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第9話 激突!体育対抗祭 中編

 B組(白)のバレーメンバーが一人集まらないので心配をしていたら、なんと階段で転んで怪我をして保険室へ運ばれていたらしい…

 バレーは六人しか選手が選ばれていない。だから一人でも欠けると試合が出来ない。

 もしも試合が不可能な場合はバレーに限らず相手の不戦勝になる。

 B組(白)のバレーの代表選手は急遽バレーの出来る二年生の補欠を捜した。しかし補欠の人員が見つからない…仕方ないので三年生の補欠を捜すも見つからない…


 先生達も焦りだした様子で、だんだんと体育館内が騒がしくなってきた。

 どうやら試合を早く開始しないと今日中に全試合が終わらないらしい。

 だからなのか先生はあと三分で代わりの選手を見つけろとか言っている…

 三分って…インスタントラーメンじゃないんだし…


 うーん…補欠か…って!そうだ!しまった!俺は補欠要員だ!

 ここに居るのがばれたらやばいぞ…よしここは取りあえず…逃げよう…

 折角補欠になって体育対抗祭に参加しなくてもいいと思ったのに、ここで見つかったら強制参加になってしまう可能性がある…

 俺ははゆっくりと立ち上がった。


「あれ?綾香ちゃんどうしたの?何処か行くの?」


 げ…そうだ絵理沙が横に居たんだ…くそ、こんな所で俺の名前を呼ぶな!

 俺が補欠だってばれたらどうするんだ!と思っていると…


「綾香ぁ!」


 茜ちゃんが息を切らしながら俺の所に向かって走って来た。

 うわ!茜ちゃんだ…やばい…もしかして…


「はぁはぁ…あ、綾香って確か補欠だよね…」


 やっぱり…確かに俺は補欠だよ…


「う、うん…そうかも…」


「先生!見つけましたー!補欠要員です!一年生でもいいですかー」


 うわ!ちょっと待って!


「あ、茜ちゃん!まだ私やるって言ってないのに!?それに私バレーとか…」


「ダメ!綾香しかいないんだもん!来て!」


 茜ちゃんは俺の手を持つと強引に引っ張った。

 横では絵理沙が苦笑しながら俺を見ている…


「あは…そっか…そうだったよね…仕方ないよね、綾香ちゃん行ってらっしゃい…がんばってね…」


 絵理沙…今頃気がついても遅いよ…


 俺は結局は茜ちゃんに強引にコートまで連れて行かれてしまった…


 仕方ないな…ここまで来たらやるしかないか…

 で…こっちのチーム構成は三年生が2人、二年生が一人、一年生が私を入れて三人か…

 ん?一番背の高い三年生の女子が俺の事を見てるぞ…この子は三年B組だよな?B組にこんな子いたっけ…覚えてないな…

 それにしてもでかいな…身長は180近いし、体格もすっごいいい…

 筋肉質の体つきで褐色の肌がすごく健康そうなイメージだし…

 髪はすごく短くしていて、男性物の服でも似合いそうな感じだな。


「ねえ茜、この子…バレー出来るの?」


 その三年生が心配そうに俺を見ているぞ。

 うーむ…そりゃこんなに身長が小さくて小柄だとバレーが出来るのか不安だよな…


「あ、綾香は大丈夫…だと思います…多分…」


 多分って…茜ちゃんもすごく自信がなさそうだ…


 すると別の三年生の女子が話しを始めた。


「そうだ、今さっき聞いたんだけど、B組(白)はさっきバスケで勝ったから最下位から三位まで順位あがってるって…今は二位との差が殆どないから、ここでバレーが勝てば二位になる…優勝も見えるかもよ」


「そうか…それじゃここは絶対に勝たないとな…勝つよ!みんな!!」


 バレー部の三年生の女子がみんなに向かって檄を入れた。


 すると何故か、全員が一斉に俺を見る…おいおい…


「よし、取りあえずは五人だと思ってがんばろう…こっちは三人がバレー部だからなんとかいけるかもしれない…」


 おい…こら!その言い方ってまさか俺は戦力に入ってないのか?


「ごめんね…綾香…私もフォローするからがんばろうね…」


 茜ちゃんが小声で俺に呟いた…茜ちゃんまで…

 よし…こうなったら俺もがんばって…って…まてよ…

 絵理沙と話したんだよな…あまり目立つなって…

 うーむ…そ、そこそこがんばろう…


 ピー!試合が始まった。


 体育対抗祭でのバレーは普通の試合より短く3セットマッチで2セット先に取った方が勝ちになる。

 ちなみに俺はバレーボールの試合の経験は殆どない!だから試合の最初の方は体育で習った基礎程度のレベルのレーシーブやトスで対応していた。

 しかし思った以上に動けるな…体が軽いし小回りが効く…


 やっぱりスポーツは楽しいぞ。だからなのか試合中にバレー部員の動きも研究している自分がいる。

 バレー部員は流石にうまい…よし…そうか…なるほど!おお!アタックは気持ちよさそうだな…

 そういえば昔、悟だった時に遊びでだが数回ほどアタックしたような記憶もあるな。

 しかしこの身長だと…まあ無理をする必要はないか…


「綾香、思ったより動けてるね!よかった…」


 俺は無難に試合をこなしていた。お陰でなんとか茜ちゃんの顔をつぶさなくて済みそうだけど…

 しかし三人のバレー部以外、俺を除くメンバーの二人がひどく下手だった…

 これは俺が心配されるレベルじゃない…なんとかなっているのもバレー部の三人のおかげだ…


 結局B組(白)は第一セットを取ったが、第二セットを落とした。


 そしてラストの第三セットが始まった。

 これに勝った方がポイントをゲット出来る。


 しかし試合が始まると…やっぱりだ…相手はこのチームの穴をついてくる…もちろん俺じゃないぞ!

 こちらのメンバーでもうちのクラスの子…確か大袋さんだっけ…この子はレシーブがすごく下手だ…ほぼミスしている…

 だから、サーブとアタックでこの子は集中攻撃されている。

 茜ちゃんと二年生のバレー部員がフォローするがやはり限界はある。

 得点はあっと言う間に7対11になった…やばいなこの調子だと負ける…


 バシーン!すごい音がした!大袋さんの代わりにレシーブを受けようとした茜ちゃんが大袋さんと一緒に倒れている…

 大袋さんはすぐに立ち上がったが、茜ちゃんがなかなか立ち上がらない…


「先生!越谷さんが他の生徒とぶつかって…」


 三年生が先生の所に行こうとした時に、茜ちゃんは立ち上がった。


「わ、私は大丈夫です…」


 そう言いながら右足を引きずってる…ぶつかった時に足首を捻ったのか…


「ちょっとタイム!」


 バレー部の三年生がタイムをかけた。そしてメンバー全員を集めた…


「越谷さん、大丈夫?さっきので足首を痛めてないか?」


 茜ちゃんの表情はとても険しい…


「その顔じゃやはり大丈夫じゃなさそうだな…」


 流石は三年生だ、表情を見るだけでもう茜ちゃんが限界だと気がついたらしい…

 他のメンバーも意気消沈している…


「だ、大丈夫です!まだやれます…」


 茜ちゃんは額に汗を浮かべて苦痛の表情で言った。


「もうダメじゃない?茜も怪我しちゃったら勝てないよ…どうせ負けだよ…」


 茜を見ていたバレー部の二年生の女子が言った。


「私もそう思うよ…ダメだよ…もういいじゃん…別に…私はもういいや」


 さっき茜ちゃんにぶつかったうちのクラスの大袋さんが言った…

 何だろうか…すごくムカつく…俺はこういう投げやりな態度は大嫌いだ…


「いいじゃん、どうせ遊びなんだしさ、もう負けでいいじゃん」


 三年の女子が言った…


 超ムカついた…プチ…俺の中で何かが切れる音がした…


「おい…何がもうダメなんだよ?まだ試合には負けてねーだろ!何だお前ら?こんなに茜ちゃんや三年生のバレー部の人もがんばってるんだぞ!!何がダメなんだよ!俺はそういう言い方してすぐ諦める奴は大嫌いなんだよ!!」


 俺は思わず素に戻って体育館中に響くほどの大声で怒鳴った。


「あ、綾香!俺って!?どうしたの?ちょっと!」


 茜ちゃんが俺を止めに入った。けど頭に血が上ってる俺はまだまだ言い足りない。


「おい!そこの三年!こっち見ろよ!おい!遊び?ああ、遊びかもしんねーよ!だけど遊びだって一生懸命にやらなきゃいけない時だってあるだろ!」

「おい!言っとくがな、俺だってバレーは得意じゃないんだよ!みんなの足を引っ張らないようにがんばってるんだよ!ふざけるなよ!」

「さっき勝てないよどうせって言ったそこのバレー部の二年!お前だよ!お前!何がどうせ勝てないだ!最後までやらないで諦めんなよ!それと茜ちゃんにぶつかったお前だよ!大袋!お前のフォローをする為に茜ちゃんが無理しすぎた結果がこれだよ!わかってんのか!おい!何だ?下向きやがって!何か文句あれば言えよ!ほら!言え!」


「綾香!どうしちゃったの!綾香…もういいから…やめて…」


 茜ちゃんが俺にしがみつき今にも泣きそうな顔で俺を止めようとしている。


「おい!もういい!わかったから落ち着け!!」


 バレー部の三年生の女子は俺の目の前に立つと俺に向かって怒鳴った。


 俺はその一言で我に返った…

 そして俺にしがみついて懸命に止めようとしている茜ちゃんを見た…

 よく見れば茜ちゃんは…泣いていた…俺に怒鳴られた三人も涙目になっている…


「もう…いいから…綾香…ぐす…」


「あ、茜ちゃん…」


 やってしまった…いくら頭に血が上ったからって…無茶くちゃ言い過ぎた…

 おまけに俺とか言っちゃってた気がするし…やばい…ああ…どうしよう…

 メンバー全員がシーンと静まり返っている…それどころか体育館内が静まり返っている…

 やばい…取りあえず謝っておこう…


「ご、ごめんなさい…私…言い過ぎました」


 何だか泣きたい気分になってきたぞ俺…


 そう思っているとあの大きな三年生が俺の頭に手を乗せてきた…

 この人はさっき俺に怒鳴ってくれたバレー部の三年生。


「君は名前は確か…綾香さんだっけ?綾香さんはすごいな…あんなに熱くなれるなんてな…私もね、さっき綾香さんと同じような事を丁度言いたかったんだ。どうだ?みんな?補欠で参加してくれた一年生がこんなにがんばってるのに、それでもがんばろうって思わない訳か?」


 先ほどまで下を向いていたメンバーがゆっくりと顔を上げた。


「ごめんなさい…私…なんか…本当にごめんなさい…」


 どうせ遊びなんだしと言っていた三年生の女子がみんなに頭を下げた…


「私…私が下手だから…越谷さんが一生懸命にがんばってくれてたのに…ごめんなさい…」


 大袋さんも頭を下げて謝った。


「私も…どうで負けるなんて…私はバレー部なのに…本当はこの試合に勝ちたいのに…部長、ごめんなさい…、茜ちゃん…ごめんね…」


 バレー部の二年生の女子も謝った。


「みんな、絶対に勝てる!とは言い切れないけど、でもね、最後までがんばろうよ、一生懸命やろうよ。ほら、茜ももう泣くな、大丈夫だよ、みんなまだがんばれるから」


 バレー部の三年生はそう言って全員の手を握って廻った。


「この日の為だけのチームだけど、最後までみんなでがんばろうな」


 「「「はい!」」」


 すごいな…この人…もう全員を纏めちゃったぞ…

 俺なんて怒鳴ってただけだ…恥ずかしい…

 俺は茜ちゃんを見た。茜ちゃんはもう泣き止んでいる…よかった…

 さっきは茜ちゃんにも迷惑かけちゃったな…


(茜ちゃん…さっきはごめんね…)


 俺は小声で茜ちゃんに謝った。


(え?綾香…ううん…別にいいんだよ…あの時は私も気が動転しちゃって…)


(いやダメだよ…あんなの怒鳴っただけだもん…私つい頭に血が上っちゃって…本当にごめん…)


(本当にいいのよ、綾香は一生懸命だったからみんなのあの発言に怒ったんでしょ)


 茜ちゃんはそう言うと笑顔を返してくれた。

 やっぱり茜ちゃんっていい子だなあ…

 俺にはもったいない…ってまだ俺のものじゃないな…


(あ、あの…あそこの大きい三年生…バレー部の人だよね…)


(うん…野田先輩って言うの…バレー部の部長だよ)


(やっぱり…そうなんだ…やっぱり部長をしてるだけはあるね…よし!私…言ってみるよ)


(え?綾香?何を言うの?)


「野田先輩、次のローテーションで私が前衛になります…だから、私にボールを集めてみて貰えませんか!」


 野田先輩は驚いた表情で俺を見た。


「え?何?綾香さんに?別に綾香さんは下手じゃないけど…でもその身長でアタックとか打つ気?ちょっとそれは無理があるんじゃないのか?」


 みんながそれは流石に無理だろうという表情で俺を見ているな…

 まあ。普通はそう思うよな…でもな!


「やって見ないとわかりません!私を信じて!一度でいいから信じて!」


 また熱くなり俺は大声で怒鳴ってしまった…やばい…俺って学習能力がないな…

 ほら、全員が驚いた表情で俺を見ている。

 しかし…なんかこの展開って、熱血バレーボール漫画みたいだよな…

 それでも俺はこの試合は勝ちたい!漫画みたいでも熱血でもなんでもいいんだ!


「私は…綾香を信じます!野田先輩!綾香を信じて下さい」


 茜ちゃん…

 野田先輩は俺を見ながら少し考えている…


「私も綾香さんを信じたいです!」

「私もです!」

「きっとこの子ならやってくれるはずです!」


 大袋さん…それに二年生の…名前わからないけど…皆、ありがとう…

 しかし…本当に熱血バレーボール漫画っぽい展開になったぞ…


「うん…わかったよ…綾香さんを信じよう…みんな!」


 う、うーん…そこまで信用しなくっても…

 ここまでいったら本当に勝たないと駄目だよな…


 試合が再開した…


 相手のサーブから再開だ!

 ボールは茜ちゃんの所へ!怪我をしているから狙われたのか?しかし茜ちゃんは苦痛の表情をうかべながらもうまくレシーブした。

 そのボールをセッターの野田先輩がうまく俺に合わせてトスを上げてくれる!

 ネットの高さは体育対抗祭用で二メートル十センチ…通常の高校生公式よりは十センチ低い。だけど俺(綾香)は身長が142センチ…差は68センチ…十分高い…

 しかし俺は助走をつけて全力でジャンプした!俺には届くんだ!

 俺は思い切り仰け反ると全体重を乗せてボールを叩く!


 「おりゃぁぁぁあ!」


 ドカン!大きな音がしたかと思うとボールは相手のコートの中央に落ちていた!

 相手はまさか俺がアタックをしてくるなんてこれっぽっちも思ってなかったのだろう。

 きょとんとした表情で俺を見ている。ざまあみろ!

 しかし、アタック…決まったらすっごい気持ちいいな!


「お、おい…あのさっき怒鳴ってたちっこいのがすげーアタックしたぞ…」

「なんだよあのジャンプ力……」

「あれって…一年の姫宮だよな?あいつあんなに運動できたのか!?」


 外野の男子が俺のすばらしいプレーに驚いている。この調子ならいける!


 それからメンバー皆でがんばった!一生懸命に!

 一度はデュースになったがそれでも最後は勢いがある方が強い!


 こちらのサーブ!しかし相手はうまくレシーブ!

 そしてセッターがボールを浮かすとアタッカーが速攻でアタックをして来た!

 こちらのブロックは間に合わずボールは大袋さんの所へ向かう…

 茜ちゃんはボールを追ったが足の痛みで転げてしまった!

 それを見ていた大袋さんが真剣な顔つきでボールを見つめる。


「大丈夫よ茜!私にだって出来るはず!」


 バス!鈍い音がした!


「きゃ!」


 大袋さんはボールを受けた反動で転がった。

 でもボールは死んでない!あの大袋さんが敵のアタックをまともにレシーブで返した!

 ふわふわと浮いたボール…やばいコートの外に出る!

 俺は猛スピードで走って転がりながらも右手でボールを拾った!後は…


「野田先輩!!」


 野田先輩はすでにバックアタックの体制だ!

 しかしボールはかなり低い位置にあがっている…


「大丈夫だ!任せろ!」


 ドン!野田先輩の巧みなバックアタックが相手のコートに突き刺さった!


 ピー!試合終了!

 17対15でB組(白)の勝利です。


「勝った…勝ったぞ!」


 勝利が決まった!チームの全員はコートの中央へ集まって抱き合って喜んだ!

 俺も女子に混じってつい一緒に喜んでしまった…いかん…何をしてるんだ俺は…


 そして全員で握手をした後に即席チームは解散した。


 俺は体育館の端っこへ歩いて行った。そして一気に押し寄せる疲労感で床に転がった…

 流石にこの体で全力で動くとその反動も激しいな…しばらくは激しく動けないかな…


「綾香!やった!綾香やったよ!」


 茜ちゃんがすごく嬉しそうに歩いて来た。

 今もすこし足を引きずってたけど…足首は大丈夫なのかな…


「綾香?大丈夫?すごく辛そうな顔だよ?」


 俺の心配を余所に茜ちゃんは俺を心配してくれている…


「あ、うん…ちょっと疲れただけ…」


「そうだよね…すっごくがんばったもんね………」


 茜ちゃんは優しいな…すぐに人の事を考えてくれる…俺なんかの事まで…


「ねえ…綾香…」


 茜ちゃんがすごく真面目な顔をして俺を見た…何だろう…


「な、何?茜ちゃん」


「前に…夏休みに私を守ってくれた時も…あんな感じだったよね…」


 え…あ、大二郎のあの事件か…


「え…あは…そうだったっけ…」


「何だろうね…ああいう綾香を見てると…私、姫宮先輩を思い出しちゃうんだ」


 な、何で!?俺を思い出すって…俺っていつもあんな感じだったっけ…

 それとも行動がすごく男っぽくってバレかけてるのか!?


「え?そ、そうかな…たぶん兄妹だから少し似てるのかな…」


「あはは…そっか…そうだよね、ごめんね!私って何言ってるんだうろね…綾香は先輩じゃないのに」


 ……ふう…ばれてはいないようだな…まぁそう簡単にばれるはずもないしな…

 しかし、言ってる事は間違いじゃない、今の綾香は悟で正解だ…

 やっぱり、早く魔法力を溜めて、妹を捜し出して早く元に戻らないとな!

 あ!そ、そうだ!茜ちゃんの足の事忘れた!


「そ、そういえば、茜ちゃん、足首は大丈夫なの?」


「え?ああ…大丈夫!って言いたいけど…結構ダメかも…」


 何だ…良く見れば靴下の上からでも腫れてるのがわかるぞ!?


「ねえ!すごい腫れてるよ!早く保健室行ったほうがいいよ!」


「え…でもどうしよう…午後の部…私は騎馬戦で上に乗る予定なのに…」


 そんなに足首が腫れてて騎馬戦なんて出来るはずがない!

 茜ちゃんがすごく困った表情を見せてるし、こうなったら俺が代わるしかない…


「わ、私がやるよ…騎馬戦」


「え!?でも大丈夫?綾香すっごく疲れてそうだけど?」


「大丈夫だよ、休めばなんとかなるよ…それより茜ちゃんは早く保健室に」


 茜ちゃんは人の心配をする前に自分の事も少しは考えてほしい!

 行かないなら俺が連れていく!俺がゆっくり立ち上がると後ろから声を掛けられた。


「綾香さん!」


 え?この声は…もしかして…


「あ、野田部長!」


 茜ちゃんは俺よりも先にその声に反応した。

 俺の後ろには野田部長が立っている。俺に何の用事だろう…


「綾香さん、あなた凄かったよ…今日はあなたのお陰で勝てたようなもんだ…」


 え?わざわざそんな事を言いに?しかし、そう言われるとすごく照れるな…


「しかしさっきの男みたいな口調になった時はびっくりしたな」


 う…あれはすごく後悔してるんだ…失敗したって…


「ねえ茜、綾香さんは部活とか入ってるの?」


「え?綾香って…部活やってないよね?」


「え?あ…入ってはないですけど…」


「そうか!もしよかったらバレー部に入らないか?」


 げ…今度は俺が勧誘されてるぞ!それも部長に!


「綾香!バレーいいよ!面白いよ!一緒にやらない?」


 う…茜ちゃんまで…バレーか…別に部活をやりたくない訳じゃないけど…でも今の俺は本物の綾香じゃないし、戻って来た事を考えると下手に部活なんて出来ないんだよな…


「ご、ごめんなさい…私は…」


「ははは!そうか!まあ気が向いたらいつでも来てくれ、綾香さんなら大歓迎だよ」


 野田先輩はそう言いながら茜の足を見た。


「おい茜、足首…腫れてるな、保険室に行くぞ、私の背中に乗れ」


 お、流石野田先輩だ、ちゃんと茜の事も見てたんだな…


「え?でも…私…」


「でもじゃない!私は部長だぞ?」


「あ…はい…すみません…」


 茜ちゃんは素直に野田先輩の背中に負ぶさった。

 ふう…これで茜ちゃんは大丈夫だな…


「茜ちゃん、ちゃんと怪我は治してね…」


「うん、綾香も…ごめんね…騎馬戦お願いね…」


「うん!大丈夫だから!じゃあ野田先輩…茜ちゃんをお願いします」


「ああ、わかった、綾香さんまた後でね」


 そう言うと野田先輩は茜をおんぶして保健室へ歩いて行った。

 しかし…後で?って何だろう…まあいいか…

 野田先輩っていうか、野田さんは俺(悟)と同じ学年なんだよな。

 まったく知らなかったな…あんな子がB組にいたなんて…まあしかし無事に終わってよかった…


「綾香ちゃん!」


 今度は絵理沙がやってきたぞ…もう疲れてるのに…


「絵理沙さん、私今すごく疲れてるんだ…だからすこし休ませて…」


「いいよ、休みながら聞いても。綾香、すこし頑張りすぎだよ…」


「え?頑張り過ぎちゃってた?」


「そうね、ちょっと目立ちすぎだね…正直言うと怒って怒鳴ってた時にすっごく目立って、試合の最後の方もすっごい目立ってたよ。注目の的っていうやつね」


 うわーやっぱりそうか…やばい…目立ちすぎたかも…何してるんだよ俺は…

 絵理沙に忠告されてたのに…


「ご、ごめん…忠告されてたのに…」


「うん…でもね…」


「でも?」


 絵理沙がまたあの笑顔で俺を見ている…


「綾香ちゃんらしくて…すごく…格好良かったよ…」


 な、何だ!?格好良かった!?そんな事を絵理沙に今まで言われた事ないぞ!?


「そ、そうかなぁ…別に格好いいなんてないでしょ?」


「ううん…格好良かったよ…私は…そういう綾香ちゃんがね………す…なんだ」


 え…声が小さすぎて最後の方が聞こえなかったぞ…何て言ったんだ?


「絵理沙?そういう綾香ちゃんがね…の後…何て言ったの?聞こえなかったの」


「な、何でもないよ!」


 どう見ても何でもなくなさそうだぞ!俺に話せないような事なのか!?


「あ、綾香ちゃん!午前の部は終わりだし、先に教室に戻ってるね!」


 そう言うと絵理沙は俺を置いて先に体育館を出て行った。

 絵理沙!?どうしたんだろう…あまり気にしないほうがいいかな?

 よし、あまり考えるのをよそう…ただでさえ疲れてるんだし…

 ふう…まだ十二時なのに何だか色々と疲れたな…精神的にも肉体的にも…


 体育対抗祭 午前の部は終了した。


 休憩を挟んで午後の部がスタートする!

 


続く

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