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第5話 嵐の始業式!? 後編

 もう少しで家につくぞ・・・俺は家の方を見た。

 すると家の前に誰かがいるのが見える。あれ?誰だ?

 俺はすこし急いで自転車を漕ぐとようやく人影がはっきり見えてきた。

 あれ?茜ちゃんじゃないか!何で俺の家の前にいるんだ?


「茜ちゃーん!?どうしたの?」

 

 俺は門の前で待っている茜ちゃんの前で自転車を降りた。

 

「あ、綾香…ごめんね…突然きちゃって…」

 

 茜ちゃんはすごく申し訳なさそうな顔をしている。

 

「大丈夫だよ、でも前もって言ってくれればもっと早く戻ってきたのに」

 

「ご、ごめんね…少し寄ってみて綾香がいなかったら帰ろうかと思ってたから…今、ちょっと待っても綾香が戻ってこなかったから帰ろうかと思ってたんだ」

 

 そう言ってるわりには結構ここで待っていた感じがする…

 俺は学校で茜ちゃんが俺より先に教室を出たのを確認した。

 その後に俺は絵理沙の待ってる屋上に行ってた…

 そう考えると結構な時間が経っているはずだ。

 こんなに待ってるなんていったい何の用事だろう…

 

「こんな所で話すのもあれだし、とりあえず中に入ってよ!」

 

「え…で、でも…」

 

 俺はもじもじしている茜ちゃんの手を持って引っ張った…

 あ…勢いで手を持ってしまった…い、いいんだ!今の俺は綾香だ!という事は女同士だ!友達同士だ!よしOK…という事にしておこう…

 

「い、いいから、入ってよ!」

 

「あ、うん…」

 

 俺は茜ちゃんを玄関の前まで連れてゆき、急いで自転車を車庫に置いた。

 そして玄関で待っていた茜ちゃんを家の中に入れた。

 今日は両親がいないので気兼ねなく茜ちゃんを中に入れられる。

 俺は自分の、じゃない…綾香の部屋に茜ちゃんを連れて入った。

 茜ちゃんは部屋の中に入ると、俺が用意したクッションに座ったまま黙ったまま俯いて黙っている…

 

「どうしたの?茜ちゃん…何かあったの?私でよかったら相談にのるよ?今日だって私に用事があって来たんでしょ?」

 

 夏休みのあの日に突然気分が悪くなって家に帰った茜ちゃん…

 それ以来まったく話しをしていない…きっと何かがあるんだろう。

 

「うん…でも…本当に…もういいんだよ」

 

 本当は茜ちゃんは何かを言いたいんだな…でも言いたくない気持ちもあるのか…

 何だろう…もういいんだよなんて投げやりな感じだし…

 こんなに元気のない茜ちゃんを見てるのは…俺はつらいよ…

 

「茜ちゃん…私が帰って来るのをずっと待ってたんでしょ?私にはわかるもん…お願い…言いたい事があるなら言って」

 

 俺は真面目な顔で茜ちゃんを見た。

 

「あはは…さすが綾香…ずっと待ってたのわかってたんだね…」

 

 笑い声にも元気が感じられない…

 

「お願い…私、そんな元気の無い茜ちゃんを見てられないよ…」

 

「………綾香はやっぱりやさしいね……たぶん…綾香が記憶喪失になる前に話した事…忘れてるよね…もし忘れてるならもう話すのはやめとこうと思ってたけど…でも…やっぱりもう一度話そうかな…」

 

 飛行機事故に遭う前に一度綾香は聞いてる話なのか。綾香は茜ちゃんに何を言われたんだろう?

 おっと…ここは聞いておかないといけないよな…

 

「う、うん…わかった…私でよかったらもう一度話してもらえるかな…」

 

「うん……」

 

 そうは言ったが、茜ちゃんは言葉に詰まって話が出来ない…

 沈黙の時間が数分ほど過ぎた…そして茜ちゃんは大きく深呼吸をした。

 目を閉じて何度か深呼吸をした茜ちゃんは少し落ち着いたのか、ゆっくりと話を始めた。

 

「わ…私ね…綾香のお兄さんが…姫宮先輩が好きなんだ…」

 

 え!?茜ちゃんの発言を聞いた瞬間にまるで雷が直撃したかのようなものすごい衝撃が俺の中に走った。

 今日は大二郎に告白されたり、ラブレターが下駄箱に入ってたり、北本先生が野木絵理沙だったり、野木の馬鹿に胸を揉まれたりとか色々あったが、それ以上の衝撃だ。

 いやまて!もしかして聞き間違いかもしれない…

 

「えっと…私のお兄ちゃんって…悟お兄ちゃんが好きだって事?」

 

「うん…そうだよ…やっぱり覚えてないんだね…綾香が飛行機に乗る前に話したんだよ…姫宮先輩が好きなんだって…」

 

 うわあああ!マジかよ!茜ちゃんが!?

 そ、そう言えば!綾香が飛行機に乗る前に、帰省するあの日の朝に俺に言った言葉…

 

 『きっとお兄ちゃんを好きな子はいると思うよ』

 

 あれはこういう事だったんだ…俺の事が好きな子って茜ちゃんだったんだ…

 で…でも…今俺は綾香だし…

 

「茜ちゃん…」

 

「でも、先輩が行方不明になっちゃったから…綾香もきっとこんな話を聞くとお兄さんの事を思い出してしまうだろうし…辛くなるんじゃないかなって思ったの…だから話すのやめとこうって思ってたの…」

 

 茜ちゃんはすごく悲しそうな表情で俺に言った。

 綾香にすっごく気をつかってくれてたんだ…俺が綾香だと思って…

 

「ううん、話してくれてありがとう。私、大丈夫だから…茜ちゃん…元気出して」

 

「綾香…ありがとう…でも…でも…私は駄目だった…行方不明って聞いてからもう何も考えられなくなって…だから…綾香に…綾香にだけはもう一度話をしたかったの…色々聞いて欲しかったの…本当にごめんね…」

 

「ううん…大丈夫だよ…話してくれてありがとう…」

 

「綾香…先輩がいなくなっちゃったよ…私はまだ何も伝えてないのに…お礼も言えてないのに…いなくなっちゃったよ…うう…綾香ぁ…」

 

 今にも泣き出しそうな茜ちゃんを俺は思わず抱きしめてしまった…

 こ、これは不可抗力だぞ!やましい気持ちは…な、ない…はず…

 ちなみに、お礼って何だろうか…?まあいいや… 


「茜ちゃん…」

 

 茜ちゃんは俺の胸の中で泣きだした…あのいつも元気な茜ちゃんが…泣いてる…

 何だよこれ…俺どうすればいいんだよ…こういう時って何すればいいんだ!?

 俺は茜ちゃんの前にいるし、生きてるのに…それを伝えられないなんて…

 つらい…よ、よし!こうなったら!

 

「茜ちゃん、私ね…本当はお兄ちゃんが生きてるって知ってるんだよ…」

 

 これで…どうだ…って…いいのか…こんな事言って…

 でも、茜ちゃんの為だ!ここにいる綾香(俺)は悟だって言わなきゃ大丈夫だろう。

 

「え…綾香?先輩が生きてるって…それって…」

 

 茜ちゃんが涙を流しながら顔を上げた。

 

「お兄ちゃんはね…生きてるよ…本当だよ…」

 

「ほ、本当?生きてるって?あ、綾香ちゃん?本当に?」

 

 茜ちゃんがすごく真剣な顔で俺に向かって言った。

 

「う、うん…」

 

「ほ、本当に姫宮先輩は生きてるの?」

 

 茜ちゃんは何度も聞きなおした。

 俺は何度でも生きてるよって言ってあげた。だんだんと茜ちゃんに笑顔が戻る。

 笑顔が戻ったのはいいけど…どう説明するかな…困ったな…えっと…そ、そうだ!

 

「私ね、飛行が機墜落して記憶喪失になってから…あれから色々普通じゃない事がわかるようになったの…それで、その一つがね…お兄ちゃんの気配を感じられるようになったの…」

 

 うわ…なにこの非現実的な説明…すっごい嘘っぽい。嘘だけど…

 

「え!?そんな事ってあるの!?」

 

 あれ…思った以上に茜ちゃんが食いついてきたぞ…

 

「う、うん…私がこの家に戻ってきた日の夜、寝てる時に夢の中で私に声をかけてくれたんだ…お兄ちゃんが…それで私にこう言ったんだよ…俺は生きてるからな。綾香は心配するなよって…私は聞いたんだよ!本当に?って…そうしたらもう一度言ったの、俺は絶対に生きて戻るからって」

 

 作り話すぎだけど…俺が生きてるのは当たってる。戻るのも当たってる…はず…

 

「そうなんだ!だから綾香はそんなに元気なんだね!」

 

 茜ちゃんすっごくうれしそうだ…

 

「うん、そうだよ!私は信じてるから!あの夢の中での事を!そしてお兄ちゃんが生きてるって事をね。あと、私はお兄ちゃんが何処かで生きてるって…感じるの…場所はわからないけど…」

 

 ここにいますけどね…

 

「私も信じるよ!先輩が生きてるって信じるよ!」

 

 茜ちゃんの目が輝いてる…表情も生き生きしてきた…

 作り話でも何でもいいじゃないか!茜ちゃんが元気になるんだから。

 

「うん!信じてたら絶対に良いことあるよ!私だって飛行機事故から戻ってこれたんだよ」

 

 これはかなり説得力あるだろう。

 

「うん!綾香も戻ってきたんだもん!先輩もきっと戻ってくるよね!」

 

「もちろん!きっと戻ってくるよ!奇跡ってあるもん!」

 

 よかった…茜ちゃんがすごく元気になった…

 何気なく言ったけど…奇跡…か…ここに俺がいるのも奇跡だしな…

 

「綾香、私ね、先輩が戻ったらちゃんと告白するね!あの日から私はずっと先輩が好きだったんですって!もう逃げないから!」

 

 告白!その告白される本人がここにいるんだけど…

 茜ちゃんの顔を見てるだけでもすっごい胸がドキドキする…くそー

 でも…茜ちゃんはなんで俺を好きになったんだ???あの日からって?あの日ってなんだろう。

 

「あ、茜ちゃん…そのあの日って?」

 

「あれ?そっか、それも覚えてないんだ…じゃあもう一度話すね…あれは一年前なんだけどね…そう、中学校最後の夏休みだった」


「私はその日、自転車で急いで駅まで向かっていたの」


「急がないと…電車に間に合わない…今日はお姉ちゃんの手術の日なんだ…お姉ちゃんの入院してる病院はバスでしか行けないからこの電車を逃すと間に合わなくなっちゃう。急ごうって!それで私は勢いよくペダルを踏んだの。その時だった」


「ガシャーン!っていう激しい音と共に私は自転車から放り出された。運が悪かったなのかな…自転車のチェーンがいきなり切れてしまって勢いよく私は転けてしまったの」

 

「痛い…私は痛みをこらえて立ち上がった。目の前にはチェーンが切れてハンドルが曲がった自転車が転がってたんだ…」

 

「これじゃ間に合わないよ…」

 

「私は泣きそうになりながら壊れた自転車を起こしてた…」

 

「その時ね、誰かが私に声をかけてきたの。『おい、お前大丈夫か?』って」

 

「そして『その自転車壊れてるじゃないか、お前どっか行くのか?』て言われたの…」

 

「私はその人を見たの。そうしたら髪が茶色のあやしいお兄さんだった。私は正直何をされるのかわからないし、怖くって思わず逃げるように自転車を駅の方に押したんだ…でも自転車が壊れてるからすぐにまた転げちゃったんだけどね…」

 

「そうしたら『おい大丈夫か?もしかして…お前は駅に行きたいのか?』って聞かれて…私は怖々と頷いたんだ…そうしたら…『何か急いでるんだろ…俺、お前のずっと後ろから見てたけど…べ、別に追っかけてた訳じゃないぞ!俺は妹を迎えに行くとこだったんだ!駅までな』って言って私の自転車を見たの…『その自転車じゃ駅まで行くのは無理だな…』って言われて何だかすごく悲しくなって…私泣いちゃった…」

 

 確かにあった…思い出した…あの時の女の子って茜ちゃんだったんだ…

 すごく身長も伸びて…髪型とかも変わってたから気がつかなかった…

 でもよく見れば面影はそのままだな…

 今までわからないなんて…俺って結構ダメな奴だな…

 

「私は自転車…壊れちゃって…駅まで行けない…って言って泣いてた…そうしたらその人は…『よし、お前!俺の後ろに乗れ!早く乗れ!!』そう言いながら私の手を引っ張ったんだ…」

 

 確かに…そう言った記憶がある…格好つけて…

 

「そして強引に私を後ろに乗せたの…私もなんでかな…後ろに乗っちゃった…」

 

「私は二人乗りは違反なんだよ!って言ったんだよ。でもその人はすこし後ろを振り向いたけど何も言わずにずっと走ったんだ…すごい一生懸命に走ってくれたんだ…そして駅についた…」※本当に二人乗りは駄目だよ

 

「駅についた時にその人は言ったの、『まだ間に合う!電車に間に合うから急げ!』って…でね、私はお礼も忘れて急いで電車に乗った…そのお陰でお姉ちゃんの手術にも間に合ったよ…」

 

 そうか…完全に思い出したぞ…

 あの時は困ってる茜ちゃんを見てほっておけなかったんだよな…

 半分は格好つけもあったけど…でも困ってる妹を見てるような気がしたんだ…

 

「私も思い出したよ…お兄ちゃんに聞いた事があるよ…その話…」

 

「え?聞いた事あるって…お兄ちゃんに聞いたって前言ってなかったよね?」

 

 あら…そっか、この話は一度茜ちゃんが綾香に話してるんだ…

 俺が知ってるから聞いたことあるよってつい言っちゃったけど、本当の綾香は知らないもんな…でもまぁごまかせるだろ…

 

「たぶん…思い出せなかっただけじゃないかな…私は記憶喪失になってから逆に忘れてた記憶をいきなり思い出せたりしてるんだよ…」

 

「そうなんだね…そんな事もあるのね…」

 

 茜ちゃんは話を続けた。

 

「お姉ちゃんの手術も無事に終わって、私はその日の夜に駅に両親と一緒に戻ってきたの…それで壊れた自転車を取りに両親と一緒に自転車を置いておいた場所に行ったら…そこには夜で真っ暗なのに懐中電灯の光だけを頼りに一生懸命に自転車を修理してるその人がいたんだ…私驚いちゃった…だって夜の十一時だったんだよ」

 

 覚えてる…駅まで送った時は無我夢中だったけど、駅でよく見るとかわいい子だったからついつい自転車を修理して格好つけようかと思って…うわ…すっごい不純な動機だった記憶があるぞ…

 

「それでね、その人は結局自転車を修理出来なくって、『ごめん、修理出来なかった』って言ってすごい勢いで逃げていったんだよね…」

 

 そうだ…修理が結局出来なくってすっげー恥ずかしかったんだよな…

 女の子と両親も一緒だったし…思わず逃げてしまったんだ…

 

「私はどうしてもお礼が言いたくって…ずっとその人を探したんだよね。でもなかなか出会えなくって…でね!北彩高校に入学して見つけたの!同じ高校の三年生だったの!その後に実はその人が綾香のお兄ちゃんだってわかって正直びっくりしちゃったよ」

 

 そうなのか…俺もびっくりした…綾香の友達だったとは…

 

「そっか…でもそんな事で好きになっちゃうの?お兄ちゃんの事…」

 

「何でかな…最初は好きとかいう気持ちはなかったんだけど…ただお礼が言いたいなって思ってただけなんだけど…でも、ずっと考えてたら頭の中から離れなくなっちゃって…考えれば考えるほど胸が苦しくなっちゃって…この学校に入学してから余計に…いつもお礼言いたかったのに…目の前に先輩がいると何も言えなくって…気がついたら私…」

 

 茜ちゃんは自分の胸を押さえながら下を向いた…

 なるほど…家に遊びに来た時もいつも俺には挨拶だけだったし…そういう事か…

 しかしひどいな俺は…茜ちゃんの事をまったく思い出さないなんて…

 

「私…おかしいかな…こんな事で人を好きになるって…」

 

「ううん!おかしくないよ…茜ちゃんは全然おかしくないよ、でも…茜ちゃんみたいないい子はお兄ちゃんにはもったいないよ…」

 

 うわ…何だ!?俺は自分で自分を否定するのか!!!

 

「そんな事ないよ、先輩のほうが私にはもったいないくらい…」

 

 何ていう事でしょう!こんな事を言われる日がくるなんて!生きててよかった!

 しかし…俺は今、綾香なんだよな…

 

「そ、そっか!うん、お兄ちゃん…はやく戻ってくるといいな」

 

「うん!早く戻ってきてくれないかなぁ」

 

 その時に茜ちゃんの笑顔はとても可愛くって素敵だった…

 その後、元気になった茜ちゃんと夕方まで話をした。

 話せば話すほどいい子だなって…そう実感した。

 

「ありがとう…綾香…私ね…先輩が戻るまで待ってるよ…」

 

「うん…きっと戻ってくるよ…」

 

 あーもう…俺はここにいるのに…

 

「綾香…前にも聞いたんだけど…綾香は私を応援してくれる?」

 

 夕日を背にして茜ちゃんが言った。

 

「うん…応援するよ」

 

 俺は思わずそう答えた…

 そして茜ちゃんは家へと戻って行った。

 

 

 ☆★☆

 

 まさか…茜ちゃんが俺の事を好きだったなんて…

 くそう…俺はここにいるのに…でも俺は綾香になっている…

 俺は決めたぞ…茜ちゃんが俺の事をずっと想ってくれているなんてどうでもいい…

 今は綾香の姿だから、とにかく元気にいてくれるように支えてあげよう…

 それしか今の俺には出来ないからな…

 そして…もし俺が元に戻った時も茜ちゃんが俺を好きだったら…その時は…

 よし!戻るぞ!絶対に戻るぞ!!目標が出来たぞ!

 

 ピンポーン

 

 なんだ?こんな時間にお客さんかな…

 今日は両親がいないから…俺が出ないといけない…

 色々あって疲れるんだけどなぁ…変な訪問販売だったらいやだなぁ…

 

「はい?どなたですか?」

 

 俺は玄関ドアを開いた。すると何処かで見たような女の子が…

 

「はーい!綾香ちゃん」

 

 そこには絵理沙がいた…って!!何しに来たんだよ!

 

「はーいって…何でお前がここにいるんだよ…何で俺の家を知ってるんだよ!」

 

「え?お兄ちゃん先生だから住所なんてすぐわかるわよ?ああ、大丈夫!ちょっとね、遊びにきただけだからさ」

 

 絵理沙はやけに楽しそうに俺を見ている。

 俺は正直今日は色々ありすぎてもう誰も相手にしたくない。

 

「ちょっと今日は疲れてるんだよね…じゃあまた明日ね…」

 

 俺はドアを閉めようとした。

 半分閉まりかけたドアを強引に入ってこようとする絵理沙。

 

「ちょっと!何?こんなかわいい子が折角遊びにきてあげたのに!何?その態度」

 

 誰も遊びに来てくれって言ってないし、もう五時だぞ?こんな時間に遊びになんか普通は来ないだろ…

 

「別に遊びき来てって言った記憶はない。また明日逢えるじゃないか…遊ぶのは今日じゃなくってもいいだろ?」

 

 俺は再びドアを閉めようとした。しかしドアが閉まらない…

 びくともしなくなったぞ…何だこれは!?俺はドアの隙間から外を見た…すると…

 

「やあ、綾香君」

 

 うわ!野木…なんだよ…何でお前までいるんだ!

 

「野木先生、女子生徒の家に用事もないのにこんな時間にくるのは駄目だと思います、じゃあまた明日」

 

 俺は再度ドアを閉めようとするがまったく動かない。

 それどころかドアはいきなり全開になった…野木の魔法か?これは…

 

「いやいや、魔法じゃないよ、単なる家庭訪問だよ!ははは」

 

 嘘をつくのと人の心を読むのはやめろ!あと、高校一年の妹と一緒に女子生徒、それも担任じゃない生徒の家庭訪問をする教師がどこの世界に存在するんだ…

 

「今日は両親もおりませんし、嘘つきな変態先生は嫌いです。さようなら…」

 

「まて!綾香君!今日君は妹の為に協力するって言ってたじゃないか!」

 

「それはそれ、これはこれ…だいたいなんでこれが協力なんですか」

 

「絵理沙が綾香君の部屋を見たいという事に対する協力だ」

 

「それって今日じゃなくってもいいですよね…」

 

「いや、思い立ったが吉日と言うだろう!」

 

「そういう事にそのことわざを当てはめるのはどうかと思います…」

 

 って!辺りを見渡たすと絵理沙がいない!まさか!

 俺は慌てて自分の部屋じゃな…綾香の部屋に戻った。

 ドアを開けるとそこには…

 

「おじゃましてまーす」

 

 絵理沙はちゃっかりと部屋に入っていた…それもちゃんと綾香の部屋に…

 

「あの…もういいでしょ?部屋も見られた事だし…」

 

「うーん、悟君は私には全然優しくないなぁ」

 

 何故俺が絵理沙に優しくしてあげないといけないんだ…

 俺をこんな目に合わせてる張本人だろうが…

 

「へぇ…ここが綾香ちゃんの部屋ねぇ」

 

 絵理沙はきょろきょろと部屋中を見渡している…

 

「何だよ…何をきょろきょろ見てるんだよ」

 

「ううん…結構女の子っぽい部屋にしてるんだなぁって思って」

 

「元々が妹の部屋だ!女の子っぽくって当たり前だろ!」

 

 そう言ってる横でドアの開く音がした…野木まで部屋に入ってきやがった…

 

「こら!女の子の部屋に勝手に入るな!」

 

 くそー!なんなんだよこの二人は…

 

「いやいや…綾香君、実は…ここに来たのは遊びではないのだ」

 

 野木はニヤニヤとしている。信用出来ない…

 

「私は貴方を信用出来ません、出て行って下さい」

 

「ひどいな綾香君、僕は嘘はつかない」

 

 どこがだ…嘘をつきまくってるじゃないか。

 

「それじゃあ何をしにきたんだよ!」

 

「ふふふ…君の体内に入れたカードだが、魔法力がいくつ溜まっているかがわからないだろ?君はその数値が知りたくないかい?」

 

 むむ…確かに…カードを入れた果たしてどの程度魔法力が溜まっているのかがまったくわからない…知りたいと言えば知りたい。

 

「そのカードに溜まった魔法力を見られる装置を持って来たんだ」

 

 何だと!?そうならそうと先に言えばいいのに…何故言わないんだ…

 こいつら完全に俺で遊んでるだろ…

 

「そうなのか、まぁ…それは俺も欲しいけど…何で今ごろ?もっと早く渡してくれてもいいんじゃないのか?」

 

「いやいや、発注してたんだけど、品切れでね、今日やっと届いたんだよ」

 

 発注って…これって量販されてるものなかよ…

 

「そう!これだよ!これ!」

 

 そう言うと野木は四角い目覚まし時計のようなものを鞄から取り出した。

 それには五桁の数値が出るようになっていて、今は00000になっている。

 上には赤いボタンがあってまるで目覚ましのストップスイッチみたいだ。

 

「で?その目覚ましみたいなのを使ってどうやればいいんだ?」

 

「まずこの上のボタンを押してくれたまえ」

 

「これか?」

 

 俺は言うがままに赤いボタンを押した。するとがちゃがちゃとデジタルが動き出す。

 そして03333で止まった。

 

「おおおおお!」

 

 野木が大声を上げる。

 

「どうした!?これがどうかしたのか?」

 

「3333のぞろ目じゃないか!すごいぞ!」

 

「何!?3333だと何か良いことが!?」

 

「無い!」

 

 また自信満々に言われた…

 

「で…この数字が魔法力なのか?」

 

「そこからは私が教えてあげるね」

 

 そう言うと絵理沙がその装置を持って俺の前に来た。

 

「この数値が魔法力ではないのよ。実際の魔法力を設定数値で割ったものが出てるの」

 

「ん?どういう意味だ?」

 

「この数値が99999になったら目的の魔法に対する魔法力が溜まったという事になるって事なのよ。だからレベルの低い魔法ほどあっという間に99999になるの」

 

「なるほど…じゃあ再蘇生魔法に対する魔法力は少ししか溜まってないって事なのか?」

 

「そうね…あまり溜まってないわね…綾香ちゃんはあまり楽しい夏休みを過ごしてなかったでしょ?」

 

 うーむ…言われてみれば夏休みなんて一つも楽しくなかったな…

 一度だけ綾香の友達と買い物に行ったけど、あとは引きこもりだったし…

 

「確かに…楽しい夏休みじゃなかった…」

 

「でしょ?だから魔法力があまり溜まってないんだよ。言われたでしょ?楽しくって」

 

「なるほど…でもなぁ…楽しくってそんなに出来るもんじゃないぞ?」

 

「そこはがんばるしかないよね…私も手伝うからさ。色々とね…えへへ…」

 

 えへへって…な、何を手伝うんだ!?

 

「そうそう、綾香君!僕は君の成長記録をつけようかと思っているんだ。えへへ」

 

 えへへって!?俺は咄嗟に自分の両胸を両腕で押さえて隠した…

 

「綾香君、何をしてるんだい?別に僕は君の胸の成長記録ばかりをつけ…」

 

 ボゴ!!鈍い音がしたと思ったら野木の顔面に絵理沙の拳がめりこんでいる…

 

「お!に!い!ちゃ!ん!そういう変態じみた事は今後しないでね!」

 

 な、なんだ…絵理沙…顔が笑顔なのにひくひくしてるんですけど…すっごい怖いよ…

 それにそのパンチはかなり痛いだろ…いいのか?実の兄貴だろ…

 

「絵…理沙…何を…ぐう」

 

 野木は鼻血を出しながら倒れた。

 

「あ、綾香ちゃん、あはは…まぁあれだよ、これで数値がわかるから!今後は確認しながら溜めるといいよ。この馬鹿兄貴は私が責任をもって監視するからさ」

 

 監視って…確か…絵理沙が監視される方なんじゃなかったっけ…

 それにしても野木…妹にコテンパンにやられてどうする…

 

「あ、うん…ありがとう…今度からちゃんと確認するよ…」

 

「じゃ、じゃあ私達はそろそろ帰るね!」

 

「あ、うん、わかった、わざわざ持ってきてくれてありがとう…」

 

「うん、それじゃあね!お兄ちゃん!行くよ!早く!」

 

 そういうと絵理沙は倒れている野木を強引に起こした。

 

「ぐう…絵理沙、ま、まて!まだ僕の目的が達成されていな…」

 

 鼻血を押さえながら言ってた野木がいきなり黙った。

 野木の視線を追うとそこには拳をふるわせる絵理沙が…

 

「何?お・に・い・ちゃ・ん?もう用事は終わったよね?…戻るわよ…」

 

 絵理沙の野木に対する接し方が妙に怖い…

 

「あ、はい…戻ります…」

 

 野木がやけに素直に絵理沙の言う事をきいた。

 絵理沙は野木の手を引っ張ると窓際に行った。

 そして野木が窓枠に触ると窓が一瞬光った。

 

 ガラガラ…絵理沙が窓を開く…

 

「じゃねーまた明日ねーほら!兄貴が先にいけよ!」

 

「え、絵理沙!押すな!」

 

 絵理沙と野木は窓の中に入って消えた…窓…に!?

 

 え?何だ?これ何だよ?窓に入って消えた!?まさかドラ○もんのどこでも○アか!?

 よく考えればあの二人はどこに住んでるんだ!?異次元?

 うーん…ま、まあ…深く考えるのはよそう…頭が痛くなる…

 

 俺は絵理沙と野木が置いていった魔法力メーターを見た。

 まだ3333か…絵理沙の言う99999には果てしなく遠いな…

 しかし、これであといくつ溜めればいいのかわかるようになったし、目標を持って生活も出来る。

 そう悟に戻って茜ちゃんに告白されるという目標!ははは!は…そうだ!

 そう言えばあいつら玄関から入ったはずだぞ?

 あいつら靴は!まさか忘れてとかないよか?魔法使いだぞ?きっと転送か何かで…

 俺が慌てて玄関に行くと…玄関にはしっかりと2人の靴が残っていた…おいおい…

 

 こうしてドタバタだった2学期の初日は終わった。

 

 

 続く

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