5話 教えて、血転術
いつもより、鳥の鳴き声が大きく聞こえる。
いつもより、空気が薄い気もする。
いつもより、寝心地が悪いような気もするなー。
そんなことを思いながら、秋司は目を覚ます。
ふと横を見るとそこにはぐっすり寝ている健治の姿があった。
そして、秋司と健治の下には、藁が敷かれていた。
・・・。
そうだ、僕たちは昨日、浮符鄔さんの家に泊まったんだった。
確か、キノコばっかりの夕食を食べて、ドラム缶のお風呂に入って、そして敷布団は二つしかないからと、僕と健治君は藁の上で寝ることになったんだった・・・。
秋司は居間に足を運ぶと、既に浮符鄔と佑香は起きていた。
「ほう、起きたか。もう一人はどうした?」
「おはようございます。健治君はまだ寝ています」
「そんなら起こしてこい。朝ご飯じゃ」
浮符鄔さん、初めて会った時は少し関わりづらい感じがしたけど、優しい人だなー。
秋司は健治を起こし、四人で朝食を食べ始めた。
今日もキノコばっかり。
というより、白米と味噌汁以外キノコだ。
味噌汁の具材もキノコだけど。
四人は朝食を十分ほどで食べ終え、木で作られた食器を片付けた。
「ほれ、もう一度座るんじゃ」
浮符鄔の一言で、再び席に着く三人。
「お主ら、血転術を学びたいんじゃろ?」
「はい」
「おう。教えてくれるんだろ、じいさん」
浮符鄔の問いに、元気よく返事をした秋司と健治。
「うむ。教えてやるとも」
「よっしゃー。じゃあ、外に出よーぜ」
「待て。ここでええ」
勢いよく外へ出ようとする健治を止めた浮符鄔。
「え? ここじゃ、危ないだろ?」
「ええか? 血転術を扱うには、最低限二つのことが必要なんじゃ」
立ち上がったままだった健治は、浮符鄔の言葉を聞いて、椅子に座った。
「二つ・・・。それはなんですか?」
「一つ目は体内の業血司を感じ取れることじゃ」
「なーんだ。それなら俺たち、もう感じ取れるぜ」
秋司は不安を感じつつ尋ね、浮符鄔は真剣な眼差しで答えた。
その答えを聞いた健治は、不安が吹き飛び、元気よく声を発した。
「ほっほ。そうらしいのう。それなら、一つ目は大丈夫じゃ」
「二つ目はなんですか?」
「二つ目はのう、血転術を出すための血転図式じゃ」
「血転図式・・・。なんですかそれは?」
秋司は首をかしげながら質問した。
浮符鄔は血転図式について話し始めた。
血転図式は、血転術を出すために必要な図式で、その図式を業血司で描くと血転術が発動する。
血転図式で描かれる図は全十二種類で、丸、四角、三角、五角形、台形、三つ葉模様、ひし形、星形、六角形、三日月形、扇形、ハート形。
これらの図形を様々な順番で描くと、血転術が発動する。
うーん、そっか。
あの時、男の人が何かを人差し指で描いていたけど、それは図形を描いていたのか。
話を聞いていた秋司は、べいこま村を襲ってきた男の行動を思い出して、納得した。
「なるほど・・・。どういうことだー?」
「・・・。お主、全く理解しておらんじゃろ?」
話を聞いていたが、全く理解できていない健治。
そんな健治を薄い目で見つめる浮符鄔。
「つまりじゃ、例えば丸、三角と順に描くじゃろ。その後に、なんでもええからもう一つ図形を描くと・・・」
浮符鄔は右手の人差し指で丸、三角を空中に描き、その後丸を描いた。
すると、浮符鄔の右掌の上に、炎が発生した。
「おおーー。すごーーい」
「おおーー。すげーー」
秋司と健治は興味津々で、目を輝かせながらその炎を見つめる。
「ま、こういうことじゃ。炎属性の血転図式はまず丸を描き、次に三角を描く。そうすれば、炎属性の血転術を出すことができるんじゃ」
「はい。でも、さっきその後にもう一つ図形を描いていましたよね?」
浮符鄔の言葉を聞き、元気よく返事をした秋司だったが、すぐに疑問が浮かび、質問した。
「うむ。炎を出すだけなら、丸、三角の後はなんでもええのじゃが、術を出すには決まった図形を描く必要がある」
「へえー。やってみてくれよ、じいちゃん」
浮符鄔の言葉を聞いて、興味津々に頼む健治。
「ふむ。じゃがその前に、まずは今わしがやったように、お主らも炎を出してみよ」
「よーし、任せとけっ」
浮符鄔の課題に、健治は勢いよく取り組み始めた。
「よし、描き終わったぜ。ファイアーー・・・。あれっ」
健治は、丸、三角、丸と右手の人差し指で空中に図形を描いたが、何も起こらなかった。
「お主、業血司を使って描いたかのう?」
「あっ・・・。忘れてた・・・」
「ええか、体内に感じる業血司を、図形を描く指先に流して集め、それをインクとして描くんじゃ」
浮符鄔の指摘を受けて、少し落ち着く健治。
「よーし。やってみよっ」
続いて秋司が空中に図形を描く。
業血司を右手の人差し指の先に集めて、丸、三角、丸。
よし、描けたぞー。
「・・・。あれ・・・」
しかし、秋司も炎を出すことはできなかった。
「ふむ。丸、三角は同じ紙に、その後の図形は別の紙に描くイメージじゃ」
「別の紙? 何言ってんだ? 紙なんてねーじゃん」
「だーかーらー、イメージじゃーー」
浮符鄔の言葉を全く理解していない健治の声を聞き、大声を上げた浮符鄔。
別の紙か・・・。
うーん。
どういう感じなんだろう?
うん?
考え事をしている秋司の右隣から、炎が発生する音が聞こえてきた。
「佑香ちゃん、すごーい」
「マジかよ。佑香、できてんじゃんっ」
「ほほう。お主、凄いのう」
佑香の右掌の上に、炎が発生している。
それを見て、秋司、健治、浮符鄔が順に声を発した。
「ええか。血転術を扱うにはそれ以前の基礎が大切じゃ。まずは血転図式に使う図形十二種類を全て覚え、炎などを出すところから始めるのじゃ」
「はい」
「おう」
「はい」
浮符鄔の言葉を聞いて、秋司、健治、佑香が順に返事をした。




