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24話 佑香の決心

木漏れ地区外にある砂原。

そこに、木漏れ地区を目指して走る秋司と健治の姿がある。


はあはあ。

まだ少し距離があるけど、あと十分くらいで着くかな。


めぐみの回復術でスタミナも業血司も全回復した秋司と健治は、快調に飛ばしている。

しかし・・・。


「あーいたいた。どこ行ってたんだか。探したよ」

「あ・・・」


志岳・・・。


二人の前に志岳が現れる。


「くそっ。なんで居場所がバレたんだ」

「ふっ。それは俺が感知力を上げたからだよ」


健治の呟きに反応する志岳。

志岳は身体術で感知能力を向上させていた。

志岳が使った感知能力を向上させる身体術は、相手の業血司を感知するというもの。

しかし、秋司も健治も業血司がほとんど尽きていたためなかなか感知できなかった。

佑香はまだ業血司が残っていたが、ささひこが帰る前に軽い結界を佑香に張っていたため、志岳の感知能力では感知できなかったのだ。

そもそも自身から一定の範囲に対象がいないと感知することはできないが。

秋司と健治の業血司が回復し、感知できる範囲に志岳が移動したことで二人の居場所がバレてしまったのだ。


「少し遊びすぎたが、もう時間もないようだし、すぐに終わらせてやる。それとも素直に渡すか?」

「渡すわけねーだろっ。今度こそぶっ飛ばしてやる」


志岳の問いに、勢いよく答える健治。


「血転術岩転、岩棘」


健治は岩棘を発動し、先の尖った八つの小さな石を志岳に飛ばす。


「はぁ・・・。無駄なことを」


志岳は岩棘を全て避ける。


「血転術水転、水放」


志岳が岩棘を避けている隙に、志岳の背後に移動し水放を放つ秋司。

志岳は左に移動して水放も避ける。

健治は志岳が避けた先に移動して打撃を繰り出すが全ての打撃をガードする志岳。

その隙に秋司は志岳の背後から打撃を繰り出すが、それを避ける志岳。

秋司の打撃を志岳が避けたことで健治に命中しそうになるが、なんとか秋司の打撃を避ける健治。

その様子を見て、一瞬動きが止まった志岳に、正面から次々と打撃を繰り出す秋司と健治。

しかし、一発もダメージを与えられず、逆に反撃を食らう二人。

秋司は腹部に、右足の横蹴りを当てられ、健治は左頬を右拳で殴られ、二人は後方へ下がる。

そして、その衝撃で秋司の上着からシラカシ町で盗まれた物が落ちてしまう。


「あっ・・・。まずいっ」

「くっ。血転術炎転、炎球」

「血転術風転、風出」


志岳の足元に物が落ちたのを見て、健治は炎球、秋司は風出を放とうとするが。


「遅い」


しかし、志岳は岩転、岩挟みを先に発動し、二人の左下、右下から円柱形の岩を浮き出し、二人を挟む。


「いっ」


健治と秋司はぎりぎり反応し、上空へジャンプしてそれを避けるが。


「血転術岩転、岩棘」


志岳は二人に向かって岩棘を放つ。


不意をつかれ、空中にいることも相まって二人に四発ずつ、尖った石が命中する。


「ぐはっ」

「うわっ」


なんとか致命傷を避け、両足を地面につけて上手く着地した二人だが、腕や太ももが切れて、血が垂れている。


「ふっ。お前が持っていたか。これは貰うぞ」


く・・・。

最悪の状況だ。

あいつの手にあれが渡っちゃった。

ここであいつを倒さないと。

でも・・・。

血転図式を描くスピードが速い。

僕が先に描き始めても、あいつの方が早く術を発動している。

こっちが血転術を発動しても、簡単に避けられる。

打撃でも、血転術の撃ち合いでも勝てない・・・。

どうしよう・・・。


秋司は苦い表情を浮かべ、志岳に視線を向ける。


「ふっ。苦しそうだな。もう分かったか? 力の差が。欲しいものは手に入った。だが、お前らにとどめは刺してやる」


はあはあ。

まずはあいつに攻撃を当ててみないと、勝ち目が全くないのか、少しはあるのか、判断ができない。

今の僕の実力じゃ、普通に戦っても攻撃を当てられない。

不意をつくしか。

うんっ?

そういえばさっき、一瞬だけこの人の動きが止まっていたような。

あっ。


「健治君。一回試してみたいことがあるっ」


そう言い、秋司は隣にいる健治に小声で作戦を伝えた。


「本当に大丈夫か? もし失敗したら、秋司が」

「うん、大丈夫・・・とは言い切れないけど、やるしかないっ」

「おうっ。分かったぜ。いくぞー」


覚悟を決めた様子の健治と秋司。

迷いのない眼差しとともに、軽く笑みも浮かべている。

二人は一斉に志岳に接近し、打撃を繰り出す。


「ふんっ。何かいい作戦でもあるかと思えば、ゴリ押しか」


志岳は巧みに二人の打撃をガードして攻撃をいなす。

やがて秋司と健治の腕を掴み、自身の右に秋司、左に健治を投げ飛ばす。


よしっ、今だよ、健治君。


「血転術炎転、炎球」


健治は地面に着地してすぐ血転図式を描き、志岳に炎球を放つ。

志岳は上空へジャンプしてそれを避けると、炎球は秋司の元へ飛んでいく。


「バカめ。味方に当たるぞ?」


上空で見下すような視線を健治に向ける志岳。


ふぅー、やるぞ。


「血転術風転、風出」


秋司は真っ直ぐ飛んでくる炎球に当たるように、それでいて斜め上に向かって風出を放つ。

斜め上に向かって放っているため、炎球は秋司に届きそうなほど近づく。


「うおおおー」


秋司は声を上げながら力を振り絞り、なんとか炎球を弾く。

炎球は風に乗って斜め上に飛んでいくとともに、風を受けて炎が広がる。


「何っ・・・。ぐはっーーー」


炎が広がった炎球と秋司の放った風出が空中にいる志岳に命中する。

そのまま吹っ飛び、健治の後方まで飛んでいく。


「秋司っ、大丈夫か?」

「はあはあ、うんっ」


健治は秋司の元へ駆け寄り、大きめの声を発する。


よし、上手くいった。

これで倒れていれば、あれを取り返せる。


秋司は一瞬、爽やかな笑顔を浮かべたが、すぐに険しい表情になる。


「はあはあ。今のはやられたよ。少し効いた」


志岳は立ち上がり、ゆっくりと二人に近づいて歩いている。


ぐっ・・・。

あんまり効いていないのか。

くそっ。

今のではっきりした。

僕たちじゃあ、こいつには勝てない・・・。


秋司は再び苦い表情を浮かべる。




秋司と健治が木漏れ地区に向かって走っていた頃、洞穴ではめぐみが佑香の体力を回復させていた。

佑香の意識ははっきりと戻り、背中を起こして座っている。


「あ・・・。気がついた? 大丈夫?」

「・・・。はい・・・」


この人は誰?

あっ。


「あいつは? 秋司と健治は? 無事なんですか? なんで姿がないんですか?」

「落ち着いて、えーっと・・・、佑香ちゃん。二人とも無事だったよ。今は木漏れ地区に向かっているの。敵が狙っている物を早く安全なところに持っていくために」


混乱した様子で取り乱して一気に質問する佑香。

そんな佑香の両肩に手を乗せて、落ち着かせるめぐみ。

めぐみはそのまま佑香の業血司を回復させる。


は・・・。

凄い。

すぐに、業血司が回復していく・・・。

体力も完全に回復している感覚だし。

あっ、でも。


「もう大丈夫ですっ」


佑香はめぐみの手を軽く払う。


体力もここまで回復してくれたのに、業血司まで回復してもらったら、この人が・・・。


「ふふっ、大丈夫だから」


めぐみは佑香の心中を察したように声を漏らし、笑顔で佑香を見つめる。


・・・。


佑香はその表情を見て安堵し、力が抜けていく。

めぐみは業血司の回復を終えると、最後に傷の回復を行い始めた。


この人・・・、嘘じゃない。

こんなにたくさんの回復術を一度に使っているのに、余裕がある。

それに、なんだか安心する。


「うん。どう? 痛まない?」

「はい。ありがとうございます・・・」


めぐみの問いに下を向きながら小声で答える佑香。

そんな佑香の耳に、小さい衝撃音が入ってくる。


あっ・・・。

秋司と健治が戦っているの?

行かないと。


佑香は立ち上がり、洞穴の出入り口に視線を向ける。


「行くの? 佑香ちゃん?」

「はいっ」

「分かった。ごめんね。私、戦闘は苦手で力になれないの・・・」

「いえ、そんな・・・、謝らないでください。助けてくれてありがとうございます」

「佑香ちゃん。もしまた回復術が必要になったら、炎球を空に放ったりして合図して。生きてさえいてくれれば、どんなことがあっても絶対助けるから」

「・・・。はい・・・」


佑香はめぐみの言葉を聞いて、まるで石像になったかのように身体が固まる。

が、すぐに意識を巡らせ、洞穴の出入り口を出る。

そのまま衝撃音が鳴る方向に走り出す。


・・・。

なんだろう・・・。

あの人の言葉、凄い響いたなぁ。

・・・。

私はあいつ(志岳)と対峙して焦っていたんだ。

私がなんとかしないとって。

私は今まで、何か突出した才能があったわけでもなかった。

でも、血転術を学び始めて、すぐに扱えるようになって、浮符鄔さんにも褒められて、自分でも気が付かないうちに思い込んでしまっていた・・・。

血転術の才能はあると。

だから、私たちより強いあいつと対峙して、私がやらなくちゃいけないと思った・・・。

全ての系統の血転術を使えるんだから、私が全部やらないと。

そう思って一人で戦った。

でも、結局あいつに勝てなくて、秋司と健治に助けられた。

・・・。

違うか・・・。

私は二人が盗賊と戦っている時も、ほとんど何もしなかった。

秋司に言われたように少し二人をカバーしただけ・・・。

二人は迷わず戦っていたのに、私は思うように動けなかった。

最初から・・・。


「だから・・・、あの人の言葉がこんなに響くのかな・・・」


佑香は目を軽く開き、少し悲しそうな目をして、微笑む。

しかし、すぐに真っ直ぐ衝撃音が響く方を見つめ、口角は引き締まる。

走るスピードも上がる。




一方、秋司と健治は志岳と戦い続けていた。


「はあはあ・・・」


近接戦を行なっていた三人。

秋司と健治の息は上がっているが、志岳は全く息が上がっていなかった。


「そろそろ終わりにしよう。血転術岩転、尖礫連飛」


まずい・・・。

あの技は、佑香ちゃんが召喚したささひこの結界を破った術。

これを食らったら、おしまいだ・・・。


志岳が右人差し指で血転図式を描く。

しかし、最後の四角を描き終える前に一発の炎球が猛スピードで志岳の右手に飛んでくる。


「ちっ」


志岳は血転図式を描くのを止め、炎球を右手で弾く。


(威力を抑え、代わりにスピードを上げた炎球・・・。こんな使い方ができるのは、あの小娘か)


志岳は秋司と健治の間から二人の後方に立っている佑香に視線を向ける。


「・・・。佑香ちゃんっ」

「佑香っ」


佑香に気がついた秋司と健治は明るい表情を浮かべながら声を発する。


「二人とも、お待たせっ」


佑香は真っ直ぐ鋭い視線を志岳に向ける。


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