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26話 諦めない心

木漏れ地区付近の砂原。

そこに秋司、健治、佑香の三人と、少し離れた位置で倒れ込んでいる志岳の姿があった。


「あっ・・・」


佑香が上空に視線を配ると、ソウウンズクの姿が消えそうになっていた。

召喚術のタイムリミットだ。


「ソウウンズク、ありがとう。力を貸してくれて」


(・・・。この子、森で会った時は曇っていたが、今は光が差し込み、すっかり快晴だな)


佑香の姿を見て、ソウウンズクは微笑みながら消えていった(森へ帰った)。


「よしっ。あれを取り返して帰ろうぜ」

「うんっ」


健治と秋司は離れた位置で倒れ込んでいる志岳に視線を向ける。


「佑香が吹っ飛ばしすぎて、ちょっと遠いなー」

「しょうがないでしょー。秋司が本気でって言うから」

「あ、あはははは・・・」


それにしても、凄い威力だったなぁ・・・。

佑香ちゃんの血転術。


三人はゆっくりとした足取りで志岳に近づく。

志岳まで五十メートルほどまで近づいた時。


「あ・・・。がはっ・・・。ハハハハハーーー。俺が・・・、こんなガキどもに・・・。ふざけんなよーーー。後悔させてやる・・・」


ボロボロの志岳はなんとか立ち上がり、どこかから細長い壺と木漏れ町から盗んだ美術品、そしてシラカシ町から盗んだ物を取り出した。

そして、壺にある丸いくぼみに半円の形をした美術品と物をピッタリとはめ込む。


「ハハハ・・・。終わりだ・・・。死ねーー」


な・・・。

なんだあれ・・・。


秋司、健治、佑香は壺から噴き出るモーブ色の煙を見る。

その煙は勢いよく広がっていく。


「ハハハ。本来はここで解きたくなかったがな・・・。ハハハっ。終わりだーー。目覚めよー。魔獣戦士ベケウメト」


志岳が大声を上げると、煙が空高く上昇すると同時に、巨大な足が志岳を踏み潰した。


あ・・・。

あぁ・・・。

な・・・、何・・・?


秋司たち三人の視界に入ってきたのは体長四十メートルぐらいで全身が鉛色の毛で覆われた、腰に灰色の草摺を装着している巨大な猿人のような生物が姿を現した。

顔にも鉛色の毛が生えており、筋骨隆々、目の強膜は黒、虹彩はオレンジ色に輝いている。

そして右手には十五メートルほどの剣を握っている。

ベケウメトが姿を現すと同時に、明るかった空をモーブ色の煙が覆い、一気に辺りが暗くなる。


「な、なんだよ・・・。あれ・・・」


健治はベケウメトを見て、震えながら小声を漏らす。


「はああ・・・」


佑香は両手で口を押さえ、息をゆっくり呑むように声を漏らす。

そして、秋司は健治と同じように全身が小刻みに震えている。


「うおおおおおおおおおお」


ベケウメトが雄叫びを上げると、その衝撃波で吹き飛ばされそうになる三人。

三人は耳を手で押さえながら、なんとか地面に両足をつけ、地面を削りながら後退するも、吹き飛ばされずに耐える。


声を出しただけでこの衝撃・・・。


ベケウメトはゆっくりと右手を左肩の前まで動かし、右手を右下へ振り下ろすように振る。

すると、右手に握っている剣が地面を削り、砂が勢いよく宙を舞う。

剣が通った地面は地下数十メートルほど削られ、砂はまるで砂嵐のように激しく宙を舞っている。


あぁ・・・。

ダメだ・・・。

こんなの、どうすれば。


今まで冷静に盗賊や志岳と戦ってきた秋司だが、ベケウメトの迫力を前に恐怖で冷静さを欠いている。


「秋司。やれることをやろう・・・」


そんな秋司の右肩に左手を乗せる佑香。


佑香ちゃん・・・。

ふうーー・・・。

そうだ、やれることをやろう。

諦めちゃダメだ。

現に僕たちはまだこいつの攻撃を受けていない。

ん・・・?

攻撃を受けていない?

そうだ、さっきの攻撃、僕たちを狙ったわけじゃなかった。

そこには何もいなかったのに、剣を振った。

もしかして、頭が回っていない?

少なくとも、今は意識がはっきりしていないってことかな。

それなら、今のうちに逃げられる。


「佑香ちゃん、健治くん。今なら逃げられるかも」

「いいや、待って。秋司、一回軽い幻術をあいつにかけてみて。できればあいつの周りを飛び回る、生物の幻影を」

「う、うん。分かった」


佑香の言葉を聞いて、業血司で作り出す幻術を発動する秋司。(基本図式 三日月、星、六角形 発動図式 ひし形二回)

秋司は小鳥の幻術を作り出し、ベケウメトの周りに飛ばす。

すると、ベケウメトはその小鳥を目掛けて剣を振るった。


「やっぱり。あいつ、動くものに反応している。多分意識ははっきりしていないけど、身体が勝手に動いているんだと思う」


佑香ちゃん、凄い・・・。

この状況でも冷静に分析できている。


「じゃあ、どうする? 逃げるのも、ここにいるのも危険だぞっ」

「ここは一気に距離を取るのが得策かも」


健治の問いに答える佑香。


「でも、どうやって距離を取るの?」

「秋司はできる限り、今作った小鳥の幻影をたくさん作って。三十匹くらい。健治は全力の土固を放って。それもあいつの脛くらいまでの範囲で。私は上半身を中心に拘束する」


なるほど。

何もしないで動くのは危険。

でもここに留まったり、ゆっくり一歩ずつ進むのも危険。

あいつの意識がはっきりとしたら、それこそなすすべがない。

だから、一気に距離を取りつつ、少しでもあいつを足止めするってことだね、佑香ちゃん。


「うん。それでいこう」

「おうっ。かましてやろうぜ」

「うん、ありがとう。二人とも、いくよっ」


秋司、健治、佑香の顔に光が灯る。


できるだけ多くの幻術を作る。

それが今僕にできること。


「おおおおおおお」


秋司は十五匹ほど、小鳥の幻影を作り出した。


く・・・。

三十匹、作れないか・・・。


「血転術土転、土固。うおおおおおお」


健治は土固を発動し、ベケウメトの足元を固めるが。


(はあはあはあ・・・。クソっ。足首までか・・・)


ベケウメトは体長四十メートルほどの巨体。

血転術土転土固は相手の足元から土を出して固め、相手の動きを封じる術。

そのため、相手がどんなに大きくても、足首くらいまでは土で固めることが可能。

しかし、相手が大きいと相手の体長に対して固められる範囲は必然的に狭くなる。

同じ身長の相手なら脛まで固めることができても、相手が自分より遥かに大きいと足までしか固められないように。

今回の相手は四十メートルの巨体。

最低限しか固めることができなかった。



「血転術木転、樹封拘根じゅふうこうこん


佑香は木転の基本図式を描き、発動図式に台形、六角形、台形、六角形を描く。

すると、地面から八本のかなり太い木の根が浮き出て、ベケウメトの腹や胸、腕に巻きつく。


(はあはあはあ・・・。くっ・・・)


佑香は、体長四十メートルほどあるベケウメトの上半身まで術の範囲を広げたため、残っていた全ての業血司を消費すると同時に、スタミナもほとんどそこを尽きている。

血転術の属性術や幻術などでは、発動図式が長いほど、多くの業血司を術に送ることができる。

多くの業血司を送れる分術の威力は強力になるが、業血司の扱い方は難しくなる。

秋司が今発動した幻術は発動図式が二つということもあり、送れる業血司は多くない。

健治も同様、土固も発動図式が二つのため、全力で発動しても、送れる業血司には限度がある。

そのため、二人はまだ業血司が少しだけ残っている。

佑香が今発動した血転術は発動図式が四つあるため、送れる業血司の上限は高く、その分強力な術になるが、それゆえに業血司が底を尽きたのだ。


「佑香ちゃん、大丈夫?」

「はあはあ・・・。うん。早く行こう」


三人は後ろを向き、全力で走り出した。

ベケウメトは身動きが取れず、秋司が作り出した小鳥の幻影を目で追っている。

しかし、すぐに拘束を外し、小鳥の幻影に攻撃を仕掛け始める。

十数秒ほどで幻影を消し去り、ベケウメトは三人に視線を向け、一気に走り出す。

既に数百メートル以上離れていた秋司たちに、数秒で追いつきそうになる。


「おいおい。マジかよあいつ・・・」


健治は走りながら後ろに視線を向け、冷や汗をかく。


「こうなったら・・・」


秋司は再び小鳥の幻影三匹を作り出し、ベケウメトに飛ばす。

ベケウメトは急ブレーキして自身の周りを飛ぶ幻影を攻撃し、一瞬で破壊する。


「止まろう」


その様子を見ていた秋司は、足を止め、健治と佑香もその場に止まる。


もうこれ以上は逃げられない。

恐らく今のあいつは、意識がはっきりとしている。


秋司はベケウメトを少しでも止めようと、三匹の幻影を頭、胴、足の三箇所に飛ばしたが、一瞬で三匹全ての幻影が破壊されたのを見て、意識がはっきりしていると考えた。

ベケウメトはゆっくりと三人に近づく。


やっぱり、意識がはっきりしている。

どうしよう・・・。

いいや、諦めちゃだめだ。

あいつの攻撃を防ぐんだ。


「結界を張ってあいつの攻撃を防ごう」


佑香ちゃん・・・。


「うんっ」


佑香も秋司と同じことを考えており、ベケウメトの攻撃を防ぐために結界を張ることを提案した。


でも、佑香ちゃんの業血司はもうないし、僕と健治くんは結界術を使えない。


「そうだなっ。今やるしかねーよなっ」


健治くん・・・。

そうだ、できないじゃない。

やるしかないんだ。

今、ここで。


左に秋司、真ん中に佑香、右に健治。

三人は横一列に並んでベケウメトの顔を見る。


やるんだっ。

攻撃を防ぐ、盾のような壁の結界術。

その血転図式は知っている。

六角形、五角形、四角(結界術の基本図式)、四角、四角(発動図式)。

よし・・・。


「おおおおおお」

「うおおおおお」

「ああああああ」


血転図式を描き終えた秋司、健治、佑香は残っている力全てを出し切るように大声を上げた。

ベケウメトは右手を振り上げて三人を見つめる。

しかし、三人は目を閉じることなく真っ直ぐベケウメトの顔から視線を逸らさない。

三人は結界を出す・・・ことはできていないが、力を振り絞る。

そんな三人にベケウメトが右手を振り下ろそうとした時、突如現れた巨大な竜巻がベケウメトを飲み込む。

そのまま、竜巻の影響を受け、少し後方へ下がるベケウメト。

ベケウメトは右手を振り下ろし、竜巻を消し去った。


「三人とも・・・。よく頑張ったのう・・・。あとはわしに任せろ」


三人の上空から聞き慣れた声が聞こえてくる。


「はあっ・・・」

「あっ・・・」

「ふ、浮符鄔さん・・・」


上を見上げながら秋司、健治、佑香は順に安堵の声を漏らす。

それと同時に驚く。


な、何・・・?

あれは龍・・・?


三人の視界に入ってきたのは七十メートルくらいの長い身体、背中には若葉色の鱗が並び、お腹と長い髭はクリーム色、瞳は水色、そして若葉色の立派な角が頭に二本生えている龍だった。

浮符鄔はその龍、緑龍山水りょくりゅうさんすいという種の藤照とうしょうの頭に乗って現れたのだ。


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