第1話 この世の中の信じられない事実
夏休みに入った七月のある暑い日。俺は両親と一緒に彩北高校へ行く事になった。
俺が両親と向かう彩北高校。この高校は俺と妹が通学している高校で規模はそれ程は大きくはない普通の進学校だ。
妹の綾香は俺の二つ下で今年この高校に入学したばかりだった。
俺はこの高校の三年で、綾香は一年という事になる。
綾香は中学校時代は結構成績もよかった。偏差値だってそこそこあったし、別に俺と同じ高校じゃなくってもよかったはずだ。
しかし、綾香は何故かこの高校を選んだ。
まぁ兄としては嬉しい事だったのだが…
しかし…そんな喜びも消えた。もう、俺は喜んでいる場合じゃなくなっていた。
今日、それも夏休みに学校へ向かう理由。それは…
妹の綾香が飛行機事故にあってしまい生死が不明になった。その報告の為に学校に行くんだ。
☆★☆★☆★☆★☆
二日前の昼すぎ。両親が俺に言った。
「綾ちゃんがね…死んじゃった…」
そう…妹の綾香は死んだらしい…
妹の死亡原因は飛行機事故だ。田舎に帰省の為に乗った飛行機が落ちた。
事故から懸命に生存者を捜索していたのが、五日目についに打ち切られてしまった。
妹は亡骸すら見つからなかった。だから正直に言うと死んだという実感があまりない。
でも…生存している可能性はほぼ0だと言う。
綾香はこの高校に入学してとても嬉しそうだったのに、まさか…こんな事になるなんて…
あの日を思い出す。そう、あれは夏休みに入ってまだ数日目。
あの日、俺と綾香と両親は山口に住んでいる祖父母の家に三年ぶりに帰省する事になっていた。
帰省にあたって一番心配されたのは俺だ。
俺は高校三年で受験を控えていたが、勉強なんて嫌いだし、別に田舎に帰省したからといって成績が変化するとは思えない。
去年は綾香の受験、一昨年は家庭の事情という風に三年も帰省してない。
俺は別に気にしないでいいから。あっちでも勉強するしと言って、久々に帰省する事が決定した。
本当は家族全員で一緒の飛行機で帰省する予定だったのだが、全員のスケジュールを合わせられなく、先に綾香だけが帰省する事になった。
俺は学校の用事で綾香の出発した二日後に、両親は早めの夏休みを取ってっと言っても四日後の出発予定だった。
今考えるとなんでわざわざ家族がばらばらに帰る必要があったのだろうか…
綾香が出発したあの日。
俺は帰省の為に妹の綾香がまとめた荷物をもって玄関にいた。
「お兄ちゃん、荷物を持ってくれてありがとう!」
綾香はかわいい笑顔で俺にお礼を言ってくれた。
実の妹ながらかわいいなんてつくづく思う。
綾香は身長が142センチしかなく、幼児体型で胸もそんなにはない。
正直言うと私服だと小学生に見えてしまうくらいのコンパクトさだった。
そして、肩まで伸びたストレートの黒髪につぶらな瞳。まだ大人にはなりきれない体つきがなんとも言えないかわいさを感じさせた。
綾香はいつもワンピースやスカートの時が多く、パンツを履いている姿を見た事がなかった。
それは多分、俺が綾香のパンツ姿が嫌いだと言ったことが要因のような気もする。綾香は何かと俺に意見を聞いて来たの意見を言ったのだが、それを間に受けていたのだろうか?
綾香の肌は色白でつやつやだった。なんていうか、お人形のような感じがする位に。
お前の妹にしておくのはもったいない! とよく知り合いに言われたが、いや、まったくその通りかもしれない。
「いや、別にいいよ、この程度」
「お兄ちゃん、本当に助かったよ」
ほら、この笑顔ときたもんだ…
「学校のみんなはお兄ちゃんの事を怖いっていうけど、なんでかな?」
綾香は首を傾げながら変な質問をしてきた。
「そりゃ髪も茶色く染めてるし、こんな格好しいてるからだろ?」
「ふーん…別に髪が茶色くったって怖くないと思うけど」
「そりゃ妹にまで怖がられたら流石に嫌だぞ? 何だよ、突然そんな事を聞きやがって」
「え? ううん…あ、そうだ! お兄ちゃんは好きな人いるの?」
「何を唐突に聞いてるんだ。そんなのいるはずないだろ」
ちょっと吃驚した。突然そんな事を聞いてくるなんて今まで無かったのに。
それに何だその本当にいないの? と言わんばかり表情は…
「へーそうなんだ…そろそろ彼女の一人くらいいてもいいんじゃないの?」
「まて。どうしてそうなるんだ? それに、そういう綾香はどうなんだよ」
「私は…秘密だよ…でもね、きっとお兄ちゃんを好きな子はいると思うよ」
綾香は満面の笑みで俺の目をじっと見ている。
しかし何だ? 何か確信でもあるのか?
「そんな事ないだろ? 俺はもてないからな」
俺がそう返すと綾香は微笑んだ。そして荷物を持つと玄関を出た。
「お、おい、綾香!」
「へへ…この話はまた今度ね…じゃあ私いくね! お兄ちゃんも早く来てね」
「ああ、わかった、二日後には俺もいくから」
「うん、わかった! 先におばあちゃんの家で待ってるね!」
笑顔の綾香はそう言ってタクシーに乗り込んだ。
そしてその日の夕方。俺が用事を済ませて家に戻ってくると、両親が電話に出ていた。
「母さん、どうしたんだよ?」
電話が終わった母さんの顔が真っ青だったので、心配になって声をかけると…
「悟…綾ちゃんが…飛行機事故に…」
母さんは床にそのまま崩れるようにしゃがみ込んで泣き出した。
電話の内容は綾香の乗った飛行機が墜落したという報告だった。正直、俺はすぐには信じれなかった。
だいたい飛行機なんて電車より安全なんじゃないのか?
この現代で飛行機事故とか…あるのか? そう思いながらテレビをつけた。
テレビでは緊急速報で飛行機墜落事故のニュースが流れている。
嘘じゃなかったのかよ…
飛行機はエンジントラブルで着陸寸前で瀬戸内海に墜落したとアナウンサーが真剣な表情で伝えている。
そんな馬鹿な…
心臓がすごくドキドキと鼓動して気持ちが悪くなってきた。
でも、助かった人もいるんだろ? きっと綾香も…
あいつは運がいいから助かっているよな?
そういう気持ちがその時にはまだあった。
その日の夜、両親と一緒に東京へと向かった。そこで綾香が飛行機に乗ったのかをまずは確認した。
飛行機の搭乗者リストを確認する。姫宮綾香の名前があった。そして救出された人の名簿に名前はない。
生存の希望はほぼなくなった…あとは奇跡を待つだけ…なのか?
何で…何でいきなりこんな事になるんだよ!
俺が引き留めておけばよかったのか? くそっ…
俺の脳裏に今朝の綾香の笑顔が思い浮かぶ。
妹は…綾香は…まだ十五歳だったのに…人生も今からだっていうのに…
俺は…くそぉぉぉ!
そして最後の希望だった捜索もついに打ち切られた。
☆★☆★☆★☆★☆
俺は両親と一緒に学校の校門をくぐった。両親と一緒に夏休みの静かな構内を歩く。
横では両親が沈んだ顔をして歩いていた。
こんな調子で大丈夫か?
心配だったので取りあえず学校まで一緒に来たけど。
でも…親の心配をしている俺だって、傍から見ると沈んだ顔で歩いてるんだろうな。自分でもわかる。
当たり前か…実の妹が死んだかもしれないんだ…
俺はふと母親の鞄の中に目を向けた。
すると鞄の中に綾香の生徒手帳があるのが見えた。
俺は母親に「ちょっと、その手帳見せて」と言って、綾香の生徒手帳を手に取って開いた。
まだ新しい生徒手帳。その中に学生証明書が入っている。
学生証明書には笑顔の綾香の写真があった。
「これ、俺が持ってていいかな?」
俺は両親にそう言って、生徒手帳をズボンのポケットに入れた。
校舎に入った所で両親は職員室へ用事をすませに行くと言う。
一緒に行くか聞かれたが、正直もう綾香の話を聞きたくない。だから一緒に行くのはやめておいた。
俺は何となく校舎内を歩るく。夏休みの構内はとても静かだった。
そう言えば両親は用事を済ませたら家にそのまま戻ると言ってたな。俺ももうちょっとで戻るかな。
俺はこの校舎では、綾香と思い出をほとんどつくれていない。
なのに、人がほとんどいない校舎内はどこか寂しく、俺に綾香を思い出させた。
ガタン! バン!
ものすごい音がした。ドアを勢いよく開けて閉める音。
俺は慌てて音がした方向を見ると、特別実験室という部屋から女性が飛び出して何処かへ走って行くのが見えた。
あれ? 今走って行ったのは…あれは確か…歴史の北本先生だよな?
『北本絵里』
今年の春からこの学校に来て歴史を教えている先生だ。
年齢は怖くて聞けないが独身だったはず。
スタイルは良いのだが彼氏もいないっぽい。あくまでも俺の予想だが…
正直あの先生は何を考えてるのか良くわからない。
北本先生はたまに変な事を言う時があるから、とっつきずらいイメージだ。
おかしいな…北本先生は理科の先生じゃないだろ? なんで実験室から?
俺は不思議に思っても実験実の扉の前に立った。
まてよ…そういえば、俺は高校三年になるのにこの部屋に入った事がないな。いうよりは、この部屋はいつも鍵がかかっていて入れないんだよな。
誰かにはここの教室は使われてないって聞いたんだけどなぁ…
…よし。
入った事のない部屋だというのもあって、俺には珍しく興味が沸いた。
どうせ北本先生だ。戻ってきて怒られても怖くなんかないし、ちょっとだけ教室の中を見て見よう。
俺は勝手に特別実験室の中に入った。
実験室の中に入って俺の目に飛び込んで来たものは…
中央のテーブルにはいくつもの試験管が並び、真ん中では火のついたままのアルコールランプがある。
そしてその上にはフラスコが置いてあり、フラスコの中にはどうみても怪しい黄色い液が入っていた。
あの先生はこの部屋で何をやってたんだ?
何かの実験か? それにしても歴史の先生がなんで実験なんかするんだ?
ん? 何だあれは?
よく見ればフラスコの横には何か本みたいなものが置いてある。
怪しい本だな…歴史の先生の癖に何やってんだよ?
先生がやってる事にすこし興味があるな。先生が戻ってくるまでにここを出ればいいだろうし、本の内容を確認してやろう。
俺は中央のテーブルへと歩みよった。
ぐつぐつぐつ!っとフラスコ内の黄色い液がかなり煮え立っている。
なんだこの鼻をつくような臭いは…
アンモニアにも似た異臭を放つその液はまさに毒といった感じだ。
マジで危ない液にしかみえない。まぁ俺には関係のない事だけどな。
俺は鼻をつまみながら机の上にある本を手に取った。
本のページを適当に開くとそのには怪しい文字がいっぱい書いてある。
何だ? 英語か? 読めない文字だな…
つまんねーな…
俺は本を机の上に置いた。
その瞬間だった
ドガーーーーーーーーーン! といきなり激しい爆発音が聞こえたかと思うと瞬間、目の前が真っ白になった…
そして意識が遠のいていった。
☆★☆★☆★☆★☆
…
うーん
あれ…俺…
ベッドに…寝てる…
何が…あったんだっけ…
俺は…何をしてたんだっけ…
あれ…人の気配?誰かいるのか?
「あーもう…すっごく失敗…でもまさか生徒が実験室に入ってたなんて…で、でも…私の魔法でなんとか蘇生させたしあとは、何ごともなかったかのように済ませれば…」
誰かの声が聞こえる…
「目が覚めたら…よし…これでOKだ」
何処かで聞き覚えのある声だ…俺はゆっくりと目を開いた。
ここは?どこだ?俺は周囲を見渡した。
どうやら俺は保健室にいるようだった。
そして俺の横には椅子に座った北本先生がいる。
「あ、あら!気がついたみたいね!姫宮さん」
俺の名前を呼んでいる。
「あ、あなたはね、実験室の前の廊下を歩いててね、実験室のガス爆発に巻き込まれて…で、でも!大丈夫よ!無事よ、無事よ、怪我もなかったし」
廊下?ガス爆発?そうだったっけ…なんか実験室の中にフラスコがあって…それが…
「ば、爆発の勢いで、飛ばされて頭でも打ったみたいなの。それで、ちょっと気を失ってたみたいだからここに私が運んできたのよ!」
あれ?そうだったっけ…確かに気を失ってたけど…でも何だ?この先生は?
表情はとてもひきつってるし…おかしいぞ
「そ、そう!あなた!もう夕方だし!け、怪我もなかったからもう帰っていいわよ!ね、姫宮綾香さん」
「え!?」
俺は驚いて声を出した。
「あら?どうしたの姫宮さん???」
今この先生………妹の名前で俺を呼んだ???
「え?いや…今…」
「だからもう帰っていいのよ?姫宮綾香さん」
「北本先生、今…俺の事を妹の名前で呼んだ?」
「え!?」
「俺………姫宮悟だけど?」
北本先生が硬直している。
「あの???先生?」
ガラガラ!!ドアの開く音が聞こえた
そして保健の桶川先生が入って来た。
「北本先生、姫宮さんは気がつきました?」
北本先生は固まった表情のまま桶川先生の方向を見た。
「え…ええ…だ、だ、大丈夫です」
「そう、それは良かったわ、それじゃあ…ちょっと体の具合を見て見ましょうかね」
桶川先生が俺に触れそうとしたとき、俺と桶川先生の間に割って入った
「だ、大丈夫みたいです!私ちょっと姫宮さんに話があるので!」
何だ?俺は別に話なんかないぞ?
「え?俺はべつに…もごご」
「姫宮さん!行きましょうね!」
「え?ちょっと北本先生!!!」
北本先生はすごい形相で俺の口を塞ぐと桶川先生の話も聞かずにそのまま俺を抱えて保健室を出た。
あれ?俺なんで北本先生に抱えられてるんだ!?
保健室を出た北本先生は周囲に人がいないのを確認すると廊下を走り出した。
俺もなるがままに先生に連れていかれてゆく。
そして先生は進路指導室へと入って鍵を閉めた。
「ふう…一安心」
そう言うと先生は俺を床に下ろした。
「先生!?何するんだよ!?」
北本先生がおかしい!?何だ?
「ひ、姫宮…………さん?」
「な、なんだよ…」
「本当に貴方は一年の姫宮綾香さんじゃないの?」
「だからな…俺は三年の悟だ。兄の方だよ、妹は…」
ここで俺は何かの違和感に気がついた。声が俺の声じゃない…気がする。
それに…服…これ…女子の制服じゃないか…
「ああ…大失敗だわ…」
先生は頭をかかえて床にへたりと座り込んだ。
「あ、あの!?俺なんなんだ?この格好は?この声は!?」
先生は半場諦めの表情で俺に言った。
「そのまんまですよ…今の貴方は姫宮綾香だから」
な、何だと!?綾香?意味がわからない事を言う先生だ。
「あのな…言いたくないけど、妹の綾香はな…先日飛行機事故で死んだんだよ…」
それを聞くと北本先生は再び頭を抱えて落ち込んだ。
「何という事でしょうか…私としたことが…」
俺は状況がよくつかめなかった。
とりあえず今わかるのは俺が女の格好をしてるという事だ。
何で俺がこんな格好を…俺はこんな女装の趣味なんかない!!
どんな格好になってるんだよ…くそう…
そうだ!生徒指導室には鏡があったんだ。
見たくはないが、とりあえずは今の格好を確認するか。
俺は全身を写す事が出来るくらいの大きさの鏡の前に立った。
そしてその鏡に映った自分を見た。
「……………」
俺は絶句した…
鏡の中に…綾香がいた…
え?綾香?何だこれ!?
北本先生は絶句して動けない俺を見て言った。
「ごめんね…貴方が姫宮綾香の生徒手帳をもってたから…つい姫宮綾香で蘇生しちゃったわ」
何これ…蘇生って!?何?
「姫宮さん、そこ座って」
もう何だかよくわからないが、とりあえず話を聞くしなない…
俺は言われるがままに椅子に座った。北本先生がすごく真剣な顔で俺に言う。
「よーく聞いてよ、先生は今からすっごく重要な事を話します」
俺はとりあえずうなずいた。
「よし、いい子ね…まず…こうなったいきさつから話すわよ…」
「さっき…ガス爆発といったけれど、あれは私の魔法実験のミスだったの!ちょっと薬の配合をミスってね…」
「ちゃんと配合間違えは直そうと思って、足りない材料を取りに行こうとしたのよ?そうしたら私が戻る前に爆発しちゃったみたいで…」
「でね…貴方はその爆発に巻き込まれて、私が爆発に気がついて実験室に戻った時にはほぼ即死状態だったわ…」
「え!?即死って?俺死んじゃったの?」
「黙って!続き聞きなさい!!!!」
「あ、はい…」
「それで私は焦ったわけ…まさか魔法実験を高校でやって、そこに生徒が入ってきて、爆発に巻き込まれて、死んじゃうとかそんな事があったら私は魔法の世界から永久追放されてしまう!!!ってね」
「あの…魔法とか…話が見えないんだけど…」
「黙って!いちいち反応しなくていいわ!聞きなさい!!!!」
「す、すみません」
「そこで考えたの、この事件をうやむやにするにはどうすればいいのか!そうしたら思いついたわ!全魔法力を使って貴方を蘇生すればいいって!!!」
「そうして爆発はガスのせいにすればどうにかなるんじゃないかってね…」
「でも…貴方はまっくろこげでさ、性別すら区別が不可能状態だった訳、で調べたらたまたま実験室の入口に落ちていた姫宮綾香の生徒手帳!!」
「助かったーと思ったわ!もう私は無我夢中で蘇生術を試みたの!今まで何年もかかって溜めた魔法力を全部使い果たしちゃったけど成功したの!でも貴方は体の組織がぼろぼろだったから原子のレベルからの蘇生が必要だったので組織から組み替えたわけ!だ、大丈夫よ、体重も身長も身体測定結果を見てから蘇生させたし!あと…声は私の記憶から綾香さんのデータを引き出して完璧に仕上げたわ!!!そうよ!もう貴方は正真正銘の姫宮綾香として復活を果たしたの!なおかつさっきの事件はなかった事に!ってなる訳だったのよ…とほほ」
という事は何か?
俺は北本先生がやってた魔法実験の失敗で爆発して死んじゃって、でも北本先生が魔法
使いだったから蘇生で生き返られてもらった。
しかし落ちていた生徒手帳が妹の綾香のだったから先生は間違って綾香で蘇生した。
……………
ありえない…
この現代社会において魔法とか蘇生とか…
まず非現実的だし、そんなものが存在するのならば絶対に噂にもなるはずだ。
蘇生とかそんなのあったら医者なんか必要ないじゃないか!
綾香の乗ったの飛行機だって墜落しなくても済んだかもしれないんだぞ!
そうしたら綾香だって助かってるはずだ!
だまされるな悟!これはビックリテレビか何かだ!!!
どこかにカメラが!!!それにしても何で俺を…
「先生、そんな冗談はいいからさ、俺を元に戻してよ、これは特殊メイクか何かなんだろ?それにしても妹の格好にするとか信じられねーよ」
「本当にあなたは理解力がないのね、綾香さん、あ、違ったわ…悟君か…だから言ってるでしょ?貴方は悟君かもしれないけど、綾香さんで生き返ったんだって」
そんな馬鹿な事を何度も言われても信じられない。
馬鹿馬鹿しい!!!何考えてるんだこの先生は!
こうなったらとりあえずこの学生服は脱ぐ!!!
はずかしいからな、何で俺が女性の学生服をきなきゃいけなんだよ!
俺は学生服のボタンに手をあてて上着を取った。
そしてシャツも脱いでやろうかと思いボタンに手をかけた…
一つ一つとボタンをはずすと…ブラジャー…まで…
「おい!先生!ちょっとまて!俺はこんな趣味はないぞ!何だよ?これ!俺に女装させて面白いか?こんなブラジャーまでつけやがって!!」
なんだ?中に何は入れてるんだ?そう言って俺はブラジャーの上から胸を触った。
ぷに……ぷにゅ…
あれ…何これ…この柔らかい感触は…それにこの触ってる感触と触られてる感触がはっきりと…
「だから言ってるじゃないの…貴方は綾香さんなの!女なの!」
「し、信じれらるか!!そんな事が!!!そ、そうだ!シ、シリコンか何かだろ!だがな!男の証がちゃんと俺にはあるんだ!!」
そう言って俺は慌てて下を確認した。
「…え………な…い……んだけど…」
「あーあ…もう…何度言えばいいの?貴方は姫宮綾香だっていってるでしょ?たとえ中身が悟君であっても体は完璧に姫宮綾香なんだからね」
嘘…でしょ……
マジで俺は妹の綾香になっちゃったのかよ!!!!
マジ?何これ…俺は…妹の綾香になったの???
え?じゃ、じゃあ俺はどうすればいいわけ?
妹は死んだんだよ?なのに生きてるって事になるの?
じゃあ俺は?悟の体はどこいったの?え?両親にどう言えばいいんだ!?
これからどうすればいいんだ?
「せ、先生!元に!俺は悟に戻れないのか!?」
「そうね…戻れない事もないわよ」
た、助かった…このままじゃどうしようもないからな…
こんな格好で家にも帰れないし、ふう…
「でもね…私が数年がかりで蓄積した魔法力をさっきの蘇生術につかってしまったから…体の原子のレベルからの再蘇生とか…何年かかろだろうなぁ…正直言うとあれって蘇生より難しいし…」
え?今なんと言いましたか…気のせいですよね…
「せ、先生…い、今さ…何年もかかるとかいったか?」
「ええ、言ったわよ?多分…最低でも五年から長いと三十年かな?うーん…魔法力さえ溜めれればすぐにでも再蘇生が可能なんだけどね、でも今は無理ね!」
終った…俺は終ったよ…
「何世界が終ったかのような顔してんの?」
あんたのせいだろうがああああ!!
「そうだ!貴方の妹さんって飛行機事故でなくなったのよね?」
いきなり不謹慎な事をづけづけと聞き始めるんだ…この先生は…
「ねえ?それで亡骸って…みつかってるの?」
くそ…何でそんな事聞きやがるんだよ…
「ま、まだだ…けど」
先生がいきなり笑顔になった
「じゃあ大丈夫!貴方は飛行機事故から生還した事にすればいいのよ!!!!」
何だそれ?生還した事にって俺に妹になれっていうのか?俺はどうするんだよ!悟は??
「ま、待って!俺は妹の綾香になって、飛行機事故で死んでなかった事にするのか?え?じゃあ俺はどうするんだ?悟はこの学校で神隠しにでもあって行方不明になったって事にでもするのか?」
まさかそれはないだろ???常識的に考えてもないだろ??
もっといい方法あるだろ!
「いいアイデアね!そうね、そうしましょう!」
「ま、まてよ……」
「あ、あれよ!貴方が言った神隠しって結構現代社会でもあるじゃないの!私が魔法でなんとかするわ」
「え?魔法ってなんだよ?魔法力はもうないってさっき言わなかったか???」
「ああ、蘇生魔法は無理って事よ、簡単にいうと蘇生が一万の魔法力だとするとこれは五程度で出来るからね」
「……なんだよそれ」
「じゃあ神隠しをしよっか!」
「あ、いや…ないと思います…神隠しとか…」
「だめよ!このままじゃ収拾がつかなくなるわ!」
原因はあんただろ!あんただろおおお!!
「何泣いてるの?まぁ女の子だし、別に泣いてもいいけどね」
こいつは駄目だ…もう情けなくって涙でてるんだよ…
「あ…そうだ…悟君に…じゃない…今後は綾香さんって言わないとまずいわね……綾香さんに言っておくけど、今日の件は他言しちゃだめよ?絶対だよ?」
「え?何でだよ…」
「簡単に話すとね…他の人間にばれると貴方もこの世界から永久追放されるわよ」
「ちょっとまって!俺は被害者なんだぞ?なんで!?」
「この現代社会においては魔法の存在、それは絶対に秘密なのよ」
「絶対に秘密とか言ってなんで実験室の鍵しめないで、それも学校で実験するんだよ!」
「そ、それは…だ、誰もこないと思ったからよ!」
「信じられん…で?絶対秘密だから?その存在がばれたら俺も追放ってこと?」
「そうよ!私はこの世界に修行で来てるから余計にね!」
「修行って…なんで修行で学校の先生なんかやってるんだよ」
「ふふ…なんとなくよ」
「……………」
何だこの先生…
でも…信じたくないけど…体は本当に完全に妹…いや女の子になってるし…
やっぱ………信じたくなくっても信じるしかないのか…
ああ…なんだこれ…あああ……もう…
「綾香さん、悟君の失踪は私がなんとか演出するから、貴方はとりあえず生きてたっていう事にするのよ!わかったわね!!あと、今日の事は絶対に内緒だからね!わかったわね!!!絶対よ!」
正直先生の方が秘密守れるかが不安だ…
☆★☆
結局俺は妹の格好のまま家へと向かっている。
俺はあと後も北本先生と話をした。
魔法の事もそうだけど、ここでは話せないような事もいっぱい聞いた。
とりあえず結論からすると、俺は当分は姫宮綾香で生きていくしかないようだ。
何年先になるかはわからないけれど、悟に戻れる希望は多少はあるらしい。
それにもしかするともっと早く戻れるかもしれないとも言ってた。
しかし…問題はいっぱいある。
もし、本当の綾香が生きていたらどうするのか。
そして、俺が悟に戻ったら今のこの俺(綾香)はどうするのか。
考えるだけでも頭がいたい…
一番被害?を少なくするには早く悟に戻って、申し訳ないが綾香(俺じゃないけど今は俺)を神隠しにあってもらうしかないか…
それにしても先生は流石魔女というか…
俺にそっくりの人形を作ってまじで校庭で、それも生徒のいる前で消しやがった…
あれみたら本当に神隠しだと思うな…知ってた俺ですらびっくりしたし…
しかし…あんなすごい魔法使えるのに蘇生魔法ってそんなすごい魔法なのか??
何年もかかるなんてどんだけなんだよ!
と考えていると家についちゃったな…
よし…覚悟を決めてはいるぞ!
ガチャ!!
俺は覚悟を決めて玄関を入った。すると玄関には丁度母親がいた。
「そうなんです…行方不明に…何か手がかりがあったら…」
どこかに電話をしている様子だな。
「母さん、ただいま…」
玄関にいた母親は俺の声にすぐに反応してこちらを見た。
「え!あ…綾ちゃん!?綾ちゃんなの!?」
母さんは驚いた表情のまましばらく俺を見ていた…
そして涙を流しながら俺に言った。
「あ…綾ちゃん…生きてたのね…嬉しい」
うわ…すっごい泣いてるし。
「お、お父さん!!綾ちゃんが!綾ちゃんが帰ってきたわよ!!!綾ちゃんが!!」
母さんはぼろぼろと泣きながら居間へと走っていった。
するとすぐに父さんがすごい勢いで出て来た。
「綾香!綾香!生きてたのか…よかった…よかった…」
両親は俺を抱きしめたままずっと泣いていた…
「綾香…綾香がせっかく戻ってきたのに…悟が……お兄ちゃんがいなくなったんだ…」
父さんは悔しそうに俺に言った。
「悟、綾ちゃんが戻ってきたわよ…早く戻ってきて…」
母さんも泣きながら言った
ごめんな…俺は…悟という名前の俺は戻ってこないんだ…
本当は俺はここにいるよ!俺が悟だよって言いたいけど…
くそう…言うと駄目なんだよな…
両親にすら隠さないと駄目なのかよ…凄い嫌悪感に襲われる…
俺は両親にすごく喜ばれそして妹の綾香の部屋へと入った。
これからは妹の綾香として生きてゆくのか…
どうなるやら…
続く