37話 実力試験4 秋司VSケンバス
灯詠学園入学試験二日目。
第四試験会場のモニター室。
そこに、試験官が数名、椅子に座り、試験の様子を見ている。
「はわーあ」
大きな欠伸をしている男性、黒髪の短髪でボサボサ、鼻の下と顎に黒い髭を生やしている、滝埼隆麻。
ボロボロのソファーに横たわりながら、涙を浮かべた目でモニターを見ている。
「それにしても、これは・・・」
「ええ、想定外ですね」
モニター室にいる試験官AとBは驚愕した様子で一つのモニターを見つめる。
そのモニターには、赤色ロボットを一人で倒した、リーズ・ヴェーグナーの姿があった。
「赤色ロボットは、受験生には手に負えない強さになっているはずなんですが、倒されるとは。それも、余力を残して・・・」
試験官Cは震えながら声を発する。
「ええ。正直、青色ロボットをスムーズに撃退することができれば、受験生の実力としては十分ですが・・・。黄色ロボットは実力のある受験生数人で倒せるレベル。赤色ロボットは、倒せないようになっているはずですがね・・・」
「ふっ。そんなの誰が決めたんだよっ。実際倒せる奴がいたんだし。それが全てだよっ」
試験官Bの言葉に、目を瞑りながら反応した隆麻。
(とはいえ、とんでもない受験生がいたもんだな。リーズ・ヴェーグナー。既に名は広がっていたが、想像以上だ)
隆麻もリーズの実力に一目置いていた。
「あ。こっちでは受験生同士で争っていますね」
試験官Aが見つめるモニターには秋司たち十チームとケンバスたち四チームの姿が映っていた。
「ようやく会えたな、牧本秋司」
「ケンバス・オコナー・・・」
秋司は真っ直ぐ引き締まった表情で、ケンバスは笑みを浮かべながら視線を交わす。
「ケンバス、俺たちは箱を手に入れたし、出口に向かおーぜ」
「ああ? そんなの知らねーよ。俺はこいつをぶっ潰してーんだよ。出口に行きたきゃ勝手に行けっ」
ケンバスはチームメイトであるバンズの提案を無視し、一直線に秋司目掛けて走り出す。
「いーや、箱をお前が持っているんだって・・・」
バンズは呆れた様子でため息を漏らす。
そんなバンズのため息は当然ケンバスには届かない。
ケンバスは秋司に近づくと、打撃を次々に繰り出し、近接戦に入る。
秋司も打撃を繰り出し、応戦するが、防御にまわることが多い。
「おらおら、どうしたぁー? こんなもんかぁー?」
「そっちだって、一発もまともに入ってないよ?」
「はっは。すぐにぶち込んでやんよー」
ケンバスは少し距離を取り、血転図式を描く。
「血転術炎転、炎輪」
ケンバスは炎転の基本図式を描き、発動図式に丸、五角形、丸を描く。
そして、左腕をボウリングの球を、カーブで投げるように動かす。
すると、炎でできた車輪が外に一旦膨らみ、すぐに内側へ強く切れ込み、秋司に接近する。
「くっ・・・。血転術風転、風昇」
秋司は自分の足元に威力を抑えた風昇を発動して、自身を少し上空に飛ばす。
「はっは。今度はお前が風船になんのかよー。ミスター風速一メートル、微風野郎が」
ケンバスは操術で宙に浮き、左人差し指を降下している秋司に向ける。
まずい、操術か。
く・・・、反応が遅れた・・・。
秋司の右腕がガッチリと固まる。
「はっはっは。右腕、もらったーー」
「くっ・・・」
「どうしたー? またグレープフルーツでも頬張っているのかー?」
ケンバスは秋司の苦い表情を見て、煽った。
そんな中、ボカへたち他の四人は作戦会議をしていた。
「あいつらは箱を持っている・・・」
「それなら戦うでしょ? それとも、ビビって戦わないのかな?」
「な・・・。戦うに決まっているだろ」
ボカへの声が段々と小さくなるのを聞いて少し煽った口調で話すトレッチ。
トレッチたち四人は、四チームの四人に接近し、攻撃を仕掛ける。
しかし、ボカへは四チームの四人に近づいたものの、かなり後方の位置で身を潜め始めた。
バンズたち四チームは十チームが接近して来るのを読んでいたかのように待ち受け、攻撃を繰り出す。
く・・・。
一方秋司はケンバスの操術に苦戦していた。
「おいおい。そういえば桜日にはゴーヤっていう苦い食べ物があるらしいな。なんだっけ。ゴーヤチャンポン? なあ、それでも食ってんのかー? 戦っている最中なのによーー」
ケンバスは秋司の苦しそうな表情を見て、テンションが上がる。
右腕が動かない。
操術は指揮棒を使って操るイメージ。
今、その指揮棒はあいつの左人差し指。
今、僕の右腕はその指揮棒に捉えられた状況。
操術で行動を操るにはその指揮棒を振る必要がある。
つまり、左人差し指が少なからず動く。
操術にかかった時の対処法は身体術や回復術による解除方法とあの指揮棒から外れるしかない。
僕は身体術も回復術も扱えない。
指揮棒の狙いから外れるしかない。
「血転術風転、風降」
秋司は左手で風転の基本図式を描き、発動図式に扇、四角を描く。
そして、左手を地面につけるとケンバスの上空から地面に向かって風が吹く。
「あ? なんだぁ・・・?」
宙に浮いていたケンバスはフラフラとゆっくり降下し地面に足をつける。
よし、威力を抑えて風に強弱をつけたから、あいつは空中でバランスを保てなかった。
そのおかげで、指揮棒の狙いから外れた。
「血転術風転、突風出」
秋司は風転の基本図式を描き、発動図式に扇を三回描く。
そして、右掌をケンバスに向けて、右腕を伸ばす。
すると、風出よりも強くて広い範囲で風が吹き出す。
「あ・・・?」
ケンバスはゆっくりフラフラと降下させられたことで気が抜け、反応が遅れた。
なんとか右に移動したが左側腹部に風が命中し、左回転に回りながら後方へ吹き飛び、瓦礫に衝突した。
「あれ、さっきまでの笑顔はどうしたの? ああ、グレープフルーツを頬張っているのか。ちなみに、有名な料理はゴーヤチャンプルーね」
「ぐはっ・・・。はっはっは・・・。はーはっはっはっは。やってくれるじゃねーか、まきもとぉぉぉぉぉーーーーー」
ケンバスは狂ったような笑顔を浮かべながら雄叫びを上げる。
ケンバス、やっぱり強い。
思いっきり放ったのに、そんなに大きなダメージになっていない。
でも、負けるかーー。
声には出さないものの、闘志がみなぎっている秋司。
「うおおおおおー」
うおおおおおー。
ケンバスと秋司がお互いに向かって走り出そうとした時。
「おわぁーー。逃げろーー。あぶねーぞー。そこーー」
えっ・・・?
り、リスタくん・・・?
なんか右頬が少し赤いけど・・・。
秋司とケンバスの間(秋司に近い位置)に、どこからともなくリスタが猛ダッシュでやってきた。
そんなリスタの後ろには、リスタを追う五体の青色ロボットの姿があった。
「いっ・・・。まずい。逃げろーー」
その様子を見た秋司はリスタの横に並んで走り出す。
「え・・・? 秋司ー? なんで一緒に逃げたぁー?」
(あのロボットたち、今逃げていた子しか追っていなかったのに・・・。ま、まあ確かに秋司ーがいた位置に近かったし。しょうがないか・・・)
リスタと共に逃げ出した秋司を見ていたトレッチは疑問をこぼした。
秋司は自分も追いかけられると思い、ロボットに近づかれる前にスタートをきったのだ。
しかし、五体のロボットはリスタのことしかターゲットに捉えていなかった。
秋司がリスタの横に並んだことで、今や秋司もターゲットになってしまったのだが。
「おい、待てよ、まきもとぉぉーー。ゴーヤチャンポン、微風野郎ーー」
ケンバスは遠ざかる秋司に向かって大声を発する。
「ゴーヤチャンピオン? 何それ?」
「ゴーヤチャンプルー。料理の名前だよ。ところでリスタくん・・・。これ、どうするー?」
「どうするって・・・。逃げるしかなくね?」
「・・・。うん、そうだね・・・」
「逃げろーー」
リスタと秋司は冷や汗をかきながら同時に大声を発し、全力疾走で五体のロボットから逃げる。
試験終了まで残り三十分。




