第2話 新しい朝からの急展開
うーん…朝か…
何だか昨日はすごい夢を見たような気がする…
そう、俺が妹の綾香になるとかそんな夢だった…
学校で爆発に巻き込まれて、俺は蘇生魔法で生き返って、そしたら俺が妹になってて…
そんなくだらない夢だったな…
俺はそんな事を考えながら自分の胸元を見た。
…
とりあえず頬をつねった。
痛い…
ち!違う!!い、痛くないぞ…
夢だ…そう、これは夢だ!
とりあえず深呼吸をしてベッドから起き上がると今度は部屋にある姿見に自分の姿を映し出した。
…
どこからどう見ても鏡の中にいるのは妹の綾香だ…
周囲を見渡す…やっぱり…ここはどうみても妹の部屋だ。
ふう…やっぱ夢じゃないな…俺は昨日、妹の綾香になっちまったのか…
俺は深い溜息をつきベッドに座った。
ん…何だ?なんだか体がべたべたしてきもち悪いぞ。
あ、そういえば昨日は風呂も入ってないな…なんて汚いんだ!
昨日、家にもどって来た時間が遅かったのと、妹の綾香になったショックでお風呂も入らないで寝たんだった。
このきもちの悪い汗をかいたままの体だと流石になぁ…
よし…
俺はバスタオルを片手にお風呂に向かった…
階段を下りるとそこが玄関だ。玄関からから右手がリビングでキッチンとは繋がっている。
そしてキッチンの横が洗面所だ。
リビングに入るとキッチンで母さんが皿を片付けているのが見えた。
俺はリビングの壁に掛けてある時計を見た。
もう十四時か…え!?もう昼過ぎてるじゃないか!
寝すぎた…
「お、おはよう、母さん」
俺は母さんに普通に挨拶をしてみた。
「あら、綾ちゃん、おはよう、昨日はよく眠れた?眠れたわよね、もうこんな時間だしね」
うーむ…反応は普通だな。特にかわった反応はない…
「うん…ちょっと寝すぎちゃった」
「でも、本当によかったわ…お母さんね、綾ちゃんが本当に死んじゃったかと思って、本当に…もう…生きててよかったわ…」
そう言うと母さんは目を手で覆い泣き出してしまった。
いかん!母さんがいきなり泣き始めたぞ…
「だ、大丈夫だよ!俺は生きてるから!」
母さんは泣きながら驚いた表情をで俺の方を見た。
「あ、綾ちゃん?今…俺とか言った?どうしたの?」
しまった…俺は綾香だったんだ…つい俺とか言ってしまった!
「あ、え、ご、ごめんね、ちょっと私…記憶がおかしくなっちゃてるのかな…」
そ、そうだ!記憶喪失という事にしようって昨日、北本先生と話たばっかだ。
「え?記憶って?もしかして…記憶喪失なの?」
母さんはすごく驚いた表情で俺を見ている。
「うん…そうかも…所々の記憶がないの…」
「た、大変!病院にいかなきゃ!!」
母さんは慌ててエプロンを取るとキッチンから出て行こうとしている。
ちょっとまって!病院なんていいから!な、なんとかしなきゃ…
「わ、私は大丈夫、きっと一時的なものだと思うの…だってすごく怖かったんだもん。そのせいだと思うから、ほらお母さんだって覚えてるし!」
「そ、そうよね…色々あったものね…なにより貴方が生きてるほうが大事よ…でも具合が悪かったりしたらすぐにお母さんに言ってね…」
母さんは納得した表情で俺を笑顔で見ている。
よかった…母さんがこういう性格で…助かった…
「うん、ありがとう」
よし、この場はなんとか凌いだぞ…
「でも…せっかく綾ちゃんが戻ってきたのに…悟がね…もう…何で戻って来ないの…」
母さんはまた涙を浮かべた。
「大丈夫だよ!お、お兄ちゃんはきっと大丈夫だよ!死んだ訳じゃないんでしょ?だったらきっと生きているよ!きっといつか私みたいに戻ってくるよ」
こ、これでどうだ?実際ここに生きてるんだし、嘘じゃない!
「うん…そうよね…綾ちゃんが戻ってきたんだもんね…悟もきっと戻ってくるよね」
「そうだよ!元気だして、お母さん」
「ありがとうね、綾ちゃん…色々あったばかりなのに気遣いさせちゃったわね、お母さんもう大丈夫だからね」
よし、これで大丈夫かな?しかし…もしも俺が悟だぞって言ったらどういう顔をするんだろうな…
すっごい驚くかな?いや…たぶん信じないんだろうな。
俺の気が狂ったとでも言いそうだな…普通はそう思うよな…
「あら?綾ちゃんお風呂に入るの?お湯入ってないわよ?入れようか?」
「いや、いいよ、シャワーだけだから」
「そう?それならいいけど…」
俺はそう言って脱衣所に入った。
まずはパジャマを脱いで…なんだかここにきて緊張し始めた。
下着を脱ぐっと…下着…ってことは裸になるのか…
うーん…なんか恥ずかしいな…
で、でも…よく考えてみろ悟よ、この体は別に綾香本人の体じゃないんだし…
そうだ!俺の体だ!気にしないでもいいんだ!
そう思っておこう。でも俺は何故か目を閉じて下着を脱いだ。
しかし目をつぶったままでは浴室には入れない…
仕方なく俺は目を開けた。
そしてふと横を見ると洗面化粧台の鏡に映った俺(綾香)の姿が見えた。
あ、綾香の裸!?鏡に映った綾香(俺)の顔が赤面しているのがわかる。
駄目だ…気にしないようにしないと…よ、よし…裸から意識を反らそう!
そうだ!別の事を考えればいいんだ。
確か北本先生は身体測定のデータを元にしたって言ってたけど…
そう考えると実際の綾香って結構幼児体型なんだな…胸はAカップなのかな?
うわー!結局くだらない事を考えてしまっている!
し、しかしこの胸のサイズは小さいのかな普通かな?
俺は何気なしに胸に手をあてて触ってみた。
ぷに…ぷに…微妙な弾力が…へ、変な感じだな……
な!何をしてるんだ!これじゃ俺は変人じゃないか!!
駄目だ、気にしちゃだめだ!
そうだ!今から成長するんだ!きっとそうだ! いや!そんな事じゃない!
くそ、余計に恥ずかしくなったぞ!おい!
落ち着け…俺…これから当分付き合ってゆく体だぞ!
こんな事でどうするんだ!ふうふう…
俺は何度が深呼吸をした。
よーし・・・すこし落ち着いたかな…
でも…なんか…この肌…すっごくすべすべだな…いいな…
俺は洗面の鏡にむかって笑顔を作ってみた。
うわ…か、かわいい…
おい…違うだろ…俺はまた何を考えてるんだよ!このままじゃ本当に変人路線に行ってしまう!
とりあえずシャワーだ!シャワー!まったく…
結局すごく疲れるシャワータイムだった…
☆★☆★☆★☆★☆
ブィィィィン!
ふう…まさかシャワーを浴びるだけでもあんなに大変とは…
しかし…なんて面倒なんだよ…ドライヤー!
髪が長すぎて洗うのも大変だったけど、ドライヤーで髪を乾かすのも大変だ!
いっそバッサリと切ってしまいたいが…やめておこう…
あまり変な事をすると怪しいとか狂ったとか思われるだろうし…
あとあれだ…下着だよ…特にブラジャー!つけづらい!
でもまぁ…慣れれば大丈夫か…
ブィィン!!
これから当分は女として生きていかないといけないんだし、多少は女性についても勉強しないといけないのかな…いちいち人に聞けないしなぁ…
仕方ないな…今度、北本先生にでも聞いてみようかな。
ブィィィィン!!
よーし!終った!さらさらの髪!我ながら良い出来だな!
次は…服っと…これでいいか…よいしょっと。
パンツ…ない…ジーンズもない…おい!スカート系しかないじゃないか!
もしかして…俺がスカート姿の綾香が好きだとか言ったからか?
…なんて素直な妹だろう…なんか慣れていなくて嫌だがスカートを履こう…
俺は仕方なくスカートを履いた。何かすーすーする…仕方ない。
よし、これでいいか…一応鏡みるか…鏡っと…どれどれー
…
うわ!かわいい…
あ、綾香ってやっぱりかわいいな…
……い、いかん!何を見とれてるんだ!
こんな俺でいいのか…悟に戻った後が心配になてきたぞ…
「綾ちゃんー綾ちゃん」
ん?母さんが俺を呼んでる?何だろう…
「はーい、何?」
「先生からお電話よー」
ん?先生?
「はーい、わかった!すぐいくねー」
先生って…まさか…俺は急いで階段を下りた。
「ほら、電話保留にしてあるから」
俺は受話器を取った。
「もしもし?姫宮綾香ですけど…」
「あーもしもしー?北本ですが」
げ…北本先生じゃないか…まぁ多分そうかと思ったんだけど…
「あ、はい…なんでしょう?」
「あのね…ちょっと学校に来てもらえる?」
先生の声のトーンがちょっと低いけど…何かあったのかな…
「え?学校ですか?」
「そうよ、申し訳ないけどすぐに来てくれる?すっごく重要な事を伝えたいの」
え!?すっごく重要な事だって!?何かあったのかな…
しかし重要って言うなら行かなきゃいけないだろ。
「あ、はい…わかりました…すぐ行きます」
「じゃあ、特別実験室に来てね…」
がちゃ!!
「え?先生!特別実験室って!?」
って…電話もう切れてるし…切るの早すぎ!
でも…一体なんだ?何の用事なんだ???
重要な話し…取りあえずは行ってみるしかないかな…
「どうしたの?綾ちゃん?」
「あ、うん、ちょっと学校に行ってくる」
「え?今から?」
「うん、急いで行ってくるから」
俺はすぐに準備をすると綾香の自転車に乗り学校へ向かった。
☆★☆★☆★☆★☆
自転車で走る事十五分、俺は学校に辿りついた。
北本先生もいきなり家に呼び出し電話するとは何を考えてるんだ…まったく……
それにしても…声が暗かったし、重要な事って言ってたけど…本当に何かあったのか?
もしかして俺に、もう悟には戻れない!とかいう事実を伝えたいとかないよな!?
うわー想像するだけでも嫌だな。
よし…ついた。
シャーカシャン
俺は駐輪場に自転車を置くと周囲を見渡した。
正直知り合いには逢いたくない。
俺の知り合いはどうせ綾香を知らないし、どうでもいいが、綾香の知り合いには絶対に逢いたくない。
声を掛けられても、俺は綾香の友達とかほぼ知らないからな…
俺は誰も居ないのを確認してから校舎に入った。
校舎の中でも周囲を見渡して誰もいない事を確認する。
そして人気の無い廊下を歩き、昨日のあの事件が起こった特別実験室の前まで来た。
実験室の前に立って俺は驚いた。
あんなに大爆発だったのに…何も壊れてないし…
その形跡すらないじゃないか…
どうなってるんだ?
俺は特別実験室の扉に手をかけた。
開く…鍵はかかっていないようだ。
俺は実験室の扉を開くと一歩中に入った。
そして周囲を見渡して再び驚いた。
実験室も外と同じで、まったく壊れた形跡がない…
ガス爆発のせいにしたっていってたけど…これじゃ何もなかったのと同じだな。
ほんの小規模のガス爆発にしたのか??うーん…
しかし…どうやったんだろうな?
どうやってこの部屋を修復してごまかしたんだ?
「早く中に入って、姫宮さん」
北本先生の声だ。
おっとっと…誰かに見つかったら一大事だ…
俺は実験室の扉を閉めた。
よく見ると北本先生の横にもう一人誰かがいる!?
何でここに北本先生以外の人間がいるんだ?
「そこに座って」
北本先生は元気のない声で言った。
俺は言われる通りに椅子に腰掛けた。そして北本先生を見る…
北本先生の横に怪しい白衣を着た男性が立っている。
身長は175センチくらいかな?痩せてて黒縁の眼鏡をかけている。
誰だ?見たことないぞ?この学校の先生じゃないな。
俺は視線を男の顔に向けた。するとその男と目が合った…
じーと見られる…何だ?すっごい見られてるんだけど…
本当に誰だ?魔法がばれちゃ駄目なんだろ?ここに人がいてもいいのか?
う…まだ見てる…俺は耐えられなくなり目を逸らした。
気になって仕方がない…取りあえず北本先生に聞いてみるか。
「き、北本先生、この方は誰…じゃないや…どなたですか?」
危ない…いつもの話し方をする所だった…
「ああ、この人はね、私の知り合いよ」
そう言いながら北本先生はその男を見た。
「え?先生のですか?」
「ええ…そうよ」
北本先生がそう言うと、その男はようやっと口を開いた。
「なるほどね…君が姫宮悟君か…今は綾香さんだっけ?」
へ?何だ?俺の事知ってるじゃないか!?じゃあ俺は普通の話し方でいいのか。
って違う!そうじゃない!
他人に魔法がばれたら追放になるとか北本先生は言ってなかったか??
これってすごくまずいんじゃないか???
「北本先生!ちょっと!どういう事だ!?何で俺の事を知ってるんだ」
北本先生は大きな溜息をついた。
「ちょ、ちょっと説明してくれよ!!」
北本先生は再度白衣の男性の顔を見た。
白衣の男も北本先生を見返した。そして何かの合図なのか小さく頷いた。
「えっとね…あのね…ばれちゃったんだ…」
北本先生はとても残念そうに言った。
「ばれちゃったって…どういう事ですか…」
「魔法管理局にばれちゃったんだ…」
北本先生は白衣の男をちらっと見た。この男に関係がある事なのだろうか?
「魔法管理局?何だ…その魔法管理局って」
「この世界の警察みたいなもんかな」
「それってかなりやばいんじゃないのか…」
その魔法管理局にばれたって事は…もしや…先生は魔法界から追放!?そして俺はこの世界から!?
ひどい!そんなのひどい…俺は何も悪い事してないのに…
それに俺はまだ青春をエンジョイしてないのに!恋愛するとか!彼女をつくるとか!デートするとか!
「大丈夫だよ、姫宮綾香君」
白衣の男がにこやかな表情で俺に向かって言った。
「え、大丈夫って?」
「君にはなんの処罰もないから」
「君にはって?俺には処分はないけど?まさか北本先生には…」
「そうだね、君にはないが、絵里には処罰があるよ」
やっぱり…もしや追放なのか!?そうなると俺はどうなるんだ!?
「え!?という事は北本先生は魔法界から永久追放!?」
白衣の男は焦った俺を見てクスクスと笑った
「な、何がおかしいんだよ!」
「いや、その焦った顔がね、北本先生が追放されて自分は元に戻れなくなるの!?って顔に見えたからついつい笑ってしまったんだ。申し訳ない」
何だこいつ…ちょっとむかつく!
戻れなくなるの?って・・・俺が心配するのは当たり前だろ!
「まぁ、意気消沈してる絵里に代わって僕から説明しておくと、君は元の悟君に戻る権利がある。権利というよりはそれが当たり前だからね。だいたい今回の事件は絵里が全て悪いからな。だから君は元に戻れる。あと絵里は追放はされない」
お!?元に戻れるって!もしかしてさっそく元に戻れるのか!?
それに北本先生も追放もされないっていうしな。
「俺は元に戻れるのか!?今か!?今なのか??」
「いや、今ではないよ」
「え…じゃあいつだよ」
「今ではないと言う理由は、再蘇生は高等魔術というのは関係なくて、一度蘇生をした術者(絵里)が対象者(悟)に魔法を使わないと効力が発揮出来ないという所だな」
「という事は、北本先生じゃないと俺を元に戻せないって事か?」
「ああ、そういう事だな」
「あう…じゃあ何年先になっちゃんだよ…」
「そこは今から説明する。ちょっと待ってくれ」
そう言うと白衣の男は横に置いてある黒い鞄から黄色いカードと取り出した。
「絵里から話を聞いてるかと思うが、普通に魔法力を貯めるとかなりの時間がかかってしまう。しかし我ら魔法管理局もこの状況を何年も放置は出来ない。だから今回は特別にこのカードを使う」
白衣の男が持つカードはどうみても金属製の普通のカードに見える。
カードを使うっていうけど、そのカードで何をするんだ???
「このカードを君に埋め込み、そして君が魔法力を溜めるんだ」
まるでそれが当たり前の事かのようにその男は言った。
「え!?何!?俺に埋め込んで俺が溜める!?」
「そうだ、この世界では俺達みたいな魔法世界の人間は魔法力が溜まりづらくなっている。だが、実は魔法力は人間でも溜める事が出来るんだ。魔法使いがある一人の人間に対して自分の代行で魔法力を溜める事をお願い出来るシステムがある」
「え…そんなのがあるのか??」
「ああ、ただし…この方法を取ると術者はそのカードを回収するまでは魔法が一切使用出来なくなるというリスクがあるんだ」
「うーむ…で?どうするんだよ…体に埋め込むとか怖いんだけど」
「そこは大丈夫だ、あっと言う間に終るし、痛みもないし生活に支障もない」
「なるほど…」
「あとな…絵里は十年の魔法禁止処分になったんだ」
「え!?魔法禁止!?」
「こんな些細な問題では追放にならいが、やはり問題は問題だからな」
「まて!些細って言うが俺にとってはかなり重要な問題だぞ!俺は一回死んでるんだぞ!あと、北本先生が魔法が使えなかったら俺は元に戻れないんじゃないのか!?」
「まぁまぁ、そこは大丈夫だ、再蘇生に必要な魔法力が溜まったら、絵里に再蘇生の魔法を唱えさせる。これは特別に承諾がすでにとれている事だ。だから君に魔法力を溜めてもらおうとしてるんだろ?」
「む…でもな、魔法力ってそう簡単に溜まるのか?何年もかかるんじゃないのか?」
「魔法力というのは一種の生命力みたいなもんだ。だから君が楽しく普通に生活していればそのうち溜まる。多分長くても二年だろう」
おお!二年!二年か!
「二年で戻れるのか!俺は!!!」
「ん?いや、最短だと一年で戻れる可能性もある」
うおお!一年!
「やるぞ!やる!戻れるならやる!」
「まぁ焦るな、あれだぞ?楽しくだぞ?じめーとしてたら二年いや下手するとそれ以上かかるからな」
「わかった!もう今時点ですっごい楽しい!嬉しい!」
「ふむ…じゃあ早速…」
「よし!いつでも来い!」
「の前に、あと一つ言っておく事があった」
「な、何だよ!早く言え!」
「もし、このカードを体に入れている状態で蘇生魔法の事がばれたら、君に存在は消え去る」
「え!?」
「君がこの世の中から消えるだけだ」
「消えるだけって…」
「うーん…存在が消滅するって言えばいいのか?この世界からね。まあ言わなきゃいいんだ気にするな」
消滅…で、でもよく考えろよ…今まで言われてたのは、ばれたら追放だったし、消滅でも追放でもこの世界にいなくなるのは違いない。もういい、色々言ってる場合じゃない。
「わ、わかった…やるよ…」
「よし、じゃあやるか…」
そう言うと男は黄色いカードを北本先生に渡した。
北本先生は暗い表情でカードを受け取ると俺の前に立った。
「まさかこんなに早くばれるなんてね…でも仕方ないわね…」
ばれるって…あんたが悪いんだろ!!!それに俺は二年で戻れる方が嬉しいんだ!
何年も待ってるのはごめんだ!
「北本先生!早くしてくれ」
北本先生は何か念仏か呪文かそのようなものを唱えた。
するカードが光った!!!まるで魔法みたいだ…あ、魔法か…
「いくわよ」
先生は黄色いカードを俺の胸に差し込む。
すると服の上からなのにカードがゆっくりと体の中へと吸い込まれてゆく…
なんていう不思議な光景だろう…
「これでOKよ…あーあ…魔法使えなくなっちゃったわ」
「どれ…ちょっといいかな」
白衣の男が俺の横に来ていきなり胸を触った。
ぷにぷに…
触られる感触が…って!
今俺は女だぞ!!何躊躇もなくこいつ触ってるんだよ。
「な、何するんだ!いやらしい!」
俺は慌てて野木の手を払った!
「ん?何だ?ちゃんとカードが入ったか確認しただけだろ?だいたいお前それほど胸はないじゃないか」
なんという失礼な言葉だ…
「すっごいあるとは言わないけれど一応あるんだ!」
「あと、君の中身って男だろ?何を気にしてるんだよ…顔まで赤くしてさ、まさか女になりたかったとか?」
「な、何を言ってるんだ!俺は男だ、男に戻るんだよ!だいたいあんたは名前も教えないで何様なんだ!」
「おや、そっかそっか、僕は名前言ってなかったか」
「普通は最初に自己紹介するだろ!!」
「そうだね、ごめんごめん、じゃあ自己紹介しておくよ。僕の名前は野木一郎だ」
なんていう普通の名前だ…てっきりすっごい名前なのかと思っていた。
「あ、そうだ、僕は二学期からこの学校の先生やるからね」
そ、そうか…この学校の先生…え?先生!?
「え!?何それ?」
「二人の監視でね…君はわかるだろ?絵里もな」
野木という男は笑顔で北本先生を見た。
「わ、わかってるわよ…私が悪いんだもん。仕方ないわね」
「という事だよ、姫宮綾香君」
なんかよくわからないが、はっきりした事は二年後には俺が悟に戻れるのと、それまでは野木といういやらしい男が俺と北本先生の二人を監視するという事…
とりあえず希望が見えた!これでなんとか俺も生きてゆけるな…
しかし…この二人はどういう関係なんだ?知り合いっぽいのは確かなんだけどな…
まあいいか…
「姫宮君」
ん?何だ?
「あ、はい」
「今日はもういいから、姫宮君は帰っていいよ」
え?何だかもう用なしだよって感じの言い方だな…なんかむかつく。
でもまぁここに居ても仕方ないし、帰るか。
「わかった、じゃあ戻るから」
「気をつけて家まで戻るんだぞ?」
ん?一応はこいつは俺を心配してくれるのか?
「あ、大丈夫、俺の家は結構近いから」
「そうか、うん、じゃあまた」
「それじゃまた!」
俺は教室を出た。
教室の外に出た時に僅かにだけど教室の中から北本先生の声が聞こえた。
「…兄さ…だもん…か」
俺は戻れる事の嬉しさのせいもあり、あまり気にせずに校舎を後にした。
続く