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28話 佑香の目標

木漏れ地区付近の砂原。


「ごほっ、偶々木漏れ地区に寄ってみたら、ごほっ、思わぬ収穫だったな・・・」


咳をしながら、こもった声で話す、紺色のマントを羽織っている男。

全身を覆うほど大きなマント。

フードも被っている。

口元に包帯を巻いており、足首、手にも包帯を巻いている。


(あの魔獣戦士ベケウメトが現れたと思ったら、今度はあの男が現れるとは・・・。風翔かぜかけの浮符鄔。老いてもなおこの実力か・・・)


その男は、木漏れ地区の反対方向へ歩き始めた。




木漏れ地区の境目。

そこには、木漏れ地区の業血司使いたちが地区を守るため、臨戦態勢に入っていた。

秋司と健治、佑香は木漏れ地区内に入り、治療を受けている。

そんな面々の視界に、浮符鄔が歩いて木漏れ地区に向かっている姿が入ってきた。

浮符鄔の姿を見た木漏れ地区の業血司使いたちは、肩の力を抜き、安心した様子で表情が明るくなる。


「ふ、浮符鄔さーん」

「ジジイーー」


浮符鄔の姿を見た秋司と健治、そして佑香は勢いよく木漏れ地区から飛び出し、浮符鄔の元へ走って行く。


「ふ、浮符鄔さん・・・。ぼ、僕、心配で・・・。ぐすっ」

「おいおい。男がそんなすぐ泣くなっ。男が泣いていい時はのう、かあちゃ・・・。兎に角、泣くなっ」


秋司は涙を浮かべながら浮符鄔に抱きつく。

浮符鄔はそんな秋司に、途中言葉を詰まらせながら少し戸惑った表情で声をかける。


「へへっ。結構ボロボロじゃねーか、ジジイー」

「ほっほ。なかなか手強くてのう・・・」


健治は右人差し指で鼻の下を擦りながら微笑んだ。

そんな健治の目元は、少し赤くなっている。


「全然元気そうですねっ」

「どこがじゃー。全身ボロボロじゃあー」


佑香が微笑みながら話すと、浮符鄔は佑香の言葉にツッコミを入れた。


(佑香は泣いてくれてもいいのにー・・・)


そう思いながら軽くすねた浮符鄔は、そっぽを向いた。


「三人とも、よく頑張ったのう。あやつ相手に最善を尽くし、時間を稼ぎ、そして何より生きた。大したものじゃ。はーはっはっはっは」


浮符鄔は三人の頭を順に撫でた。


今回、木漏れ地区全土を震撼させた出来事は、志岳が盗賊を使って魔獣戦士ベケウメトの封印を解くために必要な部品を二つ盗んだことで始まった。

木漏れ町を襲った業血司使いは、浮符鄔や血司隊の隊員、木漏れ町の業血司使いによって撃退された。

そして、長年ベケウメトの封印情報は謎に包まれていたが、志岳はどこからかこの情報を掴み、いつでも復活できる状態で持ち帰ろうとしていた。

しかし、偶々居合わせた秋司、健治、佑香、そして浮符鄔の活躍によって、木漏れ地区は守られ、さらにこの先の未来で起こるかもしれなかった危機を未然に防いだのだ。

秋司たち四人は、今いる位置から最も近いシラカシ町で一晩過ごすことになった。

秋司と健治は溜まった疲労を回復するべく、夕食を取り、入浴を終えるとすぐに眠りについた。

佑香は、浮符鄔の部屋を訪れ、縁側にいる浮符鄔に話しかけている。


「浮符鄔さん、連れてきてくれてありがとう」

「ふむ。佑香が自分で決めたんじゃろ。ここへ来ると。じゃが、危険な目に遭ったのに・・・。何かいいことでもあったのか?」


これ以上ないほど危険な目に遭ったにも関わらず、普段よりも明るい表情で満足げに話す佑香を見て質問する浮符鄔。


「私、目標ができたのっ。だから、ここに来てよかった」


佑香は明るい笑顔を浮符鄔に向ける。


「ふっ。そうか」


そんな佑香の言葉を聞いて、目を閉じながら、とても嬉しそうに微笑む浮符鄔。


(佑香は業血司使いに対する熱が低かったからのう。別にそれが悪いわけではないが、業血司使いとして歩んでいくということは、危険がついてまわる。佑香も、仲間や村が襲われたことで、それらを守りたいという気持ちは持っておったが、どこか仕方なく二人についてきている感がぬぐえなかった。業血司使いとして、これからの道をどう歩むかも決まっておらず、迷っておったじゃろう。じゃが、今回ここへ来て、何か吹っ切れたようじゃのう。良い目をしておる)


浮符鄔は去り行く佑香を見て、今度は佑香を見つめながら微笑んだ。



次の日の早朝。

佑香たち四人は帰り支度を整え、シラカシ町を発とうとしていた。

そんな四人の元へ、梅河めぐみがやってきた。


あ・・・。


「あー。ねーちゃんじゃねーか。無事だったのか?」

「うん。三人も無事でよかった」


健治の元気な声で発された問いに、笑顔で答えるめぐみ。


「あの時は助けてくれてありがとうございました」

「ううん。こっちこそ、三人のおかげで助かったよ」


秋司の言葉にも明るく返すめぐみ。


「まっ、佑香が来なかったらやばかったけどなっ」

「うんうん。僕たちだけだったら、全く歯が立たなかったもんね?」

「・・・。いーや、少しは通用しただろー。し、したよなっ?」


めぐみは健治と秋司のやり取りを聞いて佑香に近づく。


「へぇー、そっか。ありがとっ、佑香ちゃん」

「い・・・、いえ・・・」


めぐみはにこやかな笑顔で佑香の両手を自分の両手で優しく包み込む。

佑香は顔を赤くしながら、小声で答えた。

四人はシラカシ町を出て、木漏れ町に向かって走り出した。


あの人の手、凄く暖かかったなー。

それに、緊張して上手く話せなかったし・・・。

でも、いつか私もあの人のようになりたいっ。

全部じゃなくていい。

一つのことでいいから、私がいるから大丈夫だと、自信を持って言えるようになりたい。

そのために、もっと血転術を学んで、もっと色々な経験をして・・・、たくさんやることがあるなぁ。

でも、絶対叶えてみせるっ。

私の夢を。


「佑香ー、何一人で笑ってんだ?」

「・・・。うるさい健治っ」


一人笑顔を浮かべていた佑香に話しかける健治。

そんな健治に佑香は大きな声で言葉を返した。


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