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9話 襲われたべいこま村

夕日が隠れ始め、徐々に暗闇が広がろうとしていた頃。

秋司たち三人は、もうすぐで山を下りきるところまで来ていた。

そんな中・・・。


「はっ・・・。な、何あれ・・・?」

「おい。あれって血転術の炎転じゃ・・・」


三人の視界には、べいこま村南部方面で炎が火炎放射器のように、放出され続けている光景が入ってきた。

それを見て、秋司と健治が順に声を発した。


な、なんで・・・?

あの日以来、かごめ村とは和平交渉が成立したって聞いたけど・・・。

けんだま村も含めて、三つの村が協力関係になったはず。

一体誰がこんなことを・・・?

もしかして、前のかごめ村の村長が?


あの日、べいこま村が襲われて以来、裏で糸を引いていたかごめ村の村長とその仲間は村を追放され、穏健派の人間が新たな村長になった。

こうして、近隣のべいこま村とかごめ村、そしてかごめ村と対立関係にあったけんだま村で和平条約が結ばれ、協力関係に発展していこうとしていた。


「みんながあぶねー」


健治は真っ先に被害を受けている南部に向かって走り出した。


「健治君・・・」


そうだ、みんなが危ない。

今度こそ、僕がみんなとこの村を守るんだ。


一瞬健治を止めようとした秋司だったが、健治と同じ気持ちになっていた秋司は健治を追いかけ南部に向かって走り出した。


「ちょっと、二人ともー」


佑香は二人を止めようとしたが、その声は届かなかった。


(もおー。敵が何人いるか分からないし、村人の状況も分からない。まずは・・・、この時間なら近くにいてもおかしくない。もう暗くなってきた。そうなると炎転か雷転が一番目につくはず。あたしが使える雷転、雷拳らいけんじゃ、空高くまで届かない。それなら)


佑香は炎球を上空に向かって放った。


(山が多いこの場所で、どこまでこの炎球が目立つか分からないけど・・・。お願い、届いて・・・。浮符鄔さん)


佑香は上空に上がった炎球を少し見つめたのち、べいこま村南部に向かって走り出した。


一方、秋司は健治とともに、べいこま村南部に到着しようとしていた。

二人の視界には、いくつかの建物が崩れている光景が入ってきた。

さらに、異なる二箇所で衝撃音が鳴っているのを確認した二人。


「はあはあ、秋司。俺は右の方に行く。お前は左を頼む」

「うん。分かった」


健治と秋司は分かれて別々の場所へ向かった。


みんなは無事かな?


秋司はそう不安を感じながら走り続ける。

浮符鄔の丸太小屋がある山は、べいこま村の南方面に位置している。

そのため、村の中を見る前に被害地である南部に到着したため、村民の無事を確認できていない。


いた。

あいつかーー。


少しすると、血転術を使う一人の男が秋司の視界に入ってきた。


「やめろーー。血転術風転、風出」


秋司は走りながら右人差し指で血転図式を描き右手で術を発動した。


「うん?」


男は右から飛んできた風出を後ろに下がって避けた。

秋司は男と村の間に立つ。


「血転術師か。でも、今の術じゃあウチのボスはやれないよねー。俺っちはボスの仇を討ちにきたのに、どうする? どうする?」


ボスの敵討ち?

じゃあ、こいつらはあの日襲ってきた男の仲間?

いいや、そんなことは関係ない。

こんなことをする奴は許さない。

あの時とは違うんだっ。


「血転術氷転、氷乱」


秋司が右人差し指で血転図式を描くと、四発の氷の塊が宙に浮いて出現した。


「ふっ。血転術岩転、岩棘」


男は馬鹿にしたような笑みを浮かべながら血転図式を描くと、八発の先が尖った石が宙に浮いて出現した。


「いっけーー」


秋司は叫びながら氷の塊を飛ばし、それに合わせて男も石を飛ばす。

すると、男の飛ばした石が、秋司が飛ばした氷を砕いて貫通し、秋司の右腕や左腕、右太ももや左脛に命中する。


「ぐわっー」


石が命中した箇所は切れ、血が垂れ始める。


「なんだー、そのへなちょこな術は?」


男はニヤつきながら秋司を見つめる。

秋司は血が出ている足を見る。


ぐ・・・。

僕の氷は一発も命中しなかった・・・。

全部あの石に砕かれた・・・。

はっ・・・。

あいつはどこに。


秋司が顔を上げると、男の姿がなくなっていた。


「まったくー。鈍いねー」


男は秋司の左横に移動しており、秋司の左脇腹に右足の横蹴りを当てる。

秋司は三メートルほど右へ吹っ飛び、その場に倒れる。


ぐはっ・・・。

い、痛い。

なんて強力な蹴りなんだ。

普通の蹴りだとは思えない。


「君に用はないし。とどめ、いっちゃうよー」



秋司が男と対峙していた頃。

健治ももう一人の男と対峙していた。


「てめー。よくもー。血転術炎転、炎球」


健治が炎球を放つが男は飛んでそれを避ける。


「随分と遅い炎球だな」

「くっ・・・。いや、まだだ。血転術土転、土固」


健治は男が着地すると同時に、男の両足を脛あたりまで土で固めた。


(よし。これで動けないだろう。あとは炎球を当てれば・・・)


健治が炎球の血転図式を描こうとすると、男は両足を動かして固められた土を破壊しそのまま健治に向かって走り出す。


(な、なんで・・・)


「あんなもので俺を抑えられるとでも? 血転術雷転、雷拳」


男が血転図式を描くと、男の右拳に雷が纏われる。

男はその右拳で健治の腹部を殴る。


「ぐはっっ」


健治は八メートルほど後方へ吹き飛び、その場に倒れた。


「く、くそっ・・・」

「終わりだ、ガキ。本物の炎球を見せてやる」


男は健治に炎球を放とうとするが。


「えぇーん。とおちゃーん」


男の後方にある瓦礫の近くで、一人の子供が泣いている。

子供の視線の先には、瓦礫の下敷きになっている男性の姿があった。


(・・・。も、もしかして。俺の炎球で・・・)


その崩れた倉庫は、元々男の襲撃で崩れかかっていたが、健治の放った炎球がとどめとなって崩壊したのだ。

健治はそれを感じ、顔が真っ青になり、思考と身体が固まる。


「うるさいガキだな。まずはお前からだ」


男は健治に向かって放とうとしていた炎球を、泣いている子供に向けて放とうとする。


「はっ。やめろーー」


思考が動き始めた健治は、叫び声を上げるが・・・。



一方、秋司にとどめを刺そうとしている男。

男は血転図式を描き、右手で手刀を構える。


「さようならー」


男はそう言いながら秋司に急接近し、秋司の左胸部を目掛けて右手の指先で突こうとする。


「う・・・」


避けられない・・・。


秋司は座り込んだまま、男の動きも見ることができずに両腕を顔の位置まで上げる。

が、秋司に男の攻撃は当たらなかった。


「くっ・・・」

「ゆ、佑香ちゃん」


佑香が男の攻撃を左上腕で受けたのだ。



「佑香ちゃん・・・」

「だ、大丈夫だから。それより、こいつが村を襲っている奴ね?」

「う、うん。そうだよ」

「じゃあ、一緒に倒すよ」

「うん。分かった」


こいつは凄く強いけど、佑香ちゃんと一緒なら倒せる・・・。

待って。

僕が足手まといになったりしないかな・・・。

ううん、今はそんなことを考えている場合じゃない。

決めたんだ。

今度は僕が守ると・・・。

守る・・・?


「秋司、行くよっ」

「あ・・・。う、うん」


考え事をしていて固まっていた秋司は、佑香の声で動き出す。

しかし・・・。


「う・・・」

「ゆ、佑香ちゃん?」


佑香がその場に座り込んだ。


「きゃーはっはっは。さっきの俺っちの攻撃にはなー。毒が含まれていたんだよー」

「ど、毒だって・・・」

「そうだよー。もしかして、君たちは解毒術を使えないのかなー? それじゃあ、もう終わりだねー。さっ、どうするー? どうするーー?」


男の言葉を聞いて、焦りと不安の表情を浮かべる秋司。

男はそんな秋司の表情と声を聞いて、解毒術を知らないのではと感づき、テンションが上がりだす。


「そこの女はもうおしまい。次はお前だよー」


男は再び血転図式を描き、右手で手刀を構える。


くっ。

どうする?

避けるしか・・・。

でも、狙いが僕なら、これ以上佑香ちゃんが狙われる心配はないよね。

それなら、受けてやる。

まって、そしたら村はどうなるんだ・・・。

僕たちが倒れたら、村は・・・。

く・・・。

それなら、毒を受けて村も守ってやる・・・。

守る・・・?


「終わりだー」

「はっ・・・」


再び考え事をして固まっていた秋司。

そんな秋司に接近する男。


く・・・。

動け・・・。

まずは避けることを試すんだ。

うぅ・・・。

ダメだ、避けられない。


秋司は目を思いっきり瞑りながら全身に力を入れる。

しかし、攻撃を受けた感覚がない。

秋司はゆっくりと目を開くと、目の前には半透明の壁があった。


・・・。

あの時の・・・。


秋司はあの日自分を助けてくれた青年を思い出した。

秋司が後方空中を見ると、そこにはムササビに支えられながら、傘が空中から降ってくるようにゆっくりと降下している、浮符鄔の姿があった。


「誰だ? あのジジイは」


男は浮符鄔を見て声を漏らす。


「ん・・・? リス・・・?」


座り込んでいる佑香の元へ一匹のリスがやってきた。

そのリスは攻撃を受けた佑香の左上腕に軽く噛みついた。


「・・・? あれ・・・? 苦しくない。痛みが引いていく。毒がなくなった・・・?」


佑香は、自身の身体から毒が抜かれるのを感じた。


「わしの弟子が世話になってるようじゃのう」


浮符鄔は秋司と男の間に着地して、男を見つめる。


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