているのか。



 

 

「・・・脅しですか?」

「そうまでしてでも君と踊りたいと取ってほしいな」

「無茶をおっしゃいますね」



 

 

 先程とは比べ物にならない程ギスギスと言い返すルディに、レーナルトは微笑んだ。

 ・・・よく笑うわね。

 とかなんとか思っていたら、とんでもない爆弾を投下された。






 

 

 

「君の初めてをいろいろと貰いたいだけだよ」






 

 

 

 

 

 ・・・・は?

 





 

 

 なんですと・・・?






 

 

 

 

 フリーズ。




 

 いやいやいや勘ぐりすぎよ。落ちつけ私。




 今のはほら、きっと初めていろいろと私が参加するから、気をつかって、ね?


 って何が。


 ただの変態発現―――間違えた変態発言。


  

 いやいやいや王が私にそんなこというはずないじゃない。 


 イヤ、ていうか全力でお断りですけど。


 だめだ、この人に付き合ってたら私の男装かつ女性ハーレムライフが―――


 

 思考停止している間に、ぐいと体を引かれる。

 

 



 

 え?




 

 

 

 

 

 曲が始まった。

 




 

 

 あら不思議。

 どうして舞踏会場の中心にいるのかしら。

 どうして見計らったように曲が始まるのかしら。

 どうして目の前の方は笑っているのかしら。――――とんでもなく楽しそうに。

 

 




 

 

 体を自然にひかれて、体が動き出す。

 くるりとターンさせられて、周りから拍手が起こった。

 当の本人は先程と同じ笑顔でルディを見つめている。

 



 

 ―――どうして?どうしてそんな目で私を見るのよ?剣を交えた。それ以外は何もないでしょう?


 

 ルディの瞳には困惑しか浮かばない。



 

 

 二人の踊りに加わる様に、貴族たちがある者は妻を、ある者は恋人を、ある者はその日限りの愛人を連れ、踊り始める。

 ただしなぜか二人からは一定の距離を保っている。

 ダンスは曲が終われば、パートナーを変える事が可能だ。

 しかし曲が終わって手を離さなければ、そのパートナーと踊り続ける事ができる。

 ルディの手を握りつぶすほどではないが、離すなど考えてもいない、といわんばかりにレーナルトは力を込めていた。

 


 ――――曲が半分踊る頃には、ルディの心に一つの決意が芽生えていた。

 


 自分は初めて社交界に参加した遅れ花。

 咲き遅れにいき遅れだ。

 元々周りからの評判は良くないだろう。これ以上落ちる名誉もない!


 

 ならば粗相を犯して二度と王にこの顔を拝ませないでくれよう!とルディはいきりたった。

 自分が粗相を犯せば、王は誘いにくくなる。自分の醜聞につながるからだ。ただ、実家に迷惑のかかる大規模なものは避けたい。


 

 程ほどでいこう。

 可愛らしい初心者のミスを犯すのだ。

 そう、間違ってパートナーの足を踏みつけるというのを!

 王相手になんてマネ!と他の令嬢なら絶対にしないし、かつそんな女と王は踊らない。

 ルディもそんな粗相を犯すような教育は受けていないし、この運動神経でそんなことは(普通)しない、が。

 



 

 いや、私は私。余所は余所。

 今は異常。普通じゃない。

 



 

 

 とルディは納得した。

 



 

 タイミングが大事だと、ルディは王を窺った。

 王がルディをリードしてターンさせようとその手を引いた。

 



 

 ―――今よ!

 



 

「あら、スミマセッ・・・!!」

 



 

 ぎらりと目を輝かせ、ヒールを渾身の力で叩きこもうと足を上げるー!

 怪しくないように、少しターンをミスりました!という感じを出して―――

 ヒールが王の足につきささる直前。

 


「っ・・・!」

 


 ぐいと体を引かれ、崩しかけた態勢を華麗なさばきで立て直される。


 

「・・・くっ!!」


 

「何か?」



 

 

 ・・・ムカ。




 

 

「いいえ、何も。わたくしの拙いダンス、陛下のリードがあってこそです・・・わっ!」

「そうかい、それは嬉しい・・・ねっ!」

「本当にこんなわたくしをお眼鏡にとめていただいってっ!!」

「君の美しさ、わたしでなくとも目をとめたはず・・・さっ!!」


 

 三度目のヒールを避けられて、さすがにルディは顔を顰めた。


 

 

「おや、もうやめかい?」

「・・・何のことですの?」


 

 にっこりと笑う両者。


 

 

 どうやらこの相手、やっかいなようだとお互い心中で呟いたのだった。









舞踏会編はなにしてんだこいつら、みたいな目でみてあげてください。

誤字脱字、感想などございましたらよろしくお願いいたします。

ちなみにここは我慢のしどころです。


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