番外編Ⅱ 僕の苦悩と絵理沙の笑顔
この話は野木輝星花が主役です。主に絵理沙とのやり取りがメインで15話と16話との中間の話になります。注意として…この話を読んでから16話を読むのもありですが、私としては16話を読んでからこの話を読む方が面白いのではないかなと思います。但し、そこは読者の皆様の自由です。後、この話を読まなくても続きを読むにあたり何の弊害もありません。ですので読まない!という選択もあります。※普通にUPしている小説よりも短めです。
それは僕がそろそろ寝ようかと思ってベットメイクをしている時だった。
「相談があるの…」
絵理沙は突然部屋に入って来たかと思うと僕に向かってそう言った。
何だろうか?絵理沙が僕の部屋に入って来るなんて珍しい。それも相談があるなんて…
その時に僕の頭を少しの不安がよぎった…
「どうしたんだい?」
「あのね…今度の土曜日に悟君とクラスメイトの越谷さんと私と三人でお出かけしてもいいかな?」
「お出かけ?それはどういう事だい?」
「だから…三人で買い物に行くって事」
「買い物…それで何処まで買い物に行くのかな?」
「ええと…大宮かな?」
「大宮?………大宮!?」
大宮と言えば僕らの住んでいる…確か埼玉という県の県庁所在地じゃないか?
という事はこの街から出ると言う事なのか!?僕は慌てた。
僕たち魔法世界の人間は魔法結界で包まれた街、要するには今住んでいるこの街に居る事により魔力を消費せずに済んでいる。
ちなみにだが魔法結界は強大な魔力を持った魔法使いの存在が必要であり、現にこの街にも一人存在している。その魔法使いの魔力により結界は維持されているのだ。
しかしこの前、僕は悟君と北海道に行く為に自らその結界から出てしまった。
今ままでに僕は何度か人間界に来ているが、結界からは一度も外には出た事がなかった。
だから僕は結界の外に出るとあそこまで魔力を消費し、そしてこれ程まで回復しないとは思っていなかったのだ…
正直に言うと僕の考えが甘かった…北海道から戻る時には少量の魔力しか消費しない変身すらも解けてしまい、生まれて初めて魔力の限界を感じ、そして最後に魔力が尽きた。
そして僕は未だに魔力が殆ど回復していない…
しかし絵理沙がもし結界の外に出たとしても生命に関わるような事はない。
現在の絵理沙は魔法を封印されている状態である為に魔力も消費しない。
問題は僕の方にある…結界内であれば今の殆ど魔力の無い僕でも絵理沙を微少の魔力で監視する事が可能だが、絵理沙がもしもこの結界から外に出てしまった場合はかなりの魔力を消費しなければ僕は絵理沙を監視する事が出来なくなる。
今の僕ではとてもじゃないがそれは無理だ…そうなると僕はかなり困る。
絵理沙の監視を怠ってしまうと魔法管理局の人間として失格だからだ。
「何を言ってるんだ!?絵理沙は知っているだろ?僕たちはこの街から、いや、この魔法結界から外には出ては駄目なんだよ?」
絵理沙は怪訝そうな顔をして言った。
「でも…それは魔法を使う場合でしょ?私がこの世界に来る時に聞いたのは結界外での魔力消費の多さ、そして回復機能が働かないって事。別に外に出ても死ぬ事なんてないでしょ?私は魔法結界の外に出ては駄目とは聞いてないよ?」
「確かに生命に危険が及ぶ訳ではないし、結界外に出ては駄目というルールがある訳でもない…」
「じゃあ問題ないでしょ?」
絵理沙は何も解ってないな…
「絵理沙、僕がこの世界に来た一つの理由が絵理沙の監視だと言う事をわかっているのかい?」
絵理沙は小さく頷いた。
「解っているのなら…今の僕の状況を見れば僕が今どういう状態なのか解ってるだろ?」
「解ってるわよ…でも…」
「でもじゃない!僕が絵理沙の監視が出来ないような場所に行かないでくれ」
僕がそう言うと絵理沙は肩を振るわせて僕を睨んだ。
「な、何だい?僕は間違った事は言ってないぞ!」
「輝星花って勝手だよね!何よ!輝星花が勝手に悟君と一緒に北海道に行って魔力が尽きたんでしょ!だから私を遠隔監視が出来なくなったんじゃないのよ!」
絵理沙はすごい剣幕で僕を怒鳴った。しかし絵理沙の言う事は決して間違ってはいない。
「し、しかし…」
「何がしかしよ!輝星花のせいで私が越谷さんや悟君とお買い物に行けないなんて…納得出来ない!私はお買い物に行くからね!」
駄目だ…これは完全に僕が不利な状況だぞ…どうする…
「僕が勝手な行動をした事は謝る。だけど僕は絵理沙を監視しないと駄目な…」
僕が話している途中に絵理沙は平気で割り込んで怒鳴った。
「何が監視よ!そんなに監視がしたいのなら私について来ればいいじゃないのよ!」
「え…僕が?絵理沙について行くのかい?」
「そうよ!私について来てよ!輝星花だって好きな事をしたんだから私だって好きな事をしてもいいでしょ!」
ふう…こうなってしまった絵理沙はもう止められないか…
しかし、ここで素直に認めてしまうと僕の立場が…よし…
「そ…そうだな…絵理沙の言いたい事は解ったよ。すこし考えさせてくれ」
僕がそう言うと絵理沙は全身をぷるぷると震わせながら僕の目の前にまで迫って来た。
そして絵理沙は僕の顎を右手の人差し指でグイと持ち上げると僕を思いきり睨んだ。
「考える余地なんてないよね?輝星花お姉ちゃん…」
いつもであればここういう状況からでも口で言い負かす事も出来たのだが…
今日は僕が圧倒的不利だ…色々な面で絵理沙に文句を言えない状態になっている。
「どうなの?お姉ちゃん?」
く…今回は僕の負け…か…
「解った…」
結局僕にはその言葉しか選択肢がなかった。
絵理沙は僕のその言葉に反応して不気味な笑みを浮かべる。
怖い…僕はたまに絵理沙に恐怖を感じる事がある…
希にだが絵理沙の奥底にある見えない力…僕には無い凄まじい魔力を感じるのだ。
絵理沙は今は魔法を使えない。なのにも関わらず学校の屋上から飛び降りても大丈夫だったり、無意識に筋力を操作してすごいスピードで移動したりしている…これも絵理沙の潜在能力の一種なのだ…
絵理沙がもしもその潜在能力に目覚めた時、僕は絵理沙に全ての面において敵わなくなるだろう…
「やった!OKなんだよね?土曜日が楽しみだなー」
絵理沙は先程までの激怒が嘘のようにはしゃいでいる。
「しかし…こんな事を聞くのも何なんだが…悟君も一緒なんだろ?絵理沙は…大丈夫なのかい?」
余計な事なのかもしれないが、僕はストレートに質問をした。
さきほどまではしゃいでいた絵理沙がぴたりと止まった。そして僕の方を真顔で見る。
「大丈夫よ…私は…悟君を見守るって決めたから」
その表情は硬く決意した表情だった…
「そうか…それならいいんだ…」
「うん…本当に大丈夫だから…それじゃおやすみ」
絵理沙はそう言って部屋を出て行った。
でも今の顔…まだ悟君の事が好きなんだな…絵理沙…
☆★☆★☆★☆★☆
朝起きてみると絵理沙はもう学校へ行っていた。
いつもよりも一時間も早い…何があるんだ…
僕は絵理沙を遠隔監視しているが、それは絵理沙の行動についてだけだ。
どの場所に絵理沙が居るのか程度なら解るが、それ以上の事は解らない。
何の為に早く学校に行ったのか少し考えてはみたが、すぐ無意味だと判断した。
僕は魔力が戻らない。だから野木一郎になれないし学校にも行けない。
仕方ないので僕は変身薬の錠剤化の研究の続きをする事にした。
そして夕方…
バタン!と玄関の開く音が聞こえた。それと同時に絵理沙の声がした。
「だたいまー」
絵理沙は昨日の不機嫌さが嘘のように楽しそうだ。
「輝星花!越谷さんに言っておいたからね!お姉ちゃんも一緒に行くって。そうしたらOKだって」
絵理沙は笑顔で僕に向かってそう言った。
僕はその言葉に動揺して手に持っていた金属製の計量スプーンを思わず床に落とした。
「え?待ってくれ!僕は絵理沙にこっそりついて行くんじゃないのかい?」
「何を言ってるのよ?私と一緒に行くんだよ?」
僕は絵理沙達を遠目に監視しようかと思っていた。しかし絵理沙は僕を買い物に行くメンバーとして一緒に行くと考えていたのだ。
「えぇぇえぇぇ!待ってくれ!僕は…まさかこの姿で一緒に行くのかい?」
「そうよ?それしかないでしょ?」
僕の額を嫌な汗が流れる…
「僕は…それは…ま、まずいだろう」
「大丈夫よ、輝星花が野木一郎だってばれるはずないでしょ?だって悟君も一緒なんだよ?悟君がばらすなんて考えられないし」
「確かに悟君は僕の正体を話さないだろうし、僕が野木一郎だとはそう簡単にはばれないと思うけど…だが…」
絵理沙は呆れた表情で僕を見た。
「輝星花ってこういう事は慎重だよね…慎重っていうよりは考えすぎよね」
そういう絵理沙はその慎重さに欠けていて、何も考えていないから色々な問題を起こすんだよ…
しかし…どうしたものかな…魔力が回復すれば出来れば変身してついて行きたいと思ったんだけど…まったくその気配はないし…おまけに絵理沙達と一緒…
「ほら!そんなに考え込まないの!大丈夫よ」
絵理沙はなんて楽観的なんだ…僕は頭が痛い…
「ふう…それで?僕は絵理沙の制服でも着て行けばいいのかい?」
「え?何を言ってるのよ!制服じゃ駄目だよ!輝星花は女の子なんだからちゃんと女らしい服を着なさい!」
「え!?僕が女の子の格好!?そんな事を言われても僕は女性らしい服なんて持ってない!だから無理だ!」
「無理じゃない!もう!解ったよ!私が用意するから!それを着てよね!」
絵理沙はそう言うと鞄をソファーに投げて制服のままマンションから出て行った。
何だあれは…しかし…僕が女の格好だと?生まれてこの方女らしい格好なんて…三歳位まではしてたかもしれないが…それからはずっと男として育ったから…今更女の格好なんて…
女…女…嫌だ…どうするかな…絵理沙に今から行かないなんて………言えないな…
どちらにせよ監視しないといけないんだし…
絵理沙は何処まで行ったんだ…
僕は僅かに蓄積した魔力を消費して絵理沙の位置を確認した。
………隣駅まで行ってるじゃないか…まったく…そこまでしなくても…
きっと絵理沙は僕に着せる服を買いに行ってるのだろう。
しかし、僕はどんな格好をさせられるんだ?考えるだけでも恐ろしい…
僕はそんな事ばかりを考えてしまい、研究に身が入らないまま夕方になった。
バタン!と玄関の開く音がした。絵理沙が帰って来たらしいな…
僕がリビングに入って来た絵理沙を見ると右手に紙袋を下げている…
「輝星花お姉ちゃんただいま!」
絵理沙は嬉しそうに僕にそう言った。
お姉ちゃん…か…
絵理沙が僕をお姉ちゃんと呼ぶ時は、絵理沙がかなりご機嫌な時かかなり激怒している時かどちらかだ。
今日はどうやら前者らしい…
「おかえり…で…その紙袋はなんだい?」
僕が絵理沙の紙袋を指差すと絵理沙はニヤリと微笑んだ。
「これは輝星花の明日のお出かけ用の服だよ」
やっぱり…本当に買って来たのか…
「ど、どんな服なんだい?」
僕が紙袋に手を伸ばすと絵理沙はひょいと紙袋を頭の上に上げた。
「駄目!みちゃだめ!明日になったら見せてあげるから」
「おいおい…僕はそれを見る権利があるだろ?僕が着るんだろ?」
「駄目って言ったら駄目なの!じゃあ私は部屋に行くから」
「あ!ちょ、ちょっと待って!」
絵理沙は僕の制止を聞かずに自分の部屋へ入ってしまった。
何だか…すごく楽しそうだったな…僕にどんな格好をさせようと思っているんだ?
その後、絵理沙は部屋から出て来ると楽しそうに夕食を食べ、鼻歌を歌いながらお風呂に入った。
僕の不安をよそに絵理沙は寝るまでご機嫌だった…
☆★☆★☆★☆★☆
そして朝…
僕は絵理沙の用意した今まで着た事のない女の子らしい服を着た…というか着させられた。
たぶん僕の着たこの服はワンピースとかいうものだろ…僕はファッションに興味が無いのでなんとなくでしかわからない…
まあそんな事なんて何でもいい…そして僕は絵理沙に言われるがままに椅子に座った。
すると事もあろうか絵理沙は僕に化粧をし始めた。僕は慌てて止めさせようとしたが、「今日は女の子でお出かけなんだから化粧くらいしなさい!」と一喝されてしまった…
そして僕の全ての準備が完了…
絵理沙はご機嫌な表情で僕の目の前に姿見を持って来た。
「ねえねえ早く鏡見て!きっと驚くよ!それにしても…輝星花って思った以上に可愛いんだね?びっくりしちゃった!」
絵理沙は楽しそうにそう言った。
何が可愛いんだ…僕はそういうキャラじゃないんだ…
そう思いながら僕は姿見を覗き込む…するとそのに映っていたのは…
「え!?こ、これが僕なのか?」
僕は自分の目を疑った。というのも鏡に映っていたのはとても僕とは思えないほどに可愛らしい女の子だったのだ…
「驚いたでしょ?やっぱり私達って双子ね!私も結構イケてるかなーって思ったけど輝星花もかなり良い感じだね。ずっと女の子でいたほうがいいんじゃないの?」
絵理沙は楽しそうに言った。
僕は…正直どうしてこうなったのかを教えて欲しかった…僕はこの世界へ来る時、まさかこんな格好をする、いや、させられるなんて想像すらしてなかった。
「あれ?輝星花何で顔が赤くなってるの?」
「え?」
僕は鏡の中の自分を見た。すると顔を赤らめている女の子が…
何という事だ…僕は今この格好を恥ずかしいと思い赤面しているではないか!
「ふふーん…輝星花もやっぱり女の子なんだねー可愛くなって恥ずかしいんだ?」
絵理沙は楽しそうにそう言う。
「…」
何か言い返してやりたかったが何も言葉が浮かんで来ない…
「よし!あとは…輝星花!その口調はやめてよね?皆と一緒の時はちゃんと女の子っぽく話すんだよ?」
「え?待ってくれ!何で僕が女っぽく話さないといけないんだ!」
「何でって?今日の輝星花は私のお姉ちゃんとして私達と一緒にお出かけするんだよ?女の子が女らしく話さないでどうするのよ」
「だ…だけど僕は…」
「ほら!僕は禁止!私って言いなさい!」
危険だ…昨日から圧倒的に絵理沙に押されている…僕ともあろう者が…
「僕は…」
「だから僕って言わないのって言ってるでしょ?」
駄目だ…仕方ない…やりたくないが…
「私は…えっと…こんな感じですか?」
「うん!良い感じ!あとはすこしトーンが低いからもうちょっとあげてみて」
「絵理沙、こんな感じですか?」
「いい!いいよ!もう完璧に女の子!」
何が完璧なんだ…僕は元々一応女だ…ただこんな格好をした事がないだけじゃないか…
ふう…ああ…情けない…
僕はふと時計を見た。するともう八時を廻っている。
「絵理沙?もう八時だぞ?」
「あ!もうこんな時間!私も準備しなきゃ!」
絵理沙はドタバタと自分の準備を始めた。
ふう…もうここまで来てしまったからには引き返せないが…
しかし…本当にどうしてこうなってしまったんだ…
絵理沙の準備が終わった。
そして僕たちは玄関から外に出た。
「さあ、行こうか…気は進まないが…」
「何を言ってるのよ?ちゃんとしてよね?悟君達と一緒になったら口調もさっきの様にしてね?」
「ああ…解ってるよ」
僕たちはエレベーターに乗り込んだ。
そして一階へと下るエレベーターの中で絵理沙が聞こえるか聞こえないかくらいの小声で言った。
「輝星花、今日は本当にお姉ちゃんだね…なんか…嬉しいな」
「え?」
「何でもないよ!今日は女らしくだよ?宜しくね」
今…聞きづらかったが、僕が本当にお姉ちゃんだから嬉しいとか言った気が…
それって…もしかして…絵理沙は僕と…姉としての僕と一緒に外出とかしてみたかったのか?
そう言えばこの姿で絵理沙と一緒に何処かに行った記憶なんてないな…
………今日のこの買い物…もしかして絵理沙は僕と一緒に買い物に行ける様に仕組んだのか?
まさか…ありえないな…そんな事は…大体意味がない。
エレベーターは一階に到着した。そして扉が開く。
絵理沙はエレベータの扉が開くと同時に飛び出した。
「輝星花早く!もう時間ぎりぎりなんだよ!」
おいおい…それは絵理沙が僕にばっかりかまっていて自分の準備の時間を考えて無かったからだろ?まったく…
「早く!」
「解ったから…ちゃんと時間は計算してある。僕の計算だと今から出ればまだ十分に間に合う」
「え?そうなの?でもきっと二人とも待ってと思うから、早く行こう!」
本当に嬉しそうだな…絵理沙…
「解ったよ…すこし急ごうか…」
僕たちは待ち合わせの駅へと向かった。
……しかし…僕のこんな姿を悟君に見られるなんて嫌だな…やっぱり気が重い…
一六話に続く
いかがだったでしょうか?こういう合間小説の構想は1話から数話分はあるのですが実際は執筆しておらず公開までいってません。※それを読めば絵理沙が悟に好意を抱いた切欠もわかるかもしれません。ご希望があれば時期を見て執筆しUPも考えようかと思います。それでは引き続き『ぷれしす』を宜しくお願いします。