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第28話 お互いの想い 前編

なんとかギリギリで12月更新でした。本当にすみませんでした。あと、12月に更新したかったので投稿しましたが、多少は見直す可能性はあります。ほぼ内容は変化ないとは想います。宜しくお願いします。

 特別実験室に悟と正雄は二人っきりになる。

 

 悟は先ほどの野木の妙な表情が綾香の脳裏に焼きついてなかなか離れない。

 男に変身をしているはずなのに…あの時の野木に女らしさを感じた。

 まさか…まさか野木まで?いや輝星花きらりまでも俺の事を好きなのか?

 悟は考えた。

 そうだよ、魔法使いは人を心で見るんだ。そしてその人の心を好きになる。

 あの二人は双子だ。絵理沙が俺の事を好きになったのなら、輝星花きらりだって俺の事を好きになる可能性だって無くはない。だけど輝星花きらりが俺を好きになるなんてあるのか?あの輝星花きらりがだぞ?

 俺には輝星花きらりが俺を好きになるなんてどうやっても考えられなかった。

 そうだよな、あいつは絵理沙みたいにはならない。

 絵理沙よりもずっと大人だ。

 

「おい悟、いいのか?追っかけなくって」

 

 考え耽っていた俺の耳に正雄の声が入ってくる。

 ふと正雄を見ると真顔で俺を見ていた。

 

「さっきから何を考え込んでたんだ?さっき告白した絵理沙とかいう女の事か?」

 

 正雄は俺が絵理沙の事を考えていると思ったらしい。

 それもある、でもそれだけじゃない。

 

「え?い、いや……」

 

「ん?違うのか?」

 

「あ、いやだから…」

 

 ここでまさか輝星花きらりの話題は出せない。正雄は野木が本当は女で、輝星花きらりという名前だと知らない。

 

「話せない事なら別にいい」

 

 何かを察しってくれたのか、正雄はそう言ってそれ以上俺に追求するのをやめた。

 

「それはいいとして、お前はここに居てもいいのか?」

 

 正雄は真顔で言う。

 

「でも、俺は追っかけても何も出来ないし」

 

 俺は絵理沙を追っても何を話せばわからない。それに正直、輝星花きらりに合うのも躊躇ちゅうちょしている。

 そう言う俺を見て正雄は少しイライラした表情で俺を見た。

 

「悟、告白されて何の返事もしないのは男らしくない。何だ?お前が好きじゃないから行かないのか?何も出来ないから行かないのか?越谷が好きだからあいつに悪いと思ってるのか?」

 

「違う!俺は絵理沙を嫌ってる訳じゃない!それに茜ちゃんが好きだからという訳でも無い…」

 

「それなら行って返事してやれよ。あつはお前をこんな姿にた張本人だ。俺は絶対にあいつらを好きにはなれない。でもアイツがお前が好きだという気持ちは嘘じゃないんだろ?中途半端にしておくとこれから先、お前の性格からして辛いだろ」

 

 確かに…このまま返事をしないと俺の中でずっとモヤモヤが残る事になる。

 決着は早い方がいい。解る…正雄の言う通りだ。

 でも、それでも「わかった」と言えない。まだ迷いがある。

 

「でも、俺は何て言えばいいんだよ」

 

「そんなの簡単だ。好きなら好き、嫌いなら嫌い。そうハッキリ言えばいいだけだ」

 

 正雄は厳しい表情で、そして冷静に俺を見ている。

 やっぱり正雄はすごい。恋愛に関しての考えも俺よりも遥かに上だ。

 そうだな、俺は…答えてやらないとな…絵理沙に。俺の今の気持ちを。

 

「ここで言うべきじゃないかもしれないけどな、悟を…ずっと前からお前の事を…」

 

 俺がまた考え込んでいると、正雄は小さい声で何かを言った。

 しかし俺はその言葉を途中から聞き取れなかった。

 

「え?何か言ったか?途中から聞き取れなかった」

 

 俺が正雄にそう言うと正雄は「別に何でもない…」とだけ言ってもう一度話してはくれなかった。

 そして正雄は絶対に話したくないという表情だった。だから俺はそれ以上は何も聞かなかった。

 

「早く行けよ」

 

「でも何処に行ったか場所がわかんねーよ」

 

「探せよ」

 

 正雄は簡単に言葉を返す。

 

「簡単に言うな?今から探したって見つかるか解らないじゃないか。そうだ、お前だって俺に話しがあったんじゃないのか?」

 

「そんなの後でいいんだよ!グテグテ言うな!早く行けよ!」

 

 正雄は俺の手をグッと持つと強引に特別実験室から俺を追い出した。

 

「俺はここで待っているから。終わったら戻って来いよ」

 

 そう言うと正雄は『ピシャン』と扉を閉めた。

 

 ちょ、ちょっとまてよ……仕方ないな…

 俺は廊下をゆっくりと歩きだした。そして廊下を歩きながら考える。絵理沙は俺に二度も告白をしたのに俺は何も答えてない。あの屋上の告白も本気だったのか……

 そうだ!あの時から態度が急変したんだ。そうか、あれは俺と関わり合わないようにわざとあんな態度をとっていたのか。

 廊下を走りながら俺は絵理沙の事をずっと考えた。

 でもどうなんだろう?正直、俺は絵理沙を好きなのか解らない。あの告白から疎遠になりがちで会話も減っているのもあるが、俺は絵理沙を恋愛の対象として見ていなかったのは確かだ。そうだ、あいつの気持ちを俺はまったく気がついてなかった。

 それどころか、屋上の告白さえ本気だとは思ってなかったし、確認もしようとしなかった。

 好かれているなんてまったく思っていなかったし、そして俺もそう思って対応をしてきた。

 でも…嫌いじゃない…好きと言われるとやっぱり意識してしまう。

 やめた!こんな事を考える前に絵理沙達を見つけよう。

 

 廊下を小走りで構内を探す。

 しかしなかなか絵理沙達の姿は見えない。

 マンションに戻った?何となくそれは無い気がする…

 じゃあ何処だ?

 廊下の窓から外を見る。外はもう夕方だ。

 

「あ!」

 

 俺はある場所を思い出した。そうだ…もしかすると…

 渡り廊下から両方の校舎の屋上を見る。すると第二校舎の屋上に女子生徒の姿が。

 あれは絵理沙か!?

 俺は急いで第二校舎へと向かった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 

 野木は絵理沙を追っかけていた。

 とは言っても何処に行っているのかは魔法で既に解っている。

 魔法で察知した通りの場所、第二校舎の屋上に絵理沙の姿があった。

 

「絵理沙、ここに居たのか」

 

 野木は絵理沙を発見すると優しく声をかけた。

 

「居たのかって、どうせ魔法で知ってたんでしょ」

 

 絵理沙はふて腐れた表情で野木の方を振り向く。口調も元に戻っている。

 

「ああ、知ってたよ」

 

「ほらね、私はどうせ魔法が使えないんだから輝星花きらりから逃げる事なんて出来ないんだよ」

 

 絵理沙は口を尖らせて少し怒った表情になった。

 

「絵理沙、良かったのかい?あんな事を悟君に言ってしまって」

 

 絵理沙は『ふぅ』と溜息をついた。そして寂しげな笑顔で言った。

 

「良かったよ」

 

 とてもじゃないが、野木に絵理沙のその言葉が良かったようには聞こえなかった。

 

「嘘をつかないでいいよ」

 

 野木がそう言うと絵理沙は唇をかむ。そして小さく頷いた。

 

「うん、本当によかったと思ってる。後悔もしてないよ。やっぱり好きなものは好きだし、ハッキリ言えて良かったと思ってるよ」

 

 野木はそんな絵理沙見て思った。強くなったな、絵理沙は…

 

「でも、前にも言ったが、僕達は人間とは結ばれる事はない」

 

「わかってるよ」

 

「じゃあ絵理沙は悟君とどういう関係を望んでいるんだ?」

 

「関係?………」

 

 野木は少し考え込む絵理沙を見て、先に話しを始める。

 

「絵理沙、やはり魔法世界に戻った方がいいじゃないのか?このままこの世界に居ると絵理沙の為にならない気がする。悟君を元に戻す為の魔法力が溜まったら呼ぶから、それまで魔法世界に帰っておく方が…そうだ!もし戻るなら頼み事もあるし」

 

「私は……」

 

 絵理沙は目を閉じて俯く…そして数分間の沈黙。

 

「私は…この世界に残る。ううん、残りたい」

 

「残りたい?」

 

「そう、残りたい」

 

 絵理沙は決意を固めたような表情をしていた。もうこれ以上何を言っても無駄だな。輝星花きらりはそう思った。

 

「わかったよ…僕も絵理沙ならそう言うと思ってた」

 

輝星花きらりお姉ちゃん…」

 

 絵理沙の目からいきなり涙が溢れ出る。そして絵理沙は僕の胸元に飛び込んできた。

 僕は慌てながらも絵理沙をしっかりと受け止め、そして抱きしめた。

 

「関係なんてどうでもいい…私は悟から離れたくない!だって好きなんだもん!」

 

「え…絵理沙…」

 

「好きな人と離れるなんて嫌…初めて人を好きになれたのに…」

 

 絵理沙はこう見えても実は恋愛経験は無かった。そう、もちろん僕も無い。

 中々他人に心を許さなかった絵理沙が、初めて自分から好きになった相手。それが悟君だったんだ。

 く…あれ?胸が痛い…何で僕の胸が痛くなるんだ…

 

「ねえ、私たちの世界のルールでは、魔法使いと人間の恋愛を禁止してる訳じゃないんでしょ?結ばれる事が禁断とされているのよね?私は悟の横に居る事が出来ればそれでいい!結ばれなくってもいいの!好きだから一緒に居たいの!」

 

 震える声で絵理沙は叫んだ。

 なんという強い想い……

 絵理沙のその強い想いを聞いていると、僕の胸の奥がまた締め付けられるように痛くなる。

 

 僕は数日前から悟君の心に色の変化には気がついていた

 それを感じ取った時、僕は胸の奥が何か押しつけられるような痛みを覚えた。

 しかし僕は何も行動できなかった。

 絵理沙はこんなに悟君を好き…あれ?僕は悟君の事をどう想っているんだろう?

 悟君の事を考えようとするだけで胸が苦しい…く…

 これは…もしかして?

 

 野木は自分が悟に対して好意があるのでは無いのかと真剣に、初めてそう思った。

 

 いや!そんなはずは無い!僕は悟君の心を好きになっていない。

 

 確かに野木は一度も悟の心に惹かれた事は無かった。でも確かに悟君の事を考えると心が痛かったし、苦しくなった。

 

 今はそんな事を考えている暇は無いんだ!

 そうだ、絵理沙に伝えないと…悟君の心の色が変化した事を。

 野木は首を小さく横に何度か振ると、絵理沙に優しく声をかける。

 

「絵理沙は本当に悟君が好きなんだね」

 

「悔しいけど…私は悟が好き」

 

「その絵理沙の想いが、悟君の心の色を元に戻したんだよ」

 

「え?悟の心の色が戻った?」

 

「ああ、男の心に戻ってたよ……絵理沙の告白で気持ちが変化したんだ」

 

「そ…それって?それってどういう事なの?」

 

「それはね…」

 

 僕は絵理沙に魔法使いと人間との恋愛の違いを説明した。

 絵理沙は不思議そうにその話を聞いていたが、最後にとても嬉しそうな顔になった。

 そして絵理沙は照れた表情で、再び僕の胸に顔を埋めた。

 

「私…悟君に女性として意識されてたって事だよね…なんだか嬉しいな…」

 

「そうだね……」

 

 絵理沙の幸せそうな声を聞いて、また心が締め付けられる。

 僕は悟君に女として見られているのか?僕は悟君にとって何なんだろう。

 そんな事を考える意味は無い。そう解ってても、だけど考えてしまう。そして胸が痛くなる…この感情は何なんだ?

 

「………え…な、なに?お姉ちゃん!?」

 

 絵理沙はハッとした表情で僕の顔を見上げていた。そして絵理沙は咄嗟に僕の額に自分の額を当ててきた。

 

「え、絵理沙!?」

 

 僕は動揺し、そして絵理沙を強引に引き離す。

 

「お、お姉ちゃん!?どうして…」

 

 絵理沙は『嘘でしょ』っという表情で僕を見た。

 

「絵理沙?どうしたんだ?そんな事をしても僕の心なんて見えないだろ?魔法使い同士は心を見る事は出来ないんだから」

 

「あ…うん…ごめん……」

 

「いきなりでビックリしたよ…まったく…」

 

 絵理沙はその時は黙っていた。

 それは輝星花きらりに今それを伝えるべきでは無いと判断したからだ。

 それとは何か…それは輝星花きらりから心の色を感じていたのだ。それは本当に僅かだった。

 でも、魔法使いである輝星花きらりから確かに人間の持つ人の心の色を感じたのだ…

 きっと何かの間違い…私の魔法力が無いからそう見えただけだ…絵理沙はそう思い込んだ。

 

『ガタン!』

 

 屋上のドアの開く音が激しく鳴り響く。野木と絵理沙は咄嗟にドアの方向を見る。するとそこには綾香の姿があった。

 

「さ、悟君」

 

 野木は驚いた表情で声を出す。絵理沙は驚きながらも照れた表情で悟を見た。

 

「何をしに来たんだい?」

 

 悟は野木の言葉が聞こえないのか、質問には答えずに真剣な顔をして、無言のまま絵理沙と野木の横まで来た。

 

「絵理沙、俺はお前の気持ちに答えを出していなかった!」

 

 悟は突然そう言うと目を閉じた。そして「スゥハァ」と深呼吸をする。

 

 絵理沙は唇を噛んで悟の前に立っていた。表情が強張っている。きっと良い結果を想像していないのであろう。

 野木はそんな二人を見て緊張していた。野木の胸は、二人を見ているだけでドキドキと鼓動している。

 

「絵理沙、俺は…」

 

「…うん」

 

「俺は……絵理沙の気持ちには応えられない。ごめん…」

 

 絵理沙はその一言を聞いて『ふぅ』と小さく溜息をつく。そして優しく微笑んだ。

 

「そっか」

 

「本当にごめん」

 

「ううん、いいよ。悟、ありがとう」

 

「絵理沙?」

 

「ちゃんと答えを出してくれてありがとう」

 

「でも…俺は絵理沙の気持ちには応えられなかったし…これだってちゃんとした答えだとは思えないし…」

 

「いいの!もともと私の片思いだった訳だし。悟に気持ちを伝えられただけでも十分だよ。それに…悟には好きな子がいるんだもんね……」

 

 絵理沙はそう言いながらくるりと180℃反転して悟に背を向けた。そして悟に見えないようにすると、少し悲しげな表情を浮かべた。

 僕は悟君の答えを聞いて何故だろうか?胸を撫で下ろしている。悟君が絵理沙を好きだと言わなくって良かったと思っている。

 妹が失恋して僕は嬉しいのか?おかしい…僕はおかしい……

 

「ねえ、悟、私のお願いを一つだけ聞いてくれるかな?」

 

「え?お願い?」

 

「うん…」

 

 悟は少しだけ考える素振りを見せたが、すぐに「無理なお願いじゃなかったら」と絵理沙に言った。

 

「ありがとう!」

 

 絵理沙が悟君にお願い?何をするつもりなんだろうか?

 僕が絵理沙を見ていると絵理沙が僕の方を向く。

 

「ねえ、お姉ちゃん、私のお願いを聞いて欲しいの」

 

「え?僕にもお願いかい?」

 

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 

 本校舎の三階の廊下をくるみは歩いていた。

 くるみは留学の予定があった。しかし生徒会や部活の引継ぎなどで予定よりも留学の手続きが遅れ、出発もかなり遅くなっていた。だから今日は居残りで留学の手続きをしていたのだ。

 

「ふう…あと一週間で出発かぁ……それまで悟には逢えないのかな…」

 

 ついつい独り言が出てくる。

 くるみには留学前にやっておきたい事があった。それは想い人への告白。

 中学時代に一度は告白したがそれは失敗に終わっていた。

 それからくるみは自分に自信がつくまでその人には告白をしなかった。

 そう、想い人とは悟である。

 

 くるみは夏休みに告白をしようと悟の家へ行く。そして知った事実。行方不明…

 その後で北海道へいるという情報が母親から入った。

 北海道…何でそんな場所に?流石に北海道まで告白になんてゆけない。連絡先もわからないらしいし…

 くるみは半分諦めていた。そして廊下を歩きながら何気なく外を見る。

 すると夕日に照らされた第二校舎の屋上に人影が見える。

 

 あれ?あそこは立ち入り禁止なはずなのに…

 

 くるみは窓際まで寄ると身を乗り出して屋上に居る人影を確認した。

 一人は白衣を着ている。あれは野木先生かな?

 もう一人いる。女子生徒?そして…よく見ればもう一人…

 あれ?綾香ちゃん!?何で屋上に?

 くるみはもう一度見直した。確かにあれは綾香ちゃんだった。

 屋上で何をしているの!?話をしている?何で屋上で話なんか?

 くるみは気になって仕方が無くなった。そして屋上へ向かって急いだ。

 

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 

「悟を男の姿にして欲しいの」

 

「「え?」」

 

 悟は野木と同時に驚きの声を出す。

 

「何で悟君を男になんて?」

 

 野木は絵理沙に向かってそう言った。すると絵理沙は悟を見ながら言う。

 

「私は悟の男の子の姿ってほとんど見たことが無いでしょ。だから…ちょっとね…」

 

「で、でもそれは今じゃ無くっても…」

 

 野木がそう言うと絵理沙は「今がいいの」と言い返した。

 悟と野木の目が合う。すると悟は「俺はいいけど」と野木に言う。

 

 そして僕は…

 

「じゃあ…悟君、手を…いいかな…」

 

 悟君はゆっくりと手を僕に向かって差し出す。

 そして僕は悟君の手を握る。その瞬間から今までに無い緊張感が僕を襲う。心臓がドキドキと鼓動を早める。

 何でこんなに緊張しているんだ?やっぱり僕は悟君を意識しているのか?いや、ダメだ…ダメだ…

 

「おい、野木、握ったぞ?」

 

「え、あっと…ぼ、僕は…自分の変身を解くから…ちょっと魔力が安定してなくって…」

 

 そう話している間にも僕の手に悟君の手の暖かさが伝わってくる。心拍数が一気に上がる。

 

「おい、どうした?顔が赤いぞ?」

 

「い、いや、何でも無い!」

 

 その時、絵理沙と一瞬目があった。絵理沙は…真顔で僕を見ていた。

 

「本当に大丈夫か?調子が悪いのなら止めても…」

 

「え?いや、大丈夫だよ」

 

 僕は小さく深呼吸をして息を整える。そして再び絵理沙を見る。

 絵理沙の僕を見る表情が何となくいつもと違う。何かあるのだろうか?

 

「おい!」

 

「あ!ごめん。じゃあ変身を解くよ」

 

 後で直接絵理沙に聞く方が早いな…

 僕は輝星花きらりの姿に戻った。そして横にいる悟君を見る。すると悟君も僕の方をじっと見ている。

 僕は意識しないように下を向き、手から魔力を悟君へと送り込んだ。

 手からは悟君の温もりが今も伝わって来ている。そしてその手はだんだんと大きさを変えてゆく。徐々にその手は大きくる。

 ふと横を見た。そこには男の姿に戻った悟君の姿があった。

 顔を見た瞬間、心臓が止まりそうな程に『ドキッ』とした。言葉が出ない。

 

輝星花きらり?どうした?やっぱり顔が赤いみたいだぞ?」

 

 悟君が男の声でそう言った。

 

「な、何でもない」

 

 僕はそう答えるのがやっとだった。

 

「ありがとう…お姉ちゃん……」

 

 絵理沙はそう言って悟君へ近寄ってくる。

 

「悟君を男にして、何をする気なんだ?絵理沙」

 

 僕がそう聞くと絵理沙は質問に応えずに無言で悟君に抱きついた。

 悟君は驚いたが、流石によける事も出来ずにそのまま抱きつかれた。

 そして悟君は僕の横で驚いた表情のまま絵理沙に抱きつかれている。

 僕はその姿を見て動揺した。そう自分でもわかった。

 

「おい!絵理沙!?」

 

 悟君の驚く声。

 

「これが本物の悟なんだね……やっぱり男の子だ……」

 

 絵理沙の嬉しそうな声。

 

「お、おい!」

 

 絵理沙は悟君の右肩に左頬をすり当てると頬を赤く染めた。

 

「絵理沙、も、もういいだろ?」

 

 僕はついそんな台詞を吐いた。その行為を見ていて不愉快な気持ちになったからだ。早くその行為を止めてほしかったからだ。

 

「お姉ちゃんが何でそんな事を言うの?」

 

「ほら…僕の魔力もそんなに長くは持たない」

 

 僕は咄嗟にそんな嘘をついた。確かに魔力はかなり消費しているが悟君を男変身させる消費魔力は皆無だ。

 絵理沙だって僕の今の台詞を嘘だって感づいたはずだ。

 

「いいでしょ…もう少しだけ…」

 

 絵理沙はそう言って顔を上げると悟君の顔をじっと見る。そして僕にとっての衝撃の一言を言った。

 

「悟、キス……してもいいかな?」

 

「馬鹿な事を言うな!」

 

 悟は首をふるふると横にふるとそれを拒んだ。

 理由はだた一つ、絵理沙をまだ好きになっていないのにキスなんか出来ないという事だ。

 しかし絵理沙はまるで酔ったかのようにトロンとした目で悟を見ている。

 

「やめろ!」

 

 悟は絵理沙に向かって真っ赤な顔で怒鳴った。

 

「何で怒鳴るの?だって…この世界の人間は好きな相手に、その愛情表現方法としてキスをするんでしょ?私は悟が好きなんだよ?」

 

 絵理沙は真面目な表情でそう言った。

 

「え、絵理沙やめなさい!別にこの世界の例にならう必要は無いんだ!」

 

 僕はそう言ったが、絵理沙は僕の言う事をまた無視して顔を近づけてゆく。

 悟君は拒んでいる様だったが、しかし、その表情は何かの覚悟が見えた。

 きっと何かの負い目を感じて、絵理沙のキスを受け入れてしまう気なのかもしれない。

 ダメだ!このままでは…絵理沙と悟君が!

 

「や、やめて!」

 

 輝星花きらりは怒鳴ると悟の手を離した。

 それと同時に『ガタン!』と屋上のドアが開く音が聞こえる。

 誰かが屋上に上がって来たみたいだ。

 

 輝星花きらりの顔色が変わる。しまった!魔法で警戒するのを怠っていた!

 

 しかし時は既に遅く、屋上に一人の女子生徒が…

 そしてそれと同時に悟が元の綾香君の姿へと戻る。

 絵理沙は悟の急な変身に体勢を崩しそうになり、思わず元にも取った綾香(悟)に抱きついた。

 

 悟君と絵理沙はキスをしなかった…しかし、それよりも重大な事故が発生したかもしれない。悟君の変身を女子生徒に見られたかもしれない。

 僕は慌ててその女子生徒を見る。

 すると綾香君から女子生徒に向けて言葉が発せられた。

 

「く、くるみ!?」

 

 続く

次回予告:屋上に突然の現れたくるみ。そして変身の解けたままの輝星花きらり。はたしてくるみは変身した悟の姿を見ていたのか?絵理沙は輝星花きらりの想いに気がついているのか?後編をお待ち下さい。

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