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番外編Ⅲ 悩み多き乙女です!

杉戸佳奈がメインの小説です。メインストーリーと関連はありますが番外編であり、読まなくても支障はありません。ご興味がある方のみ読んでみて下さい。これは第23話の次の日の話です。

 十一月二日・AM六時・私は普通よりも早く目が覚めた。

 窓からは朝日が差し込みとても爽やかな朝。

 でも私の気持ちはもやもやしていた。

 

 理由はわかってる。

 昨日、私は見ちゃいけないものをいっぱい見ちゃったから。

 綾香の秘密をいっぱい知ってしまった。

 いつの間にあんな事になっちゃってたんだろう? 

 綾香って…あの事故で記憶喪失から本当に変わったよね……

 

 私の友達の綾香は、夏休みに飛行機事故にあった。

 無事に家へは戻ってきたけどその代償として記憶喪失になっていた。

 最初は私の事すら殆ど忘れててびっくりしちゃった。

 そして記憶喪失の後遺症なのか性格もかなり変わっちゃってた。

 

 それは新学期に入ってからクラスの全員が周知するまでになる。

 まず、前まであんなにモテモテな子じゃなかったのに男子にも女子にもモテるようになってしまった。

 私が知り合ってから高校一年になるまで男の気配すらなかったのに、空手部の清水先輩に告白され、昨日は中学校の後輩だった一彦君にも告白された…

 それだけじゃなかった…綾香は……

 脳裏には昨日の綾香が思い浮かぶ。マミーストアの裏で桜井先輩と……

 そう…あの時、一彦君との会話を隠れて話を聞いてたのがばれちゃったから私は一旦はその場から立ち去った。

 でも何となく綾香が気になって私はあの場所に戻る事にした。

 自転車を漕ぎながら遠目で綾香の姿を確認してみた。するとお店の裏の物影に綾香の姿が見えた。

 私は手を振りながら綾香の名前を呼ぼうかと思って右手を上げようとした。

 その時だった…綾香が急に物陰に引っ張り込まれたんだよね…

 私は慌ててその場で自転車を止めてると遠めでその場所を覗いたんだ…

 

 その光景を見て信じられなかった…

 だって桜井先輩と綾香が抱き合ってたんだよ……

 まさか綾香が桜井先輩とそんな関係だったなんて知らなかったし…

 

 私……綾香の秘密を知っちゃった……

 どうすればいいんだろう?って思っても私にはどうしようも無い事だよね。

 いや違うよ、どうにかしちゃダメなんだよね?

 綾香が誰が好きだろうが私には関係ないもん。って…そんな事は半分どうでもいいんだよね……

 私が一番気になってる事は別にあるから…

 それは二学期に入ってから綾香が私にあまり付き合ってくれなくなった事なんだ。

 一学期はあんなに仲良くしてくれたし、一緒に帰ってくれていたのに……

 最近は私って綾香に避けられてる気がするし……

 この前なんか綾香が生理なの知らなくって、すっごく酷い事をしちゃった…

 やばいよね…このままじゃ余計に嫌われちゃうよ……

 別に桜井先輩と付き合ってても私はいいの。

 他の誰と付き合おうがいいの。でも綾香には嫌われたくない。

 私って見た目の友達は多いけど…

 でも本当に親友って言えるのは茜と綾香と真理子くらいなんだよね…

 

 っと…考え事をしながら無意識に階段を降りてたし!

 すっごーい私!もしかして超能力者!?階段を無意識に降りる能力!?

 ってそんな能力ちっとも嬉しくないよ…

 

「いってきます…」

 

 私はリビングにいたママに声をかけると下駄箱から靴を取り出した。

 

「あら?佳奈どうしたの?今日はやけに早いわね?」

 

 玄関にしゃがみ込んで靴を履いている私の後ろに何時の間にかエプロン姿のママが立っていた。そして少し驚いた表情を浮かべている。

 何よその顔……いつもよりも三十分早く学校に行くのがそんなに驚く事なの?

 私は後ろを振り返りママの顔を一瞬見たが、すぐに視線を外した。

 

「ママ、娘が早く学校に行くのがそんなに驚くような事なの?」

 

 私は少し感情的にそう言って立ち上がった。

 

「十分に驚く事でしょ?佳奈っていっつも遅刻ギリギリなのに、そんなに早く学校に行くなんて…どうしたの?もしかして恋でもしたの?」

 

「ばっかじゃないの!?早く学校に行くのと恋とどういう関係があるのよ」

 

「あら?関係あるわよ?彼氏を待ち伏せするとか?」

 

「待ってよ、佳奈はストーカーじゃないし!それに彼氏もいないし!恋愛もしてない!」

 

「ちょっとちょっと、そんなにムキにならなくってもいいじゃないのよ…」

 

 ママはシュンとした表情で私を見ている。

 

「もう行くからね!」

 

 私は『バタン』と玄関を閉めると車庫から自転車を出した。

 まったく…ママは朝から何をいってんだか!

 私は少々ご立腹状態で学校へ向かった。

 

 なんだかんだで学校に到着ぅ!

 私は勢い良く駐輪場へ自転車を止めた。

 すると運動部の早朝練習の声が校庭の方向から聞こえる。

 そっか、駐輪場から校庭は目と鼻の先だから声がよく聞こえるんだ。

 今日は朝練やってる時間に学校に来たんだ。すっごいね私って。

 私は自転車を指定場所に置くと校庭を横目に下駄箱へ向かった。

 駐輪場から少し歩いた所で『ザッザッザ』と足音をたてて私の横を体育着の女子生徒が数人通過してゆく。その中に同じクラスのバスケ部の子が見えた。

 そっか、バスケ部か…私はその子達を振り返ってみた。

 

 そして無意識に視線が自分の左足のアキレス腱へ移っている。

 ソックス越しに見た私の左足。見た目はいたって普通にしか見えない。

 私……もうバスケ出来るのかな……でも……私……

 色々な考えが私の頭を駆け巡る。

 あー!考えるのやめたー!佳奈、考えすぎはよくないからね!

 そう自分に言い聞かせると私は小走りで下駄箱へと向かった。

 

 教室に入るとまだ数人の生徒しか来ていない。

 綾香も真理子も茜も来てないのかな?

 あ!違う、真理子は吹奏楽の練習だし茜はきっとバレー部の朝練だ。

 来てないのは綾香だけか。

 席についてぼーと黒板を見る。

 何だろう…朝早くに学校に来たのにちっとも楽しい事が無い。

 

 私は何となく教室を出た。

 廊下を歩き、そして渡り廊下を通過して知らないうちに体育館入口の横へ。

 

「あれ?何でこんな場所に?」

 

 教室に戻ろうかと思っていると体育館の中から女子生徒の声が聞こえる。

 

「朝練かな?」

 

 私は体育館の扉を少しだけ開けて体育館の中をこっそりと覗いてみた。

 中にはパスの練習をしているバスケ部のメンバーが見える。

 楽しそうにバスケをする生徒……

 

「……私も…バスケしたいな…」

 

 知らず知らずになんとなく出た台詞。私はその台詞を言ってハッとした。

 何を今更…佳奈はもうバスケットしないって決めたじゃん…

 そうだよ仕方ないんだよ。どうせ無理なんだから。

 私は自分のそう言い聞かせると扉をゆっくりと閉める。

 

 そう…私は小学校四年から中学校三年までずっとバスケットをやっていたんだよね。

 うまいとは言えないけれど、それでも楽しかった。

 きっとずっとずっとバスケットをやり続けるんだなーってその時には思っていた。

 でも…無理だった…

 中学三年の時だった。

 練習試合中に『バチーン』と何かが激しく切れる音が体育館に木霊こだました。

 その瞬間、私の左足は動かなくなり、そして体は床に転がった。

 堪え切れない程の激しい痛みが私を襲った…

 アキレス腱断裂……最悪の出来事だった…

 

 手術は成功した。リハビリもした…そして今は普通に歩けるようになった…

 そしてお医者さんに言われた事。

『がんばればバスケットだって出来るようになるからね』って。

 でも何故かな…私はバスケットをやりたいって思っているのに……出来ない……

 バスケをするのが怖い……きっと大丈夫なんだと思うのに怖い……

 

 私は「ふぅ」と溜息をついて教室に戻ると思った。

 そしてくるりと方向転換をすると目の前には茜ちゃんがいる。

 何時の間にそこに!?

 

 しかし今日はよく背後を取られる…私ってゴ○ゴ13になれないみたい。

 そんな下らない事を考えていると茜ちゃんは笑顔で私に話しかけてきた。

 

「おはよう佳奈、どうしたの?こんなに朝早くからこんな所で」

 

 私の前にいる茜は今はバレー部。でも中学までは私と一緒にバスケットをしていた。

 本当は高校でも一緒にバスケット部に入る予定だった。

 だけど……私が高校に入学してすぐに茜に言った一言で茜はバスケ部に入るのを辞めた…

 

『どうせ私はもうバスケなんて出来ないし!左足の感覚だって前と違うんだよ?茜は私の気持ちなんて何もわかってないんでしょ!私はもうバスケなんてしたくない!』

 

 茜はきっと私の事を考えてくれていたのに…それを私が感情的になって…

 些細な言い合いで始まった口げんかはその一言で決着したんだ。

 その時の茜の表情を今でも思い出す。目に涙を浮かばせて言葉に詰まったあの表情。

 その後、茜は優しいから私の酷い言葉も許してくれて、結果的に友達関係には戻れた。

 けど…私のせいで……茜もバスケをやめちゃったんだ…

 そっか…だから私はバスケをやりたくないんだ…

 

「え?いや、茜がいるかなーって思ってね!」

 

「私が?バレー部は今日は体育館を使ってないよ?」

 

 ナンテコッタイ…

 

「あ、あはは…そっか!だから居なかったのね!まぁいいや!私は教室戻るから!」

 

 私はそう言って茜の横を過ぎようとした。その瞬間に茜が言った。

 

「バスケ……やりたいのならやればいいんじゃないかな?」

 

 私はその台詞が聞こえていたのにも関わらず、聞こえないふりをしてその場を通りすぎた。

 渡り廊下が切れる所で私が振り返ると茜は振り返る事も無くそのまま更衣室へと消えていった。

 

 教室に戻ると綾香が来ていた。

 綾香は私は教室に入ると同時にすごい形相で近寄ってくる。

 

「佳奈ちゃん!ちょっといいかな?」

 

 何だろう?昨日の事かな?

 もしかして桜井先輩と抱き合った姿を見ていたのもばれちゃったとか?

 

「え?何?」

 

「ちょっと…話たい事があって」

 

「えっと…もしかして昨日の事かな?」

 

「うん…」

 

 やっぱりそうだ、昨日の事だ。これって話を聞いたほうがいいよね。

 私は綾香と一緒に教室を出た。綾香は無言で階段を上がる。

 どうやら屋上へ向かってるみたい。屋上で話をするのかな?

 でもホームルームまであと十五分しかないし…そんなにいっぱい話しは出来ないと思うんだけど、何を言われるのかな…

『佳奈ちゃんってひどいよね!勝手に人のプライベートを覗くなんて!』

 って怒られちゃうのかな…

 まさ『もう佳奈ちゃんとは絶交だから!』なんて言われないよね?

 そんな事を考えているうちに屋上へ到着していた。

 

 屋上の風はもう十一月なのもあり少し寒さを感じる。

 少し身震いして綾香を見ると、私の横ですっごく深刻な表情で考え込んでいた。

 何だろう…何か嫌な予感しかしないんだけど…

 こういう場合って私が先に謝るべきなのかな?だって私の方が悪い事をしてたんだし…

 ……

 そうだよね、先に謝った方がいいよね。だって絶交なんてやだもん。

 私は『ごくり』と唾を飲み込むと綾香に先制攻撃を仕掛けた。

 

「ごめん綾香!昨日は本当にごめん!」

 

 私は頭を下げて綾香に謝った。すると綾香はきょとんとした表情で私を見る。

 

「何で佳奈ちゃんが謝るの?私はちょっとお願いがあっただけなんだけど?」

 

「え?だって私、昨日、一彦君の告白から綾香が一彦君に逃げられるまでの現場とかみちゃったし」

 

「あ、ああ!そうなの!私が言いたいのはその事なの!」

 

 やっぱりその話じゃん。

 でも『何で佳奈ちゃんが謝るの』とか言うって事はそんなに怒ってないって事なのかな?

 

「佳奈ちゃん、その事なんだけどさ、一彦君とは本当に何もないから!」

 

 一彦君とは何も無い?って事は昨日の状況から考えてもないと思うんだけど…

 でも桜井先輩が本命だから一彦君とは何もやましい事はしないって事なのかな?

 

「あ、そうなの?そうなんだ」

 

「うん、そうなの。だから…こういうお願いをするのもあれなんだけど、人には言わないで欲しいなって…」

 

 なるほどね…お願いって私に黙ってて欲しいって事なんだ。

 そうよね、そりゃ桜井先輩の耳に入ったらやだろうし、話して欲しくないよね。

 それにここで私がきちんと約束を守れば綾香との仲がよくなるかもしれないし、ここは綾香に話さないからって約束しておこっと。

 もちろん桜井先輩との関係も含めてね。

 

「綾香、大丈夫だよ!私は誰にも言わないから」

 

 私がそう言うと綾香は笑顔になった。

 

「ありがとう、佳奈ちゃん!」

 

 やっぱり綾香の笑顔っていいなー。なんか癒されるし。

 もっと綾香と一緒にいたいよね…って思ってるだけじゃ駄目だよね。

 これもいい機会かもしれないし、言ってみようかな。

 

「ねえ、綾香…お願いがあるんだ」

 

「え?お願い?何?」

 

「前みたいに学校の帰りに綾香とどっか行きたいな」

 

「え?私と?私って前はそんなに佳奈ちゃんと一緒に帰ってたんだっけ?」

 

 綾香は少しオドオドしながらそう言った。

 すっかり忘れてるの?私達ってすっごく仲良しだったのに…

 その言い方ってまるで記憶喪失みたいじゃん!

 あ……記憶喪失じゃん…

 そっかぁ…だから一緒にいっぱい帰ってたのを覚えてないんだ。

 だから一緒に帰ってくれなくなったのか。

 って…もっと早く気がつくよね…私って結構お馬鹿なのかな…ショック…

 

「どうしたの佳奈ちゃん?何かすっごく落ち込んでるけど?」

 

「あ、な、何でもないよ!そう、綾香とは今よりも、もっと一緒に帰ってたんだよ?」

 

「そ、そっか、うん、わかった。私も時間があればもっと佳奈ちゃんと一緒に帰るようにするね」

 

 あれ……何だか綾香が少し困ったような表情をしたように見えたような。

 うーん……やっぱり私って嫌われてるのかなぁ…

 

「綾香、やっぱりこんなお願いって迷惑かな?」

 

「ううん!違うよ!迷惑なんかじゃないよ!でもね、私って放課後に学校に残ってたりするし…佳奈ちゃんが期待するほど一緒に帰れないかもしれないし…だから…」

 

 なるほど、そういう事なんだ。

 そういえば綾香って最近は学校に残ってる事も多いかもしれない。

 もしかして放課後に桜井先輩と愛を育んでるのかも?ってありえる!

 そっかー、私も流石に綾香の恋路の邪魔は出来ないもんね。

 

「大丈夫だよ、綾香の予定を優先でいいから」

 

「ありがとう。じゃあ今度また一緒に帰ろうね」

 

「うん!」

 

「あ、佳奈ちゃん!もう時間だよ。早く教室に戻ろ」

 

 綾香にそう言われて私は携帯の時計を見た。

 確かにホームルームが始まる時間になってる。

 

「あ!本当だ!綾香、やばいよ!もどろ!」

 

 私と綾香は屋上から急いで移動した。

『ダンダンダン』と階段ホールに二人の足音が響く。

 

「誰ももういないよ!佳奈ちゃん、早くー」

 

 綾香は私の目の前でその小さな体からは想像出来ない程にダイナミックに階段を降りている。

 駆け降りるというより飛び降りてるし……

 稀にスカートが捲れて白い下着が見えているのはご愛嬌なのかな?

 まぁ見てる人がいないからいいけどね……

 でも綾香のには今度からスパッツでも履いたほうがいいんじゃないって言ってみよっと。

 それにしてもよかった。私は綾香に嫌われてた訳じゃないみたい。

 綾香の恋の秘密も知ったから余計に親密になれたかもしれないし。

 

「待ってよ綾香!はっやーーーい!」

 

 私の心にあったもやもや感は何時の間にか消え去っていた。

 あと私は解決しないといけない問題は…

 あれか……あれも考えないとだめだよね……

 

 終わり

杉戸佳奈という女の子がどんな子なのかを少しでもご理解頂けましたでしょうか?『ぷれしす』に登場するキャラクター個々には全て設定があります。佳奈ちゃんもその設定があり、今回の小説にそれを反映してみました。

他のキャラクターも機会があれば書きたいと思ってます。

本編も現在執筆中ですのでしばらくお待ちください。

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