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第4話 嵐の始業式!? 前編

 ついに来た二学期の始業式の日


 俺は朝食を食べ終わると、登校の準備をする為に自分?の部屋に戻ってきた。

 そして俺はクローゼットからクリーニング済みの彩北高校の制服を取り出した。

 この制服はもちろん綾香の制服だ。

 この学校の制服はグレーに赤ラインのチェックのスカート、上は夏の場合にはブラウスの上に白いサマーベストを着る。冬は紺色のブレザーを羽織る。

 男子はネクタイ、女子にはリボンがあり、ここがワンポイントらしい…。

 しかし、蘇生で復活していたときにこの制服を着ていた時は驚いた。

 マジで女装でもさせられたのかと思っていたが…再びこの制服を着るなんて…

 仕方ない…これが綾香になっている今の俺の制服なんだよな…

 正直、女性物の普段着すら抵抗があったのに制服となるとかなり抵抗がある。


 俺が制服を着るのを躊躇っているともう家を出ないといけない時間になっていた。


「や、やばい!遅刻する!」


 俺は慌てて制服に着替えてから姿見で確認をする。

 髪型…OK…制服…OK…リボン…OK…よし…大丈夫そうだな。

 しかし…かわいいな…制服姿の綾香も…

 …

 やばい…注意しないと…俺は今確実に危ない方向に進んでいるかもしれない…


 ふと時計を見ると七時四十分になっていた。やばい!時間がないんだ!

 俺は慌てて家を飛び出すと自転車に乗り猛スピードで学校へ急いだ。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 俺の本気の漕ぎにかかれば学校なんてすぐだった。

 思ったよりも早く学校に到着!自転車を駐輪場にとめると下駄箱へ向かう。

 この学校は駐輪場から下駄箱まですこし距離があるんだよな…

 雨が降るとこの距離が苦痛に感じるんだ。

 周囲に登校している生徒達を見ると不安になってきた…

 大丈夫か…俺は綾香としてちゃんとクラスに馴染めるのか…くそ…すごくドキドキする…

 俺はクラスメイトの名前だって、佳奈ちゃんと真理子ちゃんと茜ちゃんの三人以外はほぼ知らないし、綾香がどんな感じでみんなと接していたのかもわからない…

 本当に記憶喪失って事にして、当分の間つき通すしかないんだよな… 

 俺は下駄箱に辿りつくと、上履きに履き替えようと下駄箱に手をかけた。


「ちょっと君…」


 ん?聞いたことのある男の声がした。そして俺は声のする方を見た。

 そこには俺(悟)のクラスメイトの三年A組の宮代貴裕の姿があった。

 宮代貴裕は真理子ちゃんの兄貴で俺(悟)と同じ学級で小学校から知っている仲だ。

 真面目で優等生…それでもってスポーツ万能…くそ、神様って不公平だ。

 で、今の俺に何の用事だろう…


「君、姫宮悟の妹だよね?確か綾香ちゃんだっけ?」


「ええ、そうです」


「ここは三年の下駄箱だよ?」


 げ…しまった…確かにここは三年A組の下駄箱じゃないか…

 俺は何も考えないで歩いていたら三年A組の下駄箱にきてしまったのか…


「あ、ああ…そうですよね、えっと、私、兄の下駄箱をちょっと見たくって」


 ものすごい無理がある言い訳をしている気がする。


「そっか、悟の下駄箱を見に来たのか…確か…悟は行方不明になったんだよね…」


 貴裕は沈んだ表情で言った。

 あれ…ごまかそうとして言ったのに…何かちょっと違う反応になったぞ。


「は、はい…で、でもきっと生きてるって私は信じてるんです!」


「綾香ちゃんは強いね、僕も信じるよ、あいつは絶対に生きてるって。悟は雑草よりも生命力がありそうだもんな」


 俺の言葉が効いたのが?貴裕は笑顔で俺に話してきたぞ。

 すこし余計な事も言っているのがむかつくが…

 それでも心配してくれている貴裕を見てると、事実を隠してる自分に嫌悪感を感じる。

 俺が悟だよ、生きてるからって言っやりたいな…でも仕方ないよな…


「じゃ、じゃあ…私は一年の下駄箱に戻るので」


「ああ、じゃあまたね。あ!そうだ、何か困った事があったら妹にでもいいし僕にでもいいから相談してくれ」


 そう言うと貴裕は校舎の中に入って行った。俺も早く戻らないと時間がない…

 俺は一年の下駄箱に行こうと出入り口へと向いた時、目の前に人影が現れた。


「お!悟の妹じゃないか!」


 げ…正雄…面倒な奴に出会ったな…


「よう…姫宮綾香」


 うわ…大二郎までいる…新学期の朝から馬鹿二人組と逢ってしまうとは…


「お、おはようございます」


 俺は一応挨拶だけするとその場から逃げたくって、大二郎の右脇を抜けようとした。

 しかし大二郎は左腕を伸ばして邪魔して通行を妨げた。


「な、何ですか?通して下さい。もしかしてこの前の事を怒ってるんですか!」


 邪魔をされた事にすこし苛立った俺は思わす大きな声を出した。

 俺達のやりとりに気がついた周囲の三年生が俺達三人を見ている。

 やばい…これは目立つ…


「いや、俺は怒ってはいない…そういう事じゃないんだ」


「じゃあ、そこを通してもらえませんか?」


 俺は大二郎の手を持って払いのけた。


「まあ待てよ、姫宮綾香!大二郎は今日お前に大事な用事があるんだと」


 そう言うと正雄が俺の肩に手をかけた。


「私には用事なんてありません!」


 俺は正雄の手も払いのけた!

 何を考えてるんだ、こいつらは!


「姫宮綾香、待ってくれ!本当に俺は…お前に用事があるんだ!本当は後でお前を捜しに行こうかと思ってたんだが、ここで逢ったのも何かの縁だし」


 大二郎はそう言うといきなり俺の両肩を持った。そして俺をじっと見つめる。

 ま、待て!俺は男になんてまるで興味はないし、そんなに見つめるんじゃない!

 それに後で俺を捜してまで何を言いたかったんだよ!その前にこの手を離せ!

 周囲の三年生がじろじろと見ていてかなりはずかしいじゃないか。


「は、離してください!」


 大二郎は俺の言葉を完全に無視している。なんて奴だ…


「もう!一体何なんですか!言いたい事があるならさっさと言って下さい!」


 大二郎は頷いた。


 う、頷くな!俺は大二郎には用事はないし!っていうかマジで時間もないんだよ!

 そう思い大二郎を見ると…うわ…すごく真剣な目で俺を見ている…

 それに横に立っている正雄がすごく楽しそうな表情だ…

 なんかすごく嫌な予感がする…


「姫宮綾香!」


「え!?は、はい?」


「俺の気持ちを言うぞ!この前の一件で俺は…俺は、お前に惚れた!強くてかわいいお前に惚れたんだ!好きだ!この俺と付き合ってくれ!!」


「え!?」


 大二郎は真剣な顔をして、よりによって大声で俺に向かって告白をした。

 なんで俺が告白されないといけないんだ!それも下駄箱で!大二郎に!?

 周囲で他の三年生が取り囲んで俺達を見ている…恥ずかしい…

 くそ…正雄の野郎、ニヤニヤしながら俺を見やがって…

 やばい、きっと変な事を言われたから恥ずかしくて顔が赤くなってるぞ!

 こんな顔してるとすごい勘違いされるじゃないか!この場から早く逃げないと…


「どうだ?姫宮綾香、俺と付き合ってくれないか?」


 周囲の三年生のささやき声が俺に聞こえてくる…


「ねえ、すっごいね、二学期始業式の日に告白だって」

「あの大二郎が告白してんよ!それも一年相手だって」

「うわーまじ?こんな場所で?信じられない」

「あの子は一年の姫宮さんだよね?確か悟君の妹で飛行機事故から生きて帰ったって」

「大二郎って根性あるな…結果どうなんだ?」


 うわ…これは困った…と、とりあえずは断るぞ!


「無理!こ、断る!」


「何だと!?姫宮綾香!俺じゃ駄目なのか!」


 うわ…すごい迫力だ…


「だ、駄目っていうか…そういう問題じゃない!」


「じゃあ何なんだよ!言え!どうすればいいんだ!」


「じ、自分で考えろ!」


 何だこの断り方…俺は断り慣れてないからな…仕方ない、逃げよう!

 俺は屈んで大二郎の手を外すとその場から急いで走り去った。

 後ろから大二郎の叫び声が聞こえる。


「姫宮綾香ぁ!俺はあきらめないぞ!」


 あー恥ずかしい!もうお願いだから俺の事はあきらめてほしいよ…

 っていうか相手しないでほしい…あーもう…二学期早々から大問題発生かよ…



 ☆★☆★☆★☆★☆



 俺はなんとか一年の下駄箱にたどりついた…そして妹の下駄箱を探す…

 確か…ここらへんだったような…一年B組っと…

 あったあった!よし、時間もないし、早く上履きに履き替えて中に入ろう!

 そう思って下駄箱を開けると中には黄色い封筒が入っている…

 ちょっと待って…これって…何だよ…まさか…


 俺は封筒を取って宛名を見た。姫宮綾香様…俺宛だ…というか妹宛だな…


「あれ!綾香!ラブレター?」


 後ろからいきなり声をかけてきたのは佳奈ちゃんだ。


「あ、おはよう、佳奈ちゃん」


「おっはよー!二学期早々からラブレター貰うとかさ、綾香やるねー」


 佳奈ちゃんはすっごく楽しそうだ…

 俺は全然楽しくないよ…さっきも色々あったし…


「い、いや…私こういうの困るし…」


 キーンコーンカーンコーン

 ホームルームの始業チャイムが鳴った。


「やっば!もうこんな時間じゃん!綾香!急ごう!」


「う、うん」


 俺は手紙を鞄の中に入れると佳奈ちゃん二人で急いで教室へと向かった。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 教室に到着すると俺はいきなり女子生徒に囲まれた。

 今日はホームルームがないらしく、始業式が先らしい。

 だから始業式まですこしだけ時間があるらしいのだ。

 だからといって何で俺に群れる!


「綾香ちゃんって飛行機事故から生きて戻ったんだって?すっごーい」

「ねーねー墜落ってどうだった?怖かった?」

「綾香のお兄さんが行方不明になったって本当?」

「記憶喪失になったって噂聞いたんだけど?どうなの?」

「ねえ!今日さ、三年の清水先輩に告白されてたでしょ!綾香どう思ってるの?」


 そんなに同時に聞かれても聞き取れないし、答えられないよ!

 もう、お願いだからそっとしておいてよ…


「え、えっと…私は…」


 何をどう答えていいのか本当にわからない…困った…


「ちょっと!綾香が困ってるじゃないの!あのね、聞いていい事と悪いことがあるでしょ?どうしてそんなに何も考えずに聞けるの?綾香はすっごい大変だったんだよ?まだ心に傷だって残ってるかもしれないんだよ?やめなさいよ!」


 俺が後ろを振り返るとそこには真理子ちゃんが立っていた。

 真理子ちゃんは腕を組んで俺を囲んでいる女子生徒を睨んでる。


「そ、そうよね…ごめん綾香…」


「うん…そうよね…私も悪かったよ…ごめんね綾ちゃん」


 女子生徒達は真理子の一言とその表情を見て全員席に戻って行った。

 ふう…助かった…流石だ真理子ちゃん…


「助かったよ、真理子ちゃん」


「まったくみんなデリカシーがないっていうかね…」


 真理子はそう言いながらまだ教室中に睨みをきかしてくれていた。

 本当にこの子はいい子だな…そうだ!そう言えば…茜ちゃんは?


 俺は教室を見渡した。すると茜ちゃんは自分の机に座ってぼーっとしている。

 俺がずっと見ているとようやっと気がついたみたいで手をふってくれた。

 俺も茜ちゃんに手をふり返した。どうしたのかな…茜ちゃんの元気がない…

 今日だって挨拶もしてないし…


「みんな!そろそろ移動しましょう!」


 真理子がそう言うとクラス全員が体育館へと移動し始めた。

 俺もクラスメイトと一緒に体育館へと移動した。



  ☆★☆★☆★☆★☆



 始業式は長い…くだらない話も多い…正直昔の俺ならすっぽかしてた。

 しかし、今は綾香だ…仕方ないから参加している。

 そろそろ時間も時間だし、もうすこしで終わるかな?


「最後に教頭先生から…」


 おお、やっと最後だ!


「この学校でこの春から5ヶ月ほど教鞭をとっていました北本先生が八月いっぱいで退職されました」


 え!?俺は教頭先生の言葉にすごく驚いた。

 な!?なんだと!?北本先生が辞めた!?俺はそんな話は聞いてないぞ!

 どうなるんだ?北本先生が居なくなったらどうやって元の悟に戻るんだ!?

 再蘇生魔法を唱えられるのって北本先生じゃなかったのか!?

 くそ!野木!俺に何も知らせてくれなかったな!あとで問い詰めてやる!

 で…野木はちゃんといるのか?野木まで居なかったら俺は終わるんだけど…


「北本先生は先般の事情があるとの事で、最後の挨拶をして頂けなく、とても残念に思いますが皆さんは先生の事を覚えておいて頂きたいと思っています」


 うーむ…しかし、北本先生に何があったというのだ…

 いきなり学校を辞めちゃうなんて…


「次に、新しくこの学校で教鞭をとって頂く先生をご紹介します。野木先生です」


 お、野木はちゃんと残ったのか。野木までいなくなったら俺はマジで終わるしな。


「野木一郎です。主に科学を担当します。他にも理数系は得意としてますので何か質問等がありましたら遠慮なく聞いて下さい。よろしくお願いします」


 け…何が理数系だ格好つけやがって…くそ…


「以上で始業式と全体朝礼を終わります」


 やっと終わった…俺はクラスのみんなと一緒に教室へ戻った。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 始業式の日だけは学校が早く終わる。昼には終わるので今日は授業もない。

 二時限目はHRだ。早く終わらないかな…もう今日は疲れたし…もう戻りたいよ…

 ふう…本当に疲れた…


 俺が机に俯せになっているとガラガラという教室の扉を開ける音が聞こえた。

 顔を上げると担任の先生と一緒に女の子が入ってきた…


「ホームルームを始めますよ、えーと、まず始めにこのクラスに新しく入る、皆さんの新しいお友達を紹介しますね」


 この時期に転校生?一年のそれも二学期に?


「初めまして、野木絵理沙っていいます。両親の仕事の関係で中学三年までアメリカに住んでいました。でも、高校からは日本で学びたいと思っていましたので戻ってきました」


 絵理沙の自己紹介にクラス中が響めいている。


 ふーん…帰国子女か…珍しい…そんな子がうちの学校に入ったのか…

 しかし、この野木絵理沙という子はハーフなのかな?

 髪は茶色だし、瞳も茶色だな…肌は色白だし…

 身長は165センチくらいあるかな?スタイルもばつぐんだし…日本人っぽさがない。

 海外にいたって言ってたけど、モデルでもやってたのかな?


「えっと…名前からわかるかもしれませんが、私は科学の野木先生の妹です」


 クラス中から今度は驚きの声があがる。


 え!?ちょっと待て!まさかと思ってたけど何だそれ!?野木の妹だと!?

 じゃあこの子も魔法使いなのか?


「よく聞かれますが私は純粋な日本人です。海外でモデルの仕事なんかもしてません」


 なんだ…まるで俺の考えを読み取ったかのような話だな…


「皆さん、日本に不慣れな私ですがよろしくおねがいします」


 野木絵理沙の自己紹介が終わった。


「えーと…じゃあ…席ね…そうね、姫宮さんの隣りでいいかな」


 え…俺の隣?確かに…右隣りの席があいてる…


「はい、わかりました」


 絵理沙は笑顔で俺の横まで歩いて来た。

 そして何故だろう?俺を見ると満面の笑顔で挨拶をしてきた。


「よろしくね、姫宮さん」


「あ、はい、よろしくね」


 絵理沙は先生に指示された席に座った…この子が野木の妹…本当にかな?

 俺が絵理沙を見ていると絵理沙は笑顔で俺の机の上を指さした。

 指をさされた机の上の隅には小さな紙が置いてある。

 あれ?なんだ?この机の上の紙は…

 もしかしてさっき挨拶したときに絵理沙さんが置いたのか?

 俺は絵理沙の顔を見ながら、その紙をちらちらと見せた。

 絵理沙は一度頷くと満面の笑みを浮かべた…どうやら絵理沙さんが置いたようだな…

 俺はゆっくりとその紙を開いた。すると中にはこう書いてある。

 

 姫宮さんへ

 今日の放課後屋上で待ってますね。 絵理沙


 まて…なんだ?この手紙は…屋上?まさかこの子も危ない趣味の子か?

 い、いや違うだろ?初対面だぞ?初対面だよな…多分そうだ…

 しかし、まてよ…なんでこの子は俺の名前を知ってるんだ?

 そうか!野木か!あいつから聞いたのか!!だから知ってるのか!

 という事は…俺の秘密も知ってるっていう事か!?いいのか?

 妹だからって知れてもいい事なのか!まてよ…本当に野木の妹かわからないぞ…

 こんな子があいつの妹なはずがない!似てないし!

 ま、まあ…仕方ないし…放課後に直接聞けばわかるかな…



 ☆★☆★☆★☆★☆



 やっと終わった…これで帰れる…っと思ったけど帰れないんだった…

 屋上に行かないと…


「綾香!一緒に帰らない?」


 佳奈ちゃんが声をかけてきた。


「ごめん、ちょっと用事があって…」


「えーそうなの?残念!いっしょに買い物でもいこうかと思ったのにー」


 佳奈ちゃんはとても残念そうに帰って行った。

 そう言えば茜ちゃんは?教室を見渡したが茜ちゃんの姿はなかった…

 もう帰っちゃったのかな…茜ちゃん…

 挨拶もないなんて…どうしちゃったんだろう…


 俺は帰り支度をしてから屋上へと上がった。

 屋上なんか滅多に出た事はない。それにしても何故に屋上なのだろうか…


 屋上へと出る鋼鉄製のドアをあけるとそこには絵理沙さんの姿があった。


「ごめんね絵理沙さん、遅くなっちゃって…」


「ううん、大丈夫よ、私も今さっき来た所だから」


 またあの笑顔で返されてしまった…


「で?何の用事かな…」


「えっとね…私…綾香ちゃんに確認したい事があって…」


 確認…って何ろう…変な事じゃないよな…


「か、確認って何?」


「綾香ちゃんって…」


 綾香ちゃんって…俺の中に緊張が走る…


「食べ物は何が好き?」


 ドテ…って心の中でこけたよ…マジで拍子抜けの質問すぎた…


「た、食べ物?って…そんな事を聞くためにわざわざ?」


「え?悪かったかな?」


 悪くはないけど、一体何の意味があってそんな質問を…


「い、いや…悪くないよ…えっと、私は…そうね…ラーメンとか好きかな」


 あ、しまった!思わず俺が素で好きなものを言ってしまった…


「へー悟君はラーメンが好きなんだ」


「うん、私はラーメンが好きだよ…え…」


 おい!今悟君って言わなかったか?言ったぞ、確かに言ったぞ!

 という事は…え!?なんだ!?やっぱりばれてるのか!

 俺はもしかするとこの世から消滅!?いやだぁ!野木!野木!こら野木!


「何だよ、綾香君、心に中で叫ばないでくれるか?」


 俺はその声に驚いた。そして慌てて振り返るとそこには野木の姿があった。


「ちょっと!野木、これどういう事だよ!?あと人の心の中を探らないでくれ!」


 二人の野木は大笑いしている…


「あははは…おもしろいな悟君は、じゃないや綾香ちゃんは」


 野木が俺の頭をなでなでしながら言った。


「やめてください…」


 絵理沙もひいひいとお腹を抱えて笑っている。

 なんだこの二人は!正直かなりむかつく!!!!


「これはどういう事なんだ?ちゃんと説明してくれよ!」


 絵理沙は笑うのをやめると俺の横にきて耳元で囁いた。


「私よ…北本恵理よ」


 俺はその一言にかなり動揺した。


「き、き、北本!?先生!?」


「しー大きいよ声が…これからは小さい声でね。流石にばれるとやばいのよ」


「あ、うん…」


 何だと…この子があの北本恵理だと!?どうなってるんだ?


「どうしたの?鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔してるわね」


「そ、そりゃそうだろ!驚いて当たり前だ!」


「あはは…大丈夫よ、こうなった経緯はちゃんと話してあげるから。だからそこの物陰にいこうか」


 絵理沙と俺と野木は物陰に集まった。

 この三人が集まってる姿を誰かに見られるとすっごく怪しいぞ…

 新任の先生と転校生と俺とか…組み合わせが…いいのか?こんなので…


「あのね、私はあなたにカードを挿したじゃないの」


「ああ、あれか…」


 確かに以前、俺に黄色いカードを挿したな…


「それで、その日から私は魔法が使えなくなった訳」


「確か、そんな事を言ってたな」


「で、どうなったかというと、魔法で北本絵理に化けてたのが化けれなくなったの」


「え?ちょっと待て!あれって化けてた姿!?変身してたってこと?」


「そうね、それに近いかな?魔法使いだもの…素顔でいるわけないじゃない」


「じゃ、じゃあ今の姿は?」


「これが私の本当の姿だよ。どう?結構いい感じでしょ?惚れた?」


 そう言うと絵理沙は長いきれいな髪をさっと右手でかき上げた…

 確かに綺麗だけど…だまされるな!こいつはあの北本恵理だ!


「だ、誰がお前になんて惚れるか!」


「あーら…残念ね…」


 何だ…本当に残念そうだぞ…何か言い方が悪かったかな…

 ち、違う!そうじゃない…


「でも、魔法使いがこの世界に素顔でいちゃ駄目なんだろ?いいのかよ?」


 俺がそう言うと絵理沙はすこし寂しそうな表情を浮かべた。


「本当は駄目だけど…私は魔法界にも戻れないの…これも罰だから…」


 そうだったんだ…そうとは知らず…


「よ、ようするに魔法が使えなくなったから絵理沙は本当の姿に戻ってしまった。それでその姿でこの世界にいないとだめだから生徒としてこの学校に入った?」


「そうね、そんな感じね」


 まて…そうなると絵理沙って実は本当の俺よりも年下なのか!?


「絵理沙、ちょっと確認したいんだが…絵理沙は年齢いくつなんだ??十五歳なのか?」


 絵理沙はすこし考えてから答えた。

 

「そうね…見た目は十五、六歳かな…」


「見た目…って本当は違うのか?」


「そんなの内緒だよ。女の子に年齢聞いちゃだめだよ」


 絵理沙はまたあの笑みを浮かべて俺にむかって言った。

 年齢聞いちゃだめって…まだ若いんだし…いいなじゃないか…

 まさか…実は結構年齢がいってるとか?でも本来の自分の姿があれだろ…

 うーむ…謎だ…謎すぎるな…


「しかし、なんで野木の妹として入ったんだ?別に普通に入ればいいだろ?」


「え?だって私は本当に野木一郎の妹だもん」


 絵理沙はそう言うと野木の方を見た。


「な…ん…だ…と…本当に…妹…だと!?」


 野木は自慢げな笑顔で俺を見ている。


「おやおや?綾香君、絵理沙が僕の妹だと何か問題でもあるのかな?」


 何の悪気もない野木…まぁそりゃそうだろう…

 別に絵理沙が野木の本当の妹でも問題って訳じゃないからな…

 しかし妙にむかつくのは何故だ…


「も、問題は…ない…」


「そうだろ?」


 野木はすっごい胸をはっている。くそ…なんだこいつ…いちいち感に障るような態度をとりやがって…


「ねえ…綾香ちゃん」


 俺が野木を睨んでいると、絵理沙がまじめな表情で俺の方を見た。


「え?」


 そして絵理沙は突然俺の顔を持つと自分の顔に近寄せた。


「ちょ!何するんだ!?や、やめろ!俺はそんな趣味はもっていない」


「ははは…別に何もしないわよ…ただね…」


 そう言うと絵理沙は俺の目をじっと見つめる…俺は思わず目を反らした。

 すると絵理沙は俺の耳元で小さい声で囁いた。


「こんな私だけど…よろしくね…悟君…」


 俺はその言葉を聞いて何故か背筋がぞっとした。


「それじゃまたね、綾香ちゃん!」


 絵理沙は言いたい事だけ言うとさっさと屋上から出ていった。


 野木が俺の方をじっと見ている。


「な、なんだよ」


「絵理沙はつよがっているが、実はものすごく不安なはずなんだよ。魔法界にも戻れず、今は人間と同じ能力しかない…何かあっても自分を守る魔法すらも使えない…だから俺はそばにおいてやりたかったんだ。兄としてな…君もわかるだろ?」


 野木はすごくまじめな表情で俺に言った。

 確かに野木の言いたい事はわかる…俺も妹を守りたいと思っている。

 同じ立場ならば野木と同じような行動に出たかもしれない。


「わかった…俺も…協力するよ」


「すまない…ありがとう。君には迷惑をかけているというのに…本当に申し訳ない…」


 野木は俺に深々と頭を下げた…本気で妹の事を考えているんだとわかった…


「わかったから…頭を上げて…」


 野木は頭をあげた。そして俺の方をじっと見ている…

 野木がいきなり両手で俺の両胸を掴みにかかった!予想外の行動に俺は動けなかった。


「うむ…残念、成長してないか…」


 何だこの変態は!!!いきなり俺の胸を掴みやがって!!!


「ちょ!何しやがる!この変態!!」


 俺は野木の両腕をおもいっきり叩き落とした。


「痛いな綾香君…いやね、前回逢った七月より胸が成長したような気がしてな…それで確認したかったんだ」


「そ、そんなもんいちいち確認するんじゃねー!」


「ははは…すまないな…つい気になってな…」


「だいたい俺の中身は男だぞ!?わかってるのかよ!」


「もちろんだとも!」


 すっごい自信まんまんに言い切られた…


「こ、こんな所を人に見られたら、あんたが困るだけだぞ!学校をクビになるぞ!?」


「そうだな!それは困る!!!今度は人目を気にする事にしよう」


「そういう問題じゃねぇ!」


 何だよ!結局は野木ってこういうやつなのか!

 妹想いのいい兄貴かと一瞬錯覚してしまった!油断してはいけなかった!

 こいつにはいつ襲われるかわからん…マジで注意しないと…


「という事だ!それじゃあ僕も戻るから、絵理沙をよろしくな」


「ちょ、ちょっと!野木!」


 野木は振り返る事もなく屋上から出て行った。


 うーむ…すごい展開になってきたぞ…

 目まぐるしいというか…なんて一日なんだ…


 ここでふと思い出した!そうだ!大二郎!

 あいつ、もしかして玄関で待ち伏せとかしてないよな!?

 怖い!あー怖い!ど、どうしよう…もしも待ち伏せされてたら…

 た、たぶん大丈夫だよな…とりあえず家に戻ろう!


 俺はかなり慌てていたのか屋上のドアの枠に脚がひっかかりこけてしまった…

 そして鞄の中身がどわーと踊り場に撒き散らされた…

 ああ…もう…俺は何をしてるんだ…

 散らかった鞄の中身を片付けていると…

 あ!この封筒!そこに今朝下駄箱に入っていた封筒が…

 

 そ、そういえばこれもあったんだ…うーん…どうしようか…捨てようかな…

 で、でも…一応は中を見ないとなぁ…


 俺はとりあえず鞄の中身を集めると階段に座って黄色い封筒を開けてみた。

 封筒の外には姫宮綾香様とは書いてあるが、差出人が書いてない…

 中には白い便せんがはいっており、何か書いてある。あたりまえか…

 えっと…


 姫宮綾香様

 僕は姫宮綾香さんがずっと前から好きでした…

 いつもあなたの事を想って胸が張り裂けそうな思いをしています。


 やっぱりラブレターだったか…

 綾香って結構人気あるじゃないか…くそ!

 で…続きは…


 でも直接告白する勇気もなく、手紙を書かせて頂きました。

 きっと僕に告発する勇気が出たら…


 おい…告白が告発になってるぞ…俺は訴えられるのかよ。


 勇気が出たらその時は姫宮綾香さんへ直接僕の気持ちを伝えます。


 終わり?差出人名なし?


 何だ?この手紙は!?漢字は間違ってるし!出す前にちゃんと確認しろよ…

 しかし誰だ?これじゃ誰が差出人がわかんねーぞ…わかんねー分怖いな…

 まぁ手紙でしか告白出来ない奴だろうから、直接は何もして来ないだろうけどな。

 俺は手紙を鞄にしまうと階段を下りて下駄箱まで行った。

 よし、下駄箱には大二郎はいない様子だ…いまのうちだ!

 俺は自転車に乗ると急いで家へと向かった。


 続く

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