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男装の令嬢  作者: kokusou.
舞踏会編
15/27

令嬢、勘違いされる

あ、あのですね、こんなにたくさんの方に読んでいただいて、

こんなにたくさんの方にお気に入りしていただいて、大変嬉しいです!

ありがとうございます!

皆様の求めるお話になるかはわかりませんが、これからもこの作品を読んでくださる方に感謝を。

 




 

 

「お嬢様!なぜこの者がここにいるのです!」




 

 

 テルミア達を客間に通した後、目の前に並べられた食事に最初はそこまでしてもらうのは申し訳ない、と首を振っていたテルミア。

 兄のティグエストは本当なら遠慮する気など皆無のようだが、それでも食事を拒む妹をちらちらとみて、食事に手をつけるべきか悩んでいるようだった。しかしそれもテルミアが折れるまでの話。

 彼女自身もさすがに空腹に耐えられなくなったのか。一言謝って食事の姿勢へと入った。その時は何の謝罪か分からなかったが。

 二人がナイフとフォークをその手に持ち、一口手をつけた瞬間。

 あっけにとられるような食事絵図が始まった。

 一言で言うならば、兄妹の腹は底なしと思えるレベルだった。

 何がそこまで入るのか、という勢いで軽食を食べつくし、二人がまだなる腹を押さえたので気を利かせたメイド頭により、更なる食事が追加された。それこそ晩餐会の量だ。

 山盛りにされた果物は一瞬でその姿を消し、小さめのさまざまな味のパンは「今何のパンを食べたかわかる?」と聞きたくなるようなスピードで、口の中へと消えていく。

 二人は大食い選手権かと言わんばかりの勢いで、食事を腹に収めていく。そこで初めてファナが食事を与えなかった理由が分かった気がした。




 

 ・・・これだけ食べられたらファナもさすがにきついわよね・・・。




 

 

 そうして怒涛のような食事が終了した頃合いを見計らってか、執事であるトゥーランドが客間へと顔を出した第一声が冒頭のあれである。







 

「この者?」

「この女です!」





 

 と、彼が珍しく家の者以外に対して焦ったように声を荒げ、びしりっと指で指したのは。

 優雅にお茶を口元に運ぶ漆黒の髪と紅の瞳の美女だ。彼女は執事に一瞥もくれずにいる。トゥーランドの行動はまるで知り合いのようだが、彼女にとってはそうではないのか。

 怪訝に思ったルディは未だすました顔の美女に声をかけた。




 

「ファナ?知り合いだったの」

「ええ、お客さんよ。うちの」




 

 なんだ、知り合いなんじゃないの。っていうか、お客さんだったのね。いつの間に。




 

「きゃっ、客などではありません!お、お嬢様がこのような者と会っていると聞いたから私はっ」

「ごめんなさいね。今日はあれ、持ってきてないの」

「変な言い方をしないでください!!」




 

 意味深な笑みを浮かべるファナにトゥーランドは真っ赤な顔をしてわなわなと拳を震わせた。怒りか、恥か、はたまた両方か。それは本人にしかわからないが、彼が恥でその顔を染めているというのなら本当に珍しい。

 完璧主義を掲げるが故に、恥をかくような行動は慎むべき、というのが彼の持論だからだ。その彼が恥をかくような事態とは何事だろうか。

 ファナの情報が元ならば本当に恐ろしい。ルディは彼女に掴まれてはならない情報がないかどうか、一度自身の検証をすることを心の中で決めた。



 

「あれってなに?」



 

 無邪気に問いかけたのはテルミアだ。唐突に始まった二人の言い争いに口を挟めなかったルディと違って、ナチュラルに介入している。その顔には無邪気さだけが貼り付けられている。これだから天然は恐ろしい。

 ルディがちらりと視線をやると、もう一人の客人である兄の方はまだ食後のお茶を楽しんでいた。あげくメイドに茶菓子の追加を要求している。まだ食べるか。・・・兄妹そろって大物である。




 

「ええ?あれはあれよ。ごめんなさいねぇ、言ったらこのひとが怒っちゃうから・・・」

「っっ!だから変な言い方しないでください!」

「じゃあ言っていいの?」

「そ、それは」





 

 くすり、と口元に手をやって笑う彼女の妖艶さは女の自分でも赤面してしまいそうだ。

 彼女にいいように振り回され、うろたえたトゥーランドの顔は今度は青い。こんなに楽しそうなファナは初めて見たが、兄のルイザスが家宝の花瓶を壊したときよりも、トゥーランドは青い顔をしている。ルディは若干憐れみを覚えた。

 しかしその二人の会話に割り入ることもできず、ルディは仕方なくティグエストに倣って紅茶を啜った。

 あのトゥーランドをここまで苦しめるとは。彼女が掴んでいる彼の弱みとやら、今度買ってみようか。幾らくらいだろうか、などとルディは考えだす始末。

 そんな彼女の思考を知らない、二人の言い争いはヒートアップしている。

 この部屋での最高実力者にあたる彼女が、介入を諦めた時点で、二人の攻防、というか主にファナのトゥーランドいじめがこのまま続くかと思えた。




 

 

「あの・・・」




 

 発言しようとおずおず、と言った具合に手を挙げたテルミアに、周りの視線が一気に集中する。すごいな、火に油を注いでおいて自分で鎮火作業までしてくれた。

 彼女の兄ですら、その手に持ったフォークをケーキに突き刺したままで固まっている。いつの間にケーキまで出してもらったのか。


 

「どうしたの?」


 

「あの・・・不躾なことを聞くようかもしれませんが・・・」


 

「何?」


 

 何かこちらに不手際でもあったのか、はてさてこの曰くありまくりの屋敷に何かあったのか。それともこの個性豊かな者たちのことかしら?

 ルディは首を傾げたが、それを表には見せず、完璧な笑みを持ってテルミアの話の先を促した。彼女はやはり逡巡するかのような仕草をしている。

 が、意を決したように顔をあげて口を開いた。


 

「・・・なぜ、女装なさっているんです?」


 

「は?」



 

「いえ、ですから、今日こちらに来た時から思っていたのですが、なぜルディさまは女装を・・・?」



 

「「「・・・・・・・」」」





 

 沈黙は部屋全体に広がった。え?え?と戸惑ったようにテルミアが部屋を見回す。しかしその視線に肯定で応えたものはなかった。

 





 

「ファナ・・・」



 

「何?」



 

「言ってないの?」



 

「・・・忘れていたのよ。あなたも同じでしょう?」



 

 ・・・正直彼女よりインパクト大の人物に正体知られた後なのでね。しかも最悪の形でね。




 

 玄関前で見せた彼女の驚きとは、これが理由だったのか。てっきり自身の伯爵令嬢らしいドレスや、屋敷に驚いているのかと、さして気にしなかったのだが。

 この屋敷で驚いた顔をする人間には慣れていたので、そこまで意識が至らなかった。まさか、自身が彼女に正体をばらしていないとは。




 

「・・・」





 

 一日のうちで何度目だろうかと数えるのも億劫なほど、こんなにも頭痛を覚えたのは久し振り、というか初めてだ。

 まだ戸惑うような表情をするテルミアを一瞥すると、ルディは小さく首を振って、面倒、という言葉を頭から追い出す。そしてソファから立ち上がった。

 行き成りのルディの行動に誰も付いていけず、トゥーランド以外が全員着席したままだ。

 ドレスの裾を軽くつまみ、ルディは至極丁寧な礼とともに微笑を零した。

 





「では、改めまして。ドルトナンド家次女、ルナディア・ドルトナンドと申すものです。テルミア様、ティグエスト殿におきましては闘技場の件では、お世話に・・・いえ、お世話しました」






 

 

 にっこり、と若干腹黒な笑みを浮かべた彼女に、テルミアは絶句。トゥーランドとファナですら苦笑いを浮かべた。

 

 




「そ、それは失礼しましたっ、あの、本当に格好よくてですね・・・男性だとばかり」

 





 顔を真っ赤にしてテルミアがたどたどしく口を開く。

 彼女もまた、自分にある種の王子像を抱いていたのかもしれない。若干落胆して見える。男装している自分は、自分で言うのもなんだが女性にもてる。自分を男性と信じていたならこの落胆も頷ける。

 決してさっきのように勘違いはしないわよ。

 剣を交えたティグエストも自分が女だとは思いもしなかったのか、口の中にケーキが入ったまま目を見開いている。とりあえず、飲み込もうか。

 その視線での訴えが通じたのか、彼はごくんと喉を鳴らしてケーキを飲み込むと、しばし食い入るように自分を見つめてきた。

 暫くそうしていたが、何かに納得したように頷くと「女装ではなかったのですね・・・」と呟いた。

 そうですけど、何か?

 彼は未だ突き刺したままだったフォークをケーキから抜いて、皿の端に置いた。そしてテルミアに視線を向けた。その視線は真剣そのものだ。





 

「テルミア、とりあえずあれをお見せしましょう」

「あ、あ、そうね、兄様」




 

 そう言って彼女は、持っていたポーチの中から丁寧に折りたたまれた布を取り出した。その布は刺繍が凝っているわけでもなかったが、きちんと洗われて綺麗だった。

 それを大事そうに膝に置くと、ゆっくりと開く。そしてその中から出てきたものを手に持ち、ゆっくりとルディに差し出した。




 

「・・・これが、母のブローチです」




 

 嬉しそうに微笑む彼女の手に乗っているのは、大きな翡翠の嵌めこまれたブローチだ。翡翠の周りはささやかな金の装飾で縁どられ、翡翠自体は長い年月を超えてきたのだろう、アンティークな香りが漂う。

 それでも、大切にされてきたのだろうというのが一目で分かる品だった。

 それを見つめる兄妹の視線は柔らかい。



 

「そう・・・よかったわね」




 

 あの試合の後、全て渡すと言われたが金品の殆どはファナに情報料として渡し、目的だったブローチは直接テルミアに渡すように闘技場に申請しておいた。

 無事に届いたようで良かった。



 

「兄妹揃って、お礼申し上げます。ありがとうございました」



 

 ぺこり、と頭を下げる兄妹にルディは笑みを向けた。しかし、困ったように眉根を下げる。




 

「・・・けれど、詳細を聞いていないわ」





 

 なぜ、彼が闘技場にいたのか。

 どうしてここにいるのか。





 

「それも今から説明いたします。ただ、その後ひとつお願いがございますことを、頭の端に留めておいていただきたい」




 

「・・・何かは分かっていないけれど。いいわ、話して頂戴」




 

 にっこりと笑うと、ティグエストは姿勢を正して、その口を開いた。

 






 

 

 


読んでくださってありがとうございます!

まだ大物兄妹とのお話が続きます。


誤字脱字がありましたら、こっそり教えてください。

隙を見て修正はしているのですが・・・

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