第8話 激突!体育対抗祭 前編
来週ついにやって来る…
超面倒くさい行事…そう…体育対抗祭だ…
この彩北高校では九月末に全校生徒が参加する体育対抗祭というのをやる。
これは普通の運動会とは違う。競技を順番に行って点数をつけるというものではない。
この学校には各学年にA・B・C・Dの四クラスがある。
それを縦割にしてクラスを引っ付けて、一年・二年・三年のA組で赤という感じにする。
そして何種類もあるスポーツ競技の中から各クラスで代表者を決めて四色で対抗戦をするというものだ。
たとえば野球だと、一年から四人・二年から四人・三年から四人で十二人を出す。
その十二人で協力して他の組を倒すのだ。但し、その競技の部活動をしている人間は半数しか参加出来ない。野球の場合だと野球部は学年で四人のうち二人はOKという事なのだ。よってだいたいの人が部活をしている競技の代表になっている。
ちなみにこの体育対抗祭の締め括りは四チーム対抗の騎馬戦だ…
高校にもなって騎馬戦とか…まったく…
俺はスポーツは嫌いじゃないが、こういうイベント的なものは嫌いだ。
悟だった3年までの間にこの体育対抗祭に参加などした事はない!
しかし…今年は綾香の姿での参加…さすがにさぼる訳にもいかない…
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「ええと…各競技の参加者なんですが、現在はこのようになってます。何がご意見はありますか?」
学級委員長の真理子は各競技に参加する選手の選出をしている。
隣りでは実行委員の佳奈が選手の推薦をしている。推薦というのは各競技に必ずしもやりたい人間が出てくる訳ではない。その場合には佳奈は強制的に推薦が出来るのだ。
体育対抗祭実行委員の推薦はよほどの事が無い限りは断れない。
推薦されたくない人は先にやりたい競技を言っておけば大丈夫だ。
「皆さん良いようなので、これでいきますね」
「では、女子バスケットボールの選手ですが…やりたい方はいますか?」
バスケットか…俺は身長がなさすぎて無理だな…
それにしても人気ないのか?誰も手を上げないぞ…
「誰もいませんか?」
真理子ちゃんは教室中を見渡している。
「誰も居ないようなので、杉戸さん、推薦をお願いします」
佳奈ちゃんは今までの選抜されたメンバー表と生徒のリストを見比べている。
そしてしばらく考えた後に推薦する人を言った。
「えっと、女子バスケットは野木さんでお願いしまーす!」
「え!?」
絵理沙が思わず声を上げた。
「野木さんは他の競技にも出てないし、部活もやってないよねー?いいよね?私が参加するアーチェリーはやってくれないでしょ?私は本当はアーチェリーなんてやりたくないのに…交換してくれるなら私がバスケットしてもいいよ!」
そう言えばさっきアーチェリーの選手を一人決めるのが大変だったんだよな…
推薦しても全員が嫌だっていうしな…
生徒同士が喧嘩になりそうになったから仕方なく佳奈ちゃんがやる事になったんだ。
「え、えっと…あ、そうだ!姫宮さんとかは?」
絵理沙は咄嗟に俺の名前を言った。
おい…絵理沙…何で俺なんだ…
「え?あや…じゃない…姫宮さんは正直ちっこすぎ!ダメです」
う…すっごいストレートに言われた…
「うーん…はい…わかりました…やります…」
絵理沙は諦めたのかOKをした。
「では女子バスケットは野木さんで決定しまーす!」
「では…」
それから後も何競技かの代表を決めてようやっと全競技の代表が決定した。
「以上で終了です!やった!終わった!みんなおつかれー」
ふう…やっと終わったか…
「ねえ、綾香ちゃんは結局何も参加しないの?」
絵理沙がなんで俺は参加しないのかと言わんばかりの表情で俺に聞いてきた。
何故参加しないのか?それは本物の綾香は正直スポーツは得意ではないからだ。
それはクラスのみんなが周知な事なので、今回も特にどのスポーツへの推薦もなく補欠で落ち着いている。
「え?だって…私は運動が苦手だし…」
「運動が苦手ねぇ…へぇ…そっか…」
絵理沙は疑いの眼差しで俺を見ている…やめろ!その目は!
「あ!そうだ!再度確認するけど、姫宮さん、一ノ割さん、新田さん、以上の三人は補欠だからね!競技に欠員が出た場合はよろしくね!」
ちなみに補欠は名前の通りで補欠だ。ただ、どの競技であっても欠員が出た場合には補欠から競技参加者を出さないといけない。補欠以外からは補充が出来ない仕組みなのだ。なので三人の補欠うちの最低一人は運動センスが良い人を用意しておく事があたり前になっている。
今回の補欠の一ノ割さんも新田さんも運動が出来る人だ。という事で、俺の出番などない予定だ。
「はい、ではこれで終わりますね」
真理子ちゃんの号令でHRが終わった。
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放課後…
「綾香ちゃーん」
鞄を持って廊下を歩いていると後ろから絵理沙が声をかけてきた。
珍しい、クラストップで帰宅する絵理沙が何の用事だ?
「何ですか?絵理沙さん」
流石に人前だと俺は絵理沙は呼び捨てにはしない。
そこらはちゃんと考えているのだ!
「綾香ちゃん、ちょっと時間あるかな?あるよね!」
そう言うと絵理沙は躊躇もなく俺の手を取った。
「え!?何!?」
俺は絵理沙に手を引っ張られ半分強引に特別実験室に連れていかれた。
特別実験室…よく考えればこの教室に入るのは実に久しぶりだな…
正直あまり入りたくはないのだが…でも野木がいるのならこの前の妹の件のお礼をまだしてないし…仕方ないか…俺は絵理沙と一緒に中に入った。
「お!綾香君!なんだい?僕に逢いに来たのかい?」
馬鹿の野木がすぐに反応してるぞ…
「おい、何で俺がお前に逢いにくるんだよ」
「冷たいな…僕は何時でも君を待っているのに」
うわ…きもちわるいな…待つなよ…
「待つな、待たなくていい、わかったか?」
「よし、じゃあこうしよう!君は何時でもここに来てもいいから!」
来ない…絶対に来ない…来たくない…
「いや、それもいいから…」
野木はすごく残念そうな表情で俺を見ている。
仕方ないだろ?何もないのに野木に逢いにくるとか…恐ろしい…
あ、そうだ…妹の件はお礼を言っておかないとな…
「そうだ…野木…この前の妹の件…本当にうれしかったよ…ありがとう…」
「ああ、あれか…絵理沙が君(悟)を君の妹の姫宮綾香と間違って生き返らせてしまっただろ?君を元の悟君に戻す前に本物の姫宮綾香が生きているかは確認する必要があったからな…それで喜んで貰えたのであれば僕はすごく嬉しいよ。やった甲斐があったというものだ」
おや…普通の反応だな…いつもこうならいいんだが。
「本当にありがとう…水晶玉だって高価らしいじゃないか…」
「ああ、大丈夫だよ、代金は綾香君の体で払って貰えればね…ふふ」
え!?冗談か?………いや…そのいやらしい両手の動きは…
こいつマジで体で払えとか思ってるのか!?ありえる…野木ならありえるぞ。
くそ…やっぱりそういう奴だったのか!
「ちょっと待て!おい!こら野木!何だそれは!代金請求されるのかよ!それも体でって何だよ!いやらしい!変態!すけべ!」
俺はその時に野木の視線が俺の胸にきている事に気が付いた。俺は咄嗟に両手で両胸を隠した…確かこのシチュエーションは前にもあったな…
「こら!どこ見てるんだよ!見るな!」
一瞬でも妹を捜してくれる良い奴だと思った俺が馬鹿だった…
「ん?いや、久々に綾香君に逢ったような気がしたからさ、君のご指摘通り流石に直接触ると駄目だから観察だけでもと思ってね。しかし…相変わらず成長してないようだね…それに何だい?そんな女らしい仕草は…やっぱり女の子になりたいのかい?」
「馬鹿か!俺は男だ!誰が女になりたんだ!男に戻りたいんだ!」
俺が野木に向かって怒鳴っていると絵理沙はゆっくりと野木の方へと歩いて行った。
「お・に・い・ちゃ・ん…」
え…何…この恐ろしい声…え、絵理沙!?
絵理沙は野木の目の前に立つと右拳を振るわせて野木を睨んだ…
野木はびくりとして怪しい動きをさせていた両手を下げる。
「………すべて冗談だよ綾香君…もちろん代金なんていらないよ、はは…」
野木…お前って奴は…兄貴なのになんでこんなに妹に弱いんだよ…
「前にも言ったよね…変な事はしないでねって…じゃないと…わかってる?」
「わ、わかってる…」
野木は怯えるように部屋の隅へと下がって行った。
まあこれでしばらくは大人しくなるかな…
「あ、そうだ…絵理沙?話って何だ?」
ここには絵理沙の話を聞きに来たんだ。すっかり忘れてた…
「ああ、話ね…綾香ちゃん、ソファーに座ろうか…」
俺は実験室の中央にあるソファーに座った。
あれ?今日の絵理沙は俺の正面に座ったぞ…横じゃないのか…
って何だ?別に正面でもいいじゃないか…
「綾香ちゃん、えっとね、特にすごい用事でもないんだけど…」
「え?じゃあなんでこんな場所に連れてくるんだ?」
「えっと…だって…『絵理沙さん』とかそういう呼ばれ方は嫌だし、女の子口調は綾香ちゃんには似合わないし…あと…教室だとゆっくり話せないし…」
うーむ…確かに女の口調は俺も好きじゃない、というか自分で話してて気持ちわるいと思う事すらある…
「教室でゆっくり話せないのはわかるが、俺は今綾香なんだぞ?いくら女の子口調が嫌でも男口調で話しは出来ないだろ」
「それはそうだけど…」
カチャ…何だ?俺の目の前のテーブルの上には突然コーヒーとケーキが…
見上げると野木が笑顔で俺を見ている…
「綾香君、さっきは悪かったね。このケーキはお詫びだから、さあ食べてよ!飲み物は確かコーヒーが好きだったよね?」
「え?ああ、コーヒー…好きだけど…」
絵理沙の家に遊びに行った時に、野木が俺がコーヒー好きだって教えたとか…
確かそれっぽい事を言ってたよな…
「おい野木、何で俺がコーヒー好きだって知ってるんだよ」
「ん?ああ、それは君とすれ違う時とかにすこしづつ心を読んだりしててね!あはは!君の趣味とか好みとかに興味があるからさ」
そういう事か…こいつは影のストーカーだったのか…
「野木ぃ!お前はストーカーか!何ですれ違いの時にまで俺の心を読む!」
「え?いいじゃないか…僕と君との仲なんだし…ね?綾香君…」
ごぶ!鈍い音が聞こえたかと思うと絵理沙の右拳が野木のみぞおちに…
野木は前のめりになり苦痛の表情を浮かべている。
「お兄ちゃん…言ったよね…変な事はするなって!」
ドガ!再び鈍い音が…絵理沙のとどめの左アッパーが決まったらしい…
野木は空中をきりもみしながら舞っている…
「ごふ…え、絵理沙…」
ドサ…痛そうな音がした。床に横たわった野木は気を失っている…
さっきもそうだけど、すっげーな…絵理沙…って…
「まったく!何をやってるんだか!いっつもいっつも…あ…」
俺が絵理沙をきょとんとした表情で見ていると、絵理沙と目が合った。
絵理沙は振り上げた左拳を恥ずかしそうに仕舞った。
「あ、ごめんねーあはは…この変態兄貴は私が監視するって言ったのにねーあはは…」
やっぱり絵理沙は野木には遠慮しない…というかいつもすっごい行動に出る…
俺は助かるんだけど…不思議な兄弟だな…
「え、えっと…で…何の話だっけ…絵理沙」
「いや!綾香ちゃん!あれだよ!私って普段は結構大人しい方なんだよ?マンションでは大人しかったでしょ?あれがいつもの私なんだよ!?」
何だ…どうしたんだ?俺の話を聞いてないのか?
一生懸命に自己アピールしてるし…別にそんな事は言わなくてもいいのに…
俺はさっきの行動は野木に対しての行動であって、いつも絵理沙があんな事をするとか別に思ってないのにな。
「おい、俺はそんな事は聞いてないぞ?で、何の話だっけ…」
絵理沙ははっとした表情で俺に言った。
「え!あ!ごめん…どうしたんだろ私…えっと…話ね、話っと」
「あ、あれよ!今度の体育対抗祭は気をつけてね」
「え?それってどういう事だ?」
「えっと…今の綾香ちゃんの運動能力の基本性能は悟君がベースなの、だから男子まではいかなくっても普通の女子よりはかなり運動も出来るはずなんだよね。ああ、そっか悟君って空手とかやってたからもしかすると下手な男子よりもずっと運動能力があるかも…」
「だから?俺にあまり本気になるなって事か?」
「まあ…そうね…」
「大丈夫だよ、俺は補欠だし、やる気なんてまったくないから」
「そっか!それだといいんだけどね…」
「でも、俺が活躍したら何か問題あるのか?」
「うーん…いや…別に何もないけど…今でもクラスの中の数人は綾香ちゃんが昔とは変わったって思ってる人がいるでしょ?運動も今までの綾香ちゃんとあまりにも違ったらおかしいって思う人がもっといっぱい出てくるのかなって…そうしたらこれから先、楽しく生活出来なくなっちゃうかもしれないでしょ?」
なるほど…絵理沙の言う事も一理あるな…
「確かに…綾香が前と変わったって思ってる子はいるみたいだしな」
「うん、もし生活環境が悪くなると魔法力も溜まりづらくなるから…」
「ああ、そうだな…楽しく生活をしないといけないんだもんな…納得」
「そ、それだけだよ…」
「わかった、注意するよ」
そうは言ったが、俺はこれまでに数度ほど素に戻った事がある…
頭に血が上ると我を忘れてしまうからな…性格は直せないし、真面目に注意しないとそのうちとんでもない事になりかねない…
「それじゃ、もういいのか?」
「あ、うん」
俺は席を立とうとしたが目の前に置いてあるケーキとコーヒーに目がいった。
実は俺はケーキが大好きだ…
野木の野郎はこういう事もきっちりとリサーチしてやがるんだな…
まったくもって変態だ…
あれ…これって…駅前のあのおいしいケーキ屋のだよな…
………もったいない…
「絵理沙」
「え?何?」
「このケーキとコーヒーって毒とか入ってないよな?」
「これに?ちょっと待ってね」
そう言うと絵理沙はコーヒーを一口飲みケーキを一口食べた。って!何!毒味!?
「あー大丈夫みたいよ」
おい…もし本当に毒が入ってたらどうするんだよ…まったく…
「そ、そうか…」
「食べれば?綾香ちゃん、毒は入ってないよ、大丈夫だから」
これって絵理沙の使ったフォークだよな…あと絵理沙が飲んだコーヒーを…
おい…これって…かかか…かん…かんせつ…
「どうしたの?綾香ちゃん?顔が赤いけど?」
絵理沙は俺の目を見た。俺はつい目を逸らしてしまった!
「ああ!ぷぷぷ…ははは」
絵理沙は俺の考えを察したのかいきなり大笑いした。
「な、何だよ!もういい!いらない!もう行く」
「ちょっと待ってよ!大丈夫だよ」
絵理沙はそう言うと奥の野木専用と書いてある木製の引き出しからフォークを持ってきた。そして自分が使ったフォークを新しいフォークにかえた。
「これでいい?コーヒーは私が飲んだ場所で飲まなきゃいいでしょ?」
うーむ…俺の考える事って単純すぎるのか、また絵理沙にばれた。
しかし、ここまでやってくれてやっぱりいらない!とも言いづらいな…
「…まあ…そうだな…ひ、一口だけ…食べてみる」
そう言って俺はケーキを一口食べた…
う…うまい…くそう…野木め!このケーキの選定は褒めてやろう…
結局俺はケーキを全部食べてコーヒーを全部飲んだ…
「どう?おいしいかった?」
絵理沙がいつものやさしい笑顔で俺を見ている…
「あ、うん…おいしかった…」
絵理沙…俺が食べるのを見てて何がそんなに楽しいんだろう…
そんなに笑顔で俺を見なくてもいいのに…
いつもそうだよな…人事なのにそれほど嬉しい事なのか?
「綾香ちゃん、あいつが起きる前に早く出たほうがいいよ」
「あ、ああ…そうだな…それじゃ」
まあいいか…よし、野木が起きる前にここを出よう。
俺は野木が起きる前に実験室を後にした。
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そしてついにやってきた!
体育対抗祭の日!
しかし俺は補欠!よって何もする事がない!やったぜ自由だ!
でも一日中遊んでる訳にもいかないしな…どうしようかな…
バレーボールの選手の茜ちゃんを応援するか…テニスの真理子ちゃんか…それともアーチェリーの佳奈ちゃんか…ってなんでこの学校アーチェリーとかあるんだ?
何?オリンピック競技だから?ふーん…でもフェンシングがないぞ!
え?そんな事は気にするな?って俺は誰と話しをしてるんだ…怪しいぞ俺…
しかし…佳奈ちゃんって…アーチェリーできんの!?まったく想像できないぞ。
まぁ仕方ないよな…実行委員だからやらなきゃいけなくなったんだし。
うーん…そうだな…応援するなら…やっぱり茜ちゃんだよな!よし…茜ちゃんを応援に行こう。
俺はバレーボールの試合が行われる予定の体育館へと移動した。
正面玄関から体育館へと入るとそこには絵理沙が…
絵理沙は俺に気がついたらしく嬉しそうな表情で俺の所まで来た。
「あ、綾香ちゃん!応援にきてくれたの?」
応援って…そういえば俺は絵理沙の事をすっかり忘れた…絵理沙って何の競技だっけ…
「え…あ…えっと」
「む!あーそうか…私じゃなくって越谷さん(茜ちゃん)の応援なのね」
絵理沙はすっごく不満そうな顔で俺を睨んだ。
というか…俺が茜ちゃんの所に来たとか何でわかるんだ!?
やっぱり野木の情報だよな…あいつめ…
「え、えっと…絵理沙さんってなんの競技だっけ?」
「え?私が出る競技すら覚えてないの!?ひどいよ…」
やばい…絵理沙が本当に寂しそうな顔になったぞ…
えっと何だっけ…えっと…そ、そうだ!思い出した!バスケットボールだ!
「い、いや!忘れてないよ!そう!バスケットボールでしょ!」
「ふん…どうせ今思い出したんでしょ?忘れるとか最悪だよね!まあいいわよ…ちなみに私達の試合が終わってからバレーの試合だからね、先に私の試合をみてよね!あと、ちゃんと応援するんだぞ!」
そう言うと絵理沙はバスケットコートの中に入って行った。
うーむ…仕方ない…どうせバスケットが終わらないとバレーが始まらないし、絵理沙も応援するか…
俺はバスケットコートの横に座った。
しかし…絵理沙はバスケットボールなんて出来るのか?あいつ魔法使いだろ?魔法の世界にもバスケットボールとかあるのか?
俺のイメージだと魔法を使ったスポーツとか、そう!あのハリー○ッターのあのなんだろう箒にのってやるのとか!ああいうのが魔法世界のスポーツじゃないのか?違うか?
「あ!綾香!何してるのー?」
俺がバスケットコートの横に座って変な事を考えていたら、そこに茜ちゃんがやってきた。
「あ!茜ちゃん!バレーの試合の応援に来たよ!」
「わー!ありがとう綾香!今、B組(白)はちょっと他の競技で負けてるから…このバスケットの試合とバレーは勝たないとね…」
そう言うと茜ちゃんは俺の横に座った。
「あ、うん、そうだよね」
俺は順位なんてまったく気にしてないんだけどな…
「私の出るバレーの試合はこの後だから、綾香は野木さんが出るバスケットボールも応援するんでしょ?」
「え?あ、うん…応援するよ」
別に絵理沙が出るからって事じゃないんだけどなぁ…
「ねえ綾香、野木さんって運動とかどうなんだろ?バスケットボール得意なのかな?」
「え?何でそんな事を私に聞くの?」
「だって綾香は野木さんと仲良しでしょ」
え…そういう風に見えてるのか?俺と絵理沙って…
「ま、まあ…席が隣りだからね…すこし話すくらいだよ」
「ふーん…そうなの?野木さんってクラスの人とあまり話さないし…唯一話をしているのって綾香くらいでしょ?横から見ててもすっごく仲よさそうだし…で?どうなの?知ってる?」
うーん…どうなんだろうな?正直、俺は絵理沙が運動している姿を見たことはない。
最近の体育も各競技の練習で俺はまったく見てない…正直わからないぞ…
俺もどうなんだろうって思ってるくらいだしな…
「ごめん…どうなんだろうね…私もわからないんだ…」
「そっかー、でも野木さんって運動出来そうだし、きっとがんばってくれるよね!あ!試合が始まるよ」
ピー!バスケットの試合が始まった…
ちなみに体育対抗祭は通常40分の試合が半分の20分になる。
試合が始まってびっくりだった…
「すっごいね…野木さん…」
「うん…」
茜ちゃんも俺も絵理沙に釘付けだった…
絵理沙のセンターライン付近からの綺麗な三ポイントシュート…
高校生とは思えない俊敏な動き…ディフェンスも絵理沙を止められない。
正直かなり一方的な試合運びでその試合はB組(白)の勝利で終わった。
「綾香…すごかったね…野木さん…」
「うん…すごかったね…絵理沙さんがあんなに上手いなんてね…」
試合が終わり絵理沙が俺に気がついて笑顔で走って来た。
「綾香ちゃん!どうだった?私がんばってたでしょー」
「あ、うん…すごかったよ…」
「ふう…暑いなー…運動した後だからなー」
そう言うと絵理沙は俺の前でいきなりパタパタと体操着の裾を持って扇ぎだした…
おい…お腹が見えるぞ…
「え、絵理沙さん…暑くっても…ここで扇がなくっても…ほら…お腹見えるよ…」
「え?何?別に男がいる訳でもないし、見えてもいいでしょ?」
そう言うと今度は俺の前で前屈みになった…
そして体操服の襟を持つとわざとらしく引っ張って中を覗く…
「あーいっぱい汗かいちゃてるし!下着までびっしょりだ…綾香ちゃん見る?」
ちょっと待て!何で俺が見るとか…ない!ないだろう!俺は思わず目を逸らした。
「い、いや…いいよ…そ、れより早く汗を拭いたほうがいいよ…」
くそう…絵理沙め…絶対に俺に対する嫌がらせだろ!
「ふふ…綾香ちゃんってかわいいね」
絵理沙は楽しげな顔で俺を見ている…やっぱりこいつ楽しんでるな…
「やっぱり綾香と野木さんと仲良しよねぇ…」
茜ちゃんは勝手に納得している…っていうか誤解してるぞ!
これは仲良くしてるんじゃなくって絵理沙から嫌がらせを受けてるんだ…
「あ!そうだ!野木さん!さっきの試合!すごかったー!野木さんって頭もいいのに運動センスも抜群なんだね!」
茜ちゃんは嬉しそうそう言いながら絵理沙の手を握った。
「え…そうかな?こ、越谷さんありがとう…」
絵理沙は茜ちゃんの予想外の行動にちょっと焦っているようだ。
「野木さんはバスケットボールって前からやってたの?」
「え?ううん…やってないよ…」
「えー!やってなくってあの動きが出来るの!?やっぱりすごい!」
「そ、そうかな?」
「あの!野木さんって部活とか入ってるの?」
「え…別に…入っていないけど?」
「じゃあ!バレー部に入らない?野木さんだったらきっと運動センスいいし!絶対にバレーも出来ると思うよ!」
な、何だ!?いきなり茜ちゃんが勧誘活動を始めたぞ…
「え…でも私は…部活とか…あまり…」
「もったいないよ!野木さんほどの運動センスがあれば本当に一年生でレギュラーだってなれるかもしれないのに!」
「あ…そ、そうかな…」
あの絵理沙が押されてるし、あのおどおどした表情がすごく面白いな。
しかし、茜ちゃんってすごいな…
「おーい!あかねー!バレーの試合はじまるよー」
どうやら次のバレーの試合の準備が出来たらしい。
「あ…じゃあ…野木さん!考えておいてね!綾香!私もがんばってくるね!」
そう言って茜ちゃんは準備が整ったバレーコートに走って行った。
茜ちゃんが立ち去ると絵理沙はほっとした表情で俺を見た。
「あーびっくりした…ねえ…綾香ちゃん…越谷さんって…あんな子だったの?」
「うー…うーん…今日はちょっといつもより元気かも…」
「そっか…綾香ちゃんはあの子の事がねぇ…なるほどね…」
突然何を言い出すんだ絵理沙は!?それもこんな場所で。
「絵理沙、ちょ、今その話は…」
「はは…そうね、よーし!私も越谷さんを応援しよっと」
俺と絵理沙の二人はバレーの試合が始まるのを待った…
そしてしばらくして試合開始の時間が来た。
しかしここで大問題が発生した!!
続く