第17話 大宮バトル!?救世主は俺だ!中編
更新遅くなりました。申し訳ありませんでした。
大宮駅に到着。俺達は電車を降りた。
久々の大宮駅のホームは相変わらず人で溢れていて上りのエスカレーターが長蛇の列になっている。
「絵理沙さん、輝星花さん、こっちですよ!綾香も早く!」
茜ちゃんは号令とも聞こえる口調でそう言うと、小走りで長蛇の列になっているエスカレーターの最後尾に真っ先に並んだ。
絵理沙と輝星花も茜ちゃんに言われるがままにエスカレーターの順番に並ぶ。
「それにしてもこの駅って人がいっぱいだね」
絵理沙が物珍しそうに周囲を見渡しながら言った。
「ここは大きな駅だからね。でも今日は休日だからこれでも人は少ない方だと思うよ?」
茜ちゃんは笑顔でそう答えた。
「へぇ…これで少ないんだ?」
「うん」
絵理沙は茜ちゃんとそんな会話をしながら駅の構内をキョロキョロと見渡している。
輝星花はそんな絵理沙を少し呆れた表情で見ていた。
「あのさ、絵理沙さんって…もしかしてあまり電車とか使った事がないの?」
茜ちゃんは物珍しそうに構内を見わたしていた絵理沙にそう質問をした。
「え?私?えっと…」
絵理沙は突然の質問に言葉に詰まらせた。
そしてちらりと輝星花の表情を伺った。
輝星花は絵理沙の目を見て小さく首を横に振る。絵理沙はそれを確認して小さく頷くと茜ちゃんの質問に答えた。
「えっと…茜ちゃんの推測通りだよ。私は電車ってあんまりは使った事がないの」
「本当にそうだったんだ。それってやっぱり外国で暮らしてたから?」
「あ、うん、そうなの」
「へぇー…そっか。だからそんなにキョロキョロしてるんだ。じゃあ絵理沙さんがいた国って電車がなかったの?」
「え?…えっと…そ、そうなの」
「そっか、ふーん…ごめんね、つまんない質問しちゃって」
「ううん、いいよ別に」
茜ちゃんは絵理沙は帰国子女だという認識だからだろう。絵理沙が電車を使った事が無いという事に関しては得に驚きは見せなかった。
しかし、俺はそんな事よりも絵理沙と輝星花とのアイコンタクトが気になった。
さっきのアイコンタクトは絵理沙は輝星花に茜ちゃんの質問に対してどう答えればいい?とでも聞いたのだろうか?まぁそうとしか考えれないのだが…
それに対して輝星花は「電車を使った事が無い」って答えるようにサインを送ったのだろうか?
絵理沙の答えがそういう感じだったのだからそうなんだろ。
しかし、相手の目を見るだけで本当にそれだけでお互いの考えが事が伝わるものなのか?
そうだととするとすごい事だ…流石双子の魔法使いと言った所だろうか。
しかし、そんなすごい奴らならもっと早く俺を元に戻せるんじゃないか?っと言っても無駄か。
例え戻れたとしても綾香がまだ見つかってないしな。
ちなみにだが、読者の皆様は知っているとは思うが、絵理沙と輝星花の二人は茜ちゃんが帰国子女だと理解しているように海外に住んでいたという設定だ。しかし実際は二人とも魔法世界の人間なんだ。ようするにこの二人は魔法使いなんだ。
ってなんで俺がこんな説明を…
うーん…魔法世界…か…
しかし、この世の中で魔法の存在を信じてる人間って何人くらいいるんだ?
そういう俺もこんな状況に追い込まれなかったら魔法を信じる事なんてなかった。
そう言えば魔法世界っていうのはどんな場所なんだ?考えてみれば俺はこいつ等が住んでる魔法世界の事を詳しく聞いた事が無いぞ…
「ねえねえ、絵理沙さん、もう一つ聞いてもいいかな?」
「え?何?」
「絵理沙さんと輝星花ってなんて国に住んでたの?私も知ってる国?」
お?なかなか面白い質問が茜から出たぞ?さて、絵理沙は何て答えるんだ?
「え?えっと…」
絵理沙は再び言葉に詰まった。そして輝星花の方をちらりと見た。
輝星花は先程と同じようにまた小さく頷いた。しかし今度は絵理沙をフォローするかのように茜ちゃんに向かって話を始める。
「茜さん、その質問なんですが…すみません…実は色々あって今は言えないんです。隠す訳じゃないのですが…」
輝星花がそう言うと茜ちゃんが慌てている。余計な事をきいちゃった!とでも思ったのだろうか。
「あ、いいです!いいです!ごめんなさい。また変な質問しちゃった」
「いえ、茜さんの質問は別におかしくないですよ。私達の事に興味を持って下さっているのですから。逆に私達が答えられない方が本来はおかしいのですから…本当にすみません茜さん。そしてご理解頂いてありがとうございます」
「ごめんね、茜ちゃん、本当に別に茜ちゃんは変な質問をした訳ではないんだよ?気にしないでね。また時期を見つけて…教えてあげるからね」
絵理沙も輝星花に続けて茜ちゃんに謝った。
「あ、うん、わかった」
結局、輝星花の奴がうまく逃げやがった…
と言うか、ああいうふうに言われてしまうと『それでも聞きたい!』って茜ちゃんも流石に言えないだろ…
しかし、まったくもってつまらない…
そうこうしているうちに俺達はエスカレーターを上りきった。
そしてエスカレーターから降りると再び茜ちゃんが先導をきり中央改札口へと向かう。
少し歩いた時、先頭を歩いていた茜ちゃんがいきなり立ち止まった。そして俺達の方を振り返る。どうしたんだろう?
「どうしたの?茜ちゃん?」
「え…えっとね…ちょっとお手洗い行ってもいいかな?」
何だ、何かと思えばトイレか…
もちろん俺達に茜ちゃんがトイレに行くのを拒む理由は無い。
「別にいいよ?行って来れば?待ってるから」
「ありがとう!すぐ行ってくるから!改札の横で待ってて」
そう言うと茜ちゃんは小走りでお手洗いに向かった。
☆★☆★☆★☆★☆
中央改札の前…
絵理沙は相変わらず物珍しそうに駅の構内を見渡している。
おいおい絵理沙…そんなにキョロキョロしてると「私は田舎者です!」ってアピールしてるようなもんだぞ…って言ってやりたくなったが、とりあえず放置しておく事にした。
「すごいね輝星花…人がいっぱい…」
絵理沙は構内を見渡しながらそう言った。
すると輝星花はすこし不満そうな顔になる。
「ちょっと絵理沙、あまりキョロキョロしないでくれる?」
輝星花は絵理沙があまりにも落ち着きが無いのが不満なのか。
「あ、ごめん…」
絵理沙は咄嗟に謝ったが輝星花は相変らず不満そうな表情をしている。
しかし、この程度の人ごみで「人がいっぱい」とか。
それともこいつの住んでいる世界ってそんなに人が居ないのか?何だかすごく気になってきたぞ。
………よし…気になれば聞けばいいじゃないか…聞いてやる。
「おい、絵理沙」
「え?な、何よ?」
「絵理沙の住んでる世界ってどんな所なんだよ」
「え?何?私の住んでる世界?えっと…わ、私達の世界は…えっと…」
絵理沙は俺からそんな質問が来るなんて思ってもいなかったのだろうか?オドオドしながら中途半端に答え始めた。
しかし、茜ちゃんの時もそうだが、今日の絵理沙は質問されると常に答えられていない。何かおかしい。
一応こいつだって先生をやってたんだし、今までこんな感じじゃなかった…と思う。
と思っていると輝星花が会話に割り込んできた。
「絵理沙、それは答えなくていいから…綾香さん。綾香さんは別に私達の世界の事を知らなくても何の弊害もないはずでしょ?」
輝星花は他人行儀な話方でそう言った。
何だその言い方は?絵理沙達の住んでいる世界の事は俺には秘密なのか?
確かに機密情報なのかもしれない。だけど俺はもう関係者なんだぞ?というより被害者なんだぞ!?
少しくらい教えてくれても罰はあたらないだろ。
「確かに弊害なんてない!だけどな、俺はお前達の事がもっと知りたいんだよ!少しくらいお前達の世界の事とか教えてくれてもいいだろ?」
「そうですね…しかし、その件については必要性が出たらお話します」
輝星花は真面目な顔でそう言った。ムカツク!
まるで野木一郎と話をしているみたいにムカツクぞ!ってこいつ野木一郎だった…
しかし俺的にはすごく納得いかない。俺にも知る権利はあるはずだ。
こいつら俺の事を何だとおもってやがるんだ。
「おい!!お前らは俺の事を何だと…」
俺が話を始めた瞬間、「綾香ちゃん!」と絵理沙が小声で叫んだ。そして俺の後ろを小さく指差す。
「思って…え?」
俺は慌てて振り返る…するとそこには茜ちゃんが立っているじゃないか!
茜ちゃんトイレ早い!ってそういう問題じゃないぞ!?もしかして…
「ねえ…綾香…」
何だ…茜ちゃんが疑心暗鬼な表情で俺を見ているぞ…
「あ。茜ちゃんおかえり。どうしたの?そんな顔しちゃって」
やば…俺とか言ってたの聞かれたか!?
「今さ…俺とか…言ってなかった?」
うわ!やっぱり!取り敢えず否定だ!否定!
「え?えっと…そんな事は、い、言ってないよ?」
油断してた…茜ちゃんがまさかこんなに早く戻ってくるなんて予想してなかった…
「ねえ…綾香?前も『俺』とか言ってた時あったよね?」
「そ、そうだっけ?」
「うん、夏休みに私を助けてくれた時と…体育祭のバレーの試合の時」
正解…よく覚えていらっしゃいますね…
「えっと…そうだったかな?」
「あの時は…綾香の感情が高ぶってたし、記憶喪失の後遺症かなにかで『俺』とか無意識に出たのかと思ってた。そうだと信じてた。だけど…今のは…」
「えっと…さっきのは…」
どう答える…誤魔化すしかないのだが…
「あの…何だか私が綾香さんと話していた内容と異なってるような…」
突然輝星花が苦笑しながらそう言ってきた。
茜ちゃんは「え?」という表情で輝星花を見た。
「あ…話に割り込んでしまってすみません。あの…それで綾香さん、さっき言っていた『俺のタルト』ってそんなにおいしいのですか?」
輝星花が俺に向かって笑顔でそう言ってきた。
「え?」
何それ…輝星花、何だよその『俺のタルト』って…
「おいしいって言ってたじゃないですか」
しかしここはおいしいと答えるべきだろう。
「あ、うん!そうなんだ、『俺のタルト』っておいしいんだよ!」
「綾香さん、私も一度食べてみたいです」
「あ、うん、今度みんなで食べようね」
輝星花の振りに乗ってはみたがかなり無理やりすぎる気がする…
こんな事で茜ちゃんを騙せるのか?疑いが晴れるのか?
「え?『俺のタルト』の話してたの?綾香ちゃんって『俺のタルト』好きなの?」
茜ちゃんは『俺のタルト』に反応した!
「え!?あ、うん」
「あれっておいしいよね!私も好きなんだ!」
あれ?茜ちゃん?既に信じてる?
「あ、そ、そうなんだ…」
「そっか…ごめんね…私すっごく勘違いしてたかも…えへへ。そうだよね、綾香がこんな場所で『俺』とか言うはずないよね…私ったら何考えてるんだろ」
茜ちゃんはそう言って苦笑した。
あれ?うまく誤魔化せたのか!?なんと言う事だ…って…これは輝星花のおかげか…
俺がちらりと輝星花を見ると視線が合った。そして輝星花は「うまくいったでしょ」という感じに笑みを浮かべている。
冷静だな…流石、魔法管理局の野木一郎ってとこか…
しかし…茜ちゃんって佳奈ちゃんと同じ位に素直な子だな…
いや待てよ?これは素直っていうのか?単純に騙されやすいって事じゃないのか?
「どうしたの綾香?そんなに私の顔を見ないでよ、私が『俺のタルト』が好きなんて意外だった?」
「え?あ、うん、意外だった…」
いや…本当はすぐに人を信じる茜ちゃんが心配で見てたんだけど…
ま…まぁいいか…俺の危機は脱した訳だし…
「私も綾香があれが好きなんて意外だったよ。綾香ってあまり甘いものが好きじゃなかったでしょ?」
え?そうなのか?そういえば綾香はあまり甘い物を食べてなかった様な気も…
「え、えっと…本当はあまり好きじゃないけど、あれはお母さんが買ってきてくれておいしかったから好きになったの」
「ふーん…そうなんだ?綾香が甘い物かぁ」
そう言って俺を見る茜ちゃんの表情が少し疑ってる様にも見える。
「ダ、ダメかな?」
「ううん、実は私もあまり甘い物は好きじゃないんだよねーでもあれは美味しいよね」
「うん…」
「じゃあ今度一緒に食べようよ!もちろん絵理沙さん、輝星花さんも一緒にね!」
「はい、絵理沙共々、是非今度ご一緒させて下さい」
ふう…良かった!?どうにかなった!?
しかし何だろう…どうにかなったはずなのに…とても痛い視線を感じるぞ…
俺は絵理沙と輝星花の方を見た。すると二人が俺を睨んでいる…
俺は咄嗟に視線を外した。
うわ…やばい…二人ともすっごく怒ってる…
もう一度二人の方を見る。まだ睨んでいる…
わ、わかったよ…注意するよ…まったく…そんなに睨むな…
俺が心の中でそう言うと、二人が睨むのをやめた。
あれ?何だ?心を読まれた?え?それはないよな…ま、まぁいいか…
「綾香、何をぼーとしてるの?行くよ?」
「あ、うん、いこっか」
しかし…茜ちゃんって本当に素直でいい子で助かった…
俺達は改札口から出た。
「よーし!まずは服を見に行こうよ!大丈夫、私が案内するから」
改札を出た瞬間に茜ちゃんがくるりと振り返りそう言った。
今日の茜ちゃんはやけに張り切っているな…
佳奈ちゃんがいないと茜ちゃんってこんなに活発でリーダーシップを発揮する子だったんだな。
「うん、行こう行こう!」
絵理沙もいつもとは違うテンションの高さでそう答えている。
しかし、絵理沙…そんなにハイテンションになるほど楽しいのか?
俺には多少無理をしている様にも見えるけど…気のせいか…
その横にいる輝星花は…相変わらずというか、たまに愛想笑いはするが、俺にすればまったく楽しそうな表情には見せない。
おいおい…そんな顔をしてたらそのうちお前まで茜ちゃんに心配されてしまうぞ?無理にでも楽しそうにしろよ…
俺がそんな事を考えていると茜ちゃんが輝星花の方を見た。
「あ…えっと…輝星花さんは何処か行きたい場所がありますか?」
ほら見ろ!お前がそんな顔をしてるから茜ちゃんが気を使ってるじゃないか。
「え?私ですか?私は別に…何処か行きたい場所って言われても…私は茜さんのお勧めのお店とかあればそこでいいですよ?あと…多少疲れやすい体質ですので休憩が出来る場所がある所がいいですね…」
「それじゃあ、えっと…私がお店とか決めちゃっていいんですか?私…輝星花にも楽しんで欲しいし…」
「あはは、大丈夫ですよ?私は皆さんと一緒にいるだけで楽しいのですから」
輝星花はそう言うと茜ちゃんにニコリと微笑みかけた。
「はい、わかりました!でも行きたい場所とか、入りたいお店とかあったら言って下さいね」
「はい」
茜ちゃんは輝星花との会話を終えると俺の方を見る。
「綾香は何処か行きたい所はあるの?」
「え?私?私は別に…茜ちゃんについて行くよ」
「OK!わかった!じゃあ私に任せて!」
茜ちゃんは意見を纏めおえると楽しそうに歩き出した。
絵理沙は茜ちゃんが歩き出すとすぐに小走りで茜ちゃんの横へ行き楽しそうに話を始める。
どうした事か…この数日でこの二人は急接近だ…
先日まで話しも殆どしていなかったのにすごく仲良しになっちゃったな…
そのせいか絵理沙は俺にはあまり話しかけてこなくなった。
何だ…このなんとも言えない複雑な気持ちは…
原因はわかってる…あの告白だ…
くそ…冗談でも告白とかすんなよな…もしも俺が本気で受け止めたらどうするつもりだったんだ。
まぁ…結果的に何もなかった訳だし…良かったのかもしれないけどな。
しかし、なんで冗談にしても告白されたのかが今だに意味不明だな。絵理沙の表情とかかなりリアルだったし…
こいつはかなりの演技派なのだろうか…
まぁあれは冗談だったとして…じゃあなんで最近俺とあまり話をしてくれなくなったんだ?
…………
っておい待て!結局また複雑な気持ちになってんじゃねーかよ!
ないない!忘れろ!あれは無かった事!そして今の状態でOKなんだよ!…ふう…
と思いつつも頭に浮かぶ絵理沙の告白シーン…
やば…俺ってダメすぎるかも…自分で掘り返してしまった…
まさか…俺はあいつを…絵理沙を意識してるのか?
あの告白が冗談ではなく本当であってほしかったのか?
おいおい…俺には茜ちゃんが居るじゃないか…そんな浮気心を抱くなよ…
……ああ…もうわかんねぇ…自分が何を求めているのか、考えているのか…
あー!やめやめ!よし!忘れるぞ!よし!忘れた!リセット!
俺は目を閉じて一度深呼吸をした。
俺がゆっくと目をあけると…
「うわぁ!」
俺の目の前に輝星花がいてびっくりした!
しかし相変わらず楽しそうな表情じゃないな。
まぁこいつはこういう笑顔ではない表情の方が似合ってるのだが。
「綾香さん、ちょっと驚きすぎですよ。それに何をしてるのですか?そんな場所で突然立ち止まって考え耽ったかと思ったら、目を閉じて深呼吸?ほら、二人とももう先に行っちゃいましたよ?」
輝星花は言いたい事だけ言うと俺を置いて歩き出した。
何故だろうか。前を歩いている輝星花の後ろ姿がなにか妙に寂しそうに見える。
俺は小走りで輝星花に駆け寄り追いついた。
輝星花と前を歩く絵理沙までの距離は十メートル位は離れているだろうか。
だいぶ置いて行かれたな…まぁ目視出来るから大丈夫だろ。
よし、このくらいの距離であれば輝星花に普通に話しかけても茜ちゃんには聞こえないだろ。
俺はそう思って何の躊躇いも無く、普通に輝星花に話かけた。
「おい輝星花」
俺がそう言うと輝星花はいきなり俺を睨んだ。
「綾香さん、その口調はもう止めた方が良いですよ?」
そして男口調を注意されてしまった…
「何だよ、お前だって電車の中であんなに普通に話していたじゃないか」
「ここは先程の電車の中とは違います。不特定多数の人間がこんなに居るんですよ?それに先程は貴方の油断で茜さんに疑われたんじゃないですか。私もちょっと油断してました。これからは冷静に対応します」
確かに…さっきは俺の油断で茜ちゃんにまた俺の男言葉を聞かれてしまい疑われたかもしれない。
「わかった…ごめん、注意する」
輝星花はすこし笑みを浮かべた。そして周囲を確認する。
「しかし、綾香さん」
輝星花はかなりトーンを落として俺の耳元で話しだした。
「え?何?」
「越谷茜さんだけど…綾香さんの事を…本当の綾香さんじゃないんじゃないかって完全に疑っていますね」
え?まさか?俺はずっと普通に茜ちゃんと普通に付き合っているし…あの時はそうだったけど、ずっと疑っているとかそんな事は無いだろ。
「まさか?さっきはたまたまでしょ?」
「……今は心を読めないので絶対とは言い切れません。しかし私の考えでは茜さんは表面上は疑っていないと思ういます。しかし心の奥では綾香さんの事を疑っています。先程も『俺』という言葉に過剰に反応してました」
「確かに…過敏に反応してたかも」
「注意してくださいね。何があるかわかりませんから…もしもばれたら大変です」
「あ、うん…」
輝星花の言う通り、茜ちゃんは俺の事を本当は綾香じゃないんじゃないのか?って疑っているのだろうか?
俺はあの夏の日、茜ちゃんが居たから真理子ちゃんからの疑いが晴れたんだぞ?
タイエ―で大二郎が絡んで来た日…俺がブチ切れてしまって…
俺の行動と言葉を聞いた真理子ちゃんが本当の綾香じゃないんじゃないかって疑った…
でもあの時に言ってくれたんだよな…『…だって見てよ!どうみても綾香だよ!もしかして真理子はこの綾香が偽者だって疑ってるの?ほら見てよ!綾香だよ!私達の友達の綾香だよ!』ってな…
それでそれからは皆が俺が綾香だって信じてくれるようになった。
あ…そうだ…その後に茜ちゃんが言った言葉…
『綾香ちゃん…私ね…さっきの綾香を見てて、綾香のお兄さんの姫宮先輩を思い出しちゃったよ…』
まさか…あの時から?
表の茜ちゃんは今の俺を本当の綾香だと一番信用してくれている。
しかし…裏の茜ちゃんは無意識に俺を『悟』じゃないのかって疑っているのか?
これは俺らしくないすばらしい推理だ。しかし喜べないよな…事実だとすると。
とりあえずは、ここまでがんばって生活してきたんだ。本当の事がばれないように注意しないとな…
「理解して貰えたのならいいのです。で、何ですか?私に何か言いたい事でも?」
輝星花は先程までとは打って変わり、すごく優しげな口調でそう言った。
こいつも絵理沙と同じ、かなりの演技派だな…
笑顔でこの口調の輝星花はマジで女っぽくて困る。
っぽいじゃないな、元から女だった。
「そうだ!言いたかったのは、あれです、あの…そんなに露骨に楽しくない!って顔はしない方がいいと思うよって事」
輝星花は首を傾げた。
「え?私がそんな表情をしていますか?そんな表情をしているつもりは無いのですけど。ほらこんなに笑顔ですし」
こいつ…その笑顔は寂しさが漂ってるんだよ…
人にはあれこれ言う割りには自分の事がわかってないのかよ…
「楽しそうには見えません」
「そうですか?そうですね…私の本当の気持ちが無意識にそういう表情になって現れてしまっているのでしょうね。それで…綾香さんは私にどうしろと言うのですか?」
「だから…もうすこし楽しそうにしたほうが…」
「なるほど…で、どうすれば楽しい表情が出来るのでしょうか?」
何か冷静に言い返される度に野木一郎っぽさが出てきてむかついてくる…
「知りません!輝星花さんが楽しい事でも想像すればいいじゃないか!」
「あらあら?そんなに感情的に言わなくてもいいでしょ?」
輝星花は微笑ながらそう言った。
「…」
くそー!ムカツク!電車の中では女っぽくてかわいいと思ったけど、違う!やっぱりこいつは野木一郎だ!俺がこんなに心配してやってるのに…こいつは!
え?あれ?輝星花?なんだその沈んだ表情は?
「でも…そうですよね…綾香さんの言う通りですね…笑顔でいれば楽しいって事ではないのですよね。本当に楽しそうにしなければダメですよね。こんな事をしているとまた茜さんに心配されてしまいます…人の意見を素直に聞けない私なんて、綾香さんに意見を言える立場じゃないですよね」
そう言うと輝星花は右手をおでこにあてて考え始めた。
何だ急に…なんかごちゃごちゃ言いまくっていたが…結論的には俺の意見を聞き取ったって事なのか?
まぁこいつは元々馬鹿じゃない。今の状況を冷静に判断して俺の言っている事が正しいと思ってくれたんだろう。
「中々の難題ですね…楽しい事ですか…」
難題って…こいつは何も楽しい事が思い浮かばないのか?無いのか?
「そんな難しく考え無くってもいいんじゃないのかな?楽しかった事とかの一つや二つは思い浮かぶでしょ?最近でもいいし過去でもいいんだよ?絵理沙との思い出とかないの?」
輝星花は俺の顔をちらりと見るとこんどは腕組みをして考え込んだ。表情は更に険しくなっている。
こいつにとって楽しい事を思い出すってそんなに難し事なのか?
楽しい事が思い出せないなんてどういう人生を歩んできてるんだよ…
…まぁ…前に聞いた話からすると結構ハードな人生を歩んできてるんだろうけど…
なんて俺が思っていると、緊張の糸か切れたかのように急に輝星花が柔らかく優しい表情になった。
そして輝星花は俺の瞳を覗き込む。
ドキ!
やばい、また輝星花にドキ!っとした。
でも何でそんな笑顔で俺を見る!?
「な、何だよ!じゃない……何ですか?私の顔に何かついてますか?」
やばい、俺…動揺してるかも。
「解ったのです。私にとっての楽しい事が」
「ああ、それはよかったですね」
ふう…そういう事か…まぁよかったんじゃないか?楽しい事が見つかって。
「綾香さん…私が楽しいと思っている事は…それはね」
輝星花は透き通るような紅い瞳でじっと俺を見つめている…
それに引き寄せられるように俺も輝星花を見つめていまう。
「それは貴方と一緒にいる事」
輝星花は満面の笑みを浮かべて本当に嬉しそうな声でそう言った。
「ぶふ!え!?待って!じょ、冗談だろ!?」
「冗談?冗談ではないですよ?私は貴方と一緒にいるのが本当に楽しいのですから…あと口調に注意して下さい」
「あ…ごめん…って待て!待ってよ、それって、私といると?あれ?えっと…」
俺は周囲を見渡して人が居ないのを確認すると声のトーンを落として言った。
「それって、私を弄るとか…いじめるとか…文句を言うとか…む、胸を触るとか…そういう事が楽しいって事じゃないの?」
「え?違いますよ。確かにそれも楽しいかもしれないですけど、こうして貴方と一緒にいて普通に話をする。これだけでも楽しいですよ?あまりに身近すぎて私も気がついていませんでした」
輝星花は俺を見ながら微笑んでいる。
「そ、そうですか。それは光栄です。あは…あはは…」
何だこれは…
「私は貴方の事、好きですから」
「げふ!」
何だそれはぁぁああぁぁ!
「あ!危ない!綾香さん!前!前!」
ドスン!!
脳内に鈍く響く重低音
そして激しい痛みと同時に目の前が真っ白に…
「ごふ…」
ドザリ…
俺は駅の構内の支柱に正面からおもいっきりぶつかって床に倒れた。
朦朧とする意識の中で輝星花が慌てて俺を抱えあげるのが見える。
「あ、綾香さん!?大丈夫ですか!?」
やばい…人が集まってきてる…だけど直ぐには起き上がれそうもない…
…何だろう…俺の左肩に何かやわらかな感触が…
朦朧とする意識の中でふと左肩を見ると輝星花の胸がおもいっきりあたっているじゃないか!
「き、輝星花、だ、大丈夫だだだから」
俺は朦朧とする意識の中で、それでもふらふらしながらも慌てて立ち上がった。
「あ、綾香さん?本当に大丈夫ですか?ふらふらしてますけど…」
かなり目眩がする…真正面からぶつかってしまったからか…
「やっぱり…だ、大丈夫…じゃないかも…」
おでこが痛い…かなり痛い…
「それにしても何で直線で支柱に向かって突っ込んだのですか?避ければいいのに」
「いや…それは…」
「注意した方がいいですよ?あれは流石に痛かったでしょ?おでこが真っ赤ですよ…」
「かなり痛かったです…」
お前のせだろ…あんなに唐突に好きとか言いやがって…
こいつは何も考えないで『好き』なんて言ったと思うが、俺は本当は男なんだぞ?外見こそ女だが中身は男なんだぞ!
男に対してあんな見つめて好きとか…下手をすると告白に捉えかねないじゃないか!
って…まさか…告白なのか?いや、待て…こいつが俺に告白する理由がない…
いやしかしもしかして…いや、無い!それは無い!でも俺に実は…いや無い無い!
あー!くそ!また変な考えてしまった!うわーーー!俺の馬鹿!
「綾香さん?何を頭を抱えて顔を真っ赤にしているのですか?………あ!」
『あ!』と言った瞬間に輝星花の顔がみるみる赤くなってゆく。
「あ、綾香さん!何を考えているんですか!別に変な意味で『好き』とか言った訳じゃないですからね!勝手に勘違いしないで下さい!」
今更、気がついたのかよ…『好き』という言葉の重要度に…
しかし、この反応を見ると告白ではなかったという事は理解できた。ふう…
「大丈夫…勘違いはしてないから…」
しそうになってたかもしれないけどな。
「と、当然ですよね…私は貴方を客観的に見て私自身がどう思っているかを分析して、一つの言葉として貴方に対して『好き』と発しただけですから。あれですよ?『好き』の意味合いとしては『心がひかれること』『気に入ること』等がありますが、私の場合は後者であり、えっと…だから…」
「もういいです…説明もくどいし長い…」
「誤解をしないようによく説明をしておかないと…」
「いい、不要です」
輝星花は野木の時もそうだが、普段は冷静でそういう時の言動はムカツク。
しかし今日わかった事がある。こいつは動揺すると少し心慌意乱な状況になる。
あと、話がくどい…
あれ?そういえば茜ちゃんと絵理沙の姿が見えないな。
俺がキョロキョロと構内を見渡していると目の前でいきなり輝星花が笑い始めた。
「はは…あはは!」
「な、何?」
「え?あはははは…なんだかわからないのだけど、無性におかしくなって…あははは!」
そんなに大きな声で笑うなよ…周囲の人が注目してるじゃないか…
俺は慌てて輝星花の両肩を持ちながら言った。
「おい!恥ずかしいから笑うのストップして!」
輝星花は俺の言葉は聞こえているらしく笑いながらも数回頷くとがんばって声を殺す。
しかし笑いは止まらずに俺の目の前で右手で口を押さえながら小さく肩を振るわせて笑っている。
くそ…こいつ…本気で笑ってやがるし…何が面白かったんだよ…
って、あれ?俺はこいつがこんな楽しそうに笑う姿って始めて見るような気がするな…
こいつ…もしかしてマジで俺と居ると楽しいのか?
「綾香ぁ!どうしたのよ?遅いから来てみたら輝星花さんが笑ってるし、綾香も顔が真っ赤だし」
ふと気がつくと先程まで行方不明だった絵理沙と茜ちゃんが真横にいるじゃないか!?
っていうか!まだ顔が赤いのかよ!?くそー!この赤面症め!
「えっと…な、何もないよ」
「えー?輝星花さんがそんなに笑ってるのに何も無いとか?そんな事は無いでしょ?何か面白い事でもあったの?」
「いや、無いよ?何もないよ?」
「綾香…嘘ついてるでしょ…顔に嘘って書いてあるよ?」
「え?」
俺は慌てて自分の顔を触った。
「馬鹿じゃなの?書いてあるはずないじゃないのよ…」
絵理沙が小声でぼそりと呟いた。
「綾香…何をそんなに動揺してるのよ?何かあったんでしょ?何かしでかした?」
「えっと…」
「ふう…ごめんなさい、やっと落ち着きました」
輝星花はそう言って数回深呼吸をした。やっと落ち着いた様子だ。
「で、結局何があったのよ!教えてよ綾香」
茜ちゃん、それ以上聞かないでくれ!答えられないんだよ!
「え。いや別に大した事じゃないよ。ね、輝星花さん」
「え?私の目の前で綾香さんがそこの支柱に向かって直進で突っ込んで激しくぶつかって倒れた。という事意外は別に何もありませんでした」
茜ちゃんは輝星花の話を聞くと俺の横にきて体を見まわした。
「だからこんなに埃がついてるのか…あとおでこが赤いし…綾香…まったく、何をしてるのよ…」
茜ちゃんがそう言いながら俺のワンピースについた汚れを叩いてくれている。
「え…ちょっとぼーと…」
「ぼーとじゃないよ…でも大丈夫そうだし、輝星花さんが笑ってた理由もわかったからいいや」
違う…それが笑いの原因じゃない…が…まあいいか…
「茜さん、すみませんでした。もう落ち着きましたから、行きましょうか」
「うん、いこっか。綾香、今度はぼーとしないようにね」
「あ、うん」
俺が輝星花と茜ちゃんと会話をしている時、誰かの視線を感じた。
俺は咄嗟に絵理沙の方を見る。すると絵理沙と一瞬目が合った…
絵理沙は唇を噛んで俺を睨んでいた…
な、何だその表情は…俺がそう思った瞬間に絵理沙は視線を外した。
そして輝星花の横へと歩いてゆく。
「輝星花、楽しそうね!一緒に来てよかったでしょ?」
絵理沙が輝星花に向かってそう言った。
すると絵理沙の顔を見た輝星花から一瞬笑顔が消えた…
「あ…うん…一緒に来てよかった…」
「そっか!輝星花お姉ちゃんが喜んでくれて私とても嬉しいよ。さあ、茜ちゃん、行こうか!」
絵理沙そう言うとはくるりと反転して一人で歩き始めた。
「あ、待って!絵理沙さん!」
茜ちゃんは慌てて絵理沙の後を追って行った。そして再び楽しそうに会話を始める。
俺は輝星花を見た。すると先程まであんなに笑っていた輝星花から、完全に笑顔が消えていた。そして絵理沙の方をじっと見ている。
「ねえ…輝星花さん」
俺の声に反応した輝星花が俺の方を見る。
「何ですか?」
「絵理沙さん…どうしたのかな?あの態度…」
「………」
輝星花は俺をじっと見て無言のまま答えようとはしない。
「何ですか?何かあるんですか?知ってるなら答えて貰えませんか?」
俺は輝星花に強めの口調でそう言った。すると輝星花は小さな声で何か口ずさんだ。
「………好意を持った異性が他の異性と楽しそうにしれいれば…ああいう態度になっていまうのかもしれない…」
しかし、タイミングが悪くすれ違った男子高校生の声が大きすぎて俺は輝星花の声が聞き取れなかった。
「え?よく聞こえなかったからもう一度言って貰えませんか?」
輝星花は俺の顔を見る。そして前を歩く絵理沙へ視線を移す。
「私は絵理沙じゃないからわかりませんって言ったんです」
輝星花はそう言うと、絵理沙を見ながら唇を噛んでいた。
違う…さっき言った事はそんな言葉じゃなかった。何を言ったんだよ…
「さっき言った事と違うでしょ?」
「綾香さん、早く二人の所へ行きましょう。また置いて行かれますよ」
輝星花は俺の言葉を無視して二人を追っかけて行った。
くそ…何だよ!意味わかんねーし!
続く