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莎月の短編こぼれ話  作者: 莎月 双樹
『とある招喚』こぼれ話
1/2

嵐の前の平和


 R15は念のためです。

 思いついて書き上げた時点で話を追加していきますので、順番などはランダムです。

 同様の理由で不定期投稿となります。


 こぼれ話を読まれて「短編のイメージと違う~」と思われることが、もしかしたらあるかもしれません。念のため、事前におことわり申し上げます。



 とある世界のとある大陸のとある王国の城の地下にあるとある部屋。

 その部屋は「招喚の間」と呼ばれていた。その名のとおり招喚――招き呼ぶこと(by広辞苑)――を行う部屋である。

 窓もなく、壁から床から天井まで石でがっちりと組まれた室内では、ただいま招喚の儀式の真っ最中だった。


 床で淡く光る招喚陣を囲む6人の神官――皆フードを目深に被って顔はわからない――を除けば、室内にいるのは儀式を監督する高齢の神官長、若き国王、若き将軍、若き王佐の4名である。

 ちなみに全員男であるのは、万一儀式が失敗して魔物などが出現した場合に備えてである。

 しかし、ここ300年ほど儀式が失敗したことがなく、そのせいか若い――いずれも20代である――3人の間にはまったりした雰囲気が流れているのはその会話からも明らかだった。


「さてさて、現れる‘救世の乙女’とは女神か魔物か、楽しみだな。」

 3人の真ん中に立つ若き国王がにやりと笑みを浮かべて両隣の青年たちへ声をかけると、その左に護衛として立つ将軍は

「自分の妃となるかもしれない者を魔物よばわりか?」

ぶっきらぼうとも言える口調で返し、3人の中では一番年上の王佐は

「魔物ですか?召還されるのはいつも『天上人の如き美を備えたる』と言われますが?」

と穏やかな口調で主に問う。

「過ぎたる美しさは魔性を備えると言うではないか。それに力ある魔物の雌は男をたぶらかすために人にあらざる美しき皮を被るものだ。」

 己の片腕である将軍と次期宰相有力候補と言われる王佐にそう言ってのけると、肩をすくめて見せた。


 実はこの3人、それぞれ年齢や立場は違うが、親同士の関係や思惑によって幼い頃からよく学びよく遊んだいわゆる幼馴染であったため、3人だけの会話になると砕けてしまうことがしばしばだったりする。

 今は儀式の真っ只中で、この場には他にも神官長や神官たちが居るのだが、儀式がが始まって既に1時刻(2時間)以上経ち、始めの内こそ緊張していた3人の気もすっかり緩んでしまったようだった。


「お前がおとなしく誑かされるタマか?」

将軍が問えば。

「あー、あちこちのご令嬢やご夫人に言い寄られても上手くあしらってらっしゃいますねぇ。」

王佐が答え。

「そうだったかな?」

国王がとぼける。(いや、これが地か?)

「おい、こいつの方が参ってメロメロになった相手とかいなかったのか?」

「そうは言われましても…ロットイヤー伯のご令嬢も、キンブリー男爵夫人も、フレイフールの‘一の華姫’も袖にしてらっしゃいましたからねぇ。」

「そいつぁーすげぇな。」


 挙げられた女性はそれぞれ『天使の如き愛らしさ』、『朝露の如き儚き美貌』、『都随一の歓楽街で最も美と知を兼ね備えた娼姫』で知られる、国の『三大美女』と称される女性たちである。それらを皆袖にしたというのだから将軍のセリフはごもっともであるのだが、

「いやぁ、照れるなぁ」と言いながら国王が可愛く頬を染めて照れている(フリをしている?)のがよくわからない。

「セイ様、ラク将軍は褒めてらっしゃるわけではないと思いますよ」

 王佐がにこやかに微笑みながら冷静につっこむ。

「シンの言うとおりだ。お前が照れても可愛くねーからヤメロ」

頷く将軍。


 そこで緊張感の無い会話が終わるかと思いきや、

「まぁ、なんだ。出てくるのがお前の好みのタイプだと良いな」

‘空気を読まない’ことで有名な若い将軍がさらに続ける。

「そう言えば長い付き合いですけど好きな女性のタイプって聞いたことないですよね。」

とその話に王佐が乗り。

「う~ん、自分でもイマイチわかんないんだよねぇ。」

 本気で首を傾げている(ように見える)国王。

「マジか?」

「あちこちのご令嬢やご夫人に言い寄られても上手くあしらってらっしゃるので、てっきり理想像があって‘それ以外嫌’なのか思ってましたけど」

 驚く幼なじみ二人をよそに、

「そうだったかな?」

 さらに首を傾ける国王。…それ以上傾けると倒れそうである。


 更には、何とか侯爵の子息がどこどこの令嬢に言い寄っているだの、近衛騎士団の一番人気の騎士の想い人は誰だだの、すっかり恋バナで盛り上がっている。


 背後でますます緊迫感が無くなっていく会話に、こめかみに血管を浮き立たせつつも、ここで怒鳴って儀式を妨げてはと錫杖を持つ手をふるふると振るわせながらぐっと堪えている神官長が哀れかもしれない。

(過去に神官長の怒鳴り声で飛んでいた鳥が気絶して落ちてきたことが本当にあったものだから、ここで怒鳴られると神官たちの集中が妨げられて儀式の失敗は間違いなかったりする。)


 そうこうするうち――幸いにも神官長の頭の血管が切れる前――に、床の招喚陣が放つ光が強くなっていき――――

「来ますぞ!!」

 神官長の叫びと共に弾けた。


 ある意味、穏やかな時間が終わりを告げるまで、あと少し……



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