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男装の令嬢  作者: kokusou.
闘技場編
10/27

令嬢、将軍と決着する





 剣を握り直すと、再び、滑走。


 慣れない、普段より重い剣。しかしそれは相手も同じ。そこにしか付け入る隙はない。

 先程は引いたが、今度は引かない。

 右手を振り上げる。剣が空気を切り裂き、唸る。相手の剣がそれを受け止め、高い音が鳴り響く。

 気合いの声と共に左の剣を押し出す。またもや弾かれるが、素早く踏み込み、再びの右。相手が思わずという具合に一歩後退した。



 

 まだ。

 まだいける。




 

 いつもより重い剣に、右肩が軋んだが、そんなことはもう気にしていられなかった。

 左脚を踏み込み、体を捻り、剣を唸らせ、再び逆の剣を放つ。再び相手が後退。

 唸り声を上げてバーデルードも気合で踏み込もうとしてくるが、それを体を回転させていなす。ルディの動きはそれこそ剣舞のようであった。

 次々と変わっていく姿勢。急激な動きに足が、腕が、剣が、体中が限界を訴えた。ルディは歯を食いしばって耐える。次々と変わる視線に、研ぎ澄まされた感覚に、神経が焼き切れそうだ。

 半回転して無理やりの一閃。

 腕の筋肉が引き攣り、それでもと突き出した腕が嫌な音をたてた。

 気合いの一撃の功能か。ガキン、と重々しい音。相手の剣が微妙に逸らされる。

 ルディはその碧の目を煌かせると、相手の懐に飛び込んだ。

 バーデルードの反応も速く、剣を引きよせ、ルディの首筋に狙いを定めた。

 剣が空気を切る音が、いやに耳に届きー




 

 

「そこまでだ!」




 

 ぴたり、と両者の動きが止まる。

 同時にあふれ出す、汗。




 

 バーデルードの剣は、ルディの右の肩に触れるか触れないかの位置に。

 ルディの剣は、ぴたりとバーデルードの太い首筋に。




 

「将軍、貴殿の負けだろう」




 

 ゆるりと笑い、両者の動きを止めた号令をかけたのは。



 

「王・・・」



 

 バーデルードは呟き、剣を引いた。



 

「楽しかったぞ、テルミオ殿」



 


 にこり、と笑ったその顔には、負けたことへの悔しさなど微塵もなく、ただその試合を終えたことへの喜びが溢れていた。

 ルディも微笑み返す。こんなにも辛い試合は、兄との対戦ぶりだ。だが、楽しかった。久々に自分の限

界に挑戦できた気がした。




 

「もしもその剣が、あなたのものであれば私は負けていたでしょう」



 

 剣を折るような素振りが効いたことも、その剣を無理やり弾くことも、彼のその手に慣れたあの重い愛剣ならばなかったであろう。なれない剣だからこその隙だったのだ。



 

「それはあなたも同じこと」





 

 バーデルードは剣をおさめると、そう言った。そしてもう一度微笑み、その胸に手を当てると、一礼をする。そして踵を返して退場していった。ルディもその背を視線で追い、その後剣をおさめた。

 そしてどこかで見ているだろうテルミアを思う。

 ・・・これで、約束は果たした。母君の形見を渡してやれる。

 ほっとした。まさかここまで辛い試合になるとは予想していなかったし、優勝できるとも正直思っていなかった。まぁ結果としては優勝したわけで、これで万事解決だ。




 

『以上を持ちまして、決勝戦を』

「待ってくれ」




 

 アナウンスを遮ったのは、またしても。





 

「王!何をー!」






 兄の声だ。ああ、向こうを見たくない。本当に見たくない。どうしてもどうしても見たくないっ!

 ざわり、と観客にも動揺が広がる。

 おそるおそる振り向くと、闘技場のビップ観覧席から王が飛び降りてくるところだった。




 

 彼は着地すると、優雅に歩いて向かってくる。どういうつもりなのか、視線で訴えると彼は笑んだ。

 初めて近くで見る王は、フェロモンただ漏れの美青年だった。艶のある黒髪、ややなだらかな線を描くその瞳に嵌めこまれた、宝石のような濃い紫の瞳は、光の加減でダークなその色彩から鮮やかな色合いへと変わる。その容姿は、道を歩けば後ろに行列ができそうなものだ。

 黒と白が主の、金の装飾がされた豪奢な服は、彼が王だということをまざまざと表している。襟にある鷲の紋章が、やけに目に焼きついた。

 面倒くさいことになるのが必須なので、是非関わりたくないと思っていた人種なのだが。一体どういうことなのだろう。




 

「貴女のことは、知っていたよ。てっきり本当に病弱なのだとばかり思っていた」




 

 意味深な笑みを浮かべる、王、レーナルト。

 一気に体が冷えた気がした。

 -ばれている。兄がばらしたのか。いや、そんな筈はない。彼はルディが社交界にでないことも、王族貴族と関わらないことも了承している。では、どうして。




 

 再びルディに意味深な笑みを送ると、彼は声を張り上げた。



 



「前回大会の優勝者として、この者に試合を申し込む!」

 





 ・・・・・・



 

 はぁあぁぁあ?!








 

 


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