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男装の令嬢  作者: kokusou.
舞踏会編
17/27

令嬢、戦わせる

おかしいな、舞踏会編だというのに。なかなか進まないじゃなry

とにもかくにも、久しぶりに王様が登場です。絡みはありません!

タグの恋愛?の意味がよくわかりまry

 


 


 そのころ。

 王城にて。

 


 

「っっレーナルトォオォォォォ!!!!」

「なんだ」

「だから不敬罪になるって言ってんだろうがぁあぁぁ!!!」


 

 ばぁん!と彼の王、レーナルト・シュナンベルムの執務室の扉が開け放たれた。

 それをしたのは、近衛兵筆頭であり、彼の親しき友人である人物。

 そのまま突撃していこうとしたらしいその体には、近衛兵が三人しがみ付いている。なぜか侵入者を止めるべき近衛兵が、同じ近衛兵を止めようとその力をフル動員しているのだ。


 

 無礼も甚だしい、まさかの王呼び捨てを行った近衛兵隊長。


 

 その血走った眼には理性など残っておらず、その身にまとう空気はまるで魔界の瘴気のごとく。その形相には、幻覚かも怪しい角が見えるような気がしてならない。


 

 そんな人外の隊長を前にして、それでも臆さない同期の近衛兵。

 彼らは果敢にも、がしいっ!と今度は首を掴んだ。なんとしても引き留めようとする彼らの涙ぐましい努力。

 しかし、掴まれた人物は、異常な握力を発揮してぐいぐいと首からその手を引き離していく。

 その間も視線は彼の憎悪の対象に釘付けだ。その対象は広い執務机に幾束もの書類を積み重ね、その手に判を握っていた。

 今度は口からも瘴気が!と言わんばかりの勢いで、まるで呪詛のように近衛兵隊長は言葉を吐き出す。



 

 

「・・・よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもっ!!」

「ルイザス、言葉にしてくれないか、さすがに僕でもわからない」

「・・・ルディをルディをルディを・・・・!!!!」

「先程隊長はルナディア様が舞踏会に参加するという件を聞かれましてっ」

「ああ、そのことか」


 

 分からなかった、とあっけらかんと言い放った王。妹の名前を繰り返す近衛兵隊長から溢れる瘴気を気にも留めず、視線もよこさず、書類にぽんと判を押した。

 そして次の書類を横から出す。

 



 

「事実だ」


 

 ぽん、とまた判。


 

 

「私の可愛いルディを!あの汚らしい女の満ち溢れた会に参加させようというのか?!」


 

 

 そのまま抜刀しようと腰に手をやろうとするので、三人目の近衛兵がそれを止めにかかった。



 

 

「・・・ルディはお前のじゃない」


 

 じろり、とレーナルトがルイザスを睨んだ。


 

 そこですか?!今貴方の近衛筆頭さまがおっしゃったことは問題発言が溢れていたように思いますが?!



 動揺の余り、とある近衛兵の言葉は口からは出ていない。ただ口をぱくぱくと動かして、顔面蒼白になっているのみである。

 


 

「何をいう!ルディは私の可愛い可愛い可愛いっ・・・私のっ!!」


 

 彼は、普段の無表情をどこに置いてきたのか。拳をぶるぶると震わせながら、未だくっついたままの近衛兵を引きずり、王へと近づいていく。


 

「彼女は私の妻になるんだっ!」


 

 レーナルトも我慢ならないと言わんばかりに立ち上がった。その拍子に書類が巻き上がる。


 

 王!確かに我等はあなたのプロポーズを知っていますが、それは他の人間には極秘事項ですからね?!

 何せお相手に逃げられましたからね?!ものの見事に!



 

 

 

「その口切り裂いてくれるっ!」

「言うじゃないか、かかって来い!」

 


 

「いっ、いい加減にしてくださいぃいぃっ!!」

「隊長は兵の訓練に!王はどうかそのお仕事を投げ出さないでくださいませ!!」

「お願いですから!止まってください!!後生です!!」

 

 

 近衛兵達の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 





















 

 








 

 

 

「武器は何にしますか?」

「あの、差し障りがないなら、棒でお願いします」

「棒?貴方、棒術をつかうの?」

「いえ、あの」


 

 

 そのころ。

 ドルトナンド伯爵家にて。


 

 

 庭に出た彼らは、その庭に常備されているといっても過言ではない、豊富な武器を前にしていた。

 無論、模擬戦用の武器である。

 その扉の鍵を開けた執事が、確認するかのように振り返り、武器の要望を訊ねた。するとティグエストからは、先程の返答。

 真面目な執事は大人しく、彼の身丈にふさわしい棒を探すために武器庫に踏み込んだ。

 一方ルディは、不思議そうに首を傾けながら、ティグエストに問いかけたが、彼は言葉を濁すばかりだ。

 彼の言葉をついだのは、妹だった。彼女は例に見ないほど冷静な顔でこう言った。

 




 

「ルディさま、うちにはお金がありませんでしたので、いろいろとあった時には兄さまは、棒か鍬で対抗していましたの」

「・・・鍬?」

「はい、鍬です」

 




 

 ティグエストは正直、ぱっとはしない。優しげなその顔は、農業が似合うといっても可笑しくない。決して優しげな顔イコール農業というわけでなく、彼の雰囲気やらなにやらを統合した意見であることは押さえておいてほしい。

 汗を流しながら畑を耕し、その首にはタオルー。さんさんと降り注ぐ太陽を受けて、彼はその暑さからタオルで顔を拭う。

 きらきらと輝く野菜を嬉しそうに眺める彼。

 ・・・容易に想像できる。

 

 そんな青年が、いきなり鍬を持って襲いかかって来るとしよう。

 


「・・・ホラーね」


 

 その絵で彼は農業でかいた汗により輝いたままだから、まるで殺戮者のようだ。・・・農家をバックにした絵はギャップが激しい。

 脳内がおかしいことになってきた。やめよう。

 頭を振って、その絵を頭から追い出すと、あながち間違っていなかったのか、テルミアが微妙な表情をしていた。



 

 

「さっきの私の考えについては忘れて頂戴。・・・彼は自己流なの?」

「自己流かはわかりませんが、父は棒術をしていたとききます。それを幼い時から教えてもらっていたようです」

「へぇ」



 

 

 妹ばかりから説明を受けて、当の本人がいないと思ったら、彼はトゥーランドについて武器庫へと入って行ったらしい。自分に合うかどうか見繕いに行ったのだろう。

 しばらくして戻ってきたその手には、彼の身長と同じくらい、いやそれ以上の長さの棒が握られている。

 彼は満足げにそれを眺めると、すたすたと武器庫から出てきてくるりと回した。そのまま左脚を引き、一回転させながら棒を引きよせた。腰に構えると次いで右足を引き、左脚を前に出すと同時の体重移動。

 手首でぐっと回された棒は、かなりの速度をもってして空気を切り裂き。

 ぴたりと地面に平行にされて止められる。




 

 

「思ったより扱いやすいです。重さも丁度いい」

「うちにはダサい武器は置いていないのよ」

「そうですね、ドルトナンド家の武器庫はさすがです」


 

 ははっと笑う彼は、今から戦うということを分かっているのか。やたら楽しそうだ。彼の後からトゥーランドも棒を持って出てきた。



 

 

「あれ?トゥーランドさんも棒術なのですか?」

「いえ、専門は違いますが。使えないこともないので」

「さぁ。始めて頂戴」


 

 ぱんぱんと手を叩いたルディを一瞥した二人は、軽く会釈をした。


 

「御意」


 

 二人の人間は庭の中心へと歩み出る。距離を取って、それぞれの武器を構える。

 トゥーランドはまるで剣を持つかのように片手で構え、ティグエストは棒の真ん中付近を掴んで、腰を落とした。


 

 

「はじめ」



 

 ただ楽しそうな声が一言開始を告げた。

 

 





 

 先に動いたのはティグエストだ。彼は腰を落とした姿勢のまま突進する。

 慣れた動作で右手を逆手に捻り、腰を捻っての突き。ぎゅっと捻りの力を加えられたその棒が、トゥーランドの体を真正面から狙う。

 しかしトゥーランドの反応も素早かった。

 一歩後ろに後退すると同時に下段からその棒を振るった。

 かん!という音とともに二つの棒が交差される。しかし受け止められることをよんでいたらしいティグエストはそのまま左手を動かし、突きから上段からの振り下ろしへと転換。先程と逆の先が、トゥーランド目がけて空気を裂く。

 トゥーランドは一瞬その眉をぴくりと動かしたが、即座に手首を捻って八の字を描き、その攻撃を防いだ。

 ティグエストの真横に回り込んだトゥーランドが、間合いを詰め棒を振るう。

 

 小さくテルミアから悲鳴が上がった。

 


 

「お兄様・・・っ!負けてはだめです!」


 

 

 その声を聞き取ってか、苦し紛れにティグエストはそれを防ぎ、無理やり距離を取ろうと右足を下げたが、トゥーランドは追撃を行う。


 

「くっ・・・・」


 

 ティグエストは距離をとることを諦め、真っ向からトゥーランドに向かうべく足を踏み込んだ。

 


「私たちのご飯がかかっていますのよ!!血が出ても骨が折れてもいいから、頑張ってください!!!」

 


 切実ね。


 

「そこですかぁぁあぁぁ!!」


 

 分かるわ、突っ込みたいわよね。トゥーランド。


 

 

「ボケが多いんですよ、この兄妹ぃっ!!面倒事はこの家の人間だけで十分ですっっ!!!」




 

 

 ルディの心を読んだのか。常日頃のストレスからの叫びを上げながら、トゥーランドは乱打。

 乱打乱打乱打。

 幾らかがティグエストの体を掠め、彼が呻いた。

 

 ぎらり、それこそこの表現が正しい。トゥーランドの目が怪しげな光を放った。

 それに負けじとティグエストもその瞳を猛らせ、声を張り上げた。

 



 

「負けるわけにはいかないんですーーー!!!」



 

 

 ご飯のためによね。

 分かるわ。人間生きていくには食料が必要よね。

 



 

 

「ざけんなぁあぁぁぁ!!こちとら、毎日体と精神病んでくんですよ!!!この家で働くのに安っちい根性じゃ身を滅ぼすわーーっ!!」

 

 




 

 何気に心配してるのね、優しいわね。

 ・・・でも聞き捨てならない言葉がたくさん入っていたわ。あとで呼び出しね。

 



 

 かん!かかん!かんっ!がんっ!ごっ!




 

 棒が激しくぶつかり合う音。一方的に攻めているのは(色んな意味で)トゥーランドだが、ティグエストも中々やる。

 ぐっと歯を食いしばった彼は、縦横無尽に棒を振るい、トゥーランドを隙あらば仕留めようとその目を光らせる。

 棒の先を弾き、逆手に持ちかえ、払う。振り下ろす。突く。

 あらゆる手段を用いて、トゥーランドを狙い続ける。

 ・・・凄いわね。あの、トゥーランドを相手に。



 

 

 彼ならば、もしや闘技場でも狙えたかも知れない。

 実力は確かにルディより劣る。しかし、勝利を執拗に狙うその執着こそ、彼が勝つに値する理由となったはずだ。




 

 

 

 

 

「苦労なんて・・・そんなこと、覚悟の上です!」

 

 

 

 

 

 



 

「もういいでしょう」

 




 

 ぱちん、と扇が閉じられた。

 思わず、といった具合に動きが止まる、両者。

 

 何事かと振り向いたルディのその視線の先にいたのは。



 

「お母様」

「楽しそうなことをしているじゃないの、ルナディア」




 

 スティールナ・ドルトナンド伯爵夫人。

 横に侍従を従えた彼女こそ、ルディの母である。その美貌は年を感じさせず、ルディと同じ碧の瞳は愉快さを滲ませている。

 嫁いできた身である彼女は銀髪ではなく、燈色の髪だ。つやつやとしたそれが高く結いあげられている。

 ルディと同じように快活な彼女は、ごてごてしたドレスを嫌う。だからこそ美しさだけを求めたシンプルなドレスを身にまとっている。きらきらと輝く小さな宝石は、彼女をより美しく魅せていた。



 

「その子たち、何かしら。気に入ったわ。私が暫く預かるわ。雇う話なら、私からジムナスに通しておきます」



 

 何が気に入ったのかが一番気になるわ。お母様の考えていることが分からない。

 けれど、この家でお母様に逆らうのは、例えお父様でも不可能ー。お父様の命のために、そして私の命のために。ここは言われるがままが一番。

 保身を選択したルディは了解の意を表すように、目を伏せた。



 

 

 

「奥方様は暗器の達人ですが・・・。お任せして大丈夫なのですか」


 

 ぼそり、と耳打ちしたのはトゥーランドだ。甲斐性がある彼は、あの兄妹を切実に心配していた。関わってしまった人間を放っておけないのは彼も同じである。

 一度テリトリーに入れてしまえば、彼にとって彼らはもう他人ではなくなるのだ。


 

「あの子たちが『影』になって帰ってきたらどうしようかしら・・・」

「冗談になりません。どうするんですか、本当にそうなったら」

「それこそ侍女とか傭兵じゃなくて・・・本格的につかうことになりそうだわ・・・」

 


 ルディを守る、『影』として。

 所謂ー暗殺兵である。

 



 哀れなのかそうでないのか判断に困る兄妹二人は、スティールナにぺこぺこと頭を下げている。それを見て溜息をついた主従二人。

 

 そこで思い出したかのように、スティールナがちょいちょいとルディを手招きした。

 近づいたルディに内緒話をするかのように、スティールナは声を潜めた。



 

「そうそう、ルナディア。舞踏会のことだけれど。貴女、一応デビュタントでしょう?なら、お父様に任せましたからね」


 

 はい?


 

「大分行き過ぎたから、どうかと思ったけれど。いいじゃない、可愛らしくお父様に連れられて行きなさい」



 

 扇で口元を隠しているといえど、その目は弧を描いている。

 ・・・楽しんでいる。今さらの娘のデビュタントを。一興だと。ひどい。




 

 

「・・・でも」

 

 急に声音が変わった。ルディは、訝しげに母の顔を見上げた。その瞳には、至極真面目な光が宿っていた。

 




 

「宰相には、気をつけなさい。あなたの闘技場での云々ー・・・ばれている可能性がある。下手なことに巻き込まれるんじゃありませんよ、うちの家でも守りきれないかも知れませんから」

 

 

 


まさかのお母様登場でした。結局お父様とともに行く模様。

そして、そろそろ役者も揃ってまいりました。


最近思うのです。もっとさくっと話を進めるべきなのではないかと・・・

テンポどこに置いてきたのだろう・・・



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