第21話 ココロもカラダも? 後編
放課後…
「綾香、本当に今日の朝の件、ごめんね…」
佳奈ちゃんが俺に向かって深々と頭を下げた。今日一日佳奈ちゃんは元気が無い。
俺は元気の無い佳奈ちゃんはやはり佳奈ちゃんらしくないと思っている。
だから大丈夫だと言う事と気にしないでほしいという事を再度念入りに佳奈ちゃんへ伝えた。
そして佳奈ちゃんはやっと元気になってくれた。
「私、今度から綾香への攻撃は当分控えるね。それじゃ今日は用事あるからもう帰っちゃうね。また明日ね!」
「うん!また明日ね!」
佳奈ちゃんはぶるんぶるんと両手を振りながら廊下へと出て行った。
よかった…元の明るい佳奈ちゃんに戻って…
しかし攻撃は当分とは言わずにずっと控えていいんだけどなぁ…
俺はふと教室を見渡した…絵理沙はもちろん速攻で居ないのだが、真理子ちゃんまで居ない。
でも鞄はあるから校内にはいるのだろう。生徒会の用事かな?
茜ちゃんはというと部活の集まりとかで早くに出て行った。
さて…さてさて…俺は野木か…今日は来てるのかな…
俺は鞄を持ってから教室を出た。
廊下を歩いているとまた痛みが…精神疲労もピークかも知れない…
この心配事の塊を何とかしないと体も精神力ももたない…
そして特別実験室前…
俺は勢い良く扉を開いた!っていう事も出来るはずもなく、ゆっくりとこっそりと扉を開く…
ギギ…という音と共に扉が少し開いた。
「開いてる…って事は…野木は…」
ガラガラガラ…
俺は扉を開けて部屋の中を見渡した。
野木一郎が居ない…まだ学校へ来てないのだろうか?
でもこの部屋に入れるって事は来てるって事だよな?
俺は部屋の中に入ると野木一郎の机の横まで行った。
机の上は綺麗に片づけられていた。
今日は居ないのかな…うーん…どうしたものか…
でも居ないんじゃ仕方ないよな…また来るか…
俺が小さく溜息をついて教室を出ようとした時!
ガタ…ガタガタ!開かない…扉が開かない!
「ハハハハハ!その扉はもう死んでいる!」
な!?こ、この声は…
俺はゆっくりと後ろを振り返った。っと思ったら真後ろに野木が!
「これはこれは綾香君じゃないか。久しぶりだね」
野木一郎はそう言いながら俺の顔まで三十センチの所まで自分の顔を近寄らせた。
「何が久しぶりだ!二日ぶりだろうが!ええい!離れろ!気持ち悪い!」
俺はおもいっきり野木一郎を突き飛ばした。はずだったのだが…
ドン!という音はしたが野木一郎はまったく微動だりしない。
「おや?疲れてますか?綾香君」
何だよ…力まではいらねーし…っていうか疲れさせたのはお前だろ!
って怒鳴っても嬉しがりそうだし…もいい…
「はい、疲れてます」
「ふむ…じゃあやめましょうかね」
野木はそう言って俺の目の前からいきなり椅子まで瞬間移動した。
「お、おい!」
「何でしょう?」
「学校内で瞬間移動とかまずいだろ」
「え?この部屋は魔法結界が張ってありますし、気にしないで下さい」
まったく…魔法力が戻った途端にこうなるか…
「で?今日はどんな用事ですか?まさか僕にもう一度、綺麗で可愛かった女になって!とかそういう要望を言いに来た訳じゃないですよね?」
「馬鹿!なんで俺がお前の女姿なんか…」
まぁ確かに…輝星花は綺麗で可愛かったけどさ…
って違う!そんな事じゃない!
「俺は別の用事で来たんだよ!」
「ほう…で?どんな要件でしょうか?」
まずはあれだ…大二郎と正雄の件を話さないと。
「最初にだけどな…」
俺が話を始めたと同時くらいに野木は右手をパチンと鳴らした。
すると俺の体がいきなりソファーの上に!
「うわぁあ!」
ドサ!という音とともに俺はソファーに落ちた。
「お!成功!」
「痛ててて…成功じゃない!直線距離で2メートルなのに魔法で移動させるな!」
俺が怒鳴ると野木はちょっとむっとした表情になった。
「やってみたかった…それだけですが。悪いですか?」
「悪い…」
というか話の途中だったんだぞ…断ち切るような事をするなよな!
「おい、続きを話するぞ?いいか?」
「はい、どうぞ」
野木は両肘を机につき顎の下で両手を結んだ。
そして不気味な笑みで俺を見ている。
「えっと…まず俺の正体が正雄にばれそうになった」
「おや?ばれそうに?と言うと?」
「えっと…」
「あ、そうだった。ちょっと待って下さい」
野木はまた俺の話を断ち切ると今度は俺の目の前まで歩いて来た。
「な、何だよ」
そして野木は真面目な顔で俺を睨むと右手をゆっくりと俺の胸に…え?胸に!?
胸に野木の手の感触が伝わってくる。
「お、おい!お前!何するんだよ!こんな場所で!」
俺は慌てて野木の手を振り払おうとしたが、振り払えない!
まるで粘着テープで貼り付けたかのように野木の手は俺の胸に張り付いている。
「まぁ…黙って見てて下さい」
野木はそう言って目を閉じると訳のわからない呪文を唱える…
十秒くらいだろうか?野木は呪文を唱え終わった。すると俺の胸がいきなり光り輝き始める!
「な、何だ!?どうなってるんだよ」
野木は何かを確認するとゆっくりと手を離す。すると光もだんだんと消えていった。
「今のは何だよ?何で光ったんだよ?俺に何をしたんだよ?おいおい!」
俺は矢継ぎ早に質問をした。
すると野木は一度深く深呼吸をして話を始めた。
「綾香君、君、やっぱり胸が大きくなってますよ。下着のサイズ合って無いでしょ?」
俺は咄嗟に両手で自分の胸を隠した。
「そ、そんな事はお前に関係ないだろうが!」
「ですが、下着のサイズはきちんと合わせないと今後…」
「わかった!わかったからさっきの質問に答えろ!」
野木は仕方ないなという表情で話しを始めた。
「綾香君、いいや今は悟君でいいですかね。悟君の体の中に入れたカードの事を覚えていますか?」
カード…そう言えば…そんなもんを入れたような気もする…
「ああ、覚えてる」
「そのカードには魔力を貯めるだけでは無く、別の色々な事に利用出来るんです」
え?それは初耳かもしれない…
「例えば…人の行動を魔法力によって記憶させて、後日その記憶を辿って見るとかね…まぁそういう事をする場合には前提魔法も必要になるんですが」
何を言ってるんだ…記憶させる?そして前提魔法?よくわかんねぇ…
「で、野木がさっき使った魔法は結局は何なんだ?」
野木はニヤリと不気味に微笑えんだ。
「今の魔法は君の行動記憶を見る魔法ですよ」
「え?行動記録…って何だよ?もしかして俺が大宮でお前らから別れてからの今までの俺の行動を見る魔法…とか言わないよな?」
「いや、正解ですね…その通りです」
野木はそう言いながら数度頷いた。
っていうか何だ?ていう事はだぞ…俺から野木に話をしなくっても、昨日の俺と大二郎の駆け引きとか、正雄に疑われた事とか、今日の朝の出来事とか全てばればれって事なのか!?
「ああ…そういう事ですね」
うわああ!心まで読まれてる!
「いや、読んでないですよ…自然に入ってくるだけです」
「同じだろ!離れろ!離れろよ!」
野木は残念そうに自分の机に戻った。
「それで実はですね、大宮であの清水大二郎とかいう男が現れた時、僕は君に記憶メモリーの前提魔法を唱えておいたのです」
「え?お前、あの時は魔法力が無かったんだろ?前提魔法なんて使えないんじゃないのか?」
「そうですね、確かに魔法力が殆ど無かった。だけど全く無いという訳ではありません。以前屋上で君に僕の素性を明かした時、僕は女のままで魔法を使った事を覚えていませんか?」
そう言えば…確かに絵理沙が突進してきたのを魔法で避けたような…
「それじゃあ…いつ俺に前提魔法を?」
俺は大宮での出来事を思い出していた。大宮で俺は…あの三人組に…
何かこいつに触られたとか…あ!俺が輝星花に抱え上げられた時か!?こいつ俺に胸を押しつけて、おまけに俺の胸に手をあてていた!まさかあの時!?
「正解ですね」
「え?ま、待て!その距離でも俺の考えが自然に入るのか!?」
「まさか、今のは読みに行ったのですが?問題ありましたか?」
「ある!大いにある!っていうか人のプライバシーを覗くな!不可抗力は仕方ないとして!わかったか!」
うぐ…怒鳴ると更に体調が悪化する…
「悟君、顔色悪いですね。体調不良なのですか?」
「そうだよ!もう精神的にもぼろぼろだよ…俺の記憶を見たのなら解ってるだろ…」
「まだそれほどちゃんと君の記憶を辿ってないんですが…ちょっと待ってて貰えますか?」
野木はそういうと目を閉じた。
そして二、三分が経過したくらいだっただろうか、ゆっくりと目を開いた。
「なるほど…まさか悟君が男性に対して恋愛感情を抱くとはね…そうですよね…女の子としての生活の時間も長いですし」
野木は何か納得するかのように頷いた。
「そこ!勝手に納得するな!俺は困ってるんだよ!大二郎に…あんな変な気持ちになるし…正雄には俺が綾香じゃないんじゃないかって疑われるし…そうだ、おい、そう言えば何で俺と大二郎と一緒に帰らざる得ない状況に追い込んだんだよ」
野木はニヤリと不気味に微笑んだ。
「ふふふ…君を清水君と一緒に帰らせた理由かい?理由はですね…あの清水大二郎という男子は君にかなり好意があります。だからです」
「な、何だよそれは!俺に気があるって解ったら、普通は俺との仲を引き裂こうとか思わないのか?」
「僕が引き裂いても無意味が無いじゃないですか?関係を断ち切りたいのならば、悟君、君が自ら断ち切る必要があるんじゃないですか?僕はその場を提供しようとしただけです」
何だこいつ…要するに俺から大二郎に付き合えないと言えって言うのか?
でも俺はちゃんと付き合えないって言った。けど…
「まあ君は君なりに付き合えないって言った様子ですが…しかし…」
「どうなってんだよ…俺は男なのに…あ、あれだぞ?元々そういう趣味はないからな!」
野木は呆れた表情で俺を見ている。
「そんな事はわかってますよ。あ、そうだ、桜井正雄君の件も厄介そうですね」
「そ、そうなんだよ!正雄の奴、何でか綾香のほくろの位置とか覚えててすごくピンチに追い込まれたんだ。それで昨日、俺は風呂に入って自分の体を色々調べたんだよ…」
と言った所で何だかすっごく冷たい視線を感じる…
野木を見ると蔑んだ目で俺を見ているじゃないか!
「それは女体の神秘についてですか?」
野木はそう言って俺の全身を舐めるように見た。
「見るな変態!違う!そうじゃない!俺の体の特徴についてだよ!」
「ほほう…で?何かわかったのですか?」
「すごい事実がわかったんだよ!俺の体にはほくろが無いんだ!これっておかしいだろ?一つもなんて…やばくないか?それだけじゃない!綾香が小さい時に火傷した時の左太ももの傷も、転けて傷が残ったはずの右足の傷まで無いんだぞ?綾香の特長を知ってる人間だと多分気が付くレベルだぞ!?」
俺はそう言ってはだけている部分だけを野木に見せた。
「なるほど…綺麗な体ですね・・・本当に傷一つない…ある意味まずいかもしれないですね…しかし、今更特徴を考慮した体にする訳にもいかないのです。何かあってもどうにか誤魔化すしかないですね」
誤魔化すって…何処まで誤魔化せるって言うんだ…
俺は野木が俺にカードを入れる時に言った言葉を思い出した。
『もし、このカードを体に入れている状態で蘇生魔法の事がばれたら、君の存在は消え去る』
そ、そうだよ…すっかり忘れてた…大二郎に変な気持ちになったのも問題だけど、よく考えたらこっちは俺の存在に関わる問題じゃないか!
「悟君、そんなに不安そうな顔をしなくてもいいですよ?」
俺が真剣に考えているのに野木の表情はいつもと変わらない。
「この状況で不安になるなって言う方がおかしいだろ!」
俺は思わず怒鳴った。
しかし野木は先程と同じで焦る表情も見せずに冷静に俺を見ている。
「野木!お前が言ったんじゃないか!蘇生魔法がばれたら俺の存在は消えるって…」
そう言うと野木から予測もしない返事が返ってきた。
「大丈夫ですよ、あれは嘘ですから」
「へ?」
俺は目が点になった。
「あれは悟君が蘇生魔法の事をばらさないようにわざと言った嘘なんですよ」
「え?じゃ、じゃあ…ここにいる『綾香』が本当は俺『悟』だってばれても?」
「ああ、消えませんよ。しかしですね…人に知れ渡るというのは本来はまずい事です。最悪の場合は君を何処か違う世界にでも連れて行かないといけなくなる可能性もあります」
違う世界って何だ?魔法世界にでも連れて行かれるのか?これは本当の事なのか?
野木の表情からして決して嘘では無いのだろう…ここで俺に嘘をついても野木に何のメリットも無いしな。
しかしばれても消えないというのは少しは良かったのか?
「消えないと解ったからと言って、自ら話すなんていうのは止めてくださいね」
「ああ…自分からなんて絶対に言わない」
取り敢えずは正雄にばれないように努力して、もしもばれそうになったら再び野木に相談すればいいか…うん…そうだな…
という事で…もう一つの問題、大二郎に対するあの気持ちがどうして沸き起こったのかの原因が究明出来てないな…
俺が考え込んでいると野木が立ち上がり俺の横までまた歩いて来た。
「悟君?」
「え?な、何だよ。また心を読むつもりかよ」
「いや、そんなつもりでは無いですが…」
「じゃあ何だよ!痛っう…くそ…」
俺がお腹を押さえて顔を歪めていると、野木はいきなり俺を右手一本で抱え上げた。
「ば、馬鹿!下ろせ!何すんだよ!」
しかし野木は下ろす気配などまったく見せない。
「やっぱりそうですね…最初に出会った時に比べると体つきもかなり女性っぽくなっている…それに…」
そう言いながら野木は俺の胸を凝視している。
「や、やめろ変人!胸に触るなよ!」
俺は思わずそう叫びながら落ちないように何故か野木にしがみ付いてしまった。
「おやおや?僕に抱かれるのも満更じゃない様子ですね」
「ば、馬鹿!落ちないようにだよ!というか下ろせよ!」
野木は俺の話をまったく聞かずに空いている左手を俺の体の上に持ってくる。
「やめろ!触るな!」
「ふふふ…女同士じゃないですか?別にいいでしょ?」
「今お前は男だ・・・あれ?」
女声?あれ?抱えられていた位置がさっきよりもちょっと下がったような…
というか俺の左脇腹にふにゃふにゃと当たる柔らかい感触は?
俺は野木の顔を見た。すると!?
「悟君、これなら文句ないですよね?」
野木が輝星花になった!?
っていうか何時の間に輝星花になったんだよ!
じゃないな…戻ったんだよ!それもこの学校の制服!?絵理沙のか?
「え?いいえ、これは僕用に新しく作って貰った物ですよ」
こいつまた心を読みやがった!
「ええい!心を読むな!もう離せ!とっとと下ろせ!」
ジタバタと暴れてみたが、女になった力のそんなに無い輝星花からすら逃げ出せない。
「ちょっと魔法で君の体を調べます」
「へ?調べるって?」
野木は、じゃない輝星花はそう言うといきなり俺のスカートをばさりと捲りあげた!
「きゃああああ!何をするんだ!どこを触ってるんだよ変人!女だからって許されると思ってるのかよ!そ、そんな事をすると俺は許さないぞ!だ、ダメ…あああぁあぁぁ…」
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★ここは略します☆
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「俺、もうお嫁に行けないかも…」
「ふむ…やっぱりそうでしたか…もう始まってる様子ですし急いで行きましょう」
「え?始まる?」
輝星花は俺を抱えたまま特別実験室を出て何処かへと向かって行った。
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「嫌だ…そんなの…嫌だ…」
「何が嫌なのですか?仕方ないじゃないか、悟君は女の子なんだし…」
俺は今保険室のベットの上にいる。
小説ではわかりずらいとは思うが、一緒にいるのは野木一郎では無く今も輝星花だ。
今はそんな事を説明している余裕は無かったんだ…
そう、俺は困惑の最中で頭を抱えている。俺はあのあとにお手洗いに連れて行かれて…
それから何が起こったのか?それは俺から話したくない…
「でもこれで悟君も子供が産めるって事が解りましたし、悟君は女のままでも生きて行けるし子孫も残せるという事ですよ」
輝星花はつくり笑顔でそう言った。
「馬鹿!そういう問題じゃないだろ!なんで男の俺に…せ、せ…せい…」
「生理ですよね?ハッキリ言えばいいじゃないですか?別に恥ずかしい事でも何でもありません」
「俺は男だ!十分に恥ずかしいわ!何で男なのに…俺は綾香と体が入れ替わった訳じゃないんだぞ?これは俺の体だろ?何でせ…生理とか…来るんだよ…」
「前兆はあったのではないのですか?体調不良とか?悟君の記憶を辿った時にもそういう傾向は見えましたよ?」
俺の体調がここの所優れなかった理由はどうやら生理の兆候だったらしい…
野木は今日の俺の雰囲気と記憶を辿って見てそうかなとすぐに思ったらしいが…
まぁ…こいつも一応は女だしな…解るのかな?
「それにしても…いくら原子レベルからの蘇生とは言え、染色体まで女性として再構築されていたとは…絵理沙はすさまじいレベルの高度魔法を使いますね…正直ここだけの話、私じゃ到底この魔法を使うのは無理です。というよりも、このレベルの魔法を使える魔法使いを捜すの自体が無理に近いですね」
「そんなにすごいのかよ…俺にかかってる魔法って…」
「ええ…思った以上にね…」
輝星花は腕を組みながら俺をじっと見た。
「な、何だよ…」
「本当に元に戻せるのかちょっと不安になってきました…」
「ちょっと待った!何だそれ?おいおい!魔法力が貯まれば元に戻れるんじゃないのかよ!?」
「うーん…悟君にかかった魔法は先程も言った様に相当に高レベルな魔法です。あの絵理沙がもう一度同じ魔法を使えるかどうか…そこが問題なんです…」
「な、何だよそれ!?じゃあ何か?俺はもしかすると魔法力が戻ってもこのままなのか?綾香が見つかったらどうするんだよ!?綾香が二人になるじゃないか!おいおい…」
「本当の綾香さんが見つかった時には…そうですね、表面組織レベルであれば整形魔法でなんとかします」
「整形魔法?」
「ええ、性別転換魔法は高度魔法です。ただの性転換魔法ならまだしも、今回の様な原子レベルから再構築するような高度魔法、ましてや染色体まで再構築するような魔法は無理をして使って失敗すると悟君の命に関わります。ですから、もしも絵理沙が使えないと判断した場合は、本当の綾香さんが見つかったと同時に悟君の表面組織レベルだけを構成しなおして悟君を別の女性にします」
って何だよ…輝星花は普通に淡々と話しをしているが…それって…俺は男にすら戻れないって事なのか!?
まったく別人?それも女として生きろ!?有り得ない!そんなの無理だ!
「まて!その高度魔法を使わなくても男には戻れるんじゃないのか?」
「そうですね、外見だけを男には出来ます。しかし結局は染色体は女性のまま。要するに女性が男のふりをするっていうレベルです。まぁ今時点で悟君の染色体が男性のままだったらその程度の魔法でも十分元に戻れたですが…」
輝星花はふぅと溜息をついた。
そんなに深刻な顔をするほどに難しい事なにか!?おいおい…
「い、一度は使えた魔法なんだぞ?普通に考えても使えるだろ!?」
「それは絵理沙に確認しないといけないね…でも絵理沙は現時点では魔法が封印されています。ですから今は確認のしようも無いのですが…」
「待った!ダメじゃないかそれじゃ!どうにかしろよ!責任持をつとか前に言ったじゃないかよ!」
「責任は最大限に果たせる様に努力はします。僕だってちゃんと考えておきますよ。それはそうと大丈夫ですか?顔が真っ青ですが?」
輝星花にそう言われると下腹部がずんと重く感じてまた痛みが走った。
「折角…気が…散ってたのに…思い出させるんじゃねー!」
「今日は赤飯ですか?」
輝星花は笑顔でそう言った。
「何が赤飯だ!」
「だって、初めての生理じゃないですか。お祝いしないと」
まったく…気を散らしてくれてるのか冗談なのか馬鹿にしてるのか…
「しなくていい…っていうかさ…話題がずれて何だけど、こんなのが毎月来るのかよ?」
「そうですね。毎月かどうかは個人差がありますが」
「お、お前にも来てるのか?」
「僕も一応は女ですし」
「でも男に化けてるじゃないか」
「化けていても、結局は女ですから。だからこそ君の症状を見てすぐに解ったのです」
「うーむ…」
「悟君、今日はもうここまでにしましょうか?体調だって悪い訳ですし」
「お、おい、まだ俺が大二郎に起こしたあの変な気持ちについて何も解決してないぞ?」
「悟君が清水大二郎に恋心を抱いた理由ですよね?それはなんとなく予測できました」
「え?な、何だ?どういう事だ?」
「生理前は精神的に落ち込んだりイライラしたりするものです。悟君の場合は情緒不安定な状況になって感情が高ぶった状態になった事によりああいう事が起こった。後は…」
「あ、後は?」
「体がそこまでに完全に女性体になっている事を考えると、君は少しずつですが感情、そして心までが女性化してきているのかもしれません」
「え?何?お、俺が心まで女になる!?待て!待てよ!それは無いだろ?嘘だろ?」
輝星花はまた小さく溜息をついた。
「まぁあとは悟君の自己管理ですね。自分でしか自分の意思をコントロール出来ません。女性としての感情が芽生えるのも君の隠れた意識なのですから」
「俺次第って事か…」
「今の状況だと男に戻る事をずっと考え続けるのであれば、常に男としての自我を保つ努力は必要になりますね…」
「なるほどな…じゃああれか?俺が大二郎に対して感じたあの感情は、俺の奥底にある女としての感情なのか?」
「そうですね…しかし男としての感情、同性愛もありますし、本当に女性としての感情なのかは解りませんが、悟君の感情でそうなったという事実は変わりないですね」
「ど、同性愛!?無い無い!俺はそんなに変人じゃない!」
「え?でも君は越谷茜を好きなのでしょ?今の君にとっては同性愛では?」
輝星花は笑いが出そうなのか口を左手で押さえながら言った。
「そうやって揚げ足を取るな!くそ!それは男としての感情だ!だいたいこの姿で茜ちゃんには告白してねーだろうが!」
「はいはい、ムキにならないでいいですよ」
「お前がムキにさせたんだろ!」
「あはははは!」
輝星花はお腹を抱えて笑いだした。
「笑うな!おい!う…痛っ…ちょ、ちょっと…タイム」
輝星花は下っ腹を押さえて塞ぎこんだ俺を見て慌てて椅子を立った。
そして先程とは打って変わるような心配そうな表情で俺を見る。
「悟君?辛いですか?思ったよりも重いのですかね…」
俺は男なのに生理痛と戦うはめになるとは…
☆★☆★☆★☆★
保健室から出る時…
「綾香さん、これ差し上げますので」
野木一郎に戻った輝星花は紙袋を差し出した。
「え?何だよこれ?」
「僕からのささやかなプレゼントですよ」
「え?プレゼント?って何だよ…」
「生理用品です」
「ぐふ!」
「今回は無料で差し上げますが、次回の分からは自分で買ってくださいね?」
生理用品…って…そっか…必要なのか…って嫌だぁぁ!
「ほら、そんなに嫌そうな顔をしないで、あと今日はもう帰ったほうがいいですよ」
「うう…わ、わかった…」
俺は紙袋を片手に下駄箱へと向かった。
その後、絶対にばれたく無いと思った俺にとっての重大事件は…
ばったり下駄箱で茜ちゃんに出会ってしまい、紙袋が見つかり茜ちゃんにばれて…
そして必要ない!って言ったのに家まで付き添ってくれた茜ちゃんから家族にもばれて…
結果
夜は赤飯でした…
男なのに赤飯…
悲しい…
続く