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第19話 予想不可能暴走した俺!?

 裏通りバトルの一件の後…

 輝星花きらりは何を考えているのか大二郎をコーヒーショップに誘いやがった。

 大二郎も嫌なら断ればいいのに、輝星花きらりの押しに負けて結局ついて来た。

 そして三人でたいした会話も無くコーヒーを飲んだ。まぁそこで終わればまだ良かったんだ…

 その後だ、なんと輝星花きらりは茜ちゃん達と合流した後に一緒に食事まで誘いやがった!

 

 後から合流した茜ちゃんはまさかの大二郎の登場にかなりびっくりしていたにも関わらず輝星花きらりが食事まで誘うから更に動揺していた。

 しかし茜ちゃんは良い子だ。驚きはしたが、嫌な顔もせずに大二郎との食事もすぐにOKしてくれた。

 ちなみに絵理沙なんて何の意見も出さないで見てただけだ。もはや輝星花きらりを中心にして物事が進んでいた。

 

 茜ちゃんの選んだお店はイタリアンレストランで、ランチタイムには結構割安のセットメニューがある洒落た感じのお店だった。

 雰囲気は完全に女性向けで、店内は女性客でごった返している。

 制服の大二郎は結構というかかなり浮いていた。

 

 食事が始まるとあの輝星花きらりが真っ先に話を始める。

 あの一件から何故か一人で盛り上がる輝星花きらり

 大二郎は終始押され気味…茜ちゃんは輝星花きらりに波長を合わせて話しをしているだけ。

 しかしだ、普通一般的にはあんな事があったのに盛り上がるとかおかしいだろ?痕を引いて気持ちも滅入る方が多いんじゃないのか?まったく輝星花きらりは何者なんだよ……魔法使いか…

 

 途中の話の中で解った事がある。

 大二郎が制服だった理由は大宮で空手地区大会の決勝戦があったからという事。

 試合の結果は輝星花きらりや茜ちゃんが何度聞いても大二郎は話してくれなかった。

 茜ちゃんにしてみれば、もし大二郎が空手地区大会で優勝をしたら俺と大二郎がデートをしないといけなくなる。だからだろう、相当に気にしているのが見ているとよくわかった。

 俺も結果を知りたかったが、大二郎がこれほどに話したくない様子を見ると決して良い結果では無かったのではないかと勝手に予想した。

 結局最後まで大二郎は結果を話す事も無く食事も終了した。

 

 今日の買い物は食事が終わったら終了解散の予定だった。

 そして大二郎ともここでお別れ出来るものだと思っていた。しかし!俺の考えは甘かった…

 食事が終わって駅まで歩いている途中、輝星花きらりは俺と大二郎に向かってよんでも無い事を言い出した。

 

「綾香さん、清水さんと一緒に帰ればいいのではないですか?」

 

「え!?」

 

 思いもよらない言葉に俺は思わず声を出して驚いてしまった。

 ちょっと待て…茜ちゃんや絵理沙と買い物に来たはずなのに、何で俺が大二郎と一緒に帰らないといけなんだ?そんな疑問が俺の脳裏に浮かぶ。 


「待って、私は茜ちゃん達と一緒に帰りたいよ」

 

 俺は大二郎と一緒に帰る事に対して否定的な意見を言った。しかし…

 俺の予想を覆す事が起こった。それは…絵理沙や茜ちゃんまで賛成に回ったのだ!

 

「綾香、清水先輩と一緒に帰ってもいいよ?」


 茜ちゃんは俺の方をちらりと見るとそう言った。

 

「え?茜ちゃん?」


 俺が茜ちゃんの方を見ていると後ろから絵理沙の声が…

 

「綾香ちゃんが一緒に帰ってもいいと思ってるのなら…一緒に帰ればいいんじゃないのかな…」

 

「絵理沙さん!?」


 俺は慌てて絵理沙の方を向いた。 

 二人は賛成しているかのようにそう言ったが二人の表情は本気で賛成している様には見えなかった。

 がしかし!会話だけを聞くと賛成としか聞こえない。

 

「清水さんはどうなのですか?」

 

 輝星花きらりが大二郎にそう聞くと、大二郎は返答に困っている。

 

「俺は…別に無理してまで一緒に帰りたいなんて思ってない…」

 

 大二郎はしばらく考えてから体格に似合わない小さい声でそう言った。

 

「綾香さん、いいじゃないですか。清水さんには先ほど助けて頂いたのですし」

 

 輝星花きらりは笑顔でそう言った。

 こいつ…お前だって助けてもらっただろうが。お前が一緒に帰れよ。

 

 そして…

 結論から言うと結局は一緒に帰らないとダメな空気にされてしまった…

 という事で大二郎と俺が一緒に電車の中にいるという事だ…

 しかし何も言わずにただ横で固まって座っている大二郎。

 こいつ、かなり緊張しているのだろうか?

 もしこれで今の綾香の中身が実は俺『悟』だって知ったらかなりショックを受けるんだろうな…

 そうならない為には正体がばれる前に絶対に俺を諦めてもらわないといけない。

 

 というか…もし俺が今から大二郎と付き合ったとすると、将来は妹の綾香が大二郎と付き合わないといけないという事になってしまう。

 妹の綾香は今まで起こった事実も知らない訳だし、俺と入れ替わるのすら大変そうなのにそれよりも複雑な状況を作りたくない。

 もしかする綾香をもう一度記憶喪失だったという状況にしないとダメかもしれない。

 そうなったとしても大二郎と付き合っているという事実は邪魔なだけだ…

 

 俺がそんな事をずっと考えている間に東鷲宮駅に到着した。

 結局大二郎は最後まで無言だった。

 

 あまり人気のない駅の構内を俺と大二郎の二人で歩く。そして改札を出てるとお互い顔を見合わせた。

 大二郎と目が合った…思わず俺は目をそらしてしまった…

 やばいな…まともに大二郎の顔を見れないぞ…

 今日はここでとっとと別れるべきだな。

 

「地下道の向こうの駐輪場に自転車置いてあるから…ここで…」

 

 俺がそう言っても大二郎は無言だった。

 大二郎は笑顔が無く何かを考えているような表情をしている。

 

「じゃあ、大二郎、今日はありがとう。またね」

 

 そう言って俺は大二郎から逃げる様に地下道に向かう。

 大二郎の家は確か、駅の西口を出て右手に行った温泉施設の方向だったはず。

 という事はここでお別れという事だな。 

 俺は地下道を入る間際、つくり笑顔で大二郎に向かって手を振った。

 しかし大二郎は俺をじっと見て返事を返して来ない。何か気まずい…

 

「じゃ、じゃあ私行きますね!また学校で」

 

 大二郎に聞こえるような大きな声でそう言った。 

 しかしやはり大二郎の反応は無く、ただ俺の方を見ているだけだ。

 そんな大二郎を横目に俺は薄暗い地下道へ降りて行く。

 

 何だあいつ…何をそんなに思いつめているんだ?

 やっぱり大会で優勝出来なかった事が相当ショックだったのかな… 

 俺がそんな事を考えながら地下道を歩いていると、地下道に『ダッダッダッ!』と凄まじい足音が響いた。

 俺は何が起こったのかと慌てて後ろを振り向く。すると大二郎が怒涛のダッシュで俺の方へ走って来ているじゃないか!

 

「だ、大二郎!?」

 

 俺は思わず声を出して立ち止まった。

 そして大二郎は俺に追いつくといきなり右手をぐっと握ぎり無言で地下道を西口の方へと走り出す。

 大二郎は俺を引っ張ったまま地下道を出ると左に折れて線路沿いの道へ出た。

 

「ちょっと!大二郎!痛い!手が痛い!」

 

 俺がそう言っても大二郎は手を離さないし振り返る様子も無い。

 そして数十メートルは走っただろうか、気が付けば西口駐輪場まで引っ張られて来ていた。

 

「大二郎!痛いって言ってるだろ!」

 

 俺が思わず男口調で怒鳴ると大二郎はやっと手を離した。

 そして俺の方に振り返ると真剣な顔で俺を見る。 

 何だこの空気は…その表情は…もしかして俺にまた告白とかするつもりなのか!?

 周囲を見渡すが駐輪場に人気は無い…告白するなら絶好のチャンスという所だ…

 しかし告白なんかされても俺は困る…

 試合で優勝できなかったのなら、これ以上関わる必要も無い…

 一瞬俺の脳裏に大宮で大二郎に助けてもらったシーンが浮かびあがった。

 いや、無いとは言えないかもしれないけど…

 でも付き合うのは無理だ!よし、先に言っておこう…

 

「えっと…私は大宮でも言ったと思うけど…」

 

 俺は先手を打つべく先に話を始めた。すると大二郎がそれに割り込むように話出す。

 

「待て姫宮、お前の言いたい事はわかってる。でも俺も姫宮に伝えたい事がある。先に話をさせて欲しい!」

 

 真剣な眼差し。そして男らしい覇気のある低い声。

 

「は、はい」

 

 俺は思わずそう返事をした。

 大二郎のやつ何を伝えたいんだ?今日の試合で優勝は出来なかったけど、やっぱり俺と付き合いたいとかそういう事なのか?

 

「今日…俺、空手の大会で…」

 

 空手大会…やっぱりその話題なのか?

 

「はい…」

 

「優勝したんだ」

 

 大二郎は笑顔も無く、俺にそう報告をした。

 

「え!?」

 

 俺は思わす驚きの声をあげてしまった。

 

 

「えっと…『優勝』って『無料』じゃないって事かな?」

 

 俺は何を言っているんだ…くだらない冗談でその場を誤魔化そうとしていうのか?

 今のこの真面目な大二郎に、それに『優勝』の報告を真面目にしているのに、こんな冗談を言っても答えてくれるはずないじゃないか…それどころか普通は怒るだろ。

 

「姫宮…それは『有償』だ。俺の言ってるのは試合の決勝戦に勝った方の『優勝』」

 

「へ…あ、あーそっか!そうだよね!『優勝』の方か」

 

 予想外だ…ベタなジョークについて来られてしまった…

 しかし優勝したって…優勝?という事は俺とデート!?茜ちゃんと約束してたし。

 だったら何で?何で大宮で食事をした時に優勝したって言わなかったんだ?

 あそこで言えば茜ちゃんだっていた訳だし、デートの約束まで簡単に取り付ける事だって出来たんじゃないのか?

 ………

 待てよ、ここで結果を知ったとしても結局は俺は大二郎とデートしないといけないんじゃないのか?俺がその約束を知らない訳じゃないんだしな…

 

「おい姫宮、そんなに深刻な顔をするな。お前のそんな顔を見てると俺…ちょっと寂しいじゃないか」

 

 大二郎はらしくない悲しそうな表情でそう言った。

 えっと…どうするんだよ俺…どうすればいいんだ…

 デートなんてしちゃダメだろ…大二郎に好かれてはダメなんだぞ…

 でも約束だろ…優勝したのに約束を守らないっていうのもダメだろ…

 俺が考え込んでいると大二郎は俺から顔を背けた。そして小さく溜息をつくと元気の無い声で再び話を始める。

 

「姫宮、俺はな…大会で優勝したらお前とデートだって浮かれてた。でもな、俺…お前が望まないのに俺だけが浮かれてても仕方ないって事に気が付いた。だから…大会の優勝報告はする…だがお前が望まないのなら俺は別にデートしなくってもいいからな…」

 

 大二郎はそう言うと一人で納得したかのように頷いていた。

 何だよ…優勝したのなら『姫宮!デートだ!デートだぞ!』って言うのが大二郎じゃないのかよ…何でそんなに悲しそうな顔でそんな事を言うんだよ。

 そりゃデートしなくてもいいのは嬉しいかもしれないでもな……

 くそ…こうなったら…

 

「でも約束でしょ?大二郎は約束したから練習だってがんばって優勝を目指したんじゃないの?」

 

「ああ、約束はした。でもそれはお前とじゃない。越谷とだ」

 

 確かに…約束したのは茜ちゃんであって俺じゃない。

 だけどいいのかよ?大二郎はそれでいいのか?

 

「それって…それでいいの?本当にいいの?」

 

「俺はお前が好きだし、デートだってしたい。ただな、俺はお前に認めて貰えないのに…約束だから仕方ないからデートとか…そういうのは嫌なんだよ!」

 

 な…大二郎…

 

「で、でも…」

 

「もういい!それ以上言うな!俺は言いたい事は言った。だから俺は帰る。さっきはいきなり手をひっぱってすまん、痛かっただろ…今の俺じゃまだまだ姫宮には釣り合わないと自覚してる。だから俺はお前に認めてもらえるようにがんばるからな!って事でまた学校でな!」

 

 大二郎はそう言うとくるりと向きを変えて駅の方向へと歩きだした。

 そして数歩進んだ所でこちらを振り返る。

 

「そうだ姫宮、今日は俺の事をずっと大二郎って言ってくれてたよな…俺、すっげー嬉しかったから」

 

 大二郎は笑顔でそう言うと小走りで駅ほ方向へと消えて行った。

 そうだ…俺は癖で今日ずっと大二郎って名前で呼んでた…清水先輩って言うのをすっかり忘れてた。

 

 ……

 

 っていうかさ…何か違わないか?これじゃ俺、すっげー格好悪くないか?

 今日は大ピンチだった所を大二郎に助けてもらった。

 そして大二郎は茜ちゃんの約束通り、真面目に空手の練習をしてついに地区大会で優勝した。

 

 俺は自分の事しか考えずにどうやって大二郎に諦めさせるかってずっと考えていた。

 困った表情を見せて大二郎を精神的に追い込んだ。

 本当に付き合えないのならもっと早く言えばいいじゃないか…

 付き合えないとも言わずに、結局はやらせるだけやらせて最後にこれか?

 俺は人を、大二郎を傷つけたくないからって…結局は大二郎を傷つけてるじゃないかよ!

 いいのかよ…悟!それでいいのかよ!

 俺は自分に無性に腹が立った。

 

 そりゃ付き合えないよ。俺は『悟』だし綾香じゃない。綾香の事を考えても大二郎とは付き合えない。

 でも見た目は女でも、中身は男なら約束は守るべきだろ!守らなきゃダメだろ!

 デートが無くなっても大二郎は俺を嫌いになった訳じゃない!

 好きだけど…受け入れてくれない俺に…ただ傷ついただけなんだ…

 

「姫宮悟!男になれよ!」

 

 俺は大声でそう叫ぶと駅に向かって全力で走った!

 息を切らしながら駅まで戻ったが、そこには大二郎の姿はない。

 俺は駅を出て大二郎の家の方向へと全力で走った!

 

 俺は約束は守る!そして…そこでちゃんと伝える!ハッキリと!俺は大二郎とは付き合えないって…

 お互いが傷つかないようになんて甘いんだ!言うべき事はちゃんと言う!どうせ傷つくなら早く治る、早く癒える傷じゃないとダメだ!

 きっと大二郎ならわかってくれるはずだ。

 それに…今のあいつなら…本当にいい彼女が見つかるはずだ。

 

「はぁはぁ…大二郎…」

 

 全力で走る俺の前に大きな背中が小さく見えた。大二郎だ!

 俺は走るスピードを上げる!大二郎の背中がどんどんと近くになってゆく!

 俺は両手を広げた。そして大二郎の背中に思いっきり飛び込んだ。

 

「待て!大二郎!」

 

 ドン!という音と共に俺は勢い余って大二郎の背中に抱きついてしまった!

 し、しまった!勢いが良すぎて抱きついてしまったぁぁぁ!

 大二郎は前のめりに倒れそうになる!

 

「な、何だ!?」

 

 大二郎はなんとか踏ん張ると後ろを振り返った。

 

「ひ、姫宮!?」

 

 大二郎は俺に思いっきり背中から抱きつかれて目が点になっている。 

 

 な、何やってんだ!?俺は大二郎の背中から慌てて飛び降りた。

 

「だ、大二郎!」

 

「な、何だ?どうしたんだ?」

 

「え、えっと…」

 

 くそ!顔が熱い。赤面してるのか!?赤面なんてしてる場合じゃないだろ悟!言え!早く言え!

 

「大二郎!わ、私は約束を守りたい!大二郎は…大二郎はがんばって優勝した!茜ちゃん、ううん!私との約束を守って地区大会で優勝したんだよ!」

 

 大二郎はキョトンとした表情で俺を見ている。そして動揺しながら言った。

 

「で、でもお前は俺の事が嫌なんじゃないのか?」

 

「私は…大二郎が嫌いなんじゃない!ただ私には大二郎とは絶対に付き合えない理由があるの!だから何があっても大二郎とは付き合えない!だから私…大二郎には変な約束しちゃってずっと悪いと思ってた…」

 

 大二郎は唇を噛みながら俺の話を聞いている。

 

「私の心の中には大二郎はきっと優勝なんてしない。そういう気持ちがあった。だから別に断らないでもいいかなって思った。私は大二郎を傷つけたく無いって思ってたから。でも…大二郎は約束を守って優勝した」

 

 大二郎は少し顔を俯いた。ショックを受けているのだろうか?

 そりゃ当たり前だよな…頑張っても報われないのだから…だからこそ俺は約束を守るんだ!

 

「大二郎、お願い!約束だけは守らせて欲しい!デートしようよ…こんな我がままな私をいやな奴だと思わないのなら…私は…」

 

 そこまで言って俺は言葉に詰まった。

 そして大二郎の顔がまともに見られなくなり思わず俯いてしまった。

 大二郎は俯いている俺の左肩に大きな右手を置いた。左肩に伝わる大二郎の手のぬくもり…

 おれはゆっくりと顔を上げた。でもまだ大二郎の顔は直視出来ない。

 

「姫宮、俺な…お前が、姫宮綾香が大好きだ。俺はな、二学期始めに勢いで告白してからずっと姫宮に嫌われてるんじゃないかって思い込んでた。今日、大宮で俺を嫌っていないっていうのが解ってすごく嬉しかった。でもな、俺も弱い…そうは思いつつも心の奥ではまだ姫宮に嫌われているんじゃないかって思っていた…そしてさっき俺は自分が傷つかない為に自分から逃げた」

 

「大二郎…」

 

「でもな、姫宮がハッキリと言ってくれて…俺、よかったと思ってる」

 

 俺はゆっくりと大二郎の顔を見上げた。大二郎は俺と目が合うと俺に聞いてきた。

 

「姫宮…女々しいかもしれない。さっきのお前の言葉でお前を諦めるべきなのかもしれない。だけどな…絶対に付き合えないって言うさっきの言葉、信じたくないんだ…本当に絶対なのか?絶対に付き合えないのか?」

 

 大二郎の顔は真剣だ。でも付き合えないのは絶対だ。

 

「うん、絶対に無理なんだ…」

 

 俺がそう言うと少しだけ大二郎は寂しそうな顔をした。

 しかし、すぐに笑みを作る。

 

「………そうか…わかった」

 

 大二郎は優しい笑顔でそう言った。

 そんな大二郎を見ていると何だかすごく申し訳ない気持ちになる。

 

「大二郎…ごめん…」

 

 思わず謝ってしまった…

 

「いや、いい…ありがとう。ハッキリと言ってくれてな」

 

 今の俺の目の前にいる大二郎は…とても優しくって…とてもたくましくって…とても男らしくって…

 

 ………

 

 え?何だこれ…何を俺は考えてるんだ!?

 

 大二郎が今度は俺の右肩にも左手を置いた。両肩に大二郎の温もりが伝わる。

 ドキ!今俺の胸の鼓動が一瞬高まった。ドキ!ってした!?あ、あれ?何だこれ…

 

「姫宮、俺と本当にデートしてくれるのか?」

 

 ドキ!ドキ!ドキ!ドキ…

 な、なんだ?ドキドキと胸の鼓動が高鳴り今まで経験した事の無い胸の苦しみが伝わる。

 何でこんな変な気持ちに…お、俺は男だぞ…何で男にドキドキしてるんだよ!

 それも相手は大二郎だぞ!?自分にそう言い聞かせた。しかし鼓動は鳴り止まない。

 茜ちゃんを目の前にしても、絵理沙を目の前にしても、あの輝星花きらりを目の前 にしてもここまで変な気持ちにならなかった。

 あ!は、早く返事してあげないと!

 

「あ、うん」

 

「ありがとうな、姫宮」

 

 ドキ!って…何だ?また…もしかして…俺はこいつが…大二郎が好きに…

 な、無い!無い!!そんな事は無い!!!危ない!危険だ!

 でも…じゃあ何だよ…この感覚は…俺がおかしくなったのか?

 それともやっぱり…無い!また何を考えてるんだよ!悟しっかりしろ!そんなアブノーマルな事はありえないだろ!男同士だぞ!

 男に戻ったら男同士の…うわぁ!想像するだけも気持ち悪い!

 

「おい、姫宮?顔が赤いぞ?大丈夫か?デート…別に無理しなくっていいぞ?」

 

「え、えっと…無理はしてないよ!約束は守る!」

 

 俺の返事を聞くと大二郎はとても嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

 今日の大二郎って何だかいつもと違う…いや、俺が勝手にそういうふうに思い込んでるだけなのか…

 でも…もしも俺が本当の女なら、今日の大二郎なら…俺は付き合ってもいいと思ったかもしれないよな…

 な、なんて事を俺は考えているんだ!

 やばい…女の体になった影響なのか?変な事を考えてしまったぞ…

 

「姫宮?更に顔が赤いぞ?本当に大丈夫か?」

 

「え!?あ、ちょ、ちょっと緊張しちゃったから」

 

「そうか。そうだよな、俺も緊張してるしな」

 

「う、うん」

 

「よし、俺も男だ。ちゃんと言い直させてくれるか?」

 

「え?」

 

 大二郎はくるりと体を反転して俺に背を向けた。

 そして数回深呼吸をするともう一度俺の方へと向いた。

 

「姫宮綾香!」

 

「は、はい!」

 

「俺は約束通りに地区大会に優勝した!俺とデートしてくれ!」

 

 ドス!今の言葉と共に何かが胸に突き刺さった。

 胸が苦しい…

 

「あれ?どうした?姫宮…やっぱり嫌なのか?」

 

 え、あ、えっと…へ、返事!

 

「あ!?え?いや、OKだよ…」

 

「や、やった!姫宮、ありがとう」

 

 ドキ!え?まただぁああああ!うわあぁああぁぁ!

 危険だ…このままここにいると危険だ!

 今日の俺は普通じゃない!何の呪いだ?

 

「姫宮、それじゃあ…デートの約束だけど…」

 

「あ、あの…またそれは今度決めない?今日は…私…」

 

 こ、ここから早く逃げ出さないと!

 

「え?あ、わかった。また今度にしようか?」

 

「う、うん、ごめんね」

 

「いや、別にいいよ、姫宮とデートが出来るだけでもすごく嬉しいから」

 

 大二郎は満面の笑みを浮かべた。

 俺は…大二郎の顔がまた直視できない…

 

「ま、またね大二郎!」

 

「お、おい!姫宮!?」

 

 俺は慌ててその場から走り去った。

 

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 

 ………

 家に早く帰ろう… 

 俺はゆっくりと地下道を歩いていた。

 さっきのは変な気持ちは何だったんだろうか…

 俺はやっと精神的に落ち着いてきていた。

 

 俺は確か約束を守らない自分が情けなくって、それで大二郎との約束を果す為に大二郎をおっかけて…

 それで大二郎と…デートの約束を取り付けようと思って…

 そうしたら…胸がドキドキして…大二郎の顔がまともに見れなくなって…

 それでもってもしも女だったら大二郎と付き合ってもいいかななんて思ってたりも…

 え!?また変な考えが加わってしまったじゃないかぁぁぁ!

 

「うわぁああぁぁ!」

 

「な、何あの子いきなり叫んだよ?」

「優ちゃん、見ちゃだめよ!」

 

 周囲から女子高生や親子づれの俺が危ない人的な声が聞こえた。

 あし、…しまった…地下道で大声で吼えてしまった…

 何やってるんだ俺は…はぁ…溜息が出る。

 俺には茜ちゃんが居るんだぞ…男にドキドキしてどーするんだよ…

 危険街道まっしぐらじゃねーか…

 

 俺は地下道を通り階段を上がった。そして駐輪場へと入って行る。

 昼間でも薄暗い駐輪場…見渡してみたが人気は無い。

 俺は自分の自転車を見つけて鍵を外そうとしていた。

 

 カランカランカラン…

 

 鍵が地面に落ちた。

 俺がそれを拾おうかと思ったら誰かの手が鍵に伸びる。

 

「ほらよ、悟の妹」

 

 俺がふと顔をあげるとそこには正雄がいた。

 

「さ、桜井先輩!?」

 

 何でこんな場所に正雄が!?それも制服で?

 

「鍵…早く受け取れよ」

 

「あ…ありがとうございます」

 

 俺は正雄から鍵を受け取った。

 何だろうか。正雄は不機嫌とまではいかないが、あまり機嫌がよくなさそうな顔で俺を見ている。

 

「えっと…ここで何を?」

 

 俺はそう質問をしてみた。

 

「ん?俺が何でここにいるのか知りたいのか?」

 

「あ…別に…嫌ならいいです」

 

「別に…嫌じゃない」

 

 正雄はそう言うと俺の方をじっと見た。

 

「あの…そんなにじっと見ないで下さい」

 

「ん?俺が見るのはダメなのか?」

 

「え?」

 

 正雄はそう言うと一気に不機嫌そうな顔になる。

 

「姫宮の妹」

 

「は、はい?」

 

「お前、大二郎の事が好きなのか?」

 

 え!?ええええ!?何だそれは!

 

「な、何ですかそれは」

 

「さっき…大二郎と一緒にいただろ」

 

 見られてた!?正雄に!?何時の間にこいつ俺達の近くにいたんだ!?

 でもいいじゃないか。俺は悪い事なんてしない。ただ大二郎との約束を守る為に話をしていただけ…だよ…な?そ、そうだ!そうだよ!

 

「い、いましたよ?それが何か問題もであるのですか?」

 

「別に…問題なんか無い」

 

「それじゃ、何でそんな不機嫌そうな顔をしているんですか?私は大二郎が…し、清水先輩が地区大会で優勝したからデートの約束を守ろうと思っただけです」

 

 やばい、もう少しで大二郎を呼び捨てにするところだった…正雄の前で大二郎とか言うと何か言われかねない。

 

「お前、その優勝って証拠を何か見せてもらったのかよ?」

 

「え?しょ、証拠?え!?」

 

「お人よしだよな。優勝したなんて自分で言ってそれだけで信じたのかよ」

 

 どういう事だ?さっきの大二郎の優勝したって俺に報告したのは嘘だったのか?

 

「おい姫宮、何を焦ってるんだよ。もしかして騙されたのかもって思ってるのか?」

 

 正雄は後ろに置いてある自転車に座ると俺をじっと見た。

 そして俺の様子を伺っている。

 

 大二郎が嘘を?俺に?でもあの表情は…あの態度は…嘘じゃない…

 あの大二郎が俺に嘘をつくはずなんて無い!俺は信じる!大二郎を!

 

「私、信じます。清水先輩の言った事を信じます。清水先輩は嘘なんてつけません。私は…先輩を信じてます」

 

 俺がそう言うと正雄はいきなり声を出して笑い出した。

 

「はははははは!」

 

「何がおかしいんですか!」

 

 俺は正雄の態度に腹が立って怒鳴った。

 

「いや…すまん。まぁあれだよ…大二郎をよろしくな」

 

「え?」

 

 正雄!?何だそれは?よろしくって?

 

「あいつお前の為にすごく頑張って優勝したんだぞ」

 

「や、やっぱり優勝は本当なんじゃないですか!」

 

 こいつ…何がしたいんだよ。俺と大二郎とのやりとりをこっそり覗いてただけかと思ったら何を言い出すのやら。

 っていうか…おい、なんでこいつが大二郎が優勝したって知ってるんだよ?

 制服…優勝を知っている…俺と大二郎のやりとりを見ていた。

 こいつ大宮に大二郎の応援か何かに行ったのか!?

 

「さ、桜井先輩!」

 

「ん?何だよ」

 

「もしかして…清水先輩の応援に行ってたんですか?」

 

「………」

 

「そうじゃなきゃ優勝したなんて知ってる訳が無いですよね?」

 

「お前、結構するどいな?」

 

「やっぱり…」

 

「お前が不良に絡まれた時も俺は近くにいたんだが…大二郎が一人で全員倒しやがって俺の出番を無くしやがった。おまけにお前らと一緒にどっかに消えるしな」

 

「え!?」

 

 こいつ…あの時から?じゃあずっと俺の後をついてきていたのか?

 

「悟の妹!」

 

「な、何ですか」

 

「マジで大二郎をよろしくな」

 

「何でよろしくなんですか!」

 

「ん?だってお前、大二郎の事が好きだろ?」

 

「え!?な、な、何でそうなるんですか」

 

 やばい!こいつやっぱり全部見てた!っていうか何で俺が大二郎を好きって事になってるんだよ!

 

「悟の妹、俺にはすぐわかった。お前、さっき大二郎と一緒だった時、恋する乙女って顔してたもんな」

 

 俺は乙女じゃねぇええぇぇえ!男だああ!

 

「ま、まった!無いです!それは無いです!」

 

 正雄やめろ!否定してくれ!俺は悟だ!男なんだ!男に興味なんて無いはずなんだ!

 …はず?はず!?おい悟…はずじゃなくって絶対に興味無いんだろ…

 

「ムキになるなよ、大丈夫だよ、誰にも言わないから」

 

「し、清水先輩!」

 

 こいつ!しつこい!

 

「よし!じゃあ俺は帰るぞ?お前も早く帰れよ?」

 

 そう言って正雄は自転車からひょいと飛び降りた。

 と思ったらハンドルが正雄の右腰にあたり自転車が倒れる!

 

 ガシャーンという音とともに俺に向かって自転車が倒れてきた。

 

「うわ!」

 

 俺は自転車にぶつかってコンクリートの床に倒れ込んだ。

 

「だ、大丈夫かよ?」

 

 正雄は慌てて俺に右手を差し出した。

 俺は左手で正雄の手を握る。すると正雄は「よいしょ」と掛け声をかけて俺を起した。

 

「桜井先輩、危ないから自転車から飛び降りなでください!」

 

 俺がそう言って手を離そうとしたが正雄は手を離さない。

 正雄が俺の左手の甲をじっと見ている。

 

「あの、離してもらえませんか?」

 

「おい、悟の妹」

 

「え?」

 

 何だ?声が…声のトーンがおかしいぞ?

 

「お前…確か…左手の甲にほくろがあったよな…」

 

「え!?」

 

 ほ、ほくろ?え?そんなのあったっけ…

 そう言えば…確か…高校に入学してからだったっけな…

 

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 

「お兄ちゃん!手の甲見せて!」

 

「ん?甲?」

 

「いいから見せて」

 

「あ、ああ…」

 

 綾香はじっと俺の手の甲を見る。

 

「お兄ちゃんは手の甲にほくろ無いんだね」

 

「無いな…何でそんな事を聞くんだよ?」

 

 綾香はニコニコしながら自分の左手の甲を俺に見せた。

 

「ほら!ここにほくろあるでしょ?手の甲のほくろって器用な証拠なんだって!」

 

「そんなの迷信だろ?占いなんて信じるなよ」

 

「えー…お兄ちゃんって夢が無いなぁ…」

 

「あーはいはい。夢は無いですっと」

 

「あーつまんない!そんな事だから彼女の一人も出来ないんだからね!」

 

「お、おい!それは関係ねーだろ!」

 

「わーい怒った!」

 

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 

 ほくろ…あったかも…って!?な、何で正雄がそんな事を知ってるんだ!?

 正雄は俺を疑うような眼差しでじっと見ている。

 

「悟の妹、お前、入学早々俺と自転車でぶつかったの覚えてるか?」

 

 え!?何だそれ!そんな事を綾香から聞いてねーぞ!

 

「え…えっと…記憶が残ってないかも…」

 

 ここは記憶喪失のせいにしておこう。

 

「…記憶喪失か…そうか…」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 正雄はやっと手を離した。

 

「俺はお前と自転車でぶつかって、そしてお前がぶっこけたんだ。それで俺はお前を起こしてやったんだぞ?」

 

「そうなんですか…」

 

 何だよ!こいつ綾香と面識あったのかよ!?

 っていうか、起こしただけで左手の甲のほくろがあったとかよく覚えてるな…

 

「まぁあの時はまさか悟の妹だとは知らなかったんだがな…」

 

「え?あ、そうなんですか」

 

「それからしばらく経ってたからお前が悟の妹だって知ったんだ」

 

「そうなんですか」

 

 やばい…まったく知らない事すぎてあまり会話してると墓穴を掘りそうだぞ…

 左手の甲のほくろだって実際には妹の左手の甲にあったんだよ…

 

 俺は自分の左手の甲を見た。

 確かにそこにはほくろは無い…

 っていうかあれだよな…写真で蘇生したんだし、細かい部分まで完全に再現されてる訳はない。

 という事は…俺の知らない部分で綾香と違う所があるかもしれないのか?

 危険だな…注意しないと…

 

「お前…本当に悟の妹か?」

 

 正雄が俺の全身を見ながらそう言った。

 な!な!な!なんだ!?なんて言う事を聞くんだ!

 こ、ここはごまかなさいと!

 

「な、何を言い出すんですか!私、そんな事を言うと怒りますよ!」

 

「…そうだよな?どう見ても悟の妹だよな…すまんすまん」

 

 乗り切った!?しかし!長居は無用!

 

「私はもう帰りますから!」

 

「あ、おう…」

 

 俺は慌てて自転車の鍵を外すと駐輪場から外に出た。

 そして思いっきり自転車を漕いで家へと向かう。

 

 今日は色々な事がありすぎだよ…

 輝星花きらりが急に買い物に来るし…

 茜ちゃんに疑われそうになるし…

 不良に絡まれるし…大二郎に助けられるし…

 おまけに大二郎が地区大会で優勝するし…

 そして…大二郎に対して怪しい気持ちになるし…

 とどめには正雄の登場。そして正雄も俺が本物の綾香じゃないって疑いやがった…

 

 やばいな…明後日学校に行ったら…輝星花きらりに…じゃない…野木一郎に相談しよう…

 俺一人じゃどうしようも無い気がする…

 それにしても何だ…体が重い…

 

 そしてドタバタの土曜日は終わった。

 

 続く

何だかんだと19話です。当初は20話位で完結させようかと企んでいましたが、ハイ無理です。当分続きそうですが宜しくお願いします。

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