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第6話 べすとふれんど!

 始業式がら数日経った放課後…


「ふぅ…」


「綾香、どうしたの?そんなに深いため息をついちゃって…」


 ふと声のする方向を見るとそこにはいつの間にか茜ちゃんが立っていた。

 茜ちゃんはあれから元気になった様子で俺は一安心だ。

 でもこっちはまだ問題が残っている…

 しかし、俺の問題は他人に相談するような事でもない。

 男ならば自分で解決しないとダメだろう。そう思っていたが…


「あ…茜ちゃん…別に何でもないよ」


「ふーん…でもさっきの顔って、あーあー…嫌だなぁって顔だったよ?」


 茜ちゃんはよく見てるなぁ…それとも俺が表情に出やすいだけなのか?

 とりあえずこの場はなんとかやり過ごそう…


「え…そういう風に見えた?気のせいだと思うよ」


「そういう風にしか見えなかったよ?ねえ、何があるの?もしかして毎日下駄箱にラブレターが入ってるとか?」


「え…な、何それ!?毎日ラブレターって…」


「え、違うの?えっと…前、佳奈ちゃんが言ってたから…綾香が始業式の日にラブレター貰ったって…あ、大丈夫よ!知ってるのは私と真理子ちゃん位だと思うし」


 真理子ちゃんも知ってるのか…佳奈ちゃん…おしゃべりだな…


「いや、違うの…ラブレターなんてかわいいもんだよ…それにあれ以来ラブレターは一度も入ってないし」


「え?それじゃ何なの?」


「ふう…大丈夫、生命にかかわるような一大事じゃないし…私もう帰るね」


「あ、綾香?」


「茜ちゃん、また明日ね」


 俺は鞄を持って教室を出た。


 俺はいつも一人で家に帰る。茜ちゃんは部活をしているから俺とは一緒に帰れない。

 真理子ちゃんは生徒会の手伝い、佳奈ちゃんは…何時も気がつくと教室にいない…

 絵理沙は授業が終わると必ずあの実験室へと行ってしまう。

 あの中で何をしているのだろうか…まぁ行きたくもないし、知りたくもないが。

 とりあえず、知っている人間とはいつも一緒に帰れないのだ。


「ふぅ…本当に疲れる…明日こそは諦めてくれるだろうか…いつも朝だけで、下校の時にいないのは救いだけど」


 俺はうつな気分で家に戻った。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 朝が来た…すっごく目覚めも悪い…


 いつものように支度をして俺は自転車に乗り学校へと向かう。

 そして駐輪場に自転車を置くと下駄箱へ…


「ふぅ…」


 気が重い…下駄箱に行きたくない…でもまさか登校拒否するのもな…今は綾香だし…


「綾香!おはよう!」


「うわあ!?」


 後ろからいきなり大きな声で挨拶をされて俺は思わず声をあげてしまった。

 振り返るとそこには元気いっぱいな茜ちゃんがいる。


「な、何よ綾香!いきなり大きな声出してびっくりしたなぁ…」


 びっくりしたのはこっちもだ。いきなり声をかけられてすごくびっくりした。


「綾香どうしたの?今日も元気ないじゃないの?」


「え?うん…まあ色々あるから…で?茜ちゃんなんでここに?」


 いつも茜ちゃんは俺よりも先に登校しているはずなのに…


「んー…綾香を待ってたの」


「え!?私を?」


「そうだよ…で?何があるの?昨日も何も話してくれないしさ…二学期が始まってからずっとこの調子じゃないの。授業中とかは何もなさそうだし、きっと登校か下校に何かあるんでしょ?」


 相変わらずなかなかするどいな…茜ちゃんは…

 でも、やっぱり、こういう事は他人には相談しない方がいいと思ってるんだけど…


「え…えっと…でも…茜ちゃんは別に関係ないし…」


「綾香!何?関係ないって!何かあるなら言ってよ!私達は友達だよね?」


 茜ちゃんはすこし大きめな声で怒鳴ると俺を睨んだ。

 いつも優しい茜ちゃんが少し怖い…

 茜ちゃんは俺がはっきり言わないからイライラしているのだろうか、体が小刻みに揺れている。


「で、でもね…」


「でもねって何よ!ずるいよね綾香って…私の相談には乗るのに自分の相談を私にしてくれないとか…すっごくずるい!そんなに私には相談出来ない事なの!?」


「え…べ…別に…私は相談なんて…」


 茜ちゃんが俺の言葉を遮るように怒鳴った!


「あーーー!もう!綾香!言いなさい!何があるのよ!」


 うわ…怖い…こ、これは言った方がいいかな…

 周囲の生徒も何だ?という表情で俺達を見ているし。


「わ、わかったから、茜ちゃん、言うよ、言うから」


「よしよし…で?何があったの綾香?」


 ふう…茜ちゃんが普通に戻った…よかった…

 しかしなぁ…本当は言いたくなかったんだけど…まあ仕方ないか…


「茜ちゃん、こっち来て…」


 俺は茜をつれて下駄箱の入口が見える校舎の角まで行った。


「茜ちゃん、ちょっと待ってね」


「うん」


 俺は校舎の陰からゆっくりと顔を出して下駄箱の入口を見た。


「やっぱり今日もいた!」


 俺はそう言うと同時に急いで顔を引っ込めた。


「え?何?何がいたの?」


 茜ちゃんが平然と校舎の陰からはみ出て下駄箱を見た。


「あやかー?下駄箱の入口に誰かいるの?」


 うわー茜ちゃん!?声が大きい!


(ちょっと!茜ちゃん!)


 俺は慌てて茜ちゃんの手を引っ張って校舎の陰に戻す。


(駄目だよ!下駄箱から見える場所に出たら!)


(え?何で?どうして?)


(あのね、下駄箱の入口に3年生の男子がいなかった?背の高い…)


 茜ちゃんは再び校舎の陰からそっと下駄箱の入口を見た。


(あーいるいる!あの人かな、確か…空手部の人?)


(そう!その人、清水先輩って言うんだけどさ…)


 茜ちゃんは清水先輩と聞いただけで何かがわかった様子でこう言った。


(ああ、綾香ちゃんに始業式の日に下駄箱で大声で告白してきたあの3年生ね)


(そう!下駄箱で人の事も考えないでいきなり告白してきた馬鹿な人!)


(綾香、馬鹿は言い過ぎだと思うよ…)


(………でも…あの人しつこすぎるし…)


(ふーん…ん…ま、まさか!毎日あそこに待ち伏せしてるの?)


 茜ちゃんはようやくわかったようだ…


(そう!そうなの!最初は絡まれても無視して横を通過してたんだけど、そのうち諦めるだろうと思ってたら清水先輩って思った以上に諦めの悪いタイプで…私は毎日絡まれるのがつらいから、最近はチャイムがなるぎりぎりまでここに隠れてるんだ…)


 本当は大二郎に蹴りとパンチを入れて二度と俺に近寄らないようにしてやりたいが、流石に綾香の姿だとそれは出来ないしな…


(えー!?何それ!?バッチリストーカーじゃないの…)


(でしょ…私、こんな身近にストーカーがいるなんて思わなかった…)


(よーし!私も待ち伏せとか嫌いだし!私に任せておいて!)


 そう言うと茜ちゃんは下駄箱の方へと歩いて行った。

 俺は校舎の陰からそっと顔を出して様子を伺う。

 話声は聞こえないが、茜ちゃんが大二郎に何か話しかけているのがわかる。

 大二郎が首を傾げている…あれ?頷いた…なんか嬉しそうになったぞ…

 何を話してるんだ!?

 そしてそれからしばらくして大二郎がいなくなった。


 会話が終わった茜ちゃんは笑顔で俺の所まで戻ってきた。


「綾香!もう大丈夫だよ!これで朝の待ち伏せはなくなったはずよ」


 茜ちゃん大二郎に何を言ったのだろうか…

 ともあれ助かったのは確かだが。


「ありがとう、それで…茜ちゃん…清水先輩に何を言ったの?」


「え?えっと…別に大した事じゃないから!」


「い、いや…気になるんだけど」


「えー…気になる?気にしないでいいと思うよ」


「待って!教えて!」


 あ、茜ちゃん…何で目を反らすの!?まさか変な事を言ってないよね…


「あ、綾香…そ、そろそろ時間だよ!早く教室入らないと!」


 話題を反らした…故意に反らしたな!


「ダメ!教えて!」


 俺は茜ちゃんを睨んだ。


「わ、わかったわよ…」


 茜ちゃんは俺をちらちら見ている…怪しすぎる…


「えっと…あ、綾香と付き合いたかったら…綾香に認められるくらい強くなりなさい…って言った」


「………そ、それだけ?」


「…今度の空手の大会で優勝したら綾香とデートさせてあげるって…」


「……茜ちゃん…ちょっと…何を言ってるの…」


「ダメ…だった?」


「………」


 ダメっというか…そういう問題以前になんていう事を言うんだ…

 大二郎がまさか優勝はしないだろうけど…

 もしも、万が一でも大二郎が優勝とかしたら…俺は大二郎とデート!?

 嫌だ!男とデートとか!気持ち悪い…手を握られたらどうしよう…絶対に殺す!

 やめよう…考えるだけでも背筋がぞっとする…


「どうしたの綾香?顔色が悪いよ?」


 茜ちゃんのせいだろ…


「あ、綾香、そ、そろそろ時間よ!早く入ろう!」


 校舎の時計を見ると本当に時間になっていた…


「う…うん…いこうか…」


 大二郎の待ち伏せが無くなったのは良いが…

 まあ…大丈夫かなぁ…不安だ…



 ☆★☆★☆★☆★☆



 お昼休み


 クラスの女の子が数人俺の前やって来た。何の用事だろう?


「姫宮さん!姫宮さんってさー最近何かイメージ変わったわよねー」

「うんうん、私もそう思うー」


 え!?な、何を唐突にそんな事を言うんだ!?


「え?そ、そうかな?」


「なんて言えばいいのかな、一学期まではすっごく大人しくって、あまり目立たなかったっていうか…」

「そうよねーなんかねーあれだよ、あれー、お人形みたいな感じ?」


 まあ…妹はもともと大人しい方だったかも知れないな…


「でも今の姫宮さんってすっごい元気で、活発で、イメージががらっと変わったよね」

「うんうん!いまの姫宮さんってかわったー」


「あ、え、そうかな…多分…記憶喪失になってからかな…へ、変?私は変かな?」


「別に私は変だとは思わないけど?私は今の姫宮さんは前よりイメージいいと思うよ」

「えー?そう?私はすっごく変わって違和感あるんだけど、別に嫌って事じゃないけどさー前の大人しいイメージが好きかも」


「あはは…」


「じゃあね!姫宮さん!」

「また後でねー」


 言いたい事を言い終わったクラスの女の子は教室を出て行った。


 何だったんだ…今のは…

 今、俺はがんばって綾香を演じてるけど、本物の綾香とはやっぱり違うように見えるのかな…

 という事は他のクラスメイトからも同じように変わったって思われているのかな…

 しかし、口調とか態度とか気をつけていても、性格までは変えられないし…

 綾香とそっくりそのままの人間になるなんて無理に決まってる…

 そうだ…ちょっと真理子ちゃんに聞いてみよう。


「ねえ…真理子ちゃん…」


「何?」


「私って…口調とか…態度とか…前と比べて変かな…」


「前って記憶喪失になる前と比べてってこと?」


「うん」


 真理子ちゃんは教室を見渡した。


「綾香、誰かに変って言われたの!?」


「あ…うん…そうなんだ」


「そっか…確かに私も前の綾香とは違うと思うよ」


 げふん…やっぱり違うのか!?


「でもね…私は夏休みのあの事件の時に茜に言われた事…その通りだと思うんだ」


 あ…俺が大二郎をのした時か…


「綾香がどう変わっても綾香なんだよ!だって綾香はこの世の中に一人しかいなんだもん」


 真理子は笑顔で俺に言った。俺は何だかすこし安心した…

 でも…俺って実は偽物なんだよな…


「ありがとう…真理子ちゃん」


「綾香…変だとか変わったとか言われても気にしないのが一番だよ。綾香は綾香なんだし」


 そう言いながら笑顔の真理子ちゃんが俺の頭をなでてくれた…


「うん…そうする」


「ふふ…あと、よかったねーストーカーがいなくなって」


「え!?」


 何だ!?朝の件かな!?真理子ちゃんが何で知ってるんだ!?


「ごめんね、最近の綾香って元気がなかったじゃないの。だから茜がに聞いたんだ、まさか清水先輩がストーカーだったなんてね…綾香も災難だったね」


いつの間にか大二郎はストーカーでひどいやつっぽくなってる…


「でもよかったね…本当に最近元気なかったから私も心配してたんだよね」


「うん、茜ちゃんのおかげで…朝の待ち伏せはなくなったよ…」


 だけど、俺はでっかい不発弾を抱えてしまった気分だけど…


「ねえ綾香、何かあったら私にも相談してよね、私だって相談に乗るんだからね?綾香にはいつも元気な笑顔でいて欲しいし!」


 茜ちゃんも真理子ちゃんも綾香の事をこんなに心配してくれてるんだ…

 いいな…綾香は…やっぱり綾香の人間性がこんなにいい人達を呼び寄せるのか…

 俺は何も無い奴だった…無理につっぱってみせてもただ虚しいだけ…

 ただ喧嘩が強くなりたいだけで空手をやって…目立ちたいが為だけに髪を染めて…


「どうしたの?綾香?ぼーとしちゃって」


 はっとして目の前を見ると、真理子ちゃんの顔がいつの間にか俺の顔の前に!?


「うわ!」


 俺は思わず後ろに仰け反った。


「何?綾香…変なの…」


「い、いや…真理子ちゃんの顔がいきなり目の前にあったから…」


「ふーん…まあいいわ!とにかく!綾香はいつも元気でいてね!」


「うん、わかった!ありがとう!真理子ちゃん」


「それじゃね!」


 真理子ちゃんは教室を出て行った。


☆★☆★☆★☆★


 放課後


 やっと一日が終わった…

 今日は大二郎の朝の待ち伏せ行為も一応は終わったし、茜ちゃんも真理子ちゃんも俺を心配してくれてたってわかったし、いい日だったな…多分…


「姫宮さん、また明日ねー」


 クラスメイトの子が挨拶をして帰って行く。


「またねー!」


 俺は笑顔で挨拶を仕返した。


「あーやーかー」


 この声は佳奈ちゃん?声の方向を向くとそこには佳奈ちゃんがいる。


「あれ?佳奈ちゃん今日はまだ帰らないの?」


「うん、だって今日は綾香と帰るんだもん!」


「え?」


 何だ?今日は俺と帰る?何かあるのか!?


「最近さ…綾香って一緒に帰ってくれないんだもん」


 待って…俺が気がつくといつも佳奈ちゃんがいないんじゃないか…

 別に俺は避けてなんかないぞ!


「そ、そうだっけ…」


「今日は一緒に帰れる?帰れるよね?」


 その祈るような表情はやめて…ま、まあいいか…たまには一緒に帰っても…


「あ、うん…いいよ」


「じゃあ!帰りにファーストフード店にいこうよ!」


 佳奈ちゃん…いきなりすっごい笑顔になったぞ…

 しかし…やっぱり寄り道するんだ…


「あ、うん、いいよ」


 俺は珍しくも佳奈ちゃんと一緒に帰る…っていうか…

 佳奈ちゃん!そっちは俺の家とは逆じゃん!あー家が遠くなるー!


 そして俺は家と逆方向のファーストフード店へやってきた。

 こんな所まで来てしまった…帰るのが大変だ…


「ねえ!綾香!綾香は何が食べたい?飲み物どうする?」


 うーん…取りあえずどうするか…お腹も減ってないしな…

 まあ…俺はいつも頼んでるポテトとコーラのセットでいいか…


「私は…ポテトとコーラでいいかな」


「OK!まかせておいて!綾香は席確保よろしく!クーポン用意しなきゃ!ほら!綾香!席!席!」


 佳奈は鞄から携帯を取り出すと、操作しながらレジへと歩いて行った。

 そして俺は言われるがままに席を確保しておいた。


「おまたー!鬼盛りポテチとこれでもかーコーラ!」


 佳奈ちゃんがコーラのBIGサイズとポテト山盛りを持って席についた…

 ちょ、ちょっと待て!なんだそのボリュームは…俺はそんなの頼んだ記憶ないぞ…


「か、佳奈ちゃん…ちょ、ちょっと多そうだね…」


「そう?このくらい普通に食べれるし、飲めるよね?あ!そうだ!今日は私のおごりよ!遠慮無く食べてね!」


 え?おごりって?佳奈ちゃんの?でもそれは悪いしな…払おう。


「いいよ、お金払うよ。いくら?」


「私がおごるって言ってるでしょ!いいの!」


 佳奈ちゃんの性格からしてもこうなると絶対にお金は受け取ってくれないな…

 仕方ない…今日はおごってもらっておこう…


「あ、ありがとう…」


「さあ!食べよう!」


 俺はポテトを二つ三つほど取ると口に入れた。

 そしてコーラをストローで飲んだ。


「ねー綾香?」


「え?何?」


「綾香ってさー」


「う、うん」


「ポテト嫌いだったよね?」


「え…!?」


 そ、そう言えば…綾香ってポテト食べないんだ!忘れてた…


「あとさ…炭酸飲料とか飲まないよね?」


「え!?」


 そ、そうだ!綾香は炭酸飲料を飲まないんだ…

 俺とした事が…何でこんな初歩的な綾香の好き嫌いを忘れてしまうんだ…


 俺は恐る恐る佳奈ちゃんを見た…

 すると目を細めてニヤリとした表情で俺を見ている佳奈ちゃんが…

 も、もしや…佳奈ちゃんは俺を疑ってるのか!?実は綾香じゃないんじゃないかとか…

 な、何か言わないと…


「わ、私ね、記憶喪失になってから嫌いなものも忘れたんだ!」


 うわ…なんて都合のよい記憶喪失だろう…


「ふーん…」


「お…おかしいかな…」


 そりゃおかしいよな…きっと本当に?嘘でしょ?とか言うんだろうな…


「おかしくないよ!うん!そういうのあるよね!うん!あるある!あはははは」


 佳奈ちゃんは俺の肩をばんばん叩くと大笑いした。


「え?あ、うん、あるよね…あはは…」


 俺は笑えないんですけど…

 でも…佳奈ちゃんって…いい性格だよね…本当によかったここに居るのが佳奈ちゃんで…別の子とかだったらもうどうなってたか…


「いいなー記憶喪失!私も色々忘れて嫌いな物とか苦手な物とかなくしたいな!私って実は犬が苦手なんだよねー。犬ってさーかわいいけどさー大きい犬って怖くない?私は一回噛まれちゃってからもう犬に近寄よれなくなっちゃったんだよ…でも好きなんだよ?本当だからね!だからそういうのも忘れたいし…」


「あ、そ、そうなんだ…」


「でねー猫はっていうと、今は家で飼ってないけど、昔は猫を飼っててさーでねー私の大事なバッグで爪を研いじゃったの!もう腹がたってねー!もう猫なんて飼わない!って思ったんだけどーだけどねー死んじゃったらもう悲しくって…すっごい泣いちゃって、だからまた猫飼いたいなーって思ってたりするんだけど…」


「へ、へえ…」


 その後は一方的に佳奈ちゃんが話しを聞いていた。前の買い物の時もそうだったが、まるでラジオのDJのごとく、ずーと話を続けていた。ここまでくると関心してしまう…

 おまけにあんなに山のようなポテトをほぼすべて佳奈ちゃんが食べ尽くした…佳奈ちゃんのその体型でそのポテト量…一体どこに収納されるのだろうか…


 3時間後…話たい事を言い尽くしたのか、俺はやっと解放された…

 うーん…俺は…ホントこの子は苦手だ…


「佳奈ちゃん、今日はごちそうさまでした」


「ううん!いいのいいの!じゃあまた明日学校でね!」


「うん…また明日ね」


 俺が自転車に乗ろうとした時に、佳奈ちゃんがすこし照れながら俺に向かって言った。


「綾香…よかったよ…綾香が元気になって…」


「え?」


「始業式の日から昨日までずっと元気なかったから…私なりに心配してたんだよ…」


 え…じゃあ今日一緒に帰ろうって言ったのは…


「で、でも本当、元気になったみたいだし!本当よかった!またね!」


 佳奈ちゃんはそう言うとさっさと帰って行った。


 綾香…お前は本当にいい友達ばっか持ってるな…


 続く

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