30話 フィーべに向かって出発だ
灯詠学園入学試験まで一週間をきった。
「ははは・・・。はーはっはっはっはっはー」
・・・。
健治くん、どうしたんだろう?
浮符鄔の丸太小屋付近で、一人大声で笑い声を上げる健治。
「健治、学力試験で躓いたらしいよ」
「そ、そうなんだ・・・」
だから、様子がおかしいんだ・・・。
健治と佑香は昨日まで二日間、桜嵐学園の入学試験を受けに、桜日の中心地、桜富地区に足を運んでいた。
健治は、実力試験ではかなり手応えを感じていたが、学力試験ではやらかしたらしい。
「ぷぷぷ・・・。健治、どんまい」
「はーはっはっは・・・。なんで嬉しそうなんだっ、ジジイー」
健治は浮符鄔の胸ぐらを掴み、大声を発した。
「秋司は試験日の二日前からここを出発するんだよね?」
「うん。緋裕さんも一緒に行ってくれるんだっ」
健治と浮符鄔を横目に、佑香と秋司は秋司の試験について話していた。
灯詠学園の入学試験は一日目の午後に学力試験と血転術の基礎試験、二日目に実力試験が行われる。
試験期間中は灯詠学園敷地内の寮に宿泊することができる。
べいこま村からフィーべまではかなり距離があるため、二日かけて境界線まで行き、当日の午前に専用バスに乗って灯詠学園まで向かう。
秋司は当初一人で向かう予定だったが、緋裕もフィーべに用事があり、一緒に向かうことになった。
灯詠学園試験日三日前の夕方。
秋司は一人浮符鄔の丸太小屋に残って血転術の修行を行っていた。
「はあはあはあ。血転術氷転・・・」
秋司は氷転の術を打ち藁に放った。
「はあはあ」
「うむ。これなら、実戦でも十分に使えるな」
「はあはあ。やったー・・・」
浮符鄔の言葉を聞いて、秋司は笑顔を浮かべながらその場に背中から倒れた。
やった・・・。
ついに実戦でも使えるくらいの完成度になった。
僕の必殺技。
「遂に明日、出発じゃのう」
「はい。もうすぐ試験かぁ・・・。緊張するなー」
「ほっほ。まだ二日以上あるじゃろう。今から緊張してたら、身体が持たんぞ」
「はっはっ。そうですね。リラックスしないと」
「まあ、秋司。思いっきりやればええんじゃよ。大切なのは自分の力を出し尽くすことじゃ。気負わず、それでいて適度な緊張感を持って、今までやってきたことを出せばええんじゃ。頑張るんじゃぞ」
「はいっ」
秋司は浮符鄔の言葉を聞いて、さっきまでの疲れが吹き飛んだかのように、笑顔で元気よく返事をした。
灯詠学園試験日二日前の早朝。
秋司はべいこま村北部方面で緋裕を待っている。
すると、健治、佑香、浮符鄔の三人が秋司を見送りに来た。
「秋司、頑張れよっ。あんまり緊張すんなよー。気楽にだ。リラックスしてなっ」
「・・・。少しは緊張感を持った方がいいよ。じゃないと、健治みたいになるし」
「そうじゃのう。まっ、全力を尽くしてこい」
健治、佑香、浮符鄔は順に声をかける。
「うんっ。みんなありがとうー」
秋司は満面の笑みを浮かべた。
「おう、秋君。お待たせ」
「あ、緋裕さんっ」
秋司が健治たちと話をしていると、緋裕が待ち合わせ場所にやってきた。
「じゃあ、行ってくるねっ」
「おう。気合い入れてけよっ」
「頑張ってねっ」
秋司の声を聞いて、明るく見送る健治と佑香。
秋司と緋裕はフィーべに向かって出発した。
べいこま村からフィーべまではかなり距離があり、二日かけて桜日とフィーべの境目まで行く。
一日目に桜日の北部まで進み、二日目に境目付近まで移動する。
二人はまず桜日の中心地の桜富地区に向かう。
桜日の中心地である桜富地区まではどの場所からでも比較的楽に移動することができる。
木漏れ地区まで足を運んだ時のように何度も列車を乗り換える必要はない。
二人は列車の中で映り変わる景色を見ながら桜富地区に向かった。
あぁ・・・。
ここが、桜富地区・・・。
た、建物がたくさん・・・。
ひ、人も多い・・・。
それに、何あれ?
空飛んでる車ー?
ここ、同じ国なんだよね・・・?
健治君があそこは半端ないって言ってたけど、確かに半端ない・・・。
夕方頃、桜富地区に到着した秋司はその街並みを見て、圧倒される。
桜富地区は桜日の中心地であり、最大の地域。
桜嵐学園も桜日政府も、桜日血司隊本部もこの桜富地区内に所在する。
「緋裕さん、あの空飛んでる車に乗ればすぐに境界線まで行けるんじゃ?」
「はっは。でも、高いぞ? それに、境界線まで行くとしたら全然エネルギーが足りないよ」
それはそうか。
すごく遠いらしいし。
二人は列車に乗り、桜日の北部に向かった。
数時間後、すっかり暗闇が広がった頃。
二人は桜日の北部、普賢地区に到着した。
二人は普賢地区の宿に宿泊することにした。
翌日、二人は桜日とフィーべの境界線に向かって出発した。
二人は列車に乗り、少し歩き、また列車に乗り、十数時間後、ようやく境界線付近、桜日最北部の地区、白妙地区に到着した。
二人は近くの宿に宿泊することにした。
明日はいよいよ入学試験だ。
緊張するなー。
秋司は宿の縁側から月を眺めている。




