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第11話 秋だ!手紙大作戦!?

 九月最大のイベントである体育対抗祭が終わった。

 早いもので俺が綾香になってから二ヶ月が経過した。

 最初はどうなる事やらと心配したが、最近はクラスメイトの名前も覚えたし、友達も増えたし、なんとなく学園生活を楽しめてる気がする。

 しかし、最近気が付いた難題がある、俺は姿形は女なのだが中身は完全なる男だ。

 だから女子生徒とまったく話題が合わない。合わないというよりは話の内容ほぼ解らないと言った方が正しいかもしれない。それもあり俺は率先して話さない。

 しかし!俺には佳奈ちゃんという全自動おしゃべり装置が存在するのですごく助かっている!


 おっと、そんな事を考えていると時間がどんどんと経過してゆく。

 綾香の姿でで遅刻はしないようにしないとな…急いで着替えよう…


 今日から十月だ。十月一日からは衣替えで今日から紺のブレザーを羽織る事になる。

 俺は早速クローゼットから紺色のブレザーを取り出して羽織ってみた。

 リボンとブレザーを整えて姿見の前に立つ。

 姿見に映る俺の姿というか、見た目は綾香…綾香はやっぱりかわいい…

 本当ならば鏡越しでこの姿を見るのではなく、綾香がこの制服を着ている姿を悟として見たかった…

 まぁ、綾香は生きてるんだし…戻って来れば見れるじゃないか…

 俺は自分にそう言い聞かせると学校に向かった。


 秋晴れで雲一つ………あるけど、まあいい…取り合えず良い天気だ。

 俺は自転車を漕いで、特に何事もなく学校の駐輪場へ到着した。

 自転車を指定の場所に置くと下駄箱へと歩いて行く。

 何だか周囲の感じがいつもとは違う感じがする…生徒がみんなブレザーを着ているからかな…

 サマーベストをみんなが着ていた時は白色だったせいもあって夏のイメージが強かったが、やはり紺色のブレザーになると秋になったんだなと感じる。

 俺はゆっくりと外通路を歩きながら周囲を見ていた。すると下駄箱の入口で茜ちゃんの姿を見つけた。

 おや?いつももっと早い時間に登校してるはずなのにな…


「茜ちゃーん!おはよう!」


 俺は少し大きめの声で茜ちゃんに挨拶をしてみた。

 すると茜ちゃんはすぐに俺に気が付いて手を振りながら挨拶を返してくれた。


「あ!綾香、おはよう!」


 おお、ブレザー姿の茜ちゃんもかわいい…とても似合ってるなぁ…

 早く悟に戻って茜ちゃんと一緒に登校とか…あ…家の方向違うから無理か…

 でも帰りに一緒に何処かに…あ…茜ちゃんは部活に入ってるからな…

 って…俺は何を妄想してるんだ…こんな朝から…

 それにしても今日は登校が遅いけど何かあったのかな?


「茜ちゃん、今日は遅いね?どうしたの?」


「あ、うん…実はブレザーをどこに仕舞ったのか忘れちゃってて…」


 茜ちゃんはすこし恥ずかしそうに言った。かわゆい…


「そうだったんだ…私のイメージだと茜ちゃんってしっかりしてて几帳面そうだから、それって意外」


「え?わ、私は別に几帳面じゃないし、しっかりもしてないよ?」


 俺のイメージだと几帳面そうに見えるんだけど…制服だってきちんと着こなしているし。

 本当に几帳面じゃない人は制服の着方もだらしがないからな。


「そうかな?いつもちゃんとしてるし、私よりも几帳面だと思うけど」


「でも、綾香の方が几帳面だと思うよ?すっごく部屋とか綺麗にしてるし、私なんて…」


「え?そうかな?」


 あの部屋は本物の綾香が綺麗にしてただけなんだよな…

 汚くすると戻ってきた時に怒られそうだし、あの状態を維持してるだけだ。


「うん!そう思うよ」


「そんな事ないよ?じゃあ…今度茜ちゃんの家に遊びに行こうかな」


 ってドサクサに紛れて俺は何を言ってるんだろう…いやしかし、家の場所すら知らないし、そうだ!それを確認すると思えば…


「えー!駄目!絶対駄目!来ちゃだめ!」


 茜ちゃんは首と右手を左右に振りながらおもいっきり拒んだ。

 え…そんな俺にに来て欲しくないのか?俺が嫌いなのか?

 いやそれはないよなぁ…今の俺は綾香な訳だし…

 じゃあ純粋に来て欲しくないのか?という事は本当に部屋が散らかってるのか?

 でもまあここまで拒むんだし…少し残念だけど諦めよう…


「え…うん、わかった…」


「あの…綾香にそんな残念そうな顔をされちゃうと…そ、そのうち呼ぶから!ね?」


 茜ちゃんがすごく申し訳なさそうに俺に言った。

 あれ…俺ってそんなに残念そうな顔をしてたか!?

 もしかして俺って綾香になってから感情が表情に出やすくなってるかもな…すぐ赤面するし…

 まあそのお陰でそのうちだけど茜ちゃんの家に呼んでくれる事になったんだし、その日を楽しみに待っておこう!


「ごめんね、そんな顔したつもりなんだけど…楽しみに待ってるね!遊びに行けるの!」


「うん!ごめんね…」


 俺達はそんな話をしながら下駄箱まで歩いた。そして俺はいつものように下駄箱を開けた。その瞬間にバサバサという激しい音とともに何通もの手紙が下駄箱から床に落ちる。


「え!?な、何だこれ!」


 俺は何が起こったのかよく理解が出来ていない。わかっているのは俺の下駄箱に大量の手紙が入っていたという事だ…そしてそれは今床に散乱している。


「あ、綾香…何その手紙!?すごいね量ね…」


 茜ちゃんは目を点にして落ちた大量の手紙を見ている。


「おお!綾香すっごーい!今月はすごい量のラブレターだねー」


 後ろから佳奈ちゃんの声がしたかと思うと、いきなり後ろから抱きつかれた。

 背中にふにゃりとした感覚が…って!ちょっとまって!背中に胸があたってるって!


「か、佳奈ちゃん!離れて!離れて!」


「え?なんでー?」


 胸の感触がががが…佳奈ちゃん…動かなくていいです…


「お願い、そんなに胸…じゃない…体を押しつけないで…」


「えー?何でー?綾香の顔が赤いよ?もしかして重い?私が重いの!?そうなの!?」


 また赤面してるのか…しかしそれは佳奈ちゃんが重いからじゃない!

 佳奈ちゃん相手ってやっぱり疲れるな…

 あ!俺が佳奈ちゃんの相手をしている間に茜ちゃんが慌てて床に落ちた手紙をかき集めくれている。

 俺が落としたのに茜ちゃんに拾わせる訳には…それに気が付くと周囲の生徒が俺達を取り囲むようにして見ているぞ。これは確実に注目の的になってる!?やばい…本当に早く拾わなきゃ!

 っていうか佳奈ちゃん、本当に邪魔だ!


「お願い!佳奈ちゃん!離して、私も早く拾わないと!」


 俺は体を左右にくねらせて強引に佳奈ちゃんから離れた。


「あ!綾香が逃げた!」


 よし!うまく抜けられたぞ…


「ご、ごめんね、茜ちゃん」


「はい、もう拾い集め終わったよ」


 遅かった…結局茜ちゃんに全部拾ってもらってしまった。

 笑顔で俺に手紙の束を渡してくれる茜ちゃん…俺は茜ちゃんから手紙を受け取ると周囲の視線も気になってしまい無造作に鞄の中に詰め込んだ。

 それを見ていた佳奈ちゃんは腕組みをしながら俺に向かって言った。


「やっぱりあれよね!二学期から綾香って良い意味で変わったしさ!最近目立ってるし!男子の注目も集めてるし!体育対抗祭の時の活躍とかさ、そのちっこくてかわいらしい見た目とのギャップがうけてるみたいだし」


 いつでも佳奈ちゃんはすっごく楽しそうだよな…

 俺は全然楽しくないぞ…こんな事になるなら悟の方が楽だ…こんな事あり得ないし…


 そう言えば前にクラスの女の子にも綾香は変わったって言われたよな。

 やっぱり俺はいくら綾香の真似事をしてみても本当綾香にはなれない。そりゃ当たり前だ…俺は悟だ。

 でも、昨日絵理沙が言った事…『みんなにとっての綾香ちゃんは…今の綾香ちゃん、そう、悟君なんだよね…』そうか、そうだよな…今の綾香は俺なんだ…

 変だと思う人間がいたとしても、ここまでばれてない訳だし、この先よほど変な事をしない限りばれる事はないだろう。

 しかし!ばれないのは良いのだが、何だこの手紙は!別に俺は人気者になりたい訳じゃないぞ?目立ちたかった訳でもないぞ?おかしい…どうしてこうなったんだ…


「………おーい!綾香ぁ!おーい!反応ないよー!ラブレター貰いすぎて壊れたの?」


 え?佳奈ちゃんの声!?

 俺は佳奈ちゃんの声で我に返った。すると俺の顔の前に佳奈ちゃんの顔が!?


「うわ!!!」


 俺は驚いて思わず後ろに下がった。佳奈ちゃんもかなりびっくりしている。


「うわ!じゃないよ!綾香がいきなり大きい声を出すから私がびっくりしたじゃん!」

 

「ご、ごめん佳奈ちゃん。ちょっと手紙の多さに動揺しちゃって…考え込んじゃったんだ」


 と言い訳を言っておこう…


「なるほどね!ある!ある!あるよねー!考えちゃうよね!」


 佳奈ちゃんは俺の肩をぽんぽんと叩きながら笑顔でそう言った。佳奈ちゃんは疑うっていう事を知らないのか?まあいいけど…

 あれ?確か佳奈ちゃんは前回の始業式の日に俺がラブレターを貰った時にもいたぞ?

 もしかして俺がラブレターを今日貰うって知っていた?


「ねえ佳奈ちゃん?始業式の日にラブレターもらった時から今日まで何も入ってなかったのに、何で今日いきなりこんなに手紙が入ってるのかな?」


「えー?綾香知らないの?この学校はね!毎月一日がラブレターの日なんだよ!」


 何だそれは…誰がそんな事を決めたんだよ!毎月一日とか何かの感謝デーかよ…

 俺は二年間この学校に通っていたがそんなのは知らないし初耳だぞ?


「そんなの知らないよ?そんなのあったの?」


「うん!あったんだよ?私は毎月一日に女子生徒の誰が何通のラブレターを貰うかが楽しみでここに居るんだよね!」


 佳奈ちゃん、妙な事を楽しみにしないほうがいいと思うんだけど…

 他人がラブレターを貰うのを見て何が楽しいのやら…


 佳奈ちゃんが今度は茜ちゃんにいきなり背後から抱きついた。


「茜!茜はどうかな?入ってるかもよー?見てみて!」


「え?は、入ってないよ、私はもてないもん!何を言ってるの佳奈ったら」


 茜ちゃんは苦笑しながら自分の下駄箱を開けた。下駄箱を開けた所で茜ちゃんが固まった。


「どうしたの?茜?どれどれー?」


 佳奈ちゃんは茜ちゃんから離れると、今度は茜ちゃんの前に出て下駄箱を覗き込んだ。


「あ!あるじゃん!一通だけど入ってるじゃん茜!よかったね…あれ?あーかーねー?綾香といい、茜といい、なんでこんな事で固まるかなぁ…茜!あかねー!」


 佳奈ちゃんは茜ちゃんの両肩を持って揺らした。茜ちゃんが勢いよく前後に揺れている…

 二度、三度と揺らされた所で茜ちゃんはやっと反応した。


「え?あ!こ、これは何かの間違いだと思うんだ!?」


 茜ちゃんの気が動転している…見ているだけでもすごくよくわかる。

 しかし待てよ?よく考えると茜ちゃんがラブレターを貰ったって事だよな!?

 もし万が一でもそのラブレターの相手とうまくいったら…俺は彼氏候補から落選!?うわあああ


「と、とりあえず…その手紙の内容を見て見たら?」


 俺も動揺してる…何を言ってるんだ…見させてどうする!


「よかったねぇ、茜にもやっと春が来るのか…」


 佳奈ちゃんは腕を組みながらうんうんと一人で頷いている。

 茜ちゃんに春が!?って今来る必要はない!俺が戻れば茜ちゃんには必然と春が来るはずなんだ!

 という事は佳奈ちゃんは知らないんだよね…

 茜ちゃんは手紙の宛先が自分だと確認したらしい。

 その場で内容は確認しないで鞄の中にそのラブレターを入れた。

 その時の茜ちゃんの表情はすこし困ったようにも見えた。


「そ、そう言う佳奈はどうなの?佳奈はラブレター入ってなかったの?」


 茜ちゃんは無理に作った笑顔で佳奈ちゃんに聞いた。

 その質問をされた佳奈ちゃんの表情が一気に暗くなった…


「はは…世の中の男共は見る目がないのよ…こんなに可愛い子がこの学校にいるのに…それもフリーなのに…まったく…ふう…」


 ラブレターは入っていなかったらしい…


「おはよう」


 え?この声は?俺が声のする方向を見るとそこには絵理沙がいる!?

 あれ?絵理沙って第二校舎から通ってるんじゃないのか!?何でここに?


「野木さん、おはよう!」


 俺は変な疑問を抱いていたせいで挨拶を返すのが遅れたが、茜ちゃんはすぐに挨拶を返した。


「茜ちゃんおはよう」


「え、絵理沙さん、おはよう」


 俺も慌てて挨拶を返した。


「おはよう、綾香ちゃん」


 絵理沙は挨拶を済ませると何気ない表情で下駄箱を開けた。

 すると中には数通のラブレターが…って…絵理沙にも入ってるのか!?

 絵理沙はその手紙を無表情で取ると鞄の中に入れた。

 そして一人で教室の方へと歩いて行った。まったく動揺どころか驚きすら感じてなかったな…


「おーい綾香!時間だよ!行くよ」


 佳奈ちゃん?気がつくと茜ちゃんと佳奈ちゃんが廊下の先へ行っていた。

 俺は慌てて上履きを履くと教室へと向かった。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 今日の授業も無事に終わった…


 「じゃあまた明日ね、綾香ちゃん」


 「あ、うんまたね」


 そう言ってからふと横を見ると絵理沙は今日もクラストップで教室を出て行ゆく。

 相変わらず速いな…しかし俺はそんな事に気を取られている暇は無い。

 鞄の中にある手紙が気になって仕方ないのだ。

 さて…どこで確認するかだが…そうだな…人が来ない場所…

 あそこか、屋上だ。あそこなら人は来ないだろう。俺は屋上で手紙を確認する事にした。

 俺はクラスメイトに声を掛けられる前に教室を出た。

 そして廊下を早歩きで歩いていると目の前から二年生の女子生徒が…


「姫宮さん!」


 俺はびっくりした。いきなりその二年生は笑顔で俺に声をかけてきたのだ。


「え?はい?」


 知らない生徒だな…俺に何の用事だ?


「私は二年B組の羽生っていうんだけど!ねえ!私の手紙読んでくれた?」


 え?何だ?手紙って?もしかして今朝貰った手紙の事なのか?

 もしそうだとすると…どうしよう…と考えていると…


「あれ?まだ読んでないんだ?まあいいよ!率直に言うと、私は上級生だけど、姫宮さんとお友達になりたいの!体育対抗祭で貴方の事見てたら気に入っちゃったんだ!ねえ?いい?だめ?」


 突然のお友達になりたい宣言だ…気に入っちゃったって…まぁ拒む必要もないからいいけど…

 というよりは拒むと後が面倒な気がしてならない…こんな感じだしな。


「あ、はい、いいですよ」


「うわ!やった!これからよろしくねー!じゃあまたねー」


 女子生徒は両手を挙げて喜んだ。そして嬉しそうに廊下を歩いて行った。

 あれ…行ってしまった…OKすればそれでいいのかよ…

 うーん…手紙か…やっぱりこの鞄の中の一つなのかな?

 もしもそうだとすると今朝貰った手紙の全部が全部ラブレターじゃないって事か?


「綾香さん!」


 俺が廊下の真ん中で考え事をしていると聞き覚えのある声が…

 ふと顔を上げるとそこには野田先輩が…


「野田先輩?どうしたんですか?」


「何をこんな廊下のど真ん中で考え事してるの?」


「え?いや、色々ありまして…ははは」


「今日は何か変ね?まあいいわ、今朝下駄箱に入れておいた手紙?見てくれた?」


 え?野田先輩が手紙を俺に?でもまさか野田先輩が俺に友達になってはないよな?

 今でも十分仲良しだと俺は思っているし…


「えっと…まだ読んでないんです…」


「あ、そうなんだ?まあいいか…内容はバレー部に入らないか!だからさ、私ね、綾香さんがどうしても諦めきれないんだ!」


 うわ…バレー部への勧誘だ…野田先輩ってまだ俺をバレー部に入れたいのか…


「え、えっと…考えておきます」


「おお!本当?ちゃんと考えておいてよ!また今度聞きに来るからね、じゃあまた!」


 そう言うと野田先輩は笑顔のまま廊下を歩いて行った。


 これで手紙の内容が二つ確定した…そして二通ともラブレターでないのも確定した。

 これは多分だが、佳奈ちゃんの言っているラブレターの日って違うな…

 よし、屋上に行ってから全部の手紙の内容を確認しなきゃ…

 俺は急いで屋上へ向かった。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 そういえば久々の屋上だな…

 屋上へ上がるのはあの始業式以来だ…

 俺は階段を上がりながら始業式の日を思い出していた。


 俺は始業式の日に転入生の絵理沙が北本先生だとか野木が絵理沙の兄貴だとか知ったんだよな…

 あれからもう一ヶ月か…月日が流れるのはやっぱり速いよな…

 そんな事を考えているといつの間にか屋上へ出る鋼鉄製の扉の前についていた。

 扉には鍵が…かかってない…開いてるって事は外に誰かいるのか?

 まさか絵理沙とか?俺はゆっくりと鋼鉄製の扉を開けて屋上へと出た。

 周囲を見渡したが誰もいない…そりゃそうか…こんな場所にいるはずないよな…

 俺はドアを出てすぐのコンクリートのブロックに腰を掛けた。

 そして鞄を置くと中から手紙を取りだした。全部で十八通もあるじゃないか…

 白い封筒やらかわいいものやら多種多様な手紙…

 俺は順番に手紙の内容を確認す事にした。


 っと…まずこれは…黄色い封筒だ。内容はっと…


 私は一年D組の新井恵です。体育対抗祭のバレーは感動しました。

 クラスは違いますが是非お友達になってほしいです。


 ………何だこれは…これもお友達になってよか…


 次…ピンクの…って色で男じゃないってわかる…男が差し出し人だと…きもい…


 私は三年B組の梅郷秋子と言います。

 貴方の運動センスの良さに本当にすごいと思いました。

 そこでお願いがあります。私達のアーチェリー部に是非入ってください。

 廃部の危機なんです。貴方ならばきっとやってくれるはずです!

 宜しくお願いします。


 ………こいつ、俺が悟だった時のクラスメイトの梅郷じゃないか…

 あいつってアーチェリー部だったのか…眼鏡かけててガリ勉っぽいし、部活なんてやってないと思ってたぞ?しかし、アーチェリーとはまた渋い…まぁ入らないけどな。期待もされたくないし…


 次は…この青いやつ!これこそ…

 その手紙もお友達になってよ手紙だった…


 ………おい待てよ…十八通中の十ニ通が女子生徒からのお友達になって&ファンになりましたの手紙…五通が部活の勧誘やらの手紙…


 男からの手紙がないぞ…ラブレターがないぞ!!!

 これはどういう事だ!何だかいっぱいくじを引いたのに全部ティッシュだった気分だぞ!

 ……って待て…いや…いいんだよ。俺は何を期待してたんだ?ラブレターなんて無くていいんだ!

 危ない危ない…やはり女の時間が長いから…女としての気持ちまで芽生えてきたのか?

 うわあああ!ないない!ない!ない!俺は男だ!

 ふう…落ち着け悟…


 よし…最後の一通だ…これを読んでミッション終了だ。


 姫宮綾香様

 僕は姫宮綾香さんが好きです。この前の体育対抗祭での姫宮さんは素敵でした。

 ああいう姫宮さんもいいなって思います。がんばる姫宮さんを見ていて僕は勘当しました。

 きっといつか僕の方から告発します。待っておいてください。


 …これ書いたのって始業式の時のラブレターの奴じゃないのか…

 何だこの内容は…今度は俺が何故か知らないけど勘当されるらしい…

 俺とお前は親子じゃないだろ…おい…

 おまけにまた告発か?告白だろ?勘当された上に告発されるって嫌だな…現実にあったら。

 よほど仲の良くない家族なんだろうな…って無意味な事を考えてしまった…


 最後の手紙はラブレターだったな…また差出人はないけど…


 何だろうか…俺の心の中でラブレターが入っててよかったって思う気持ちが…

 ない!ない!俺は男だって!くそー!

 何だろうか…自分で自分が疲れるぞ。

 し、しかし、結果は男からは一通だけで一安心だ!という事にしておこう…


 しかし、佳奈ちゃんの言ってた毎月一日は感謝デーじゃない…ラブレターの日って何なんだ?

 やっぱりと言うか、まったく違うじゃないか!単純にお手紙の日の事なのか?

 ふう…何だか朝あんなに恥ずかしい思いをして、授業中には手紙の中身が気になって仕方なかった自分が馬鹿らしい…というより馬鹿だ…

 あーあ…まあいいや…帰ろうっと…


 俺は立ち上がると鋼鉄製ドアのドアノブに手をかけた。

 すると横からドスンと何かが落ちてきたような音がした。

 俺は慌てて音がした方を見るとそこには絵理沙が!?こいつ一体何処から現れたんだ!


「え、絵理沙!?」


 絵理沙は誰もいないと思っていたのか、俺ががいるのが解るとかなり驚いた表情をしている。


「あ、綾香ちゃん!?何でここに!?」


「絵理沙だってこんな場所で何してるんだ?っていうか!絵理沙は何処に居たんだよ!」


「あそこ…」


 絵理沙が指差したのは貯水タンクのある階段室の上の部分…

 あんな場所に上がってのか…どおりで俺も気がつかなかったはずだ…

 と言うよりさ…あの場所は結構高いぞ?本当にあそこから飛び降りたのか?

 ま、まあ…絵理沙は魔法使いだし…って三メートル以上はありそうだ…

 今の俺にはあそこに登るのも飛び降りるのも無理だな…


「で?あんな場所で何をしてた?」


 絵理沙は口を尖らせたままで質問に答えようとしない。

 だが何となく俺は何をしていたのかが解った。


「朝の手紙を確認してたんだろ?」


 絵理沙の表情が変わった。図星だな…


「で?どうだったんだ?ラブレターだったのか?」


「何で綾香ちゃんに教えないといけないのよ!それとも何?私がもらった手紙の内容が気になる訳?」


 何だ何だ?すこしご機嫌斜めだな…これは俺と同じでラブレターじゃなかったのか?気になるな…


「ああ、気になる」


「え!?そ、それってどういう意味よ」


 絵理沙が動揺している?何に動揺してるんだ?


「意味?そのまんまだろ?内容が気になるからだよ。絵理沙が貰った手紙の」


 絵理沙は頭を斜めに傾げたまますこし考えるとおもむろに鞄の中から手紙を三通ほど取り出した。


「これが私の貰った手紙よ」


 俺が貰ったカラフルな手紙とは違い、絵理沙の手紙はどれもきちんとしている印象を受けた。


「それって…全部男からか?」


「うん…」


 絵理沙は躊躇せずにそう答えた。三通全部が男からの手紙…やっぱり絵理沙はもてるんだな…そりゃスタイルもいいし、勉強もスポーツも万能だし…見た目も…か、かわいいし…くそ…悪いところが見えない…


「絵理沙って人気あるんだ…」


 俺は思わず元気の無い声でそう言ってしまった。


「え?何?綾香ちゃんは私がラブレター貰うのが嫌なの?」


 すこしだけ絵理沙が嬉しそうにそう言った。


「違う!そうじゃない!」


「じゃあ…嬉しい?」


「嬉しくもない!何で俺にそんな事を聞くんだ」


「別に…」


 絵理沙の表情がいつの間にかいつもの表情に戻っている。

 ようするには俺に絵理沙がラブレターを貰うのが嫌だと言ってもらいたいのか?

 何でだよ…こいつ…俺に気がある訳じゃないだろうし…………

 ま、まさか?いやないない…あるはずない…だいたい男(悟)の俺には出会ってもないし、そうなる要因がまったくない!俺は何を考えているんだ…


「で、それどうするんだ?手紙を出した相手と逢うのか?」


「まさかぁ!無視よ!無視!私はあまり人と接点を取るべきじゃないからね」


「無視するのなら、なんでわざわざこんな場所で手紙を確認するんだ?」


「そりゃ…私だって女の子だし…手紙の内容は気になるし…それに…この手紙を見ている姿をあまり他人にも見られたくないし…」


「じゃあ、家で見ればいいじゃないか」


「ダメなの!家はダメ!絶対ダメ」


 野木か?野木にばれると嫌なのか!?まあ嫌だろうな…


「まあいいや…そろそろ下りようか?」


「え?ちょっと待ってよ!私の事ばっかり聞いて!綾香のあの大量の手紙!内容どうだったのよ」


 絵理沙は少し怒りぎみの口調で俺につっかかってきた。


「あれ?絵理沙は俺が貰った手紙の内容が気になるの?」


 ちょっと意地悪っぽく言ってみた。


「き…気になるわよ…悪い?」


 絵理沙はすこし顔を少し赤らめながら俺に向かって言った。

 って何で顔が赤くなるんだ…そんなに恥ずかしいかよ…………

 もしかしてやっぱり俺に?いや、違う…さっきも考えたけど、そうなる要因がない!


「わかった、絵理沙に手紙の内容を教える」


 俺は絵理沙に全部の手紙の内容を話した。

 するとさっきまで顔を赤らめてすこしおどおどしていた絵理沙が急に大笑いした。

 というか…そこまで笑わないでいいだろうが!


「おっかしー!男子生徒からの手紙って一通だったんだ?でもすごいねー綾香ちゃん…そんなに女子に大人気だなんて…もしかして…中身が男だから!?なんちゃって」


 確かにこれが悟の時だったら俺もモテモテだ!って喜んだかもしれないが…

 今は綾香の姿だぞ…この姿で女子にもてて喜ぶとか絶対にない…

 あ!そうだ…茜ちゃんの貰ったあの手紙…ラブレターだったのかな…

 気になる…今度そっと聞いみよう。


 俺がそんな事を考えていると絵理沙は屋上の出入口の鋼鉄製のドアを開けた。


「よーし!私はそろそろ家に帰るね!それじゃまた明日ねー」


 絵理沙はそう言うと笑顔で校舎へと入って行ってしまった。変わらず自己中心な奴だな…

 仕方ない…俺仕も屋上から校舎の中へと入った。

 一応階段の下の方を見たが、もう絵理沙の姿はない…

 ふう…先ほどのラブレターの件もあって、少し気が抜けたな…


 俺は階段を一気に一階まで下りるとそのまま下駄箱へ向かった。

 すると下駄箱でめずらしく真理子ちゃんに出会った。

 真理子ちゃんは右手に鞄を持っていてもう靴を履いている。

 家に帰るのかな?そんな事を考えていると真理子ちゃんも俺に気が付いて笑顔で声をかけてきた。


「あ、綾香じゃないの。今から帰るの?」


「あ、うん」


「そっか!私も今から帰る所なんだ」


 珍しいな、真理子ちゃんがこんな時間に帰るなんて。

 真理子ちゃんは生徒会の手伝いもあるから、何時もはもう少し遅い時間に帰っているはずなんだけどな…


「珍しいね、こんな時間に真理子ちゃんが帰れるなんて」


「今日は生徒会の手伝いもないんだ。綾香、久々に一緒に帰ろうか?」


「うん」


 真理子ちゃんと帰るのは本当に久々だ…九月の初めに何度か一緒に帰っただけだ。

 実は仲良し三人組、佳奈ちゃん、真理子ちゃん、茜ちゃんで一番に家が近いのは真理子ちゃんなのだ。

 だけど一番話をしていないのも真理子ちゃんなのだ。


 俺は真理子ちゃんと一緒に田んぼ道を自転車で家へと向かった。

 久々に真理子ちゃんとゆっくりと話をしながら帰る。

 真理子ちゃんは普段は真面目だけど、本当はすこし砕けた感じで話が出来るとてもいい子だ。

 俺は真理子ちゃんの兄貴の貴裕と昔から仲が良かったせいもあって、かなり小さい頃から真理子ちゃんを知っている。だからか真理子ちゃんがこんなにかわいいのに恋愛感情が沸かなかったのかもしれない。

 もし中学生くらいから出会っていれば俺の中の真理子ちゃんに対する感情も変わっていたのかもしれない。

 もしかすると好きになった相手も茜ちゃんではなくって、真理子ちゃんになってたかも…でも彼女にするには今の俺には勿体ないくらいだし、貴裕が許さないだろうが…


 って何を考えているんだ!待て、待て悟よ…お前の本命は茜ちゃんだろ?

 少しでもそんな事を考えてどうするんだ!この浮気もの!


 ふう…いかんいかん…しかしまぁ男なんてそんなもんだよな…


 家の近くまで来た。俺は真理子ちゃんに挨拶をすると別れた。


 俺は真理子ちゃんと話して幾つかの情報を得た。

 一つ目は毎月一日は手紙の日だが、あれはごく一部の人がそういう事になればと今現段階で広め中だという事だ。と言うことは噂を広めようとしている人物の一人が佳奈ちゃんだというのは確定だな。

 しかし、そんな日を作って何が楽しいのだろうか?


 二つ目は明後日の日曜日に空手の大会があって大二郎が出場するらしい…

 大二郎には悪いが、俺はどうでもいい。しかし優勝だけはするなと言っておく。


 最後は三年生の間では俺が正雄と付き合っている事になっているらしい…

 おかしい…正雄は俺とと別れたという事にするからとか言ってたはずなのに…

 くそ正雄め!嘘つきやがったな。

 それに何だ?今度の空手の大会で大二郎が優勝したら大二郎と付き合う事になってる?

 付き合うって何だ!茜ちゃんの約束はデートだ…本当はデートすら嫌だが万が一優勝しても一回だけなら仕方ないか…って思ってる。

 あれ?待てよ?仕方なくないだろ…これは勝手に茜ちゃんが決めた事だぞ?なんだか最近俺って優しくなってるよな…自分でそう思う…

 しかし、噂が広まったままだと現在の俺(綾香)は正雄とも付き合ってるし、空手大会を優勝したら大二郎とも付き合うとか…二股をかける女!?このままじゃ綾香のイメージが…

 これは早期に打開策を打ち出さないとな… 


 よし、家についた。玄関を開けて…あれ?鍵が閉まっているぞ?

 俺は鍵を開けて中へと入った…誰もいない…あれ?おかしいな…母さんはどこだ?

 俺は靴を脱いでリビングに入った。するとリビングテーブルの上に手紙が…


 綾香へ、悟の事で警察に行ってきます。遅くなるかもしれないので夕食は作っておきました。冷蔵庫の中に入っているので暖めて食べてください。 母より


 げ…俺の事で警察!?そ、そうか…俺ってまだ行方不明のままだった…

 世間では俺の行方不明事件は何の解決もしていないんだ!

 どうしよう。そうだ…野木に相談しよう…

 って!何で野木なんだ…すぐに頭に浮かんだのが野木だったぞ…

 でも…変態でいやらしいけど…実際は頼れる人があいつしかいないからな…

 悔しい…くそー!よ、よし…油断しないで行こう…


 俺は早速制服から私服へ着替えると家を出て学校へ向かった。


続く

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