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第3話 予想せぬ来訪者達

 あの事件から二週間が過ぎた…

 俺は妹の部屋で窓からぼーと空を眺めている。

 綾香は何処で何をしてるんだろうな…


 ここ最近になって落ち着いてきたせいもあり、一人っきりになると妹の綾香の事ばかり考えている気がする…

 前までは俺が綾香が生きてると信じていた事と、俺のあの爆発事故の件で頭がいっぱいだったせいで冷静に物事を考えられなかった。


 だけど最近は今の環境にも落ち着いてきたお陰で、考える時間を取る余裕も出来た。

 俺が間違って綾香として生き返ってしまったせいで、両親もそして周囲もみんな綾香が本当はいないなんてまったく思っていない…

 でも…本当は綾香は…この場所にはいないんだよ…

 ここにいるのは偽者の俺なんだからな・・・


 俺は最近になって多少だが綾香の部屋を物色するようになった。

 最初はあまりいじるのも駄目なんだろうと思っていたが、綾香の思い出の部屋でもあるし、綾香がどんな生活をしていたのかにも興味が沸いていた。


 ふと本棚に入っているピンクのアルバムに手がのびた。

 そのアルバムをおもむろに開くと、丁度そのページには俺と綾香のツーショット写真が…これは1年前の旅行の時の写真だ…

 写真の横には付箋で作ったメモが一緒に挟んであって、【お兄ちゃんと一緒!またいこうね!】と書いてあった。

 綾香は本当に死んでしまったのだろうか…

 いや、俺は信じたい…生きているって…


 それからしばらく俺はアルバムを見ていた…

 目に熱いものがこみあげてくるのがわかる…

 アルバムには水滴がいくつももこぼれ落ちている…

 俺はアルバムの水滴を拭くと元の本棚に戻した。


 あー駄目だ…俺がこんな事でどうするんだ!俺が元気出さないでどうするんだ!

 いつ綾香が戻ってきてもいいようにがんばらないと!

 待てよ…いきなり戻ってこられるとそれはそれで困るな…

 でも…生きているなら戻って来てほしい…複雑な気分だ。


 俺は窓を閉めてクッションの上に座った。

 よし、気分を変えて別の事をしよう!

 とは言ってもまさか一人じゃ外に遊びには出られないしなぁ。

 かと言って知り合いに電話を出来るはずもないしな。

 仕方ないから俺の部屋に行ってゲームでも持ってこようかな…

 でも綾香ってゲームをしないんだよな。

 綾香がゲームをやってるとおかしいかな?怪しいかな?

 まぁどうせ見られるにしても両親だけだし、別に怪しまないかな。

 うーん…やっぱり今日はやめておこうかな…


 ピンポーン!ピンポーン!


 呼び鈴の音が聞こえた。誰かお客さんかな?

 まあいいや、ほっておけば母さんが対応してくれるだろう。

 本当に今日は何しようかな…やっぱゲームかな…


「あやかー」


 そんな事を考えていると一階の方から俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。


 ダダダダ!!!!


 なんだ?すごい勢いで階段を駆け上がってくる音がするぞ!?

 そう考えている最中にバンという音とともに部屋のドアがすごい勢いで開いた!

 そして一人の女の子がものすごい勢いで部屋に突入してきた。


 え?何だ!?誰だ!?


「綾香!」


 その子は躊躇なく俺に抱きついた!


「綾香だ!綾香、生きてたんだ!!!!よかったーーー」


 な、何だ?いきなり抱きついてきたぞ!?しかも顔が俺の顔にすっごく近い!

 なんだこの状況は!?自分でも自分がかなり動揺しているのがわかる。

 と、とりあえず誰なのかを聞いてみよう。


「ちょっと待って!ど、どなたですか??」


 綾香の友達か!?


「え!!綾香、どうしたの?私だよ?佳奈だよ!忘れちゃったの?それに目と顔が真っ赤

 だよ?熱でもあるの?」


 悲しそうな顔でそう言った佳奈という子はさらに顔を寄せてきた。

 待って!顔が近い!そんなに寄られるともっと顔が赤くなるじゃないか!

 あと、忘れたの?と言ってるけど、忘れてない!知らないという方が正しい!


「ねえ…綾香…」


 いきなり抱きついてきた女の子に気を取られていると、またドアの開く音がした。

 そして部屋にはさらに二人ほど女の子が入って来た。


 おいおい…何人来てるんだ!?


 よく見ると入って来た2人は見覚えがある子だ。

 一人は俺のダチの妹だな?確か…真理子ちゃんっていったっけ?

 もう一人は綾香の中学校からの友達で、ここ最近は何度が家に遊びに来てる茜ちゃんだ。


「佳奈!いきなり突入してどうするのよ!ちょっとは考えてよ。ねぇ真理子」


 茜ちゃんはショートヘアでスポーツが得意そうで活発な女の子だ。

 Tシャツにショートパンツというボーイッシュな格好が俺には好印象だ。

 一度もまともに話をした事がないが、家に遊びに来たときはいつも笑顔で挨拶をしてくれる。

 俺は最近になって茜ちゃんの事がすこし気になっていた。こんな子と仲良くなれればいいのになって…まぁ俺の勝手な想いだが。


「ほら、佳奈!綾香に抱きつかないの、離れて!」


 茜ちゃんは俺に抱きついている佳奈ちゃんの腕を掴んで引っ張った。


「やめてよー茜…あーん…綾香ぁ」


 佳奈ちゃんは引きずられるように俺から引き離された。

 助かった…あのままだと俺はどうなっていた事やら…

 お陰で、やっと佳奈という子を確認が出来た…近すぎると凝視する事も出来ないからな。

 抱きついてた佳奈という子は髪をサイドにまとめていて、服装や格好はすこし大人ぶった感じはするが仕草や体型はまだまだ子供っぽさが残っている。

 俺は校則違反をして髪を茶色く染めていたが、この子は髪の色素が薄いのだろうか、すこし茶色かかっている。俺から見ると真理子ちゃんと茜ちゃんのほうが大人なイメージだ。

 しかし全体のイメージからすると痩せぎでもなくていい感じだとは思う。

 こういう子も俺は嫌いじゃない。しかし、突然抱きつくのはやめてほしいが…


「佳奈はちょっと慌てすぎよ、まだおばさまに挨拶してた途中じゃないのよ、挨拶の途中で人の家にづかづか上がりこんじゃ駄目でしょ」


 この子は俺のダチの妹で真理子ちゃんだ。

 長い黒髪がすっごく綺麗だ…腰のあたりまで伸びている。

 しかし・・・手入れが大変そうだな。俺は絶対に髪は伸ばさないぞ。

 容姿は抜群だな…胸なんか…もうこれ以上は成長しなくっていいんじゃないか…

 それに比べて綾香は…


 三人とも綾香の友達で、俺にいきなり抱きついてたのが佳奈ちゃん…

 それであとの二人が茜ちゃんと真理子ちゃんだな。

 しかし、綾香の友達は綺麗かかわいいかのどちらかだな…

 もちろん俺の中でのナンバー1は茜ちゃんだが。


「引っ張らないでよ茜!別にいいじゃん!私は早く綾香に逢いたかっただけんだもん」


 佳奈という子は残念そうに呟いている。


「あ!そうだ!茜!真理子!聞いてよ!綾香が私の事わかんないんだって…忘れちゃったんだって…」


 その言葉に茜ちゃんと真理子ちゃんが反応して俺の方を見た。


「え?それって本当?綾香、私よ、茜だよ?忘れたの?」


 茜ちゃんが信じられないという表情で寄ってきた。

 大丈夫、茜ちゃんは覚えている。しかし…どうしようかな…

 三人とも名前だけ覚えてるという事にしてみようか。


「名前は忘れてないよ…えっと…佳奈ちゃんと…茜ちゃんと…真理子ちゃん…だよね…ごめんなさい、私ね、昔の事が思い出せないの…だから名前くらいしか覚えてないの…ごめんなさい…」


 これでなんとかなるかな?


「え…マジ!?もしかして記憶喪失なの?綾香…かわいそう…」


 さっきまですっごく元気だったはずの佳奈ちゃんがいきなり泣きそうな顔になった…

 これは困る…しかし、女の子ってこんなもんなのか!?


「あ、あの…私は大丈夫だから…佳奈ちゃん…お願いだからそんな顔しないで…」


 俺が佳奈ちゃんを懸命に慰めていると、真理子ちゃんが俺の前に座った。


「綾香は飛行機事故にあったんだよね…大丈夫、きっとショックでそうなってるだけだよ、そのうちきっと思い出せるわよ…それに記憶がどうこうより、私には綾香が生きてただけでも十分すぎるもん。すっごい心配だったんだよ」


 真理子ちゃん…本当に心配してたって顔してるな…


「ありがとう…でも…私…昔の事を何も覚えてないし…」


「いいよ、無理に思い出さなくっても。あのね、私達はね全員綾香の友達だったんだよ…名前しか覚えてないみたいだけど…」


 茜ちゃんも俺の横に座った。


「綾香…記憶が無くなっても私達はずっと綾香の友達だから!大丈夫!」


 茜ちゃんが笑顔で俺を励ましてくれてる…

 何だよ…綾香はいい友達をもってるじゃないか…

 しかし…横ではついに佳奈ちゃんが泣き始めた。


「うん…ありがとう…茜ちゃん。佳奈ちゃん、私は大丈夫だから泣かなくてもいいよ」


「ぐすぐす…うん…そうだよね…泣いてばかりじゃ駄目だよね…じゃあ…取りあえず買い物にいこうか…」


 え!?俺は唐突に買い物に行こうとか言われてかなり驚いた。

 それに何?佳奈ちゃん…さっきまで泣いてたのに、もう笑っているし…

 この子よくわかんないぞ…


「佳奈!?突然何を言い出すの?私達は今日は綾香に逢いに来ただけでしょ?駄目だよ!綾香だってまだ本調子じゃないだろうし…」


 真理子ちゃんも佳奈ちゃんの突然の買い物行こう発言にかなり驚いてる。

 俺は考えた…断るのは簡単だけど、しかし、これから先はこの子達とも付き合っていかないといけないんだ。

 という事はだ…今日はどうせ暇だし、一緒に買い物に行くのもいいかもしれない。

 何事も経験だろうし、女の子としての行動の勉強になるかもしれないしな。


「わ、私はいいよ、買い物に行っても。買い物で気分転換すれば記憶もすこしは戻るかもしれないし…」


 俺の言葉を聞いて佳奈ちゃんはすごく喜んでいる。


「やった!ほら!綾香もいくってさ!茜だって綾香と買い物行きたいでしょ?」


「う、うーん、綾香がいいなら…私は一緒に行ってもいいけど…」


 茜はちょっと困った表情を見せて呟いた。


「大丈夫よ茜!綾香がいいよって言ったんだから、行こう、行こう!早くいこー」


 佳奈ちゃんは早く行きたくって仕方ない様子だな。


「本当にいいの?綾香、無理しなくってもいいんだよ?」


 真理子ちゃんが心配そうな表情で俺を見てる。

 なんて優しい子なんだろう、あの勉強馬鹿な貴裕の妹とは思えない優しさだな。

 あいつにはもったいないくらいいい妹だ!って何処かで聞いたなこのフレーズ…

 あまりみんなを心配をさせるのも悪いし、よし…じゃあさっさと買い物いくか!


「私は大丈夫だよ。心配しなくっていいから買い物に行こう!」


「本当に?でも綾香が言うんだしね…それじゃあ…行こうか?」


 真理子ちゃんはそう言うとやっと笑顔を浮かべてくれた。


「やった!真理子!茜!綾香!いくぞーれっつごー」


 佳奈ちゃんは…うん、よくわかった、こういう子だとよく理解したよ…

 こうして四人で買い物に行く事になった。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 自転車で俺たち四人は買い物に向かっている。


「どうする?タイエーでもいく?でもあそこのタイエーって何もないっけ?いっそ電車でどっかいく?ねえ!綾香!何処か行きたい所ある?買いたい物は?何したい!?」


 佳奈ちゃんって元気だな…でも実は俺…こういうガンガン行こうぜタイプの子はすっごく苦手なんだよな…なんていうかついゆけないというか…うーん贅沢かな?


「ちょっと、佳奈、はしゃぎすぎだよ?綾香の体の事も少しくらい考えてあげなよ」


 それに比べると真理子ちゃんは落ち着いてるよな、本当に貴裕の妹にしておくのは勿体

 ないくらいだ。でもまぁ綾香も俺の妹にしておくのは勿体無いと言われてたしな…


「佳奈、私は綾香の体の事を考えるとあまり遠くには行かない方がいいと思うんだ。私はタイエーで買い物でいいじゃないかと思うよ」


 茜ちゃんは見た目は活発そうだけど、思ったよりも大人しいんだな…

 俺が彼女にするなら、やっぱりこういう感じの子がいいな。

 茜ちゃんは彼氏いるのかな…って!何を考えてるんだ、俺は!

 だいたい、茜ちゃんが俺のに彼女になってくれる訳ないだろ。

 まぁ…綾香のままじゃ彼女という以前の問題なんだが…


 そうこうしてるうちに俺たちはタイエーの駐輪場についた。

 そこに自転車を置いてすこし離れた入口へと向かう。


 しかし…なんだ…友達と並んでわかったけど、綾香…おまえって身長低いな…

 前から普通より低いとは思ってたけど、友達は三人とも綾香よりも背が高いじゃないか!

 茜ちゃんが一番綾香に近い身長だけど…それでも十分高く感じるし…

 こ、これが身長142センチの世界かよ…低い…低すぎる…

 まてよ…女の子が相手でこれだろ?男と並んだらどうなるんだ!?

 …

 考えるのはよそう…どうせ男の横になんて立たないんだし…


「あそこの角曲がると入口だよー!皆走れー!」


 佳奈ちゃんは嬉しそうに入口に向かって走っていった。

 なんて元気な子なんだ。でもこっちを見ながら走っててあぶなっかしいな…


「佳奈!余所見して走ってると転ぶよ!!」


「そうだよ、真理子の言う通りだよ、急がなくてもいいんだよ」


 だが佳奈ちゃんは聞く耳を持ってないらしい…おもいっきり走ってるし…


「えーだってー早くお店に入りたいじゃん!」


 余所見をして走っている佳奈の前に、角から曲がってきた二人の男の姿が見えた。

 やばい、このままじゃぶつかるぞ!?


「佳奈ちゃん!危ない!前に人がいるよ!」


 俺は咄嗟に叫んだ。


「え!?前?あ!」


 ドン!

 佳奈ちゃんは勢いよく男にぶつかって尻餅をついた。


「いったーい…」


 真理子が慌てて佳奈の横に走ってゆく。


「ほら!佳奈が余所見をしてるから!」


 そう言うと真理子ちゃんは佳奈の手を引っ張って起こした。


「なんだよ、ガキ!余所見してんじゃねーよ!」


 男のうちの一人が不機嫌そうな顔をして佳奈に文句を言った。


「ガキ?何言ってるのよ!あんたがいきなり前に出てくるからぶつかったんじゃん!」


 ちょっと待って!ここは佳奈ちゃんが悪い!素直にあやまったほうがいいぞ。

 そんな言い方をすると…ほら、男が睨んでるじゃないか!


「おい、何だ?何逆ギレしてんだよ!」


 ほら…怒らせた…って何だ!?

 良く見ればこの二人!三年B組の清水大二郎と桜井正雄じゃないか!

 まったくこんな所に二人で何やってんだ?


 大二郎と正雄は北彩高校の三年で元の俺【悟】とは面識がある。

 というか…二人はずっと付き合いがあって、大二郎は俺の友達で正雄は俺の親友だ。

 二人とも空手部に所属しているが、ほとんど部活には顔を出していない。

 簡単に言うと運動部所属だが本当は帰宅部ってやつだ。俺も同じだが…

 まぁ俺と正雄はちょっとある事があって部活動が出来ない状態なんだが。


 大二郎は身長180センチの巨体で、体格もかなりいい…

 本気で空手をやれば絶対に強くなれるだろうに、もったいない。

 あと、別に格好が悪い訳では無いが女には縁が無いらしい。

 しかしでかいな…今の俺には見上げるような感じだ。

 正雄は大二郎とは違い格好もいいし体格もいい、身長も175センチと結構普通にあるし、女性にも結構もてる。


「なによ!切れてるのはあんた達でしょ!」


 佳奈ちゃんはまる大二郎に喧嘩を売るような発言をしている。


「おいおい大二郎、ガキなんて相手すんなよ、貴裕の妹もいるじゃねーか。俺は先に行ってるぞ?」


 そう言うと正雄は佳奈の相手をせずに一人で駐輪場ほ方へと歩いて行った。

 俺の横を過ぎる時に一瞬俺を見てた気がするが、気のせいか?

 正雄が先に行ったのに大二郎はじっと佳奈を睨んで動こうとしない。

 それを見て判断したのか、真理子が大二郎に謝った。


「清水先輩ごめんなさい、この子が余所見してぶつかっちゃって…」


 しかし大二郎に謝る真理子を佳奈は不機嫌そうに見ている。


「何よ、真理子!何を謝ってるの!私は悪くないもん!」


 いやいや…普通に考えても佳奈ちゃんが悪い…

 佳奈ちゃんも早く謝ったほうがいいぞ。


「佳奈、真理子の言う通りだよ、佳奈が余所見をしてたからぶつかってしまったんでしょ?今日は綾香ちゃんもいるんだよ?ちゃんと謝って早くお店の中に入ろうよ」


 そうだ!その通りだ!茜ちゃんナイスフォローだ!


「ちぇ…仕方ないなぁ…謝ってあげるよ!ぶつかってごめんなさい!!これでいい?」


 佳奈はまるで悪くなかったかのような態度で大二郎に謝った。

 その謝り方は違うだろ…もっとちゃんと謝らないと…

 まぁしかし、まぁこれで大二郎も許すか?あいつだって大人だろうし…


「あー?何を言ってるんだ?そんな謝り方で俺を馬鹿にしてるのか?」


 大二郎の機嫌がさらに悪くなってるぞ…

 しかし大二郎、こっちが悪いかもしれないけど、一応は謝ってるんだから許すくらいの心のゆとりが持てないのか…俺ならすぐ許すぞ!かわいい子は特にだ!


「すみません、私達、急いでるから…本当にごめんなさい、行こう、佳奈」


 その場から逃げたかったのか真理子ちゃんもちょっと強引だな…


「こら待てよ!いくら貴裕の妹だからって俺をなめてるのか?ちゃんとそいつに謝らせろよ!」


 大二郎は立ち去ろうとした真理子の腕を持つと強く引っ張った!


「きゃー」


 大二郎に無理に引っ張られた真理子はバランスを崩して地面に転がった!


「ちょっと!何してんのよ!真理子が怪我をしたらどうするのよ!」


 佳奈は大二郎に文句を言いながら転げた真理子を抱えるように起こそうと近寄った。


「うっせーな!元を言えばおめーが悪いんだろうが!」


 真理子を起こそうとした佳奈に向かって大二郎は蹴りをいれた。


「きゃー」


 蹴られた佳奈はバランスを崩して右肩から地面に叩きつけられた。


「うう…痛いよ…」


 佳奈が右肩を押さえたまま地面に横たわっている…


 これは流石にひどい…いくらこちらが悪いと言っても女の子に手足を上げるなんて男がする事じゃない!

 俺は大二郎を睨みながら前に出ようとした時、俺の前に茜が立った。


「ちょっと!これってひどいんじゃないの?」


 茜は大二郎に向かって怒鳴った。俺はいきなりの茜の行動に正直びっくりした。


「何だ?お前も蹴られたいのか?」


「本当の男だったら、女の子にそんな事しちゃ駄目なんだよ!」


「何だそりゃ?そんなルール誰が決めたんだよ!ごら!」


 大二郎はさらに不機嫌そうな顔で茜を睨んだ。


「い、いくら睨んでもだめだからね!」


 怯まないな茜ちゃんは…すごいなこの子。


「うぜぇよ…お前も…」


 大二郎はそう呟くとすごい勢いで茜に向かって走ってきた!


 大二郎の奴、何があったのか知らないけど、今やって事は男として許されねーぞ!

 確かに佳奈ちゃんが悪かったかも知れないが、流石に俺もここまでやるとか、大二郎の肩を持つにきはなれねー!


「茜ちゃんどいて!俺の後ろに隠れてろ!」


 俺は茜ちゃんの肩を叩きながら言った。


「え!?綾香ちゃん!?俺って…わ、わかった」


 茜ちゃんは素直に俺の後ろへと下がった。


「何だてめー!小学生のガキみたいなのが出てきやがって!!どけチビ!ぶっとばすぞ」


 チビ!?ムカついた!今の言葉を本当の綾香に向かって言ったとすれば、俺は大二郎をぶっとばすだろう。

 しかし、今の俺は綾香だ!妹に言ったのも同じだ!よってを大二郎!ぶっとばす!


「チビ!どかねーお前が悪いんだからな!おりゃ!」


 大二郎は俺に向かって右足で前蹴りをして来た!

 俺が素人だと思ってるのだろうか。蹴りは単調で甘い!

 だいたい走りながら前蹴りなんか身長の低い俺に対して通用すると思ってるのか?

 今の俺は身長がお前より三十八センチも低いんだぞ。うまく蹴りが当たらなきゃバランスを崩すだけだ。


 俺の目の前にまで大二郎の右脚が迫った!


「馬鹿大二郎!」


 俺は怒鳴りながら大二郎の右脚に左手の手の甲を思い切り当てて左へと流した。

 くそ…思った以上に蹴りが重い…けどいける!

 左手の甲で押し当てて左へとながすと俺はそのまま反時計回りに一回転した。そして大二郎の懐に入る!


「な!?何!?」


 右脚を流された大二郎は右前方のめりに体勢を崩した!

 慌てた大二郎はそれを懸命に立て直そうとする!


「男が女に手を、じゃない足を出すからこうなるんだよ!」


 俺は思いっきり左肘を大二郎のあごに向かって突き上げた!


「おりゃあああ!」


 バランスを崩した大二郎の顎を俺の左肘が捉える!


「ごふ!」


 鈍い音とともに大二郎はそのまま後ろに仰け反るように倒れた。

 そして大二郎は完全にのびてしまった。


「な、何だ大二郎!?どうした!?」


 そこに大二郎が来るのが遅かったのを心配してかはわからないが、正雄が戻ってきた。

 正雄がそこで目にした光景は綾香にのされた大二郎の姿…


「何だ?このチビっこが大二郎を!?」


 正雄はまさかという表情で俺を見ながら言った。


「お、お前もやるか!?」


 俺は正雄を睨んだ。


「おいおいそんなに睨むなよ、俺はそんなつもりはない」


「だ、大二郎が悪いんだからな…女の子に手じゃない…足を出したんだ」


 正雄はのびている大二郎を見た。


「なるほど…今日の大二郎なら考えられるな。しかしそんな体つきで大二郎をこんなにするなんてね…怖いねー最近の女の子は…で、お前は悟の妹のだろ?」


「え?」


 何だこいつは!何で正雄が綾香を知ってるんだ?空手道場に綾香は来た事ないはずなのに。


「そ、それがどうした」


「そうそう、悟が行方不明になったんだってな」


 こいつ…俺が行方不明になった事も知ってるのか。


「煩いな、今はそんな話はしたくないんだよ!」


 俺は正雄から視線を反らすと、何故か声を張り上げてしまった。


「まぁいいや、取りあえずその口調はやめろよ。女らしくないぞ?お前は大人しくしてりゃそこそこかわいいんだからな」


 そう言いながら正雄は俺の頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「な!?何しやがる!」


 俺は正雄の顔を見上げながらもう一度睨んだ。

 こいつの行動が妙にムカつうた。綾香をガキみたいな扱いしやがって…

 友達の妹なんだぞ?もっと違う接し方があるだろうが!


「うわ、こえーな…そんな顔するなよ。まぁいい…よしっと…しかし大二郎も完全にのびてんな…よいしょっと…」


 正雄は気絶している大二郎を肩に抱えた。


「重いなこいつ…じゃあな!大二郎が迷惑かけてごめんな」


 正雄はそう言うと大二郎を抱えて数歩ほど進んだ。

 しかしそこで止まって再度こちらを振り向いた。


「じゃあまたな!悟の妹」


「え…」


 何で俺だけなんだよ!


「は、早くいけよ!馬鹿野郎!」


 正雄は俺の言葉を聞くと笑いながら大二郎を連れて駐輪場の方に歩いて行った。


「ふう…そうだ、みんな大丈夫か?」


 そう言って3人を見た…あれ?皆の様子がおかしい…

 なんかきょとんとして俺を見てるぞ…あ!しまった!俺は今は綾香なんだ…

 やばい!素の俺に戻ってしまった…今のはどう見ても怪しい行動だよな…

 どうしよう…まさか中身が俺【悟】だってばれたりしないよな?


「あ、綾香…綾香!」


 佳奈ちゃんが立ち上がってすごい勢いで俺に向かってきた。


「は、はい!?」


 俺が動揺していると佳奈ちゃんはいきなり俺に抱きついてきた!

 佳奈ちゃん!なんですぐ抱きつくの!?

 ちょっと待って!また胸が胸が俺の顔にあったてる!苦しい!離して!


「すっごい!すっごいよ!綾香!すっごい!」


「か、佳奈ちゃん!?離してよ、苦しいよー」


 胸があたってとは言えなかった…


「綾香?ほ、本当に綾香なの?今のは綾香がやったの?」


 うわ…真理子ちゃん…すっごい驚いた表情で俺を見てるぞ…

 どうしよう…えっと…


「あ、あのこれは…わ、わ、私は」


「綾香…運動はいまいちだし、武道とかそんなのもしてなかったよね?今のは何?さっきの清水先輩は兄と一緒にずっと前から空手をやってるのよ?何で運動も出来ない綾香なのに…」


 まさか…真理子ちゃんは俺を疑ってるのか!?


「綾香の言葉使いだっておかしいし…本当に綾香なの?」


 やばい、もう完全に疑われる…


「まってよ真理子、綾香は…私を助けてくれたんだよ!それだけだよ!」


 あ、茜ちゃん…俺をかばってくれるのか…よ、よし…


「わ、私…今何をしていたのかよくわからないの…体が勝手に動いて…どうなっちゃったんだろ…怖い…うう…」


 咄嗟に俺は顔を俯けて泣きそうなふりをした。


「あ、綾香…で、でも…今までの綾香とは全然違って…私すごく驚いたの…だから…」


 真理子ちゃんは困った表情で俺を見ている。


「いいじゃん…そんなのどうでもいいじゃん…だって見てよ!どうみても綾香だよ!もしかして真理子はこの綾香が偽者だって疑ってるの?ほら見てよ!綾香だよ!私達の友達の綾香だよ!」


 茜ちゃんが一生懸命に真理子ちゃんに向かって叫んでいる。


「あ、茜…ごめん」


 真理子は目を閉じると深呼吸を数回した。

 すると落ち着きを取り戻したのか表情が元に戻った。


「そうよね…うん…ごめん…私びっくりしちゃった…綾香は綾香だよね」


 ふう…なんとかなったか…茜ちゃんにお礼いっておかないと…


「茜ちゃん…ありがとう…私…茜ちゃんを助けたくて夢中で…」


「うん、私の方こそありがとうね、綾香が…私を助けてくれたから…怪我しないですんだよ…」


 茜はすこし照れた表情で言った。


「綾香!やっぱりすっごい!綾香!佳奈は感動したよ!」


 ぎゅううううう!うわ!また顔に胸が!うわ!

 そうだ!俺は佳奈ちゃんに抱きしめられてたんだ!

 っていうか!締め付けがさっきよりも…お願いだから胸を顔にあてないで…


「綾香、大好き!佳奈はずっと綾香と一緒にいるからね!」


 か、佳奈ちゃん…もしかして危ない系か!?俺はそんな趣味はないぞ…


「綾香ちゃん…私ね…さっきの綾香を見てて、綾香のお兄さんの姫宮先輩を思い出しちゃったよ…」


 茜が小声で俺にむかって呟いた。

 え!?今のってどういう意味だ!?茜ちゃん!?俺を思い出したって何だそれ!?

 佳奈ちゃんも今の茜の話を聞いてしまったのか、俺を抱きしめる力が抜けたかわりに茜の方をじっと見ている。


「え?何!今の茜の発言は何!?小声だったけど聞こえたよ!茜ってもしかして…姫宮先輩の事が好きだったの?ねえ!」


 すっごく楽しそうに佳奈ちゃんは茜ちゃんに迫った。

 おかげで俺から離れてくれた。


「わ、私は…そんなんじゃないよ…別に」


 茜ちゃんはそう言いながら、真っ赤な顔で佳奈から顔を背けた。


「あー!顔まで赤くしちゃって、怪しいなぁ…」


 佳奈は茜の顔を横から覗きこんだ。


「やめなよ、佳奈!茜がいやがってるでしょ。別にいいじゃんそんな事は。あなただってそいう風にされるといやでしょ?」


 そう言いながら真理子は佳奈を茜から引き離した。


「う、うん…わ、わかったよ…ごめん茜、悪かったよ」


 佳奈は真理子に怒られて少しは反省したみたいだ。


「ううん…いいよ別に…」


 そう言いながら茜は今度は俺の方を見た。


「綾香、さっきの人が姫宮先輩が行方不明って言ってたけど…あれって本当?」


 げげ…聞こえてた…どうしよう…しかし、いつかばれるんだしな…

 今ここで話しておいたほうがいいかもしれないな。


「あ…あのね…実は…」


 俺はここで三人に悟が行方不明になった事実を伝えた。

 三人はかなり驚いた表情をしていた。

 その後、茜ちゃんは気分が悪くなったと言って一人で家に戻った。

 俺は送るよって言ったけど一人で大丈夫だからって言って戻っていってしまった。

 仕方ないので俺は佳奈ちゃんと真理子ちゃんと三人で買い物をした。

 ほとんど佳奈ちゃんの行く方向について行っただけで、自分から何をすると言う事はま

 ったくなかったし、ずっと佳奈ちゃんが一人で話しをしていて、それはまるでラジ

 オのような感じだった。よく話す子だ…正直ついていけてなかったけど…


 数時間の買い物を終えると現地で解散になった。

 俺は二人に手をふると自転車で自宅へと向かう。

 しかし気になるのは茜ちゃんだ…

 気分が悪いって言ってたけど、大丈夫だろうか…

 あと俺(悟)の事を…まさかな…


 あとは大二郎と正雄だ。あの二人は何を考えているのだろうか。

 まったく…


 続く

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