33話 血転術基礎試験2
灯詠学園試験日一日目。
丸二試験会場の部屋の、七番スペースに並んでいる秋司。
秋司は七番スペースで行われる試験、幻術をスムーズに発動し八番スペースに移動する。
うん?
もう終わった受験生がいるんだ?
でも、この部屋に残っている。
全員が終わるまでは出れないのかな?
秋司は八番スペースで列に並びながら、部屋の中央にいる数人の受験生を見つめた。
少しして、全十系統の試験を終えた秋司と透。
二人も部屋の中央に向かった。
うぅ・・・。
結局、属性術、生成術、幻術、結界術、召喚術しか発動できなかった・・・。
基礎試験は終わったけど、なんで試験官の人は中央に集まるように言ってきたんだろう?
もうほとんどの生徒は終わっているよね。
明日の試験について、何かあるのかな?
秋司が明日行われる試験について考え事をしていると、この部屋にいる受験生全員が血転術の基礎試験を終え、中央に集まった。
「それでは、血転術基礎試験を終わりにします」
・・・。
それだけ?
特に明日の説明とかはないのかな?
うん?
なんだ?
秋司は左を向き、部屋の壁を見つめる。
すると、壁に僅かな穴がいくつも空き、そこからなんらかのガスが部屋の中に放出される。
「なんだ? この煙は?」
「何? どこかで火事?」
他の受験生もそのガスに気が付く。
そのガスはあっという間に部屋中に広がった。
なんだろう、この煙は?
うーん、ガスか?
少し黄色っぽい色をしているな。
あれ、試験官はどこ?
さっきまで前で話をしていたのに。
他の試験官の姿も見当たらない。
このガス、壁に空いた穴から入ってきた。
これも試験なのかな?
それとも試験とは関係のない、誰かの仕業か?
どっちにしろこのガス、ただのガスじゃない。
このガス、上空に広がっている。
それなら、あんまり吸わないように体勢を低くしよう。
秋司は体勢を低くして、右手で口と鼻を押さえる。
「牧本君?」
そんな秋司の姿を見た透も、体勢を低くする。
「みんな体勢を低くしようよ」
「ああ? だいじょーぶだよ。ここは灯詠学園だぜ。火事ならすぐに収まるって。そんなことする必要ねーよ」
秋司は受験生全員に聞こえるように声をかけるが、その声を聞いても半分くらいの受験生はその場に立っている。
「う・・・」
「あ・・・」
すると、立っていた受験生の何人かがその場に倒れた。
「これ・・・、毒だーー」
「なんだと、ぎゃああーー」
立っていた何人かの受験生はパニックになり、この部屋から出ようとするがドアが開かない。
そしてドア付近で倒れる数名の受験生。
く・・・。
このガス、毒だったか。
ダメだ、体勢を低くしていても、時間が経てば、いずれは僕たちもこの毒にやられる。
なんとかしないと。
ガスは風に弱い。
風転風昇を使うか・・・。
いーや、ダメだ。
ここは室内。
風昇を使っても解決しない。
結界術で防ぐか?
でも、僕の結界術のレベルじゃ、今結界を張ったとしても、結界内に毒ガスが・・・。
考えろ。
何か解決策があるはずだ。
室内で毒ガスを防ぐ方法。
換気?
でも、ドアは開かない。
こうなったら、ドアや壁に血転術を放って、破壊するしかない。
血転術氷転氷乱。
秋司は低い体勢のまま血転図式を描き、右側にある壁に向かって氷の塊を四つ放つ。
しかし、壁は全く壊れる気配がない。
この部屋の壁、硬い。
く・・・。
どうするか?
「おい、苦しそうだなお前。さっきはあんなカッコつけていたのに」
苦い表情を浮かべる秋司にケンバスは不適な笑みを浮かべながら歩いて近づき、話しかける。
この人はさっきの・・・。
なんでこの人は立っているのに平気なの?
この人の周りにガスがない・・・。
「ほら、プレゼントをやる。その、グレープフルーツを頬張ったようなツラを明るくしてやるよ。喜べ」
ケンバスは右人差し指で秋司をさす。
すると、秋司の周囲にガスが漂い始める。
はっ・・・。
この人、もしかして操術を使っている?
操術でガスの動きを操っているのか?
くっ、六角形、五角形、四角、四角、四角。
結界術発動。
秋司は自身の前方に結界の壁を張り、向かってくるガスを弾く。
「ふんっ。無駄なことを。もう遅い」
「血転術風転、風昇」
秋司は風昇を発動し、ケンバスを部屋の天井まで吹き飛ばす。
「くっ。こいつ・・・。だが無駄だ。俺はガスを操れる。上にいてもガスを吸うことはない」
「僕は別に争いたいわけじゃない。今は争っている場合じゃないだろっ」
「はっはっは。争っている場合じゃないのはお前だけだ。俺は争う余裕がある」
ケンバスはガスを操り、秋司に向かって飛ばす。
「召喚術、発動。まりすけー」
「よう秋司。また会ったな」
秋司は右ポケットからまりすけの毛を取り出し、召喚術を使った。
「まりすけ、お願い」
「はいはーい」
まりすけは周辺を見渡して状況を理解し、秋司の左手首の近くに噛み付く。
うん、身体が少しだるくなっていたけど、回復した。
多分だけどこのガスをある程度吸うと、時間経過で突然毒が効き始めて倒れる。
だから、今感じた少しの倦怠感が倒れる前の合図。
ギリギリだったな。
うん?
あれ、天井の一部にヒビが入っている・・・。
もしかして、天井は脆い?
秋司は自身が放っている風昇によって天井にヒビが入ったことに注目した。
まりすけがいてくれるから、あの人はもう無視していい。
風昇は相手を上空に飛ばす術。
威力は高くない。
それでも、ヒビが入っているってことは。
「血転術風転、風出」
秋司は風出を天井目掛けて右手で放った。
すると、突風が当たった天井の一部が崩壊し、ガスがその場所に吸い込まれていく。
天井全体が脆いわけじゃない。
特定の部分だけが脆いんだ。
ん?
秋司が右横を見ると、透も天井に向かって風出を放っていた。
透が放った風出が命中した場所も、一部だけ崩壊し、ガスを吸い込んでいく。
他の動ける受験生も天井に向かって血転術を放っていく。
少し時間が経つと、十箇所ほど天井に穴が空き、そこにガスが吸い込まれていく。
そしてあっという間にガスは部屋から消え去った。
「はあはあ、やった・・・」
「おう、やったな」
受験生たちは喜びの声を上げる。
「牧本君のおかげだね」
「えっ? いや、僕は何も」
ガスをどうにかするどころか、あの人と戦っちゃったし・・・。
「あ、まりすけ、倒れている人たちの毒を抜いてあげて」
「いいけど、全員は無理だよー」
秋司の言葉を聞いて、まりすけは倒れている受験生に向かって走り出そうとするが。
「その必要はない・・・」
「えっ?」
秋司の右斜め前からリーズがやってきて小声でそう呟いた。
「はい、お疲れ様でした。これで本日の試験は終了です。ちなみに、このガスは少しの間眠ってしまうだけで、有害な毒ではありません。安心してください。それでは、宿泊していただくお部屋までご案内しますね」
・・・。
よかったー。
有害な毒ではないんだ。
まりすけって確か毒以外にも痺れとかも解除してくれるんだよね。
意図しない睡眠も解除できるんだぁ。
すごいなぁ。
「ふっふっふ。秋司、今オイラのこと凄いと思ったな」
「うん、凄いよー」
「う・・・。ま、まあな」
まりすけは秋司のストレートな褒め言葉に照れて両腕を組み、そっぽを向く。
「じゃあ、オイラは帰るよー」
「うん、ありがとう」
まりすけは森に帰った。
それにしても、血転術基礎試験を室内で行う理由はこのガスだったか。
これも試験の一環ってことだよね。
あの人、確かリーズくん。
多分ずっと立っていて、一歩も動いていなかった。
自分の周りに結界を張っていたのかな。
それも、まるで全身に服を着ているかのような結界を張って、それでいてどこかに隙間を作って。
他の受験生が驚いていたけど、リーズくん、多分凄く強い・・・。
秋司はゆっくり歩いて出口に向かうリーズ・ヴェーグナーの背中を見つめた。




