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男装の令嬢  作者: kokusou.
舞踏会編
16/27

令嬢、事のあらましを聞く

更新が滞ってしまい、すみません。

地道に頑張りますので・・・今回は少し長めです。説明が主ですが、気長にどうぞ。






 

 

 彼は何度もルディに礼を述べた。



 テルミアを助けたこと、ブローチのこと諸々に関して、最大級の感謝を持って。隣でテルミアも目を潤ませながら、何度も謝辞を口にする。ぎゅっと手にブローチを握りしめて。

 そんなテルミアを見て、ティグエストはその柔和な顔を綻ばせていた。こうしてみると、栗毛であることも相まって、笑い方もテルミアによく似ていた。目元を細める笑い方がそっくりなのだ。

 妙に納得しているルディに、兄弟は首を傾げていたが、なんでもないとかぶりを振った。



 

 彼が事のあらましを語り始めたのは、それからである。








 

 

「実は、テルミアが家を出た後、私も追って家を出ました。けれど王都でこの子を見つけることができなくて・・・」




 

 

 その時に見つけたのが、テルミア同様闘技場の大会のチラシの景品欄に乗せられた、形見のブローチだったらしい。

 妹を連れ戻すために田舎から出てきたといっても、彼も父のあの憔悴した姿を見た身。

 




 ーなんとか、したい。

 




 彼を突き動かしたのはその想いだ。

 テルミアと同じように彼は居てもたってもいられなくなった。しかし、お金もない。この王都での知り合いもない。

 ならば実力行使しかないと、直ぐに大会参加申請を出したのだった。




 

 

 ーさすが兄妹。思考回路が一緒である。




 

 

 参加費を捻りだすのと、その準備とで王都に来るまでの用心棒としての稼ぎをすっかり失ってしてしまったという。

 とりあえず大会に出れば、ブローチも取り戻せ、賞金ももらえ、あわよくば妹を見つける事も出来るだろうと彼は大して悩まなかったらしいが。




 

 ・・・大事なことなのでもう一度。さすが兄妹思考回路が一緒である。




 

 

 そして、参加当日。

 彼はある美女に声をかけられる。その時点で彼は防具を身に纏い、いざ出陣という時だった。

 道急ぐ彼を呼びとめたのは、女。その女は彼が今まで会った中で、最も艶めかしく、そして不思議なオーラを放っていた。神秘的、ともいえるものを。

 明らかに参加者でもなく、かつ開催者でもないだろう。彼は怪訝な顔をしながら、一歩引いた。それを見た彼女は声もなく笑った。

 そしてあろうことか、その美女は彼の名を呼んだのである。




 

 

『貴方は、ティグエスト?』

『そうですけど、貴女は・・・?』

『わたくし、テルミアを保護させていただいていますの』

『?!・・・っ、どういうことなのかな?』

『警戒するのも最も』

 



 

 彼女は薄笑いを浮かべた。言葉を否定することもせず、ティグエストの問いに答えようともしない。ただ、こちらの出方を見ているのだ、彼女の最初のカードを切って。

 しかしそれを理解してもティグエストに足掻く術はない。

 こちらのカードなどたかが知れている。自分に出来るのは、相手の要求を聞き入れる事だけだー。

 驚愕に目を見開くティグエストを横目に、その紅の塗られた艶めかしい唇が、弧を描く。

 彼女の、小手調べは終わったのだろう。



 

 ただ一言、馬鹿ではないのね、と。




 

 彼女はやけにすっきりとした瞳で、視線を和らげた。くすりと笑うその先にみているのは、おそらくティグエストでは、ない。

 



『彼女を助けて、挙句ありあまる善意を総動員した馬鹿がいましてね』




 

 そして彼女は語る。

 ある男(実際は令嬢)と、彼の妹の出会い、そしてその後の展開を。




 

 

 



 

 

 

「・・・そのバカってまさか、私?」

「・・・そこのところはノーコメントでお願いします。事のあらましを聞いた以上、私はあなたに、恩人であるあなたに剣を向けるなどできなかった」



 

 彼は困ったように眉尻を下げた。

 その時点で、彼が自分を恩人とみなしたかは定かではない。が、もし彼が自分の立場だったならばとルディは思考を巡らした。

 妹は相手にとられている。この時点で大会で勝ち進むべきではないだろう。

 ならば自分は、相手が信じるに足る相手ではないなら、一旦引いて大会後に妹を取り返す算段を付ける。

 そうでないなら、そのまま妹を引き渡してもらう。

 テルミアと違って、ティグエストの第一の目的は妹を取り戻すこと。

 ならばあの時点での彼の選択は、どうであろうと正しかったのだろう。

 結果ルディは優勝し、ブローチも取り戻すことができたわけであることは嬉しい誤算といったところか。

 




 

 とりあえず、彼が剣を向けなかった理由はどうであろうと自分が納得できる形であるのだ。

 良しとしよう。

 それよりも気になるのは。




 

 

「試合中の笑顔は・・・?」

 




 

 やたらと笑い掛けられていたのは今でも印象に残っている。

 先程のような柔らかい笑顔、ではなく、花がとんでいるかのような笑顔だった。

 あの時はそんな顔をされる理由がさっぱり皆目見当もつかず、かなり困惑させられたのだ。

 彼は、あ、と呟くと、居心地悪そうに視線を彷徨わせた。




 

「それは、まぁ、妹を助けてくれたのがこんな美形だと知れば、ちょっとうちの妹にも嫁ぎ先が・・・」

「もういいです」

「・・・すいません」




 

 ぽり、と頭を掻いた彼に、なんとも言えない視線をルディは向けた。男装している身としては褒め言葉としては嬉しいものだが、正体を知られた今、なぜか喜びは薄かった。

 テルミアを既に妹のように思っているからだろうか。大体自分を困惑させたあの笑みの理由がそれだからか。

 





 

 深く溜息を吐く。これで不満が解消される訳ではないが、気分的に少し楽になった。

 しかし、はたとティグエストが優勝すれば何の問題もなかったのでは、ということに思い至る。ティグエストの実力がいかがかは置いておいてだ。

 自分が出る必要もないなら、あの苦労も、果ては王に目を付けられることもなかったのだ。

 足を組んで座っている美女に、若干の苛立ちをこめて声をかけた。彼女は、全て知っていたはずだ。彼女だけが。

 




 

「ファナ、どうして大会が始まる前に教えてくれなかったの!」

 


 

 ティグエストがでるということを教えておいてくれれば、出なくてもすんだものを!



 

「しょうがないでしょう。私も神じゃないわ。ティグエスト殿が王都に出てきていると知ったのは、本当に直前だった」



 

 不遜な態度で言い放つ彼女。その視線には勿論悪びれもない。悪びれる必要もない、とありありと語るその瞳に、ぐっと言葉に詰まったのはルディの方であった。

 確かに彼女はテルミアの情報を知らなかった。ならばあのタイミングで彼女の身辺情報を集め始めていたとしても、大会前がぎりぎりであったというのも嘘ではないかも知れない。

 いや、あのスピードで没落貴族の家族内情報を手に入れたのだ。・・・異常である。




 

 

「それでもなんとかティグエスト殿に会って、あなたのことを話したらああなっただけよ」

 



 

 しれっと言い放つと、ファナは再び紅茶を啜る。自分の客人に遠慮の二文字はないらしい。



 

「・・・先程からっ、貴女はルディ様に対する言葉遣いがっ!!」



 

 存在が薄れかかっていたトゥーランドが怒気も露わに声を張り上げた。そのままファナに突っかからんばかりの視線を向ける。猪の如く突撃していきそうだ。

 そんなにも彼女が嫌いなのかと、若干呆れの眼差しを向ける。

 



 

「いいの、トゥーランド。彼女とは伯爵令嬢として付き合っていたわけではないもの」

「しかしっ、ここは伯爵家です!それ相応の振る舞いというものがっ」

「私がいいと言ったの。まだ何か言うつもり?」



 

 

 ルディは表面上冷静だが、瞳の中に苛烈さを滲ませてトゥーランドを見据えた。ぐっと言葉に詰まったトゥーランドが、こうべを垂れて、口を噤んだ。

 



(こういう所が、お母様譲りでいらっしゃる)



 

 このように人を従わせる力を持つものは、そうはいない。叫ぶでも、諭すでもなく、ただその視線だけで思わず膝を折ってしまうような、そんな強さが彼女にはあるのだ。

 そして、この国のトップにも。



 

 

 

「結局どうあれ。私が面倒事に巻き込まれたのは自業自得なところがあるから、諦めることにするわ・・・」




 

 盛大な溜息とともに、ルディは言葉を吐き出した。

 過去は取り戻せない。全てが今さらなのだ。舞踏会に行くことも、王に正体がばれたのも取り消せない事実。いつまでもぐだぐだと言っていられない。

 切欠がテルミアの頼みだったとして、その後の展開は全て自分が招いたことなのだから。けれど。


 

(なんとしても、逃げる算段を考えなくちゃ・・・!)

 


 ぎりっと歯を食いしばり、眉を顰めたルディの心情を理解できたものはいなかったのか、全員が不思議そうな顔をした。

 彼女はこれまでの事態を諦めたのは諦めたのだが、まだ王から逃げることを諦めていないのだ。しかしぶつぶつと呟きながらそれについて考えていたため、全員が「壊れた!」と判断し、一歩引いてしまったのは彼女の知るところではない。

 それに冷静に対処したのは、勿論彼である。


 

「お嬢様、戻ってきてくださいませ。まだ彼の話は終わっておりません」

「はっ!」

「あ、すみません、何か・・・」


 

 先程の荒々しさを露ほどにも見せない執事。たった今現実に戻ってきた令嬢。申し訳なさに、若干冷汗をかく没落貴族の息子。兄の残したケーキを虎視眈々と狙う没落貴族の息女。


 

「・・・カオスだわ」


 

 まとまりなど皆無ではないか。なんだろうか、この集まりは。

 ファルナールの呟きは誰にも取られることなく消えていった。




 

 

 

「さ、話の続きを」



 

「実は、先程も申しましたが・・・・・・我が妹共々、実はお金がなくてですね」

「・・・は?」

「あの、本当に申し訳ないのですが・・・!!私たち兄弟を雇っていただけませんか?!私も端くれではありますが傭兵の役もしておりました、妹も下働き程度ならこなせると思います、どうか!」

「おっお願いしますっ!!」



 

 突然ソファから滑り落ちるように、がばっと頭を下げた兄妹に、唖然。

 唯一全ての話を理解しているファルナールだけが、紅茶のおかわりを催促していた。




 

 しばしの無言。



 


 言葉を咀嚼するかのようなその間に、最初に口に開いたのは、執事だった。彼は思いっきり顔を顰めていた。




 

「分かっているのですか?自分たちがどれだけ厚顔な真似をしているか」

「・・・承知の上です」

「そちらから自分を売り込もうとしているのですよ?お嬢様に助けられた身でありながら、まだ求めるとは・・・無礼も甚だしい。伯爵家を侮辱するおつもりか」

「・・・っ、無礼は申し訳ありません、ですが、我等兄妹、このご恩をなんとしても返したいのです・・・!」

「・・・お金を請求する時点で、恩を返せていないと思いますが・・・」

「「・・・はっ!!」」



 

 今気づいたのか。




 

「・・・お金が必要ということは分かっているわ・・・そうねえ」




 

 考え込むようなルディの言葉に、希望の光が差し込んだ!と言わんばかりに顔を輝かせる兄妹。




 

「お嬢様、貴女様は・・・そういう所が甘くていらっしゃる」

「中途半端に助けて投げだすのは、ただのつつきまわしただけよ。なら、なにもしない方がまだましだわ。手を出してしまったのだもの。ここまできたら、とことんやるわよ」




 

 にやり、と笑う令嬢に反省の色はなく、執事はまた、顔を顰めた。

 彼の顔は早くから老化しそうだ。

 




 

「どちらにしても、お父様に薦めるにしても、トゥーランドより弱ければ話にならないわ」

「失礼ですが・・・執事さまは剣を嗜んでいらっしゃるのですか」

「やってみればわかるわ」

「私がやるのですか・・・」




 

 新たにため息をついたトゥーランド。

 彼はもう心労だけでその身を削り取られているにも関わらず、今まさに身体的にも削られようとしている。





 

「さぁ、庭に出ましょうか」




 

 至極楽しそうに笑う、元の調子を取り戻した令嬢を止める権力を持つ者は、この部屋には存在しなかった。

 




 

 

 

 


ありがとうございました!

次は執事、戦います。もちろんティグエストと。

戦闘描写苦手ですが、好きなのでやたら無理やり入れます。

ご了承ください。


そろそろ令嬢にはもとの勢いに戻ってほしいと思いつつ・・・

やたら受け身状態ww


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