25話 決戦 秋司、健治、佑香VS志岳
木漏れ地区付近の砂原。
秋司と健治、佑香は志岳と対峙していた。
「佑香ちゃん、怪我は大丈夫なの?」
「うん。助けてもらったから」
「そっか。よかった・・・。あっ、佑香ちゃん。実はあれをこの人に取られちゃったんだ」
「・・・。分かった。取り返そう」
あの人が助けてくれたんだ。
佑香ちゃんが来てくれたなら、あいつに勝てるかもしれない。
僕と健治君の攻撃は通用しなくても、佑香ちゃんの攻撃なら効くはずだ。
三人は秋司が左、健治右、佑香を真ん中に、横に並び作戦を考える。
「僕と健治君が隙を作るから、佑香ちゃんは最大威力の攻撃をあいつに当てて」
「うん。分かった。でも、私も隙を作るの、手伝うよ」
佑香はポケットから右手で羽を取り出した。
その羽って・・・。
佑香は左手で基本図式に星、三日月、ハートを描き、発動図式に丸を描く。(発動図式は自由)
「血転術召喚・・・」
(お願い・・・。来て)
「ソウウンズクーー」
佑香が上空に向かって真っ直ぐ右腕を伸ばすと、白茶色をベースに、所々に小さくて白い雲のような模様が入り混じっていて、白いカイゼル髭を生やしたフクロウのような生物が姿を現す。
「す、すげー・・・」
健治は驚きのあまり身体が硬直する。
凄い・・・。
あれって、僕たちが層雲の森で遭遇した蛇?
健治君は虎って言ってたっけ。
でも、その時の姿は幻術を見せられていただけ。
本当の姿はフクロウだったんだ・・・。
秋司も健治と同じように驚いている。
(なんだ? あのフクロウは? 見たことがない種だな)
志岳は不思議そうにソウウンズクを見つめる。
「秋司、健治。あとは任せたよ。私は特大の攻撃を当てるから」
「うん。絶対隙を作るよっ」
凄いよ、佑香ちゃん。
でも、恐らく召喚できる時間はそう長くはない。
ソウウンズクがいる間に、佑香ちゃんが最大威力の一撃を当てられるように隙を作らなくちゃ。
「はっ。なんだか負ける気がしねーな」
「・・・。うんっ。そうだねっ。負ける気がしない」
慎重と焦りが混じり、落ち着きがなくなりつつあった秋司だったが、健治の一言を聞いて落ち着き、それでいて気合いが入る。
「いくぞっ」
健治の掛け声とともに健治と秋司は志岳に向かって走り出す。
(あのフクロウは動いていない。どんな力があるか分からないが、まずはこの二人を片づけるか)
志岳はソウウンズクを注視しながら、近づいてくる秋司と健治に視線を向ける。
(はっ。なんだ? あいつら、こっちに向かって走りながら、両手に炎球を発動させているだと・・・。いつ血転図式を描いたんだ? まずいっ)
志岳は走りながら秋司と健治が両手に炎球を発動させている様子に驚き、焦りが生じる。
合計四発の炎球が志岳に向かって飛び、志岳は全てかわすが・・・。
(何ー? 追尾してくるだと・・・)
四発の炎球は志岳を追って飛び続ける。
「くそっ。血転術岩転岩棘」
志岳はなんとか岩棘を発動して、炎球に当てる。
岩棘が当たり、炎球は消え去る。
が、その隙に健治は接近し、志岳の右横から右ストレートを放つ。
「くっ」
健治の放った右ストレートは志岳の右頬に命中した。
少し下がった志岳に今度は秋司が接近し、正面から右足で横蹴りを放ち、志岳の腹部に当てる。
その攻撃を受けて、再び少し下がる志岳。
なんだろう?
さっきこの人、何もないところに岩棘を放っていたけど。
そっか、ソウウンズクの幻術か。
(くっ・・・。こいつらに両手で同時に炎球を放てる実力はないはず。だとすると、あのフクロウ、味方を強化するのか? 厄介だな・・・)
志岳はまだ幻術だと気がついていない。
ソウウンズクの幻術は五感を直接刺激するタイプの幻術。
特に視覚と触覚を刺激するのに長けている生物。
しかし、今召喚されている状態では、かなり実力を制御されており、視覚を刺激することしかできず、幻術の範囲は狭く、強度も弱い。
それでも、召喚されたソウウンズクは巧みに幻術を扱い、志岳に効果的な幻術をかけることができている。
(くそっ。この状況ではまずいな。欲しい物は手に入ったし、ここは引くか)
「なんだと・・・?」
この状況を分析し、逃げようとする志岳だったが、後ろを振り向くと佑香が立ち塞がっていた。
(あの小娘は、さっきから一歩も動いていなかっただろ・・・。あの飛んでいるフクロウの下にいたはず。いつ移動したんだ? あのフクロウの強化で、スピードが上がっているのか?)
秋司と健治と戦っているときは常に余裕の表情を浮かべていた志岳だったが、今はそんな表情は見る影もなく、険しい表情になっている。
そんな、戸惑った様子の志岳に、打撃を繰り出す秋司と健治。
「く、くそがーー」
志岳は荒れた声を上げながら秋司と健治の打撃に応戦する。
(ん? なんだ? こいつらの打撃、さっきと変わらんぞ・・・。もしかして、あのフクロウ、味方を強化するわけではないのか?)
志岳は二人の打撃を受けて、何かを察し、少し笑みを浮かべる。
「はっは・・・。幻術かぁー」
(ははっ。そうだ、幻術だなぁー。さっきの追尾してくる炎球といい、あの小娘の瞬間移動といい、それなら納得がいく。幻術と分かれば、あとは逃げる・・・。いいや、こいつら全員倒せるな)
目的の物を手に入れ、ピンチの状況に陥ったことで、引くことを考えていた志岳だったが、幻術と分かると、戦闘態勢に戻った。
(どの程度の幻術か分からんが、結界術で防げればそれでよし。もし防げなくても、幻術と分かれば何も恐れることはない)
志岳は結界術の基本図式を描き、発動図式にハートを二つ描く。
自身に結界を張る血転術だ。
志岳は自身の視覚という感覚に結界を張る。
「ふっ・・・。防げたぞー。この勝負貰ったーー」
(幻術を防ぐためにこの強度で結界を張ったことで、業血司をかなり消費してしまったが、変に惑わされるよりはマシだろう。こんなガキどもに大量の業血司は必要ない)
志岳は直接視覚を刺激する幻術を防ぐ結界を張り、自身の後方へ瞬間移動した佑香の姿が消えているのを確認すると、勝ち誇った笑みを浮かべた。
しかし、ソウウンズクの幻術を警戒し、かなり強い強度の結界を張ったため、業血司の消費が激しいのだ。
それでも、勝利を確信し、笑みが消えない志岳。
そんな志岳に炎球と四つの氷の塊、氷乱が飛んでくる。
秋司と健治は、志岳が結界術を発動している間に、血転図式を描いていたのだ。
「ふっ。無駄だー」
志岳はその攻撃を全て避け、雷転電響の血転図式を描こうとする。
しかし、そんな志岳に二発の炎球が飛んでくる。
佑香の上空からソウウンズクが二発の炎球を同時に放ったのだ。
「ちっ」
志岳は図式を途中で止め、二発の炎球を避ける。
ソウウンズク、炎球を放てるんだ・・・。
はっ。
秋司は何か閃いたような表情を浮かべ、ソウウンズクとアイコンタクトを取り、右手で何かを描き合図する。
この人はソウウンズクと佑香ちゃんを警戒している。
それなら、ソウウンズクの攻撃で隙を作れるかもしれない。
ソウウンズクは翼を広げ、少し上昇しながら腹前の位置に炎球を発動する。
「また炎球か? しかも今度は一発・・・。なんだあれは? 大炎球か?」
一瞬呆れたような表情を浮かべた志岳だったが、すぐに驚いた表情に変わる。
ソウウンズクの発動した炎球がどんどん大きく膨らんでいったからだ。
炎球は大きくてもバスケットボールくらいの大きさ。
しかし、今ソウウンズクが発動している炎球は直径一メートルを越えようとしていた。
それを見た志岳は、炎球の上位互換、大炎球だと推測した。
(結界を張り続けている以上、あれは幻覚ではない。あれを食らうのだけはまずい。なんとしてでも避けなければ・・・)
志岳に緊張が走る。
ソウウンズクは上空から斜め下に向かって志岳に大炎球を放つ。
志岳は思いっきりジャンプしてその大炎球を避ける。
(・・・。今だっ)
佑香は血転図式を描き始める。
「ふっ・・・。はっはっは。どんな攻撃も当たらなければ意味がない・・・。何? あれは炎球?」
大炎球を避け、大きな笑い声を発していた志岳だったが、大炎球が命中した地面を見て疑問を漏らす。
実はソウウンズクの放った攻撃は大炎球ではなく炎球だったのだ。
サイズが大きく見えたのは、秋司が業血司で作り出した幻術。
志岳が施した結界は、相手の五感を直接刺激する幻術を防ぐ結界。
業血司で作り出された実態のない幻術を見破ることはできないのだ。
「うおおおー」
「おおおおお」
思いっきりジャンプした志岳の右から健治が、左から秋司が血転図式を描き終え、血転術を発動しようとしていた。
「血転術炎転、炎射」
「血転術風転、風出」
健治は炎転の基本図式に四角二回の発動図式で炎を放出し続ける炎射を放った。
「ぐわあああー」
左右から同時に血転術を食らい、空中で大きく息が上がる志岳。
ダメージを与えられている。
でも、まだ足りない。
もっと強力な術じゃないと・・・。
「佑香ちゃーーん」
降下しながら秋司は大声を上げる。
「うん。任せて。血転術木転、螺旋樹突」
佑香は木転の基本図式と、丸、三つ葉、丸、三つ葉を発動図式に描いた。
そして、両手を重ね、空中にいる志岳に向かって両腕を伸ばす。
すると、佑香の手の前から三本の木の幹が志岳に向かって螺旋状に伸びていく。
その幹はあっという間に志岳の腹部に命中した。
「ぐはっーーーーー」
そのまま伸び続け、遠く離れた巨大な岩に背中から衝突する志岳。
「あ・・・、あぁ・・・」
意識はあるものの、志岳はその場に倒れ込む。
「やった・・・。佑香ちゃんっ」
「勝った・・・。佑香ーー」
秋司と健治は佑香の元に駆け寄る。
「はあはあはあ・・・。やったね」
佑香は秋司と健治に弾けるような笑顔を向けた。




