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男装の令嬢  作者: kokusou.
舞踏会編
14/27

令嬢、客人と会う

読んでくださっているかた本当にありがとうございます!

なかなか話が進まずに申し訳ないですが、気長にお付き合いくださるとうれしいです。

以前のあの方の登場です。




 

 

 ハバーニール・オレッド。

 現宰相の息子。当初騎士団を希望するほどの剣の腕の持ち主。闘技場での大会にて現将軍、バーデルード・カルカンに敗れる。





 

 

 闘技場で目にした紅を思い出して、ルディは嘆息した。確かに女性に騒がれるような顔であるが、あの鋭いヘビのような目をはじめとして、醸し出す雰囲気も苦手だと思った相手だった。

 闘技場で浴びせられる女性たちの黄色い声に、笑みを湛えて手を振り返していたのを思い出して、ルディはその眉間にしわを寄せた。

 溜息を吐いてそれを指で解しながら、目の前の父に向って諦めとも言える問いをする。




 

「で、お父様、それをお受けになられるのですか」

「他に当てがないのでな」




 

 予想通りの返事は、更にルディの気を重くした。

 とてもではないが、できる気がしない。エスコートしてもらうなど想像できない。



 

「大体最初からわたくしの意見など無駄ではないですか!舞踏会に行くところからしてっ」

「仕方あるまい、相手は王だぞ。頑張って目にとまらずに帰って来い」




 

 父親のいうこととは思えないが、ぜひそうしたいとルディは思った。切に、切に。

 無理だろうな、というのはルディ以外の二人の心中に共通していたが。

 トゥーランドがくい、と眼鏡を押し上げ、その奥から主人を見つめた。その視線に気づいたジムナスもトゥーランドに視線を合わせる。




 

(お嬢様、どうして自分が舞踏会に呼ばれたか、お分かりになられてないようですね)

(そうだな、私もこんなことになるとは思っていなかったが)

(実際、お断りできないのですか?)

(無理だな、向こうの勢いは目を見張るものがある)

(容姿だけならまだしも、お嬢様のどこが良かったんでしょうね)

(そんなこと私には分らん。まぁこの子を泣かせば親族が総出ででてくるだろうな、ルイザス筆頭で)

(そうですね、分ってらっしゃるんでしょうか)

(さぁな・・・)




 

 二人が目線だけで会話を繰り広げる中、何とか打開策はないかと一人悶々としていたルディの怒りのメーターは突如振り切れた。




 

「どうしてこうもうまくいかないの・・・私は、私はっ!!」

「落ちついてくださいませ、お嬢様」

「これが落ち着いていられる?!そんなわけないでしょ!!何この八方塞がりはっ!」

「あのぅ・・・」




 

 思わずぎろりと睨みつけてしまったのは仕方ない、条件反射だ。

 ルディの余りの剣幕故か、こっそりと扉から顔を覗かせていたメイドがびくりと体を震わせ、じわっとその目に涙をためた。普段は優しい次女の怒りにふれて、相当びびっているらしい。

 女性を睨みつけてしまったと理解したルディは、さっと顔を青くするとドレスを翻して素早くメイドの元へ向かう。

 目を見開いて言葉ともつかない微弱な声を洩らすメイドは、完全におびえきっているらしく、逃げることもできずただ立ち尽くしている。

 なるだけ慎重に、そのメイドの手を取った。ドレスに気を使いながらふわりとしゃがむ。





 

「・・・ごめん、驚いたね。驚かすつもりはなかったんだ、許して、くれる?」




 

 素早く男装モードに切り替え。

 少し憂いを帯びた碧の瞳が、不安げに揺れ、下から顔色を窺うように見上げてくる。申し訳なさを滲ませたその瞳は、先程の怒りを露ほどにも感じさせない。

 そして仕上げは男も真っ青の落とし文句。

 顔を真っ赤に染めたメイドは、はぃ・・・と小さな声を漏らした。

 すっかり自分の世界を作り上げ、ルディが新たな信仰者を作り上げた瞬間だったが、本人はその自覚がない。それを分かっているジムナスは溜息をついて、二人を現実世界に呼び戻すために口を開いた。




 

「ルディ、メイドを誑かすな。で、どうしたんだ?」

「ふ、ぁ・・・、はっはい!実はお客様がお見えでして」

「客?」





 

 訝しげにジムナスは片眉をあげた。この反応からしても、約束などしていないのは明白だ。トゥーランドも思わず手帳を出して、予定を確認している。しかし結果は同じようだった。

 二人のなんとなく険悪な雰囲気に押されて、メイドは口ごもったが、ルディの続きを促す視線を受けて頬を染めつつも続けた。




 

「あの、ハッケンベルド家の方だと」

「ハッケンベルド?没落貴族じゃないか」




 

 その名前で誰に用事があるのかはっきりとわかったルディは、ドレスの裾をつまむと、足早に執務室を出て行く。

 それはあっという間の出来事だった。小声でメイドにお礼を言ったらしく、メイドは彫刻の如く固まっている。

 取り残された父と執事は、一瞬その動きを止めたが、お互いに顔を見合わせると溜息をこぼしてその後ろ姿を追うべく執務室から踏み出した。

 

 











 



 

 

「テルミア!」



 

 ドルトナンド家の扉の前に立っている少女に、ルディは階段の上から声をかける。メイド頭と何か話していたらしい少女が視線をあげ、喜びと驚きでその瞳を染めていくのを見ながら階段を下りる。

 思わずといった具合でテルミアがこちらに寄って来るのを見て、思わず顔を綻ばす。ドレスの為に駆け下りられないのが歯がゆい。

 今日のテルミアは以前の薄汚れたワンピースとは違う、若草色のドレスだった。そのドレスを用意したのは恐らく横にいる女性だろう。その麗しい顔に笑みを浮かべているのがここから見えた。

 焦る気持ちを抑えながら、やっと二人の元にたどり着いたルディが口を開く。



 

「ファナ、貴女がここまで彼女を?」

「あら、他にこのようなことができる人物がいて?」



 

 妖艶な笑みに、隠す気もない自信を含ませてファルナールは笑んだ。

 彼女の黒髪に赤い瞳とはぴったりのまるで燃えるかのような赤いドレスは、今日の為に新調したのだろうか。一体彼女にどれだけのお金があるのか甚だ疑問だ。彼女は貴族ではないというのに。彼女の裏の仕事である情報屋とはそれほど儲かるものなのだろうか。



 

「ルディ、何を考えているか丸わかりよ。あなた。・・・あの仕事、なかなか上からも来るからね、いい時はいいのよ」





 

 貢がせるのもありよ、などとのたまう彼女は本当に大物である。その癖後腐れが殆どないこともルディは知っている。そこは彼女の手腕、といったところか。

 以前勝手に貢いでくる、といっていたのも思い出して、女性としての彼女の魅力の凄さに心の中で感心した。

 実質ルディも女性なり男性なりになかなかに貢がれているのだが、本人に自覚はない。




 

「え、ファルナール様、ルディさまがお考えになったことなぜおわかりで?!」

「あんたね・・・、もういいわ」




 

 きらきらと目を輝かせて見つめる少女の視線を振り払うように、ファナは手を振る。その顔に呆れが滲んでいるのをみて、ルディも苦笑した。来る間もこんな会話をしていたのが容易に想像できる。

 しかしそれにファナは呆れていても、嫌悪を持っているわけではなさそうだ。何か、この彼女の母性本能でも刺激するものをテルミアは持っているのかもしれない。



 

「それにしても、今日はどうしたの?随分急に」

「ルディさま、ここでは何ですから奥にお通ししてはいかがです?」




 

 場を見かねたメイド頭の言葉ににはっとした。話があるというなら友人である彼らを通すのは当たり前だ。

 




「ええ、そうね」

「い、いいいえっ!今日は以前のお礼と・・・その、その、あの、大変不躾ながらお願いがございまして、でででででですからそのようなことまでしていただかなくともっ」




 

 どもりすぎだろう、と突っ込みながらもルディは首を傾げた。お願いとはなんだろうか。また闘技場に出て一戦と言われたなら、今度は流石に断ろうと思う。

 とりあえず必死で手を振って遠慮をするテルミアに、どうしようもない、と言わんばかりに肩を竦めて見せるファナを一瞥して、やはりこの家の当主の娘である自分のすべきことは彼女たちを部屋に通すことだ、という意識に至ったルディが口を開こうとした時だった。



 

「テルミア、落ち着きなさい。通してもらおうではないか」



 

 聞き覚えのあるようなないような声がしたと思ったら、扉を開けてにっこりとほほ笑む男性の姿が。

 その姿に一瞬眉根を寄せたルディだが、嫌に考えが読めないその表情と、記憶の中の顔が一致したところで絶句した。

 なぜ、ここに。

 



「ああ、ルディ、この方はテルミアの兄上よ」

 



 なんでもないかのように紹介するファナにぎょっと目を見開く。ファナは知っているはずだ。

 

「こ、この人!闘技場に出てた人じゃない!」

 


「お会いするのは二度目ですね、ティグエストと申します」



 

 にこり、と笑ったティグエストはふわふわとした栗毛を揺らして、こてん、と首を傾けて見せた。まるで犬のような仕草にルディは眩暈がした。

 犬にしては大きすぎるわよ!

 



「以前はすみませんでした」

「・・・ことの次第を聞かせてもらえる?」

「勿論です、ただ・・・」



 

 ぐううぅぅぅぅ。

 



 

「・・・・・・」

「私どもの腹の不作法をお許しください」

 




 

 お腹が鳴ったことに顔を真っ赤にするテルミアといっそ清々しい笑顔で何事もないように言い放ったティグエスト。二人の同時に鳴り響いた腹の虫に、メイド頭が呆れたような顔をしながらも踵を返すのを視界の端に確認した。

 これは早く通してあげなくてはね・・・。


 

「ファナ、二人にはなにも与えていないの?」


 

 与える、という表現は間違っていないはずだ。

 ルディにはこの二人は犬にしかもう見えない。

 耳をつけたら丁度いい。悪い意味ではなく。

 と、本心から思っていた。

 ルディは眩暈を覚えて頭を押さえた。空腹でか再び壮絶な音を発するおなかの主たちを見て、次いで美貌の女性を見る。

 彼女は、にっこりと笑って。




 

「悪いけど、帰ってこない食事は与えないの」



 

 ・・・そう。






 

 


ルディのエスコートの相手はだれになるのでしょうか。

まだ作者も悩み中です。

次回はハッケンベルド兄妹のお話。


感想の方で意見をいただきましたので、文章の方字下げをさせていただきました。


ありがとうございました!

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