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4話 感じる業血司

うーん。

手がかりは、熊が好んで食べるということ。

熊が好んでいるってことは、ハチミツの味でもするのかな?

兎に角、熊を探すのが得策かな。


三人はまず熊を探し出し、そして熊を尾行することに決めた。


熊か。

行きの時は遭遇しなかったから、行きとは違う方向に行ってみよう。


秋司たちは、西方向へ歩き出し、熊を探し続けた。

しかし、中々見つからない。


うーん。

熊って魚も好きだよね。

小川とか、渓流とかにいるのかなぁ?


三人は作戦を変え、渓流を探し始めた。

少し歩くと、川の流れる音が微かに聞こえてきた。


「あったー」


秋司は達成感の笑顔を浮かべながら渓流に近づき、両手を広げて身体を伸ばした。

そんな秋司の左手を引っ張り、岩に身を潜める健治。


「健治君?」

「おい。あれ、熊だろ」


健治が指差す、渓流を越えた向こう側を見ると、そこには体長三メートルを超える茶色い毛色の熊の姿があった。


「で・・・でかーーー」

「で・・・でけーーー」


秋司と健治は、目を大きく開いて大声を漏らしたが、すぐに手で口を抑え、岩に寄りかかって座り込んだ。


「あ、あれを追うのか?」

「う、うん。お、追おう」


冷や汗をかきながら尋ねた健治の問いに、同じく冷や汗をかきながら答える秋司。

少しすると、熊は歩き始めた。

冷や汗をかき、身体を震わせながら恐る恐る足を前に出す秋司と健治。

普段と変わらない様子で歩く佑香。

三人は渓流を渡り、熊を尾行する。


「お、おい。ところで、熊を尾行してどうするんだ?」

「それは、尾行して珍しいキノコを見つけて・・・。あれ。キノコを見つけてもどうすればいいんだろう・・・」


顔を近づけながら、小声で尋ねる健治の問いに、同じく小声で話す秋司。


どうしよう。

キノコを見つけたとしても、あの熊に食べられちゃうし。


「おい、秋司。あれ・・・」


秋司が熊に見つからないようにキノコを採取する方法を考えていると、健治が熊の行く先にあるキノコを発見した。


えぇ・・・。

ど、どうしよう。


「僕があの熊を惹きつけるから、健治君と佑香ちゃんはその間にキノコを採って、ここから離れて」

「は・・・? それじゃあ、お前が危険すぎる。俺が惹きつける」

「でも、それだと健治君が危ないよ」

「俺の方が秋司より足が速いだろ。それに俺の方が声もでかいし」

「それはそうだけど・・・。え、声・・・?」

「兎に角、キノコは任せたぞ」


そう言うと、健治は秋司と佑香から離れていく。


健治君・・・。


秋司たちは息を潜め、キノコに近づくが。


あれ・・・。

佑香ちゃんがいないけど・・・。


秋司は自分の周りを確認すると、佑香の姿が見当たらなかった。


「おーーい。そこの熊ーー。こっちで遊ぼーぜー」


健治君、声が大きいって、そういうことだったの?


健治は、熊と距離を取り、大声で熊に話しかけている。

その声を聞いた熊は、健治の方を向き、じっと見つめている。


よしっ、凄いよ健治君。

これなら、熊にバレないでキノコを採りつつ、健治君たちも危険な目に遭わずに済む。


熊がその場から動かず、静止している様子を見て、安心したような表情を浮かべる秋司。

しかし、そんな安心はすぐに崩れる。

秋司はキノコに辿り着き、採取する。

無事にキノコを採取し終え、秋司がその場を離れると。


ん・・・。

け、健治君っっ?

まずいよ、走ったら・・・。


健治は秋司がキノコを採取して離れたのを確認すると、背中を向けて、猛ダッシュで走り始めた。

その姿を見た熊は、健治を猛ダッシュで追いかけ始める。


「健治君ー」


まずいことになった。

熊は、逃げる生物を追う習性がある。

しかも、あの熊、凄く速い。

どうしようこのままじゃ、健治君が危ない。


秋司は健治と熊を追いかけ、走り始める。

少しすると、見えなくなるほど離れていた熊の姿が、急に大きく視界に映り始めた。


はっ・・・。

岩壁だ・・・。

ということは、行き止まり・・・。

け、健治君。


秋司が熊に近づくと、岩壁に行く手を阻まれ、追い詰められた健治の姿があった。


大変だ。

なんとかしないと。

そうだっ。


秋司は熊に向かって、右手に持っているキノコを投げつけた。


熊が好むキノコなら、あのキノコに熊の意識が向くはず。

そうすれば、その隙にここから離れることができる。


秋司の投げたキノコは、熊の頭に当たった。

熊はキノコに夢中・・・、になることなく、秋司に視線を向け、走り始めた。


えぇーー。

な、なんでーー。

あ、頭に当てちゃったのがダメだったのかな・・・。


秋司は急いで逃げ始めるが、熊の方が圧倒的に速く、差がすぐに縮まる。


はあはあ・・・。

ダメだ、追いつかれる。

もうダメだ・・・。


諦めかけた秋司の脳内に、突如自分を助けてくれた青年の姿が浮かんだ。


違う、諦めちゃダメだ。

僕はあの人みたいになりたい。

これが夢というものなら、初めてできた夢かもしれない。

あの人のような、業血司使いになりたい。

だから、その夢のためにも、諦めちゃダメだ。

諦めるものかー。


目を思いっきり瞑り、諦めかけていた秋司の表情は、目を見開き、力強い表情に変わった。


うん? 

なんだろう、これ・・・。

はっ・・・。


「健治君っ」


秋司が逃げていると、健治が熊に向かって小石を投げ、秋司の元へやってきた。

熊の動きは止まり、二人を見つめている。


「秋司。お前、何無茶なことしてんだよっ。でも、助かったぜ。ありがとっ」

「こっちこそ助かったよ。ありがとう」

「ふっ。だが、まだ助かってないようだぜ」


健治と秋司は怒り震える熊を見て、緊張感が走る。


「なあ、秋司。今、俺の体内に感じたことのない何かを感じるんだ。気持ちとかそういうものじゃなくて、こうエネルギーみたいなものを」

「健治君も? 僕も今感じるようになったんだっ。これって、もしかしたら・・・」

「ああ。でもどうやって使えばいいか分からねーし」

「それなら、僕に考えがある」


熊は、二人を目掛けて、再び走り始める。

二人も熊に背中を向けて走り出す。

二人と熊の差は、あっという間に縮まる・・・、ことなく、あまり縮まっていない。

それでも、徐々に差はつまり、やがて追いつかれそうになる。


「健治君、やるよっ」

「おうっ。行くぜっ」

「うおおおおお」


追いつかれそうになった二人は走りながらジャンプする。

二人はなんと二メートル以上飛び、太い木の枝に飛び移る。

そのまま他の木の枝に飛び移りながら、木の枝を足場にして上空を移動する二人。

熊は追うのを止め、その場に立ち尽くしている。


よしっ。

上手くいった。

あの熊は大きくて体長は三メートルを超えているかもしれないけど、体高は二メートルもない。

それなら、この高さまで飛んでそのまま逃げることができれば、追いつかれることはない。


二人はそのまま移動し続け、少しして足を止めた。


「もう大丈夫そうだね」

「だな。そうだっ。秋司、これ」


健治は秋司に向かって、キノコを軽く投げて渡した。


「これ・・・。ありがとう。でも、あの熊、このキノコに全く興味なかったよね」

「・・・。確かになー。じゃあ、これじゃねーのかな。熊が好んで食べる珍しいキノコっていうのは」

「ふふっ。そうかもね。でも、一応持って行ってみようよ」

「ふんっ。あのジジイのことだから、ぐちぐち文句でも言いそうだけどな。あっ、そういえば佑香を探さねーと」

「あっー。佑香ちゃん、急にいなくなって、どうしよう・・・。早く探さないと」

「あー・・・。佑香ならそんな心配しなくても大丈夫だと思うけど・・・。そうだな、早く探そうぜ」

「何言ってんの健治君っ。心配じゃんっ」

「あぁ・・・。それはそうなんだけど・・・」

「うん?」


この後、二人は佑香を探しに走り始めた。

秋司は走りながら、少し様子がおかしい健治に佑香のことを聞いた。


「えー? じゃあ佑香ちゃんもこのエネルギーを感じているってこと?」

「ああ。なんかすげー足が速かったし」


どうやら佑香ちゃんは、健治君が熊から逃げている時に、横から小石を投げて熊の注意を自分に向けたらしい。

そのまま熊に追いかけられたけど、佑香ちゃんの足が凄く速くて、逃げて行ったと。

健治君は心配して、そのまま佑香ちゃんと熊を追いかけて走ったけど、立ち止まっていた熊だけが視界に入ったらしく、その場に争った形跡が全くなかったことから、佑香ちゃんは逃げ切ったと考えたらしい。

でも、無事が確認できるまでは心配だな・・・。


そう思いながら走っていると。


「あー、やっほー」


上空から佑香の声が聞こえてきた。


「ゆ、佑香ちゃん?」


なんか凄いけろっとしているというか、全然緊張感がないような・・・。


「佑香ちゃん、無事でよかった」

「あんたたちこそ、無事だったんだ。よかったぁ」


その後、二人は佑香に話を聞きながら浮符鄔の丸太小屋に向かって走り始めた。

すっかり時は流れており、夕日が山を照らしている。


佑香ちゃんは僕たちと同じように木の枝に飛び移って熊から逃げたと。

無事に逃げ切ったら、今度は大きな蛇に追いかけられたらしく、その蛇からも逃げ切り、今に至ると。


「それで、キノコは採ったの?」

「うん。でも、僕たちが探していたキノコじゃないかも」

「ふーん。そっか。でも、あのおじいさん、キノコなら喜ぶんじゃない?」


佑香と秋司がそんな会話をしていると、丸太小屋が視界に入ってきた。


「よし。着いたな」

「うん。あのー、すいません。浮符鄔さーん」


丸太小屋を見つめる健治の隣で、秋司が浮符鄔に呼びかける。


「なんじゃー。うるさいのうー・・・。って、さっきのガキどもじゃねーの。まーだおったのか? なんのようじゃ? 血転術なら、教えんぞー・・・。おい、そこのガキ。その右手に持っておるキノコはなんじゃ・・・?」

「これですか? これは・・・」

「見せてみろっ。おぉー・・・。これはハニマじゃないか。これは珍しい。これ、わしにくれんか?」

「え・・・。いいですけど・・・」

「ちょっと待てっ」


秋司が浮符鄔にキノコを渡そうとすると、その手を健治が掴んで止めた。


「秋司、俺に任せろ」

「う、うん」


秋司は健治にキノコを預けた。


「なあ、じいさん。これ、欲しいのか?」

「当たり前じゃ。そのキノコは珍しいんじゃ。ほれっ、早くくれー」

「えーー。どうしようかなー。珍しいなら、ただで渡すのはなー?」

「な、何が欲しいんじゃ? 言ってみぃー」

「血転術を教えてよっ」

「え・・・。それは・・・」

「じゃあ、この話はなかったことに。このキノコは他の人にあーげよっ」

「わ、分かった。教えてやる。教えるからそのキノコをくれー」

「マジでー。ありがとうじいちゃんっ」


交渉の末、健治は浮符鄔にキノコを渡そうとする。

しかし、それを止める佑香。


「佑香?」

「ちょっと待って」


佑香は、健治からキノコを取り、浮符鄔に話しかける。


「おじいさん、このキノコを今渡したら、おじいさんが血転術を教えてくれる保証がないよねっ」

「な、なんじゃとー。わしは約束は守るぞー」

「・・・」

「なんじゃその目はー。信じておらんなー。わーしーはー、約束はー、守るっ」


ジトーッと視線を送る佑香に対して、大声で反論する浮符鄔。


「佑香ちゃん。もうあげよっ。ねっ?」

「そうだぜ佑香ー。それに、ジジイが裏切ったら、また探せばいいじゃねーかっ」

「・・・。まあ、あんたたちがそれでいいならいいよ」


佑香は秋司にキノコを渡した。

キノコを受け取った秋司は、そのまま浮符鄔にキノコをあげた。


「おー・・・。ありがとうーー」

「それじゃっ、明日また来るからな、じいさん。ちゃんと教えてくれよっ」

「ちょっと待てー」


健治の言葉を聞いて、帰ろうとする三人を止める浮符鄔。


「お主ら、どこに行くんじゃ?」

「どこって、帰るんだよっ」

「何を言っておる。夜の山は危険じゃ。今日はもう遅い。泊まってゆけ」


浮符鄔は健治の言葉を聞き、泊まっていくことを勧めた。

三人は今日起きたことを振り返り、素直に浮符鄔の言うことを聞いて泊まることにした。


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